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第353話 屋敷の取材(3)

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「そ、そうなのか……」
「辺境伯様と会うのは困りますか?」
「困るというか……、日本でいう所の知事みたいな存在だろう? 心構えが必要というか……、こんな作業着で良かったのか? というか……」
「大丈夫ですよ。俺なんてジャージですよ」
「……そう言われると、大丈夫な気がしないでもないな……」
「ゴロウ様」
「あっ、ナイルさん、すいません」
「――いえ。ですが、私達が到着したことは、ノーマン様は既に知っておられるので、早めに行かれた方が宜しいかと。ノーマン様もゴロウ様には会いたいと思いますので――」
「分かりました」
「どういう関係なんだ? ゴロウと辺境伯という人物は……」
 
 何故か、後ろから付いてきている踝さんがブツブツと呟いているが、すぐに説明する内容でもないため、黙っている事にする。
 そして、案内されたのは執務室。
 
「最近、執務室での話が多い気がする」
 
 一人呟いていると、ナイルさんが執務室の扉を数度ノックする。
 
「ナイルです。ゴロウ様をお連れ致しました」
「うむ。入るとよい」
 
 執務室内からノーマン辺境伯の許可の声が聞こえてくる。
 それと共に、俺の前に居たナイルさんが横に退く。
 
「――では、ゴロウ様。許可が取れましたので」
 
 俺は頷く。
 そして執務室のドアノブを回しドアを開けてから室内に足を踏み入れた。
 
「おお。ゴロウ! 待っておったぞ!」
「すいません。いきなり来てしまって――」
「よいよい。それよりも後ろに居る者は誰かの? 見た事がない者だが?」
「あ、こちらは、踝健と言います。建設業に携わっている人物で、今度、自分が住む大きめの家を建築する為に依頼をした職人になります」
「ほう……、ゴロウの家を建築する為の職人か」
「はい」
「まぁ、話は追々とするとして、まずは座ってはどうかの?」
 
 辺境伯が進めてきたソファーへ俺は腰を下ろす。
 
「そ、それでは――、し、失礼します」
 
 踝さんも俺に続いて、俺の隣に座る。
 
「――さて、今回は、どのような要件で来たのか聞いても良いかの? その前に――」
 
 ノーマン辺境伯が両手をパンパンと叩くと、メイドさんが室内に入ってくる。
 
「人数分の茶と、菓子の用意を――」
「かしこまりました」
 
 メイドさんが、頭を下げて部屋から出ていく。
 
「な、なあ。五郎」
「踝さん? どうかしました?」
「どうかしましたも何も、目の前にいる老人というか辺境伯様? というか――、とても強者っぽい雰囲気を感じるんだが……」
「まぁ、ルイズ辺境伯領を治めている方ですから」
「そ、そうだな……」
 
 何となくと言った感じで、踝さんが納得してくれる。
 どうやら、かなり精神的に不安定になっているようだ。
 あまり刺激的な話題はしない方がいいだろう。
 
「話は終わったかの?」
 
 俺と踝さんが小声で話しているのを聞いていた辺境伯が語り掛けてくる。
 ここは、俺も踝さんのフォローを入れないと不味いな。
 
「辺境伯様。踝さんが、辺境伯様の威厳と雰囲気に呑まれていて、緊張しているため、少し話下手になっているようですので――」
「ほほう。まあ、分からなくもないのう」
 
 ホッホッホッと、辺境伯が笑いかけてくる。
 
「――で、先ほどの話の続きであるが、ゴロウが、用もなく此方の世界に予定日以外で来るはずはないと考えておったが、何か問題があったのかの?」
 
 その言葉に俺は頷く。
 別に隠す必要はないと考えたからだ。
 
「今度、異世界で大きめの屋敷を建てようと考えています。その為に、辺境伯様の屋敷を見せて頂けないと思いまして――、それで、こちらの世界に来ました」
「なるほど……。――で、大きな屋敷を作る理由は、ルイーズ王女殿下の件かの?」
「ご推察通りです」
「なるほどのう。たしかに、ルイーズ王女殿下を、迎い入れるのなら、それなりの屋敷が必要になるからのう。それに今後、貴族と付き合うのなら、それなりの館というのは必要になるのう。そうしなければ、貴族に侮られることもある」
「はい。そう思い、それなりの屋敷を作ることにしました」
「ふむ。それなら、別に我がルイズ辺境伯邸を参考にするとよい。本来なら、警備上の理由から許可はせぬが……、孫の頼みであるのなら仕方ないのう。それに、将来は、ルイズ辺境伯となるのだ。特に問題はない」
「ありがとうございます」
 
 何とか承諾を取り付けたところで――、
 
「ご、五郎?」
 
 ――と、震える声で、踝さんが話しかけてきた。
 
「どうかしましたか?」
「どうかしたも何も……、今……孫と聞こえたんだが?」
「あ……。伝え忘れていました。こちらのノーマン・フォン・ルイズ辺境伯様は、自分の祖父に当たる方です」
「うむ。ゴロウの父、ゲシュペンスト・フォン・ルイズの父親で、現・ルイズ辺境伯領の領主ノーマン・フォン・ルイズだ。孫のことをこれからもよろしく頼むぞ? クルブシとやら」
「はっ、はい――」
 
 頬を引き攣らせながら、辺境伯からの言葉に、ロボットのように頭を前後に動かし肯定する踝さん。
 
 
 
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