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第365話 人材は畑からは生えてこない

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 ――翌朝。
 
 もう年と言う事もあり、朝早く起きた俺は手洗いに行き用を足してから、廊下へと出た。
 
「あ、ゴロウ様」
「おはようございます。ナイルさん」
「おはようございます」
 
 まずは朝と言う事もあり挨拶を交わす。
 
「あれ? 肩に乗っているのはフーちゃんですよね? 眠そうにしていますけど……」
「はい。フーちゃん様です。今から、修行に河原まで行きますので」
「なるほど……。ついでにフーちゃんの散歩もするって感じですか?」
「そのようなモノだと思って頂ければ幸いかと」
「そうですか。フーちゃんは、妙なところで聡しいですが、もう川の温度も低いですから、川には入れないでください」
「――あ、はい。大丈夫です、そのへんは」
 
 自信ありげに答えてくるナイルさん。
 まぁ、ナイルさんが大丈夫だと言うなら問題ないだろう。
 二人が玄関から出ていくのを見送ったあと、俺は布団に入り二度寝を決め込もうとしたところで携帯電話が鳴る。
 
「誰だ?」
 
 表示されている電話番号は、田口村長の携帯電話番号。
 
「まだ、午前6時だぞ……」
 
 年を取ると朝早くなるのは仕方ないと思ったが電話をかけてくるのも早いとは――、というツッコミをしながら電話を取る。
 
「はい。五郎です」
「すまないのう、五郎。こんな朝早くから――」
「いえ。気にしないでください。俺も、さっき起きたばかりなので」
「そうか。それは良かった」
 
 いや、全然良くないが? と、言うツッコミが脳裏に浮かんでくるが口にすることはしない。
 
「どうかしたんですか? こんな朝早くから」
「うむ。じつは、今日の昼にでも集会所に顔を出すことは出来るか?」
「集会所ですか?」
「そうじゃな」
「何か、議題か問題でも起きましたか?」
「じつはの……。最近の農村地は結城村を含めて作業員を雇うにも人手が集まらんではないか?」
「それは、そうですね」
「そこで前回、数百人の人間を手配した五郎の手腕を見込んで農家や酪農で生計を立てている結城村の住人がの――」
「もしかして、俺に人材を手配して欲しいと?」
「うむ。儂も村長であるから、あまり五郎には肩入れは出来ないということは理解しておると思うが――」
「つまり、俺の口から人材の手配は出来ないと言えば良いと言う事ですか」
「そうなるのう」
 
 また面倒だな。
 そもそも、前回、作業員を手配したのは下心があったからで、それは第三者から見れば親切心からきた行動以外の何者でもない。
 それを笠に着て、高徳に作業員の手配をして欲しいなんて、少し理解しかねる。
 まぁ、俺は既に断る理由は決めているので――、
 
「分かりました。では、お昼に集会所に向かいます」
「おお。よろしく頼むぞ。五郎」
「分かっています」
 
 電話を切る。
 
「――さて、寝るとするか」
 
 ひと眠りしたあと、月山雑貨店を開店させた後、ナイルさんと根室さんに店のことを任せて、俺はお昼に間に合うように集会所へと向かう。
 集会所に到着すると、10台近くの車が停まっているのが見えた。
 以前よりも台数は少ない。
どうやら全員が全員、俺に作業員手配のお願いをするような考えを持っているようではないようだ。
 集会所に入ると、50代から60代前後の男達が一斉に俺を見てくる。
 そして、村長と言えば、上座に座っているだけで――、
 
「おお、待っていたぞ。今回の村の農作物を救った立役者!」
 
 いきなり、立ち上がり俺を煽ててきた男――、名前はたしか……。暁(あかつき) 抄造(しょうぞう)と言ったか。
 暁は、苦笑いしながら、俺に話しかけてきた。
 その表情――、その様子から、本人は言いたくて言っているわけではないと言う事がハッキリと伝わってくる。
 さすがの俺も、短期間の内に商売で多くの人と出会い対話をしてきた事もあり、表情からある程度察することは出来るようになっていた。
 まぁ、それでなくとも露骨なアゲアゲアピールは、普通に分かるからな。
 
「――いえ。自分は立役者ではありません」
 
 俺は先制パンチを打つ。
 
「俺は、海外でレーサーをしていた時に知り合った友人たちに台風が来ているから助けてほしいと頼んだだけですので。本当に、運が良かったです。あと一日、遅かったら全員、海外へ帰国していました」
 
 俺が説明する内容を聞いていた農家や酪農家の皆さまが呆気に取られた表情をしていて――、
 
「おかげで、何とか全員、帰国に間に合いましたし、賃金は払いましたが、それでも格安だったので良かったです。みんな、日本の農業や酪農、果樹園の作業なを体験して喜んでいました。今頃は、他国で仕事中に自慢していると思います」
「…………月山さん」
「はい?」
 
 俺は暁の方へと視線を向ける。
 
「もしかして、誰も残っていないのか?」
「はい。みんな、レースチームに所属していますから。海外を転々をしていますし、本当に偶然に偶然が重なって人数をかき集めることが出来ました。本当に偶然ですから、運が良かったです」
 
 俺は、そう言葉を締め括った。
 
 
 
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