上 下
364 / 437

第364話 店舗拡大の構想(7)

しおりを挟む
「それは、相当……」
「はい。大勢の人材を扱う為のノウハウが必要になります。ただ、それが悪いとは一概には言えません」
「――と、言うと?」
「月山様は、今度、結城村で大きなスーパーを経営されるのですよね? その予定をされているのですよね?」
 
 その藤和さんの言葉に、
 
「そういうことですか」
 
 俺も得心がいき、肯定の意を示す言葉を返す。
 つまり、大型店舗を日本で経営していく上で、ルイズ辺境伯領での店舗経営は飲食店で言う所のプレオープンと同じことが体験できるという意味だということ。
 しかも、異世界であるのなら出資者というか母体は、辺境伯と言う事になる。
 謂わば国が後ろ盾になって会社を経営するようなもの。
 査定は厳しいが、それは辺境伯の気持ち次第だが、倒産するというデメリットは限りなく低い。
 何せエルム王国から見たら珍しい異世界の商品を販売するのだから。
 
「ご理解頂けて幸いです。それで月山様」
「はい?」
「辺境伯様との打ち合わせ時期は何時頃か決めておられるのですか?」
「――いえ。まだですね。異世界に雑貨屋を開店させるにあたって商品のリストを藤和さんが用意されるとのことでしたので、その兼ね合いも含めて大型店舗だと、より一層大変になると思ったので」
「そうですか……。それでは、今週中にはリストを用意しますので、今週末に話し合いの場を整えてもらえませんか?」
「分かりました。それで、藤和さん」
「はい? なんでしょうか?」
「毎回、辺境伯邸に1時間近くかけて通うのは大変だと思うのですが……。通信機器とかを辺境伯に渡すのは? と、考えたのですが藤和さんは、どう思われますか?」
「なるほど……。渡してしまって問題ないと思います」
「――え?」
 
 あまりにもあっさりな回答。
 藤和さんなら、情報管理が必要だからと渡さない道を提示すると思っていただけに驚く。
 
「いいんですか? 情報とかは武器なのでは?」
 
 俺が知っている戦争物では情報が戦争の行方を左右するほど大事なモノであると書かれていた。
 それなのに、藤和さんが問題ないというような素振りで許可を出したのは、些かというかかなり腑に落ちない。
 何せ、ルイーズ王女殿下一行には余計な情報が入らないように統制をかけているというのに。
 
「たしかに情報は武器です。ただ、それは本質ではありません」
「?」
 
 俺は一瞬、頭の中で疑問符が浮かぶ。
 無言のままでいると――、
 
「月山様もお分かりかと思いますが、地球に滞在されているルイーズ王女殿下たちは、地球の情報を得る可能性があること。そして、その情報を利用される可能性があるために情報端末を制限しています。ただ、異世界に情報端末を持っていき、現地だけで運用するのなら話は別です。異世界だけで運用をするのなら、異世界の情報だけをやり取りする限定的な物になりますから、情報を制限する必要はなくなります。この違いは、月山様はご存知かと思っておりますが……」
「ソ、ソウデスネー」
 
 ――ん? つまり、現地だけで情報端末を利用している場合には、地球の情報は漏れることは無いから問題ないということか?
 
「あの、藤和さん」
「はい? 何でしょうか?」
「異世界で情報に関して革命が起きたりしませんか?」
「起きるとは思いますが、それは私達には関係の無い事です。むしろ、辺境伯様と王宮側の間で情報共有が瞬時に行えた方がいいまであります。そうすれば余計な憶測で、私達や辺境伯様側が王宮から変な目で見られる事もなくなりますから。むしろ王宮側としては、他国からの侵略をいち早く知れることで、感謝される可能性もあります。ただ、それにより不都合が生じる可能性もあると思いますが、それに関しては私達が気にすることではないと思います」
「そ、そうですか……」
「はい。それに業務用無線機をバッテリー方式の物にすれば、王宮側も此方側を邪険にする事は出来なくなりますから、一石二鳥です」
「……なるほど……」
 
 つまり情報よりも情報をやり取りする端末側の充電を人質に取って身の安全を確保すると。
 
「それに大型店舗を運営するのでしたら無線機を持たせておくのは効率がいいですから」
「あ、たしかに……」
 
 日本でも大型店舗だと店員が無線機を所持している事は多いからな。
 そう考えると無線機を異世界に導入するのはありなのか?
 
「でも藤和さん」
「はい」
「辺境伯様が、それで許可を出してくれるとは限らないと思いますが……」
「出してくれると思いますよ。むしろ積極的に配備したいと考えると思います。早馬で領内の問題が届けられるよりも、無線で情報が届けられる方がリアルタイムですし、他国と国境を接しているのなら、必要とも言えますから」
「そうですか」
 
 そういえば、ドローンについても辺境伯は、とても興味深々の様子だったからな……。
 藤和さんの言っていることも強ち外れではないと思う。
 
「分かりました。それでは藤和さん。そのことも含めて、今週の末に辺境伯と話し場を設けておきます」
「月山様、宜しくお願いします」
 
 話が終わったところで電話を切る。
 
「どうでしたか?」
 
 雪音さんが問いかけてくる。
 ずっと台所に居たのか俺の話し声は筒抜けだったらしい。
 
「大丈夫です。なんとか話は纏まりました」
 
 そう、俺は雪音さんに言葉を返した。
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

処理中です...