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第345話 和美ちゃんの依頼達成(2)

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「それにしても、メディーナさんもそうでしたけど、ナイルさん……」
「はい?」
「寒くないんですか?」
「身体強化をしていますから」
「そ、そうですか……」
 
 コレは真冬でも同じことをしてそうだな。
 俺は河原にフーちゃんを放して、ナイルさんの動きを見ていると、ある事に気が付く。  
 川の中で立っているというのに微動だにしてないのだ。
 つまり、相当下半身を鍛えているというのが分かる。
 よくよく見て見れば、川の水が跳ねたことで、Tシャツがナイルさんの体に貼りついていて、Tシャツの下からは筋肉隆々な肉体が見え隠れしている。
 
「なるほど……」
「ゴ、ゴロウ様……、そんなに私を見て何を――」
「いや、勘違いしないでくれ。ただ随分と鍛えているなと思っただけだから」
「そうでしたか。それは良かったです」
 
 俺を、どういう目で見ていたのか小一時間ツッコミたくはなったが、黙って河原に転がっている大岩に座る。
 そうして、大岩の上で寝そべり瞼を閉じると目以外の五感が研ぎ澄まされる。
 それによって川のせせらぎが気持ちを癒してくれると共に――、
 
「さむっ! まじでさむっ!」
 
 石の上に寝転がってみたが、もうすぐ11月と言う事もあり石は完全に冷えていて、とても寒い。
 
「ゴロウ様」
「――は、はい……なんでしょうか?」
 
 そろそろ母屋に帰ろうか? と、考えたところでナイルさんの方から話しかけてきた。
 
「昨日、ゴロウ様に言われたことを、先ほどまでずっと考えていました」
 
 ナイルさんの呟き。
 俺は相槌を打つのも違うと思い黙って聞くことにする。
 
「私は、騎士となった時に、この命は、エルム王国に捧げています。そして、それと同時に、私はルイズ辺境伯領の騎士であり、民を守る剣にして盾ということで騎士になりました」
「……」
「そして騎士になった以上、自身が仕える領主が治める領地を守ることは最優先です。その為には、色恋沙汰に現を抜かす暇はないと考えています。ゴロウ様が、異世界と地球との関係性と、危険性、そして不安定性について深く思慮を巡らせていること。そして、私と根室恵美さんとの関係について苦慮していたことを察することが出来なかったのは、騎士として有るまじき失態だと思っております」
「……」
「私は、一人の男の前に、ルイズ辺境伯領の騎士として――、副団長として、職場での公私混同はしない事にします。それが、引いてはルイズ辺境伯領の為と思いますので」
「……」
 
 俺は無言を貫く。
 ナイルさんの意見は極力尊重したいが、正直言って、和美ちゃんからの依頼も大事だからだ。
 そして和美ちゃんの問題は、根室恵美さんの労働環境ややる気に直結するから、雇用主としては、悩むところだ。
 
「――ですので、私は根室恵美さんとは友人関係で行こうと考えています」
「……」
「ゴロウ様」
「はい?」
「友人関係で居たいと思うのは、どうでしょうか?」
「そうですね……。そのへんは自分が干渉する部分ではないので、ナイルさんの判断にお任せします」
 
 俺は、あくまでもナイルさんの意見と考えを尊重するという感じで、話を持って行くことにする。
 後々、何か面倒事になった時に、俺の意見が介在していた場合、問題になる事は目に見えているからだ。
 
「分かりました。ゴロウ様のお気持ち、ありがたく頂戴します」
 
俺は何も言っていないが、ナイルさんが頭を下げてきて納得してくれたのだから、別にいいか……。
俺は、少し大物ぶって、コクリと頷き――、
 
「フーちゃん、帰るぞ」
「ガルルル!」
 
 どうやら、まだ遊びたいらしい。
 
「ゴロウ様。フーちゃん様は、私が、朝食までに連れて帰ります」
「そうですか? それでは、お願いします」
 
 それにしても、どうして、フーちゃんが様付けなのか。
 異世界では犬に様付けをする風習でもあるのか?
 まぁ、他所様の風習に口を出すほど俺は野暮ではないからな。
 一人、寒空の中から脱出し、母屋へと戻ったあとは、とりあえず布団に入り二度寝をしようと居間へと入る。
 すると布団は雪音さんにより撤去されていた。
 
「俺の布団が――」
「あ、五郎さん! お布団は、干しておきました」
 
 庭から縁側に上がってきた雪音さんが一仕事を終えたとばかりに良い笑顔で話しかけてきた。
 もう本当に、いい笑顔で。
 
「そ、そうですか……。いやー、俺も、そろそろ起きないととは思っていたんですよ……」
 
 俺はチラリと居間の壁に掛けられている時計を見る。
 時刻は午前7時半過ぎ。
 よくよく考えたら二度寝の時間じゃないな。
 
「それでは、私は朝食を作りますから」
 
 雪音さんは台所に立つと、冷蔵庫を開けて、献立を考えているのか思考しているようで――、
 
「さて、俺はどうしようかな……」
 
 家の家事は雪音さんに一任しているし、やることがない。
 桜は、午前8時頃になってからお起しに行ってもいいし。
 完全に手持ち無沙汰だな。
 そう思ったところで――、携帯電話が鳴る。
 
「はい。五郎です」
「田口じゃ」
「村長? どうかしたんですか? こんな朝早くから――」 
 
 
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