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第339話 異世界の説明(3)

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「お客様が来ないですね。ゴロウ様」
「それを言わないでくれ」
 
 ナイルさんと二人して、レジで男二人で立っていると、ナイルさんの方から話しかけてきた。
 
「私は思うに――」
「思わなくてもいいから」
「ハッ」
 
 まぁ、ナイルさんが何を言おうとしたくらいは察しがつく。
 店の立地条件が悪いとでも言いたいのだろう。
 それは、分かる。
 非常によく分かる。
 元々、結城村の人口は2000人ほどいた。
だから過疎化する前の結城村では、じつは、こんなに客が来ないと言う事はなかった。
ノーマン辺境伯との取引が無かったら本当にやばかったかも知れない。
 
「そういえば、ゴロウ様」
「どうかしましたか?」
「今回の台風ですが、風除けの結界が必要な程の規模ということは伺いましたが、ルイーズ王女殿下の方は大丈夫だったのでしょうか?」
「まぁ、向こうはコンクリート製の建物ですからビクともしないと思いますよ」
 
 地震の時はいざ知らず、台風相手なら、全面コンクリートで作られた建物は強いからな。
 
「そうですか。それで、連絡とかは入れたのですか?」
「入れてないですね」
「それは……」
 
 困ったような表情をするナイルさん。
 まぁ、たしかに婚約者の身を案じない男性は、どうなのか? とは思ったりもするが、こっちも、それほど余裕があったという訳ではないからな。
 ただ、連絡をしないという選択肢はないか……。
 
「そうですね。わかりました。電話をしてきます」
「その方が宜しいかと――、ルイーズ王女殿下もゴロウ様からの連絡を待っていると思いますので」
「そうであったならいいですね。それでは、ナイルさん、電話をしてくるので店の方を頼みます」
「はい。お任せください」
 
 店の外へ出て迎賓館の電話番号へ発信する。
 数コール鳴り――、
 
「はい。エルム王国大使館です」
 
 ちゃっかり大使館と名乗ってきたぞ? しかも、電話に出たのは、やっぱりアリアさんか。
 
「ゴロウです」
「あっ! ゴ、ゴロウ様!? お久しぶりでございます」
「お久しぶりです。電話の使い方は慣れたみたいですね」
「はい! えっと、ルイーズ様にお電話でございますよね?」
「お願いできますか?」
「はい。お待ちください」
 
 保留の仕方については教えていたはずだが、忘れているのかどうかは知らないが、保留になる気配もない。
 そして少し移動するような音が聞こえたあと、保留になる。
 途中で気が付いたってことか。
 そして、しばらく待っていると――、
 
「ルイーズです。急な連絡、何かありましたでしょうか?」」
 
 ――と、突然、王女殿下の声が聞こえてきた。
 特に俺からの連絡を待っていた様子では無い事に、少しだけがっかりしながらも、
 
「昨日は台風が強かったので、身を案じていました。ただ、領内で数日間、手が離せないこともあり連絡が遅れました。何か困った事などありましたら、言ってください」
「……たしかに、昨日は強い風でしたね。ゴロウ様の方は大丈夫でしたでしょうか?」
「はい、こっちは何ともないです」
「そうなのですか。領民の方は、台風の影響を受けてはいられませんか?」
「大丈夫です」
 
 実際のところ、大丈夫かどうかは情報が回ってきてないから知らない。
 ただ、少なくとも結城村は俺が治めているとルイーズ王女殿下は、信じているから、知らないとは言えないよな。
 
「そうでしたか。それは良かったです。こちらは、かなり丈夫な建物をゴロウ様が用意してくださったので、何一つ不自由はありません」
「それは良かったです。それでは、何か困ったことがありましたら、自分に電話をください」
「はい。その時はお願いいたしますわ」
 
 電話を切ったあと、俺は溜息をつく。
 特に、何がおかしなことはなかったようで安心した。
 それよりも、何の不自由もないと感じているとは、一体、どういう生活をしているのか。
 俺なら、インターネットもテレビもない建物でずっと暮らすのはキツイんだが……。
 まぁ、それはもしかしたら、元々、そういう文明に浸っているからこそ、そう思うのかも知れないな。
 店の中に戻ると、
 
「ゴロウ様。ルイーズ王女殿下の御様子は如何でしたか?」
「特に問題はないとのことです」
 
 俺は即答する。
 隠す必要もないからだ。
 
「それは良かったです」
「ただ、自分からの電話を待っているという感じではなかったですね」
「そうでしたか……。おそらくルイーズ王女殿下は、監視の居ないのびのびとした場所で暮らしているからなのかも知れませんね」
「そういえば庶子でしたっけ?」
「はい。庶子ですと、後ろ盾がありませんから、色々と立場的に難しい位置にいたと思われます。おそらく男子として生まれていたのなら、今頃は、生きてはいなかったでしょう」
 
 ――シビアだな、異世界……。
 
「そうですか……、王族に産まれたからと言って、後ろ盾がないと大変なんですね」
「それは、王族だけでなく貴族家でも同じですから」
「なるほど……」
 
 そういえば、そんなことを中世ヨーロッパの勉強をしていた時に書いてあったな。
 
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