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第351話 屋敷の取材(1)

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 玄関まで行き、来客を迎える。
 
「五郎、待たせたな!」
 
 玄関の戸をスライドさせたところで、踝健さんが大きめのアタッシュケースを手に、話しかけてきた。
 
「健さん。それは?」
「ああ。これは、仕事道具だ。それよりも、どうやって異世界に行くんだ?」
 
 早速、仕事の話をしてくる踝さんに、俺は頷く。
 
「それでは早速いきますか」
「ああ。明日は、他の現場もあるから、すまないな。急がせてしまって」
「明日の現場? 明日はどこまでいくんですか?」
「比立内までだな」
「それは、また距離がありますね。ナイルさん!」
「ナイルって、あの異世界から来ている人間のことか?」
「はい。ルイズ辺境伯領の首都ブランデンの騎士団に所属している方で副団長です」
「それは、随分と大物が、こちらの世界に来ているんだな」
「まぁ、そうですね」
 
 俺は、大物だと――、そう考えたことが無かった。
 だから、踝さんの思考に思わず心の中で苦笑いしてしまったが、そういう考えもあるよな? と、考えてしまう。
 それと同時に、辺境伯が俺のことを大事に思っていることにも薄々は気が付いていたが、より深く一層気がつく。
 
「ゴロウ様、行きましょうか」
 
ナイルさんは異世界の服装――、麻で編んだシャツとズボンという軽装で姿を見せる。
 
「おいおい。寒くないのか?」
「私は大丈夫です。クルブシさん」
「それなら良いんだが――」
「踝さん。異世界は気候が安定してて、日本みたく四季は無いので、そこまで着込まなくても問題ないんですよ」
「そうなのか?」
 
 俺の説明に、納得した踝さんはダウンジャケットを脱ぐと、玄関に置く。
 
「やっぱり寒いな――」
 
 作業着姿になった踝さんは、そんなことを言ってくる。
 
「まぁ、異世界にいけば、そんなこともないので」
「――じゃ、さっさといこうか」
「そうですね。ナイルさんも、同行をお願いします」
「はっ」
 
 ナイルさんが敬礼したあと、俺は二人を連れて店のバックヤード側へと向かう。
 
「バックヤードからか……。だが、とくにおかしな点はなかったよな?」
 
 店の改装を何週間もしていた踝さんは首を傾げる。
 
「まぁ、異世界へのゲートを繋げる事が出来るのは、俺と桜くらいなモノなので――」
 
 俺は、バックヤードの外から、店側のバックヤードに入る扉のノブへと手を掛ける。
 そしてノブを回しドアを引いて開ける。
 もちろん、その時に、鈴の音が鳴る。
 
「鈴の音……だ……と!?」
 
 周囲を見渡す踝さん。
 そんな彼の腕を掴み、俺はバックヤード側から店内に入る。 
 
「――な、なんだ? こ、この光源は!?」
 
 すでにバックヤードに入った時点で、異世界の太陽――、その日差しは、店の大きな窓を通して店内を照らしていた事もあり、バックヤード側から、太陽の光を確認することが出来た。
 それに気が付いた踝さんが、俺が掴んでいた腕を離すと店内へと入っていく。
 俺は、そんな踝さんを放置して、ナイルさんを連れてくる。
 ナイルさんをバックヤード側に連れてきたあと、店内へと向かう。
 
「ご、五郎。そ、外に兵士が、たくさんいるぞ?」
「ああ。それは、異世界の領主が、俺の店を守るために手配してくれている兵士達なので」
「そ、そうなのか……。それにしても異世界は太陽が24時間出ているのか?」
 
 その言葉に俺は首を左右に振る。
 
「時差みたいなモノです。12時間の時差があります」
「はー。色々と、あるんだな。村長から話はある程度は聞いていたが、まさか――、こんな風になっているとは……、百聞は一見に如かずとは、よく言ったものだな」
「ですよね」
 
 そう、俺は言葉を返しながらも店内のシャッター開閉ボタンを押す。
 すると音を立ててシャッターは開いていく。
 
「電気は来ているのか!? ど、どういう繋がりをしているんだ? 次元とか、そういう繋がりはどうなって――」
「さあ? 俺も、考えてみましたけど、よく分からなかったので、とりあえず利用できればいいか! と、いう結論に辿り着きました」
「そ、そうか……。まぁ、俺達は学者ではないからな」
 
 俺と踝さんとの会話をナイルさんは黙ってきいていると――、
 
「ゴロウ様。シャッターが開きました」
「そうですか。それでは、行きますか」
「ご、五郎! 俺は?」
「普通に出てくれればいいので」
「特別なことはしなくていいのか?」
「それは、すでに契約は済んでいるので――」
「契約?」
「まぁ、それはおいおいと――。それよりもシャッターが開いて、中々、俺たちが出ていかなかったら向こうも心配すると思うので、急ぎましょう」
 
 そう踝さんに答えて、俺とナイルさんは店から出る。
 そして、20秒ほど遅れて、踝さんも店から出てきた。
 もちろん出てきた際には、それなりに店全体が黄金色に光った。
 やっぱり40歳を過ぎると人間、どこかしら体にガタがくるらしい。
 
「副隊長、今日は、どのような――」
「メディーナ。今日は、ゴロウ様が屋敷を建てるために、辺境伯邸を視察したいとの事なので連れてきました。すぐにノーマン様へ、報告を上げてください」
「はっ!」
 
 メディーナさんが馬に乗り、すぐに辺境伯邸へと向かい走っていく。
 あっと言う間にその姿は消え――、
 
「あの譲ちゃんって、異世界では軍隊に属していたのか……」
「そうですよ」
 
 呆然と呟く踝さんに、俺は頷いた。
 
 
 
 
 
 
 
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