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第356話 屋敷の取材(6)

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 踝さんは、そう言うと溜息をつく。
 
「――しかし、村長から話しは聞いていたけど、本当に異世界なんだよな……。金属製の鎧を着ている兵士とか騎士とか初めて見た」
「普通、いませんからね」
「普通どころかいないだろ」
「まぁ、そうですね。それよりも、参考資料としては、もう充分撮れたんですか?」
「ああ。まぁ、あくまでも参考だからな。そのまま使う訳ではないし」
「そういえば、そんなことを言ってましたね」
「あくまでも、こちらの貴族に侮られないような図面を引く為に参考に使うだけだからな」
「なるほど……」
「おっと。ナイルさんが戻ってきたぞ? 五郎」
「みたいですね」
 
 どうやら御者の手配が終わったようで――、
 
「ゴロウ様。手配が終わりました」
「お疲れ様です」
 
 労いの言葉をかけて、少し待ったところで馬車が目の前に停まる。
 ナイルさんの勧めで馬車に乗ったあと、馬車は来た道を戻り、雑貨店の前まで来たところで停まる。
 店の中に入ったあとは、シャッターを閉める。
 
「あれ? 開かないぞ!? どうなってるんだ!?」
 
 そんな声がバックヤードから聞こえてくる。
 俺とナイルさんは顔を見合わせ、すぐにバッヤードへと向かう。
 するとバックヤードから地球側へと出る扉のドアノブをガチャガチャと動かす踝さんの姿を見つけた。
 
「踝さん、何をしているんですか?」
「――いや、早めに帰って図面を考えようと思ってドアノブを回そうとしたら回らないんだよ」
「なるほど……」
 
 俺は、ドアノブを掴み回す。
 ガチャという音と共に、鈴の音が鳴る音が聞こえてくる。
 
「な!? 回った?」
「まぁ、ドアノブを回して開けられるのは、俺くらいなので――」
「つまり、セキュリティはキチンとしているってことか……」
「そうですね」
「じゃ、大丈夫ってことか……。それよりも、五郎。地球に連れていってくれ。早く帰らないと明日が――」
「そういえば、そんなことを言ってましたね」
 
 俺は、踝さんの腕を掴む。
 そして、そのままバックヤード側から母屋側――、地球側へと出る。
 扉を潜れば、12時間の時差があることもあり、外は真っ暗のままだったが――、深夜帯ということもあり、気温が下がってきた事で肌寒い。
 
「もう寒いな……」
「まぁ秋も終わりですからね。それよりも、俺はナイルさんを連れてきますので」
 
 すぐに店内に戻りナイルさんの腕を掴み、地球側へと戻る。
 
「やっぱり、色々と制約があるんだな。異世界に行ける店か……。色々と興味深いよな」
「そうですね。それよりも、踝さん」
「何だ?」
「今度、ドローンのお薦め機種のカタログとかあったら持ってきてもらえますか?」
「そういえば、約束したものな」
「ですね」
「分かった。任せておけ! それじゃ、今日は帰るわ。何かあったら連絡をくれ」
 
 踝さんはアタッシュケースを手に、停めてある軽トラックへと向かいアタッシュケースを積んだあと手を振ると、軽トラックに乗り込みエンジンをかけたあと、母屋の敷地から出ていった。
 
「随分とお忙しい方のようですね」
「まぁ、うちとは違って、リフォーム会社ですからね」
 
 ナイルさんの問いかけに答えつつも――、
 
「俺達も、そろそろ帰りましょう。明日も早いですから」
「そうですね」
 
 ナイルさんと共に母屋に帰る。
 どうやら、桜もフーちゃんも雪音さんも寝ているようで出迎えはなかった。
 俺達は、それぞれ別々に風呂に入ったあと、床についた。
 
 
 
 ――翌朝。
 
 普段通りの朝食を食べたあと、店を開け、根室さんとナイルさんに店番を頼んで俺は店の外で掃除を始めた。
 
「それにしても、台風の影響は受けないけど、汚れはするんだな……」
 
 俺はモップで窓を拭きながら一人呟く。
 まだ、午前の早い時間と言う事もあり、顧客も少ないしやる事と言えば掃除くらいなモノだ。
 
「ゴロウ様。私も何か手伝うことはありますでしょうか?」
「そうですね……」
 
 どうやら暇すぎたのか、ナイルさんが手伝いにきた。
 
「それでは店の内窓を雑巾で拭いてもらえますか?」
「ハッ! 分かりました!」
 
 啓礼をしたナイルさんが店の奥へと入っていくとバケツと雑巾を手に姿を見せる。
 そして店の中から窓を拭き始める。
 
「ずいぶんと慣れた手つきだな……」
 
 やっぱり騎士団も下っ端の内は掃除をやらされたり?
 そんな疑問が脳裏を掠めるが、俺とナイルさんを窓が隔てている事もあり、ナイルさんに直接聞くことは出来ない。
 まぁ、少し疑問に思ったくらいだから別に聞かなくてもいいか。
 掃除をナイルさんと共に行っていると店の駐車場に車が入ってくる。
 
「お客か?」
 
 入って来た車の種類は10トンまではいかなくても、少し大きめのトラック。
トラックをジッと見ると、車のドアに『問屋 藤和』と書かれていた。
 
「新しいトラックか……」
 
 見た事がないトラックに首を傾げると、トラックから二つの人影が降りてくる。
 
「リーシャと、藤和さん?」
 
 運転席から降りてきたのはリーシャ。
 そして助手席から降りてきたのは藤和さん。
 
「月山様。おはようございます」
 
 そう言って、藤和さんは頭を下げてきた。
 
 
 
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