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第327話 台風到来!(1)

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「いえ。機種の方は間違ってはいないです」
「――え?」
「機種に関しましては、子供が使うので、壊れない機種を選択しただけですので」
「……そ、そうですか……。――で、では台数10台というのは――」
「それも本当です」
「…………す、少し! お待ちください!」
 
 慌てた声で、保留される電話。
 
「おじちゃん。どうかしたの?」
 
 胡坐をかいていた足の間にスポッと入っていた桜が振り向き、上目遣いで問いかけてくる。
 
「担当の人を呼んでくるみたいだから、何もないぞ?」
「そうなんだ……」
 
 桜は、俺のパソコンをポチポチと打ちながら、色々な携帯電話の機種を見て、和美ちゃんと一喜一憂している。
 
「おじちゃん! この携帯って!」
「もう販売終了しているやつだな」
 
 ひと昔前にあった携帯電話が横にスライドすることでパソコンのOSが起動するユニークな携帯電話を見て桜は目を輝かせている。
 そういえば、昔の携帯電話は色々な形があったよなーと、思いながら桜が閲覧していく携帯電話の機種を見ながら、電話の保留が終わるのを待つ。
 
「へー。パソコンにもなるの……」
「小さなパソコンと携帯電話の融合?」
「みたいなの」
「ごっついな」
 
 何だか微笑ましい会話を聞きながら、最近は尖った携帯電話がないなと少しだけ哀愁を感じていた所で保留が終わる。
 
「月山様。大変、長らくお待たせしました」
「はい。どうでしたか?」
 
 あまりの額だったから不審に思われたかも? と、一瞬、思ったが、相手の雰囲気からして断るような様子ではないようだ。
 
「じつは上司と一緒に、一度、そちらにお伺いしたいと思うのですが、宜しいでしょうか?」
「え? 別に構いませんが……」
 
 普通に契約できると思っていたばかりに、一瞬、動揺してしまったが、まぁ相手が、それで納得して契約してくれるなら、それでいいか。
 
「畏まりました。それでは、本日など如何でしょうか?」
「今日ですか? こちらまで来られるという事ですか?」
「はい。難しいでしょうか?」
「別に構いませんが、住所の確認はされていますか? 秋田市内からでも、それなりの時間がかかりますけど……」
「――え? す、少し、お待ちください」
 
 俺は、相手が確認している間に、こちらも相手方の会社がどこにあるのかの目星をつけていく。
 コールセンターは、池袋と書いてあるから、恐らく都内に会社はあるのだろうと考えたところで――、
 
「申し訳ありません。月山様」
「どうでしたか?」
「それでは、明日など如何でしょうか?」
「構いませんよ? 到着10分前に、自分の携帯電話に電話して頂ければ、それで構いませんので」
「分かりました。それでは明日、午後3時頃と言うのは如何でしょうか?」
「午後3時前後ですね? それでは、先ほど、お伝えした通りに到着10分前に電話をください」
「畏まりました。それでは失礼致します」
 
 そこで電話が切れる。
 それにしても、直接、こっちに来るとは――。
 それだけ高い買い物ということか?
 だが、日本でも三本の指に入る携帯電話会社が直接来るとは思っても見なかったな。
 
「おじちゃん?」
「――いや、何でもない。それよりも、塗装用品を購入しないとな……」
 
 パソコンを操作して、俺は携帯電話の外装を塗装する為の素材を購入した。
 お昼になり、店番をメディーナさんや根室さんや雪音さんと代わったあと、一人でレジ前に立つ。
 
「暇だな……」
 
 まったくやる事がない。
 そうこうしている内に、『ザアアアアアッー』と、言う音が聞こえてくる。
 外を見れば、通り雨のごとく突然、駐車場のアスファルトが一気に濡れていく。
 
「雨が降り始めたのか……」
 
 店先から、空を見ると、空は完全に黒雲に覆われていて、時々、雷の音まで聞こえてくる。 
 そして、しばらくすると風まで出てくる。
 おそらく、しばらくすると強風となって大変な事になるのだろう。
 
「やることないな……。たぶん、きっと、客も来ないだろうな……。はぁー」
 
 まぁ、丁度いいから中世の社会と経済学の勉強でもしておくか。
 俺はカウンターにもたれ掛かりながら、本を開く。
 そうしている間にも、強風の音が聞こえてくる。
 どうやら、思っていたよりも、台風の規模が大きいようだ。
 外を見れば、色々なモノが、飛んできて駐車場に落ちてくる。
 稲穂や、木の枝や、ウリボウとか。
 
「今日は、これ以上、台風が強くなる前に、根室さんには上がってもらった方がいいかもな。帰りに事故にあったら大変だし」
 
 俺は子機をとり、母屋へと連絡する。
 
「はい。月山です」
「雪音さん。根室さんに、今日は早く上がってくださいと伝えてください。あと、午後5時までの給金は出しますと」
「分かりました」
「あと、根室正文さんが迎えに来れない場合は、自分が送っていくので、確認しておいてください」
「はい」
 
 そこで電話を切る。
 まぁ、資金に余裕があるから出来る事だとは思うが、出来るだけ親友だった諸文の奥さんには配慮しておきたい。
 それに桜との繋がりもあるからな。
 

 
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