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第335話 和美ちゃんの人生相談(1)
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「正文さんに送ってもらったんですね」
「はい。義理父さんが、心配してくれていて――」
「なるほど……。それなら、帰りは、ナイルさんに送ってもらうといいです。どうせ今日は、台風後で利用客は少ないと思うので」
「あ、はい!」
俺の傍にいたナイルさんへと視線を向けたあと、少し元気になった根室恵美さんが頷く。
「そ、それでは私は着替えてきますね」
バックヤード側へと向かう根室さん。
「なぁ、おっさん」
「何だ?」
根室恵美さんがバックヤードへと向かうと、一人残されていた和美ちゃんが俺に話しかけてくる。
「ちょっと相談があるんやけど」
「相談?」
「大事な話なんやけど、ちょっといいかな?」
「別に構わないが――」
俺はナイルさんの方へと視線を向ける。
ナイルさんが無言で頷く。
もうナイルさんも一人で店を切り盛りする事が出来るから問題ないだろうと俺は納得し、和美ちゃんを連れて母屋へと向かう。
「あら? 五郎さん、珍しいですね。和美ちゃんと一緒に帰ってくるなんて――」
玄関の戸を開けて土間から上がると、台所に居た雪音さんが話しかけてきた。
「そうですね」
「お姉さん。おはよ」
「和美ちゃん、おはようございます。それと桜ちゃんはお部屋で待っていますよ?」
「ちょっと、おっさんに話があんのん」
「五郎さんに?」
雪音さんの問いかけにコクリと頷く和美ちゃん。
すると雪音さんの目が俺に向く。
その目には、「どういうことですか?」と、言う意味が見て取れたが――、俺は頭を左右にふる。
どうして、俺に相談があるのか、まったく! 想像がつかないからだ。
そもそも5歳の女の子が、40を過ぎた男に相談って、意味が分からん。
俺の目をジト目で見ていた雪音さんが溜息をつく。
「私も同席した方がいいですか?」
「大丈夫やさけ、おっさんで大丈夫やさけ」
「そう……ですか」
雪音さんも和美ちゃんに拒否されるとは思っても見なかったのか少し困惑気味な表情を見せる。
まぁ、俺としても良く分からないからな。
雪音さんが困るのも分かる。
「まぁ、俺に任せておいてください。雪音さんは、家のことをしておいてください。従業員の話を聞くのも経営者の仕事ですから」
「そうですね。和美ちゃんは従業員ではありませんけど……」
「そこは言葉のあやというものです」
「それじゃ和美ちゃん、客間に行こうか」
「うん」
大量のアタッシュケースが置かれていた客間は現在は綺麗に戻されている。
そんな客間に入ったあと、部屋の隅に重ねていた座布団を2枚とり、和美ちゃんに一枚を渡す。
俺から座布団を受け取った和美ちゃんは、座布団を畳の敷いたあと、その上に正座して座る。
その様子を見たあと、俺も座布団を敷き、座布団の上で胡坐をかく。
「――で、俺じゃないと相談できない話って何だ?」
遠回しに話を切り出すのは、何と言うか和美ちゃんには必要ないと思い、ストレートに疑問をぶつけてみる。
「おっさん、ナイルって人は、外国人だって聞ぃたんやけど」
「ん? ナイルさんの事か? ナイルさんが、どうかしたのか?」
「せやさかい! ナイルさんのことを教えてほしいんやけど!」
「いきなり怒鳴るなよ。それで、ナイルさんのことを聞きたいって、別に本人に直接的に聞けばいいんじゃないのか?」
どうして、俺に聞くと言う選択肢を選ぶのか。
「本人には何度か聞ぃてんなぁ。だって、家まで何度も送り迎えをしてくれたから。せやけど、話が噛み合えへんねん」
「そうなのか?」
「うん。そもそも、あの人ってほんまに外国人なん? どこの国出身なん? 話を聞こかとしても、守秘義務やから答えらられへんって返してくるばかりで会話になれへんねんな」
「なるほど……」
つまり、ナイルさんは異世界については、話すことが出来ないから守秘義務と言う事で、お茶を濁していると言う事か。
しかし、それよりも、どうして、そこまでナイルさんに固執するのか……。
俺は必死に考えて――、
「つまり、ナイルさんと和美ちゃんの母親が仲良くしているのが気にいらないってことか……」
俺の言葉に唇を噛みしめる和美ちゃん。
その様子から、俺は言葉選びを間違えた事に気が付く。
「悪い。そういう意味で言ったんじゃないんだ。和美ちゃんは、母親の恵美さんが心配なんだよな?」
少し声のトーンを上げて和美ちゃんに声をかけるが、和美ちゃんは頭を左右に振る。
「ちゃうの。おかんが、あの人と仲良ぉするのはええと思うけど……、思うけど……、やけど! 何やか嫌やねん……、だって! それって……、おとんを裏切っとるってウチは思うさけ。それに、ウチだけのけ者にされとるように感じて」
ああ、そういうことか……。
そこで、俺はようやく理解した。
俺は、ナイルさんと根室恵美さんが仲良くするなる事に関しては、特に気にすることはなかった。
何故なら、それは業務上必要不可欠なことであり、人間関係の円滑な流れとしては当然んだと思っていたからだ。
だが、それは目の前の――、まだ5歳という小さな女の子には酷なことだったのだろう。
そもそも和美ちゃんは、実の父親――、俺の親友だった諸文が死んだあとに田舎に来たのだから。
「はい。義理父さんが、心配してくれていて――」
「なるほど……。それなら、帰りは、ナイルさんに送ってもらうといいです。どうせ今日は、台風後で利用客は少ないと思うので」
「あ、はい!」
俺の傍にいたナイルさんへと視線を向けたあと、少し元気になった根室恵美さんが頷く。
「そ、それでは私は着替えてきますね」
バックヤード側へと向かう根室さん。
「なぁ、おっさん」
「何だ?」
根室恵美さんがバックヤードへと向かうと、一人残されていた和美ちゃんが俺に話しかけてくる。
「ちょっと相談があるんやけど」
「相談?」
「大事な話なんやけど、ちょっといいかな?」
「別に構わないが――」
俺はナイルさんの方へと視線を向ける。
ナイルさんが無言で頷く。
もうナイルさんも一人で店を切り盛りする事が出来るから問題ないだろうと俺は納得し、和美ちゃんを連れて母屋へと向かう。
「あら? 五郎さん、珍しいですね。和美ちゃんと一緒に帰ってくるなんて――」
玄関の戸を開けて土間から上がると、台所に居た雪音さんが話しかけてきた。
「そうですね」
「お姉さん。おはよ」
「和美ちゃん、おはようございます。それと桜ちゃんはお部屋で待っていますよ?」
「ちょっと、おっさんに話があんのん」
「五郎さんに?」
雪音さんの問いかけにコクリと頷く和美ちゃん。
すると雪音さんの目が俺に向く。
その目には、「どういうことですか?」と、言う意味が見て取れたが――、俺は頭を左右にふる。
どうして、俺に相談があるのか、まったく! 想像がつかないからだ。
そもそも5歳の女の子が、40を過ぎた男に相談って、意味が分からん。
俺の目をジト目で見ていた雪音さんが溜息をつく。
「私も同席した方がいいですか?」
「大丈夫やさけ、おっさんで大丈夫やさけ」
「そう……ですか」
雪音さんも和美ちゃんに拒否されるとは思っても見なかったのか少し困惑気味な表情を見せる。
まぁ、俺としても良く分からないからな。
雪音さんが困るのも分かる。
「まぁ、俺に任せておいてください。雪音さんは、家のことをしておいてください。従業員の話を聞くのも経営者の仕事ですから」
「そうですね。和美ちゃんは従業員ではありませんけど……」
「そこは言葉のあやというものです」
「それじゃ和美ちゃん、客間に行こうか」
「うん」
大量のアタッシュケースが置かれていた客間は現在は綺麗に戻されている。
そんな客間に入ったあと、部屋の隅に重ねていた座布団を2枚とり、和美ちゃんに一枚を渡す。
俺から座布団を受け取った和美ちゃんは、座布団を畳の敷いたあと、その上に正座して座る。
その様子を見たあと、俺も座布団を敷き、座布団の上で胡坐をかく。
「――で、俺じゃないと相談できない話って何だ?」
遠回しに話を切り出すのは、何と言うか和美ちゃんには必要ないと思い、ストレートに疑問をぶつけてみる。
「おっさん、ナイルって人は、外国人だって聞ぃたんやけど」
「ん? ナイルさんの事か? ナイルさんが、どうかしたのか?」
「せやさかい! ナイルさんのことを教えてほしいんやけど!」
「いきなり怒鳴るなよ。それで、ナイルさんのことを聞きたいって、別に本人に直接的に聞けばいいんじゃないのか?」
どうして、俺に聞くと言う選択肢を選ぶのか。
「本人には何度か聞ぃてんなぁ。だって、家まで何度も送り迎えをしてくれたから。せやけど、話が噛み合えへんねん」
「そうなのか?」
「うん。そもそも、あの人ってほんまに外国人なん? どこの国出身なん? 話を聞こかとしても、守秘義務やから答えらられへんって返してくるばかりで会話になれへんねんな」
「なるほど……」
つまり、ナイルさんは異世界については、話すことが出来ないから守秘義務と言う事で、お茶を濁していると言う事か。
しかし、それよりも、どうして、そこまでナイルさんに固執するのか……。
俺は必死に考えて――、
「つまり、ナイルさんと和美ちゃんの母親が仲良くしているのが気にいらないってことか……」
俺の言葉に唇を噛みしめる和美ちゃん。
その様子から、俺は言葉選びを間違えた事に気が付く。
「悪い。そういう意味で言ったんじゃないんだ。和美ちゃんは、母親の恵美さんが心配なんだよな?」
少し声のトーンを上げて和美ちゃんに声をかけるが、和美ちゃんは頭を左右に振る。
「ちゃうの。おかんが、あの人と仲良ぉするのはええと思うけど……、思うけど……、やけど! 何やか嫌やねん……、だって! それって……、おとんを裏切っとるってウチは思うさけ。それに、ウチだけのけ者にされとるように感じて」
ああ、そういうことか……。
そこで、俺はようやく理解した。
俺は、ナイルさんと根室恵美さんが仲良くするなる事に関しては、特に気にすることはなかった。
何故なら、それは業務上必要不可欠なことであり、人間関係の円滑な流れとしては当然んだと思っていたからだ。
だが、それは目の前の――、まだ5歳という小さな女の子には酷なことだったのだろう。
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