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第338話 異世界の説明(2)
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「実は、今日、大事な話がありまして」
「大事な話ですか?」
「はい。ナイルさんについての話です」
「――! それって……、業務に関係のある?」
「関係があります」
まぁ、実際、関係があるどころの話ではない訳だが、現状では全てを話すことは出来ないので濁しておく。
「分かりました。それで、どのような――」
「少し長くなる話になりますので、午後9時以降に、母屋の方へ来て頂くことは可能でしょうか?」
「それって、今日は、9時以降迄仕事をするような感じですか?」
「――いえ。和美ちゃんを預かっていますから、一度、根室さんの御実家まで戻った上で、自分が迎えに行きますから」
「――ですけど……」
俺の言葉に困ったような表情をする根室恵美さん。
「夫の実家に居候をしている身ですから」
――あ、そっちか。
つまり、あまり夜に行動するのは、体裁面から見て宜しくないということか。
「正文さんの方には、自分の方から伝えておきますので、安心してください」
「お義理父に?」
「はい。自分から説明すれば快く承諾してくれると思うので」
一応、正文さんも結城村では古参の部類。
そして、当然、俺の雑貨店が異世界に繋がっている事も知っているし、根室恵美さんが、俺の店で働く事になって、こういう時が来ることくらいは想像はついているだろう。
「……それは、ナイルさんについて重要な話ということですか?」
「そうなります。どうでしょうか?」
「…………分かりました。それでは、お待ちしています」
「――では、午後10時前には迎えに行けると思います」
俺の言葉に、根室さんは頷いた。
次に、俺と根室さんの会話を少し離れた位置から聞いていたと思わしきナイルさんに近づく。
「ゴロウ様。自分の話を根室さんとしていたようですが、何かありましたか?」
「やはり聞こえていましたか?」
「はい。業務内容だと思って聞いていましたが、どうやら違うようでしたので――」
「そうですか。ナイルさん、じつは異世界について根室さんに話しておくことにしました」
「――そ、それは!?」
「大事なことなので、今後のことを考えれば知っておいてもらった方がいいと思うので」
「それは、そうですが……。宜しいのですか?」
俺は頷く。
そして――、
「もちろんリスクがあることは承知していますが、おそらく問題ないと判断しました。ナイルさんにも、その際、同席して欲しいと思っています。異世界に一度、連れていきますから、その際にナイルさんの協力も必要になると思うので」
「そういうことでしたら、是非に! このナイルに、お任せください」
「お願いします」
とりあえず、これで話の真意を隠した上で、話し合いのテーブルに二人をつけることはできたわけだが――、ここからが大変だよな。
俺は、二人を納得させ、店の外へと出る。
そして携帯電話で根室家へと電話を入れる。
「はい。根室です」
「どうも、お久しぶりです」
「まぁ、五郎ちゃん」
電話口に出たのは根室正文さんの妻の美恵子さん。
「どうかしたの? もしかして孫が何かをした?」
「いえ。和美ちゃんは、とてもいい子で、姪っ子の桜とも仲良くしてくれています」
「そう。それは良かったわ」
「それで正文さんは?」
「今は牛舎の方にいるから、少しまっていてね」
すると保留音が流れる。
5分ほど経過すると受話器を取る音と共に――、
「五郎か? どうかしたのかの?」
「朝ぶりです」
「そうだな。――で、何かあったのか?」
「じつは、月山雑貨店の件で、異世界と繋がっていることに関して恵美さんに話そうと思っています」
「――ッ! そ、そうか……。そういう事になったのか。それは、あの青年のことか?」
「……」
思わず俺は無言になる。
「なるほど。たしかに、儂らにも落ち度はあるかも知れんからの。恵美さんを送ってきてくれた手前、家に上げて料理を振る舞ったのも二人の仲が近づいた原因なのかも知れん」
「それは……、俺も同じです。ナイルさんに根室さんを送るように指示を出しましたから」
「うむ。孫も最近は、そのへんを気にしておったからの」
その言葉に俺は驚く。
「気がついていたのですか?」
「当たり前じゃ。孫の様子くらい一目で見れば分かる。性格は諸文に似ておるからの」
「そうでしたか……」
「うむ。だが、儂には何も言えんかった。息子と結婚したとは言え、恵美さんは一人の人間じゃからの。儂らが、それに関して口を挟む権利は無いと思っておったからの。だから、五郎が、そう決断してくれたのなら、儂も全力で力を貸そう」
「分かりました。それでは、今日の午後9時以降に、根室家に伺います。その時に、根室恵美さんを数時間、お預かりしても?」
「そっちで話をするつもりなのか?」
「はい。言葉だけでは異世界について理解が得られないときは、異世界に連れて行った方が早いと思いまして――」
「なるほどのう。分かった。それについては許可を出そう。恵美子にも伝えておく。孫娘の件、宜しく頼む」
「分かりました」
相手の承諾を得られたことで俺は携帯電話の通話を切った。
あとは、夜を待つだけだな。
そう決断し、午後5時過ぎになり、正文さんが根室恵美さんと和美ちゃんを迎えにきたあと、俺は店のレジで客が来るのを待つ事になった。
「大事な話ですか?」
「はい。ナイルさんについての話です」
「――! それって……、業務に関係のある?」
「関係があります」
まぁ、実際、関係があるどころの話ではない訳だが、現状では全てを話すことは出来ないので濁しておく。
「分かりました。それで、どのような――」
「少し長くなる話になりますので、午後9時以降に、母屋の方へ来て頂くことは可能でしょうか?」
「それって、今日は、9時以降迄仕事をするような感じですか?」
「――いえ。和美ちゃんを預かっていますから、一度、根室さんの御実家まで戻った上で、自分が迎えに行きますから」
「――ですけど……」
俺の言葉に困ったような表情をする根室恵美さん。
「夫の実家に居候をしている身ですから」
――あ、そっちか。
つまり、あまり夜に行動するのは、体裁面から見て宜しくないということか。
「正文さんの方には、自分の方から伝えておきますので、安心してください」
「お義理父に?」
「はい。自分から説明すれば快く承諾してくれると思うので」
一応、正文さんも結城村では古参の部類。
そして、当然、俺の雑貨店が異世界に繋がっている事も知っているし、根室恵美さんが、俺の店で働く事になって、こういう時が来ることくらいは想像はついているだろう。
「……それは、ナイルさんについて重要な話ということですか?」
「そうなります。どうでしょうか?」
「…………分かりました。それでは、お待ちしています」
「――では、午後10時前には迎えに行けると思います」
俺の言葉に、根室さんは頷いた。
次に、俺と根室さんの会話を少し離れた位置から聞いていたと思わしきナイルさんに近づく。
「ゴロウ様。自分の話を根室さんとしていたようですが、何かありましたか?」
「やはり聞こえていましたか?」
「はい。業務内容だと思って聞いていましたが、どうやら違うようでしたので――」
「そうですか。ナイルさん、じつは異世界について根室さんに話しておくことにしました」
「――そ、それは!?」
「大事なことなので、今後のことを考えれば知っておいてもらった方がいいと思うので」
「それは、そうですが……。宜しいのですか?」
俺は頷く。
そして――、
「もちろんリスクがあることは承知していますが、おそらく問題ないと判断しました。ナイルさんにも、その際、同席して欲しいと思っています。異世界に一度、連れていきますから、その際にナイルさんの協力も必要になると思うので」
「そういうことでしたら、是非に! このナイルに、お任せください」
「お願いします」
とりあえず、これで話の真意を隠した上で、話し合いのテーブルに二人をつけることはできたわけだが――、ここからが大変だよな。
俺は、二人を納得させ、店の外へと出る。
そして携帯電話で根室家へと電話を入れる。
「はい。根室です」
「どうも、お久しぶりです」
「まぁ、五郎ちゃん」
電話口に出たのは根室正文さんの妻の美恵子さん。
「どうかしたの? もしかして孫が何かをした?」
「いえ。和美ちゃんは、とてもいい子で、姪っ子の桜とも仲良くしてくれています」
「そう。それは良かったわ」
「それで正文さんは?」
「今は牛舎の方にいるから、少しまっていてね」
すると保留音が流れる。
5分ほど経過すると受話器を取る音と共に――、
「五郎か? どうかしたのかの?」
「朝ぶりです」
「そうだな。――で、何かあったのか?」
「じつは、月山雑貨店の件で、異世界と繋がっていることに関して恵美さんに話そうと思っています」
「――ッ! そ、そうか……。そういう事になったのか。それは、あの青年のことか?」
「……」
思わず俺は無言になる。
「なるほど。たしかに、儂らにも落ち度はあるかも知れんからの。恵美さんを送ってきてくれた手前、家に上げて料理を振る舞ったのも二人の仲が近づいた原因なのかも知れん」
「それは……、俺も同じです。ナイルさんに根室さんを送るように指示を出しましたから」
「うむ。孫も最近は、そのへんを気にしておったからの」
その言葉に俺は驚く。
「気がついていたのですか?」
「当たり前じゃ。孫の様子くらい一目で見れば分かる。性格は諸文に似ておるからの」
「そうでしたか……」
「うむ。だが、儂には何も言えんかった。息子と結婚したとは言え、恵美さんは一人の人間じゃからの。儂らが、それに関して口を挟む権利は無いと思っておったからの。だから、五郎が、そう決断してくれたのなら、儂も全力で力を貸そう」
「分かりました。それでは、今日の午後9時以降に、根室家に伺います。その時に、根室恵美さんを数時間、お預かりしても?」
「そっちで話をするつもりなのか?」
「はい。言葉だけでは異世界について理解が得られないときは、異世界に連れて行った方が早いと思いまして――」
「なるほどのう。分かった。それについては許可を出そう。恵美子にも伝えておく。孫娘の件、宜しく頼む」
「分かりました」
相手の承諾を得られたことで俺は携帯電話の通話を切った。
あとは、夜を待つだけだな。
そう決断し、午後5時過ぎになり、正文さんが根室恵美さんと和美ちゃんを迎えにきたあと、俺は店のレジで客が来るのを待つ事になった。
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