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第336話 和美ちゃんの人生相談(2)
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「そうか……。つまり、あまり親密な関係は――ってことか……」
「よぉ分からんけど、お爺ちゃんやお婆ちゃんも、あの人のことを気にいっとるし……、せやさかい……」
俺にだけ相談してきたかは分からない。
だが、和美ちゃんは、祖父母には相談できないだろうし、母親である恵美さんには、余計に話すことはできないだろう。
――と、なると雪音さんは? と、なるが、それも同性だから話せない事もあるかも知れない。
そうなると必然的に相談できるのは、俺だけと言う形になる。
俺は、和美ちゃんを見る。
別に、和美ちゃんはナイルさんを否定しているわけではない。
だが、実の父親である諸文と母親が死別したあとに、和美ちゃんの母親が別の男に靡いたのが問題なのだ。
まぁ、それも男女の問題だから外部の俺が、とやかく言うことは出来ないが……。
「(俺以外には、相談できないんだよな……)」
そう思うと無碍にすることも出来ない。
子供を守るのが大人の役目ってものだ。
それは他所様の子供であっても変わりはない。
村長は、そう言っていた。
なら、俺も俺の出来ることをするべきだろう。
和美ちゃんは、最後の方には、か細く呟いたあと、俯いたままで――。
「和美ちゃん」
「はい」
「俺は、諸文とは親友だった」
「おとんと?」
「ああ。だから、諸文が死去した事については思うところはある。だから、和美ちゃんも、村の子供だから、親友の娘だから、俺はその期待に応えたいと思う」
「ウチは、どうすればええん? どないしたらいいのか分からのうて……」
感情を――、どうもっていっていいのか分からないのだろう。
どう発言したらいいのか――、どう表現していいのか分からないのだろう。
「そうだな。思った事を、そのまま母親に言えばいいと思う」
「せやけど嫌われたりしたらと思うと……、それにおかん一人で頑張っとるから……、迷惑かけたくないし」
「――なら、俺から言おうか? もちろん依頼主である和美ちゃんの事は一切伏せよう。それに俺も諸文のことを考えたら色々と考えてしまうからな」
「ええん? ――せ、せやけど……、そないにうまくいくの? それに、おっさんに迷惑かかるかもしれへんし……」
「大丈夫だ。俺に、任せておけ」
まぁ、男女の仲について、どうするかは個人の裁量次第という形になってしまうが、それでも、実の父親である諸文の事について和美ちゃんが深く思っているのなら、それを根室恵美さんと、ナイルさんに伝えて、どうするのかを聞かないとな。
――トントン
話が一段落したところで、客間と廊下を遮っていた襖がノックされる。
「雪音です。飲み物を持ってきました」
俺は座布団の上から立ち上がり、襖を開ける。
そこには少し目を充血させた雪音さんが立っていて――、
「これいいですか?」
「はい」
雪音さんからオレンジジュースの入ったグラスを二つ受け取り、俺は襖を閉める。
雪音さんを客間に入れなかった理由は簡単で、立ち聞きしていたのは明らかだったからだ。
今回の話は、デリケートな問題。
俺だけに相談してきたのだから、他の第三者が聞いていたのがバレるのは良くはないだろう。
「オレンジジュース飲むか?」
「うん……」
まったく、しおらしい返答をされても困るんだがな。
「そんなに落ち込むことはない」
「おっさん?」
「こう見えても、俺は交渉事には慣れているからな。俺が、責任をもって何とかしてやるから、泥船に乗った気持ちでドン! と、構えているといい」
「おっさん、それ沈むから」
「そうだな」
さて、どうしたものか。
どちらにしても、根室恵美さんとナイルさんに話を切り出さないと、どうにもならないよな。
和美ちゃんがジュースを飲むのを見ながら、和美ちゃんのことを俺は考える。
和美ちゃんの願いは至ってシンプル。
母親とナイルさんの関係性の改善について。
それはハッキリ言えば、男女の仲を断って欲しいという依頼。
だが、俺としてはナイルさんや根室恵美さんには幸せになってもらいたいと思っている。
それは、俺の身の安全にもなるし、これからの月山雑貨店の発展には欠かせない。
ただ、それはあくまでも大人たちの一存であり、子供のことを考慮に入れてない話だ。
そして、和美ちゃんは俺を頼ってきた。
「(悪いな。ナイルさんに、根室恵美さん)」
そう、心の中で呟く。
俺にも非があることは確かだ。
なにせナイルさんに、根室さんの実家まで送り迎えを指示していたのだから。
むしろ、俺が原因の一つですらあるだろう。
だからこそ、俺は俺の指示の結果、起きた問題についてはきちんと対応しないといけない。
「和美ちゃん」
「――?」
「俺は店の方に行ってくるから、桜と遊んでやっていてくれ」
「分かった。せやけど、大丈夫なん? 無理そうやったら……」
「大丈夫だ。少しは、俺を信用しろよ? こう見えても、一家の大黒柱だからな。だから、和ちゃんの依頼もキチンと対応してやるからな」
「お、おっさん……」
頬を赤らめて俺を見てくる和美ちゃん。
俺は和美ちゃんの頭を、軽くポンポンと叩くと立ち上がり、客間を出た。
――さて、どうしたものか。
「よぉ分からんけど、お爺ちゃんやお婆ちゃんも、あの人のことを気にいっとるし……、せやさかい……」
俺にだけ相談してきたかは分からない。
だが、和美ちゃんは、祖父母には相談できないだろうし、母親である恵美さんには、余計に話すことはできないだろう。
――と、なると雪音さんは? と、なるが、それも同性だから話せない事もあるかも知れない。
そうなると必然的に相談できるのは、俺だけと言う形になる。
俺は、和美ちゃんを見る。
別に、和美ちゃんはナイルさんを否定しているわけではない。
だが、実の父親である諸文と母親が死別したあとに、和美ちゃんの母親が別の男に靡いたのが問題なのだ。
まぁ、それも男女の問題だから外部の俺が、とやかく言うことは出来ないが……。
「(俺以外には、相談できないんだよな……)」
そう思うと無碍にすることも出来ない。
子供を守るのが大人の役目ってものだ。
それは他所様の子供であっても変わりはない。
村長は、そう言っていた。
なら、俺も俺の出来ることをするべきだろう。
和美ちゃんは、最後の方には、か細く呟いたあと、俯いたままで――。
「和美ちゃん」
「はい」
「俺は、諸文とは親友だった」
「おとんと?」
「ああ。だから、諸文が死去した事については思うところはある。だから、和美ちゃんも、村の子供だから、親友の娘だから、俺はその期待に応えたいと思う」
「ウチは、どうすればええん? どないしたらいいのか分からのうて……」
感情を――、どうもっていっていいのか分からないのだろう。
どう発言したらいいのか――、どう表現していいのか分からないのだろう。
「そうだな。思った事を、そのまま母親に言えばいいと思う」
「せやけど嫌われたりしたらと思うと……、それにおかん一人で頑張っとるから……、迷惑かけたくないし」
「――なら、俺から言おうか? もちろん依頼主である和美ちゃんの事は一切伏せよう。それに俺も諸文のことを考えたら色々と考えてしまうからな」
「ええん? ――せ、せやけど……、そないにうまくいくの? それに、おっさんに迷惑かかるかもしれへんし……」
「大丈夫だ。俺に、任せておけ」
まぁ、男女の仲について、どうするかは個人の裁量次第という形になってしまうが、それでも、実の父親である諸文の事について和美ちゃんが深く思っているのなら、それを根室恵美さんと、ナイルさんに伝えて、どうするのかを聞かないとな。
――トントン
話が一段落したところで、客間と廊下を遮っていた襖がノックされる。
「雪音です。飲み物を持ってきました」
俺は座布団の上から立ち上がり、襖を開ける。
そこには少し目を充血させた雪音さんが立っていて――、
「これいいですか?」
「はい」
雪音さんからオレンジジュースの入ったグラスを二つ受け取り、俺は襖を閉める。
雪音さんを客間に入れなかった理由は簡単で、立ち聞きしていたのは明らかだったからだ。
今回の話は、デリケートな問題。
俺だけに相談してきたのだから、他の第三者が聞いていたのがバレるのは良くはないだろう。
「オレンジジュース飲むか?」
「うん……」
まったく、しおらしい返答をされても困るんだがな。
「そんなに落ち込むことはない」
「おっさん?」
「こう見えても、俺は交渉事には慣れているからな。俺が、責任をもって何とかしてやるから、泥船に乗った気持ちでドン! と、構えているといい」
「おっさん、それ沈むから」
「そうだな」
さて、どうしたものか。
どちらにしても、根室恵美さんとナイルさんに話を切り出さないと、どうにもならないよな。
和美ちゃんがジュースを飲むのを見ながら、和美ちゃんのことを俺は考える。
和美ちゃんの願いは至ってシンプル。
母親とナイルさんの関係性の改善について。
それはハッキリ言えば、男女の仲を断って欲しいという依頼。
だが、俺としてはナイルさんや根室恵美さんには幸せになってもらいたいと思っている。
それは、俺の身の安全にもなるし、これからの月山雑貨店の発展には欠かせない。
ただ、それはあくまでも大人たちの一存であり、子供のことを考慮に入れてない話だ。
そして、和美ちゃんは俺を頼ってきた。
「(悪いな。ナイルさんに、根室恵美さん)」
そう、心の中で呟く。
俺にも非があることは確かだ。
なにせナイルさんに、根室さんの実家まで送り迎えを指示していたのだから。
むしろ、俺が原因の一つですらあるだろう。
だからこそ、俺は俺の指示の結果、起きた問題についてはきちんと対応しないといけない。
「和美ちゃん」
「――?」
「俺は店の方に行ってくるから、桜と遊んでやっていてくれ」
「分かった。せやけど、大丈夫なん? 無理そうやったら……」
「大丈夫だ。少しは、俺を信用しろよ? こう見えても、一家の大黒柱だからな。だから、和ちゃんの依頼もキチンと対応してやるからな」
「お、おっさん……」
頬を赤らめて俺を見てくる和美ちゃん。
俺は和美ちゃんの頭を、軽くポンポンと叩くと立ち上がり、客間を出た。
――さて、どうしたものか。
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