366 / 437
第366話 無理なモノは無理なんですよ
しおりを挟む
静まり返る集会所。
俺は、さらに追い打ちをかけるように口を開く。
「ところで、今日は、どのような趣旨で、皆さんは集まったのですか?」
意気消沈している農家や酪農家の人達を一瞥したあと、俺は暁の顔を――、目を見つめる。
「……な、何も……。田口からは、何も聞いてないのか?」
「聞いていませんが? そもそも電話があったのは、今日の朝ですよ?」
「そ、そうか……」
嘘は言ってない。
むしろ、俺としては無条件とは言わずともある程度は感謝してもらえると思っていただけに、さらに人手を俺に寄りそうような形で願い出てくるとは思っても見なかった。
完全に俺がとった行動が裏目に出たと言ってもいい。
「なあ、月山さん」
「何でしょうか? 暁さん」
俺は丁寧な態度を崩さない。
内心では、少しばかり嫌悪感を持っていたとしても――、それを口に――、顔に出してしまうのは良くはないと、異世界で交渉を何度もしてきて学んできたからだ。
それに、辺境伯や藤和さん、さらにルイーズ王女殿下やエルム王国の王侯貴族と比べたら、今の俺の目の前にいる暁という人物は、腹芸は遥かに劣っている。
正直、古代ローマ帝国時代よりも文明が劣っていると思われる異世界人と現代人を比べるのは、比較対象としては正しいとは思えないが。
「君は、海外にコネがあるんだろう? 外国人を何とか手配することは出来ないか?」
「それは技能実習制度の人材という意味でしょうか?」
「そうなる」
「無理ですね。自分が知っているのは、あくまでもレーサー関係なので」
「レーサー関係でも300人も手配出来たのだから何とかならんのか?」
「そうは言われても困ります。外国人を手配出来たのは、あくまでも帰国前のタイミングが偶然合っただけですので、それに本来、彼らを雇おうとしたら年収2000万円くらいは払わないと……」
俺の言葉に、集まっていた農家や酪農家の人達から、「そんな金は払えない!」と、声が次々と上がる。
まぁ、そりゃそうだろうな! と、俺は心の中で突っ込みを入れる。
そもそも技能実習生制度を利用して、農村地で外国人を雇い入れるのは、正当な賃金を払うことが出来ない生産性の悪い農家が多い。
つまり、俺が提示した年収2000万円という賃金どころか、年収300万すら払う事はできない。
だからこそ、集会所に集まっている農家や酪農家はしかめっ面をしているのだろう。
「わ、わかった……。もういい」
「そうですか。あと一つ――」
俺は集まっている人達を見渡し――、
「今回、このような場に呼ばれたこと。さらに人材の手配について私に話を振られたので、本来は、話す必要はないと思っていましたが、伝えておきます。人を手配すれば、お金が動きます。そしてお金というのは賃金です。今回の台風の際に皆様のところに派遣した外国人は、私の資産からの持ち出しで雇った者になります。その雇用額は7桁に上ります。今回は、村のことを思って私の独断で雇いましたから、私は皆様に、掛かった費用を請求することはしません。ただし、それだけの費用が掛かっているという事だけは忘れないでください」
「わ、分かっている」
暁が苦々しい表情で呟いてくる。
だが、本当に分かっていたのなら、集会所に俺を呼び出すような真似はしなかったはず。
そう考えると、新規で入植してきた人たちは、結城村の発展からは距離を置いた方がいいと判断してしまう。
おそらく、彼らを噛ませてしまうと、あとあと問題が発生した時に、裏切る可能性が出てくる。
ただ一つ問題なのは親父を知っている暁という人物。
親父が異世界人だと知っているような素振りをしていた事から、立場的にはこちら側の人間だとは思っていたが、今回の話ぶりからするに、どうも中立というか……。
「暁さん。それで、話というのは、人材の手配だけですか?」
「ああ。そうなる……」
「そうですか。それでは、先ほど説明した通り、自分には無理ですので、そろそろ帰らせてもらいます」
「分かった。気をつけてな」
「はい。それでは失礼します」
最後だけは、労いの言葉を暁はかけてきたが、それが本当に俺の身を案じた言葉なのか、それとも社交辞令からのただの挨拶なのかは判断がつかなかった。
午後3時を回った頃に、自宅に帰宅したところで――、
「おかえりなさい。五郎さん」
土間から上がると、俺が帰ってきた事に気が付いた雪音さんが台所から顔だけを出して少し大きめの声で話しかけてきた。
「ただいま戻りました。皆さん、休憩は?」
「ナイルさんと、私と恵美さんの3人で休みを回しましたので」
「そうですか。すいません、集会所に行って話をしていましたから遅くなってしまって――」
「いえいえ。五郎さんが大変なのは分かっていますから。それよりも、今日は朝早く起きたようですから、寝不足なのではありませんか?」
台所から、俺の目の前まで移動してきた雪音さんの手が俺の頬に触れる。
水を扱っていたからなのかひんやりと雪音さんの手は冷たかった。
俺は、さらに追い打ちをかけるように口を開く。
「ところで、今日は、どのような趣旨で、皆さんは集まったのですか?」
意気消沈している農家や酪農家の人達を一瞥したあと、俺は暁の顔を――、目を見つめる。
「……な、何も……。田口からは、何も聞いてないのか?」
「聞いていませんが? そもそも電話があったのは、今日の朝ですよ?」
「そ、そうか……」
嘘は言ってない。
むしろ、俺としては無条件とは言わずともある程度は感謝してもらえると思っていただけに、さらに人手を俺に寄りそうような形で願い出てくるとは思っても見なかった。
完全に俺がとった行動が裏目に出たと言ってもいい。
「なあ、月山さん」
「何でしょうか? 暁さん」
俺は丁寧な態度を崩さない。
内心では、少しばかり嫌悪感を持っていたとしても――、それを口に――、顔に出してしまうのは良くはないと、異世界で交渉を何度もしてきて学んできたからだ。
それに、辺境伯や藤和さん、さらにルイーズ王女殿下やエルム王国の王侯貴族と比べたら、今の俺の目の前にいる暁という人物は、腹芸は遥かに劣っている。
正直、古代ローマ帝国時代よりも文明が劣っていると思われる異世界人と現代人を比べるのは、比較対象としては正しいとは思えないが。
「君は、海外にコネがあるんだろう? 外国人を何とか手配することは出来ないか?」
「それは技能実習制度の人材という意味でしょうか?」
「そうなる」
「無理ですね。自分が知っているのは、あくまでもレーサー関係なので」
「レーサー関係でも300人も手配出来たのだから何とかならんのか?」
「そうは言われても困ります。外国人を手配出来たのは、あくまでも帰国前のタイミングが偶然合っただけですので、それに本来、彼らを雇おうとしたら年収2000万円くらいは払わないと……」
俺の言葉に、集まっていた農家や酪農家の人達から、「そんな金は払えない!」と、声が次々と上がる。
まぁ、そりゃそうだろうな! と、俺は心の中で突っ込みを入れる。
そもそも技能実習生制度を利用して、農村地で外国人を雇い入れるのは、正当な賃金を払うことが出来ない生産性の悪い農家が多い。
つまり、俺が提示した年収2000万円という賃金どころか、年収300万すら払う事はできない。
だからこそ、集会所に集まっている農家や酪農家はしかめっ面をしているのだろう。
「わ、わかった……。もういい」
「そうですか。あと一つ――」
俺は集まっている人達を見渡し――、
「今回、このような場に呼ばれたこと。さらに人材の手配について私に話を振られたので、本来は、話す必要はないと思っていましたが、伝えておきます。人を手配すれば、お金が動きます。そしてお金というのは賃金です。今回の台風の際に皆様のところに派遣した外国人は、私の資産からの持ち出しで雇った者になります。その雇用額は7桁に上ります。今回は、村のことを思って私の独断で雇いましたから、私は皆様に、掛かった費用を請求することはしません。ただし、それだけの費用が掛かっているという事だけは忘れないでください」
「わ、分かっている」
暁が苦々しい表情で呟いてくる。
だが、本当に分かっていたのなら、集会所に俺を呼び出すような真似はしなかったはず。
そう考えると、新規で入植してきた人たちは、結城村の発展からは距離を置いた方がいいと判断してしまう。
おそらく、彼らを噛ませてしまうと、あとあと問題が発生した時に、裏切る可能性が出てくる。
ただ一つ問題なのは親父を知っている暁という人物。
親父が異世界人だと知っているような素振りをしていた事から、立場的にはこちら側の人間だとは思っていたが、今回の話ぶりからするに、どうも中立というか……。
「暁さん。それで、話というのは、人材の手配だけですか?」
「ああ。そうなる……」
「そうですか。それでは、先ほど説明した通り、自分には無理ですので、そろそろ帰らせてもらいます」
「分かった。気をつけてな」
「はい。それでは失礼します」
最後だけは、労いの言葉を暁はかけてきたが、それが本当に俺の身を案じた言葉なのか、それとも社交辞令からのただの挨拶なのかは判断がつかなかった。
午後3時を回った頃に、自宅に帰宅したところで――、
「おかえりなさい。五郎さん」
土間から上がると、俺が帰ってきた事に気が付いた雪音さんが台所から顔だけを出して少し大きめの声で話しかけてきた。
「ただいま戻りました。皆さん、休憩は?」
「ナイルさんと、私と恵美さんの3人で休みを回しましたので」
「そうですか。すいません、集会所に行って話をしていましたから遅くなってしまって――」
「いえいえ。五郎さんが大変なのは分かっていますから。それよりも、今日は朝早く起きたようですから、寝不足なのではありませんか?」
台所から、俺の目の前まで移動してきた雪音さんの手が俺の頬に触れる。
水を扱っていたからなのかひんやりと雪音さんの手は冷たかった。
192
お気に入りに追加
1,954
あなたにおすすめの小説
最強の英雄は幼馴染を守りたい
なつめ猫
ファンタジー
異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。
そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる