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第359話 店舗拡大の構想(2)

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「なるほど……。そのような構想をされているのですね」
 
 藤和さんは頷く。
 そんな藤和さんを見ながら俺は口を開く。
 
「ただ、いまは土地を買い占めている段階ですので、そのようなことはできませんが――」
 
 藤和さんから提案された猟友会を利用しての土地価格の低下については、俺は断っているので、少し思考しながら言葉を紡ぐ。
 それに対して藤和さんは、
 
「そうですね。下手にインフラ設備を進めれば、土地買収を行っている外資系が土地の売買に応じないか、もしくは土地の売買について価格を吊り上げてくる事も考えられますからね」
 
 何ともなく答えてくる。
 それに俺も頷きながら――、
 
「はい。――ですので、今後は……と、言う感じで考えています」
「それでは、しばらくは無理そうですね」
「はい。出来れば、土地の売買については、来年の3月までには、何とかしたいと思っています」
「分かりました。それでは、いま現時点では異世界で店舗経営の方が実用的ですね」
 
 俺は頷く。
 
「では月山様、こんどルイズ辺境伯領にて店舗経営をする上ですが、店舗の手配が出来ましたら教えて頂けますでしょうか?」
「分かりました。藤和さんとしては、どのような建物が良いと思いますか?」
「そうですね……」
 
 藤和さんは、お茶を啜りながら、目を閉じて少し考えていて――、
 
「まず異世界で店舗経営をする上で、私達が提供できる物は限られてきます」
「――と、言いますと?」
「月山様もご存知かと思いますが、生鮮食品や冷凍食品などと言った物は、電気などのインフラ設備が充実している国以外では提供は出来ません」
「それはそうですね」
「はい。日本でも離島や山奥の山小屋など電気を引けない場所では、基本的に冷凍・冷蔵ケースは設置出来ませんから常温で日持ちが良い製品が置かれています。その為に、異世界でも電気は確保できないという方向で店舗を増やして経営をされた方が宜しいかと思います。以前に、市場を見た際に気が付いた点がありますが、異世界では、衛生面などがあまり普及はしていませんでした。ですから、異世界の衛生面に影響するような商品の販売は控えるか、もしくは行わない方が宜しいかと思います」
「なるほど……」
 
 それにしても、以前に一度だけ市場を藤和さんと見て回ったことがあるが、そこまで見ていたとは……。
 
「それでは、缶詰とか調味料とかの販売ですかね……」
「調味料についての販売については、辺境伯様を通された方がいいかと。向こうの世界は流通が、古代ローマ帝国時代以前と同レベルと考えた方がいいと思いますので」
「それは陸路だとは――、ということですよね?」
「はい。問題は、海路と空路ですね。異世界は、ドラゴンが存在していると伺いましたので、もしかしたら空路が存在しているかも知れません。それに海路も、どの程度、発達しているのか想像もつきません。何せ、魔法が存在する世界ですから」
「そうなると、調味料、砂糖も含めて料理の味付けをする物は、ノーマン辺境伯に話を通した方がいいと言う事ですか」
「そうなります。問題が起きてからでは遅いですから」
「ですよね……」
「あとは、王宮側に働きかける事があります」
「王宮側に?」
 
 俺の言葉に神妙な表情で、藤和さんが頷く。
 
「はい。商品の権利問題です。日本の商品を異世界で販売する以上、必ず類似品を作って販売する人が出てきます。それらに釘を差す為の法を王宮側に作ってもらう方がいいでしょう。もちろん、王宮側へと依頼をする場合、多少の手数料を払うことになりますが、エルム王国側は幸い、王宮が財政面的に赤字と言う事ですから、反対するような事はないでしょう」
「それでは異世界で販売する商品ですが、藤和さんが販売しても問題ない――、もしくは辺境伯と王宮側の許可を取った方がいいと思われる商品をピックアップしてもらえますか? それを辺境伯へと提出しますから」
「分かりました。それでは、近日中に用意して御持ちいたします」
「よろしくお願いします」
 
 それにしても、金の現物でも支払いが出来ると言う事は、藤和さんも金の販売ルートを開拓したってことか……。
 
 
 
 話が一段落ついたところで、店舗前に戻ると、パレットが4つ積まれていて――、検品を根室恵美さんが行っていて、俺に気が付くと話しかけてきた。
 
「あ、月山さん。検品が終わりました」
「根室さん、お疲れ様です」
 
 根室さんから受け取った伝票へ目を通したあと、
 
「それでは、藤和さん。今日の入荷は承りました」
「はい。それでは、また何かありましたらFAXをください。それでは理紗さん、帰りますよ」
「ええっ!?」
「また時間を作りますから」
「ゴロウ様……、また来ます……」
「気を付けて帰ってください」
 
 流石に、邪険にする訳もいかないので、理紗もといリーシャに俺は声をかける。
 二人がトラックに乗って帰るのを見送ったあと、俺は溜息をつく。
 
「あの、月山さん」
「どうかしましたか?」
 
 すると、暇だったのか根室さんが俺に話しかけてきた。
 
 
 
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