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第366話 無理なモノは無理なんですよ

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 静まり返る集会所。
 俺は、さらに追い打ちをかけるように口を開く。
 
「ところで、今日は、どのような趣旨で、皆さんは集まったのですか?」
 
 意気消沈している農家や酪農家の人達を一瞥したあと、俺は暁の顔を――、目を見つめる。
 
「……な、何も……。田口からは、何も聞いてないのか?」
「聞いていませんが? そもそも電話があったのは、今日の朝ですよ?」
「そ、そうか……」
 
 嘘は言ってない。
 むしろ、俺としては無条件とは言わずともある程度は感謝してもらえると思っていただけに、さらに人手を俺に寄りそうような形で願い出てくるとは思っても見なかった。
 完全に俺がとった行動が裏目に出たと言ってもいい。
 
「なあ、月山さん」
「何でしょうか? 暁さん」
 
 俺は丁寧な態度を崩さない。
 内心では、少しばかり嫌悪感を持っていたとしても――、それを口に――、顔に出してしまうのは良くはないと、異世界で交渉を何度もしてきて学んできたからだ。
 それに、辺境伯や藤和さん、さらにルイーズ王女殿下やエルム王国の王侯貴族と比べたら、今の俺の目の前にいる暁という人物は、腹芸は遥かに劣っている。
 正直、古代ローマ帝国時代よりも文明が劣っていると思われる異世界人と現代人を比べるのは、比較対象としては正しいとは思えないが。
 
「君は、海外にコネがあるんだろう? 外国人を何とか手配することは出来ないか?」
「それは技能実習制度の人材という意味でしょうか?」
「そうなる」
「無理ですね。自分が知っているのは、あくまでもレーサー関係なので」
「レーサー関係でも300人も手配出来たのだから何とかならんのか?」
「そうは言われても困ります。外国人を手配出来たのは、あくまでも帰国前のタイミングが偶然合っただけですので、それに本来、彼らを雇おうとしたら年収2000万円くらいは払わないと……」
 
 俺の言葉に、集まっていた農家や酪農家の人達から、「そんな金は払えない!」と、声が次々と上がる。
 まぁ、そりゃそうだろうな! と、俺は心の中で突っ込みを入れる。
 そもそも技能実習生制度を利用して、農村地で外国人を雇い入れるのは、正当な賃金を払うことが出来ない生産性の悪い農家が多い。
 つまり、俺が提示した年収2000万円という賃金どころか、年収300万すら払う事はできない。
 だからこそ、集会所に集まっている農家や酪農家はしかめっ面をしているのだろう。
 
「わ、わかった……。もういい」
「そうですか。あと一つ――」
 
 俺は集まっている人達を見渡し――、
 
「今回、このような場に呼ばれたこと。さらに人材の手配について私に話を振られたので、本来は、話す必要はないと思っていましたが、伝えておきます。人を手配すれば、お金が動きます。そしてお金というのは賃金です。今回の台風の際に皆様のところに派遣した外国人は、私の資産からの持ち出しで雇った者になります。その雇用額は7桁に上ります。今回は、村のことを思って私の独断で雇いましたから、私は皆様に、掛かった費用を請求することはしません。ただし、それだけの費用が掛かっているという事だけは忘れないでください」
「わ、分かっている」
 
 暁が苦々しい表情で呟いてくる。
 だが、本当に分かっていたのなら、集会所に俺を呼び出すような真似はしなかったはず。
 そう考えると、新規で入植してきた人たちは、結城村の発展からは距離を置いた方がいいと判断してしまう。
 おそらく、彼らを噛ませてしまうと、あとあと問題が発生した時に、裏切る可能性が出てくる。
 ただ一つ問題なのは親父を知っている暁という人物。
 親父が異世界人だと知っているような素振りをしていた事から、立場的にはこちら側の人間だとは思っていたが、今回の話ぶりからするに、どうも中立というか……。
 
「暁さん。それで、話というのは、人材の手配だけですか?」
「ああ。そうなる……」
「そうですか。それでは、先ほど説明した通り、自分には無理ですので、そろそろ帰らせてもらいます」
「分かった。気をつけてな」
「はい。それでは失礼します」
 
 最後だけは、労いの言葉を暁はかけてきたが、それが本当に俺の身を案じた言葉なのか、それとも社交辞令からのただの挨拶なのかは判断がつかなかった。
 
 
 
 午後3時を回った頃に、自宅に帰宅したところで――、
 
「おかえりなさい。五郎さん」
 
 土間から上がると、俺が帰ってきた事に気が付いた雪音さんが台所から顔だけを出して少し大きめの声で話しかけてきた。
 
「ただいま戻りました。皆さん、休憩は?」
「ナイルさんと、私と恵美さんの3人で休みを回しましたので」
「そうですか。すいません、集会所に行って話をしていましたから遅くなってしまって――」
「いえいえ。五郎さんが大変なのは分かっていますから。それよりも、今日は朝早く起きたようですから、寝不足なのではありませんか?」
 
 台所から、俺の目の前まで移動してきた雪音さんの手が俺の頬に触れる。
 水を扱っていたからなのかひんやりと雪音さんの手は冷たかった。
 
 
 
 
  
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