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第323話 鮎を素手で捕まえよう

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「いえ。特には――。朝早く起きたので散歩に来ただけです。それよりも。メディーナさんは、いつもここで鍛錬を?」
「はい。副隊長より、ここが鍛錬の場として良いと聞いていましたので」
「なるほど……。それよりも寒くはないですか?」
 
 もうすぐ11月に差し掛かる。
 そんな中、川の流れの中に身を置くと言うのは、寒くはないのだろうか?
 
「いえ。身体強化をしていますので。身体強化をすると肉体が活性化しますので、その影響で体温の上昇と維持が用意になりますから」
「そうなんですか」
「はい。ゴロウ様も、どうですか? 鍛錬など」
「いえ。普通に風邪をひくと思うので」
「それは残念です」
「残念と言われても……。俺は、魔法が使えないので――」
「そうなのですか?」
 
 俺は頷く。
 俺が魔法を使う事が出来ないことを、どうやらルイズ辺境伯領の兵士達全員が知っているわけではないようだ。
 
「それは、申し訳ありません」
「どうしてメディーナさんが謝るんですか?」
「いえ。貴族の方でしたら魔法を扱えるのが普通で――、魔法が使えないと家督から外される事もありますから」
「へー」
 
 異世界も色々とあるんだな。
 その割には、ノーマン辺境伯は後継者として許可を出してくれたが……。
 まぁ、たぶん、それは地球と異世界とのゲートを俺が唯一作り出せる事と、王家やルイズ辺境伯領に、それなりの利益をもたらすと考えたからかもな。
 
「ゴロウ様が家督を継がれると伺っていたので――」
「ああ。なるほど。それで、勘違いしていたということですか」
「はい」
 
 申し訳なさそうに頷くメディーナさん。
 
「まぁ、気にしないでください。俺は、魔力だけは多いみたいですし、違う部分で評価されているみたいですから」
「そうですか……。あ――、そういえばゴロウ様」
「まだ何か?」
「はい。先ほどから足に当たるモノは何でしょうか?」
「ああ、鮎ですね」
「鮎?」
「川の中を流れる魚のことですよ」
 
 俺は靴を脱ぎ凍えるほど寒い川の中へと入っていく。太ももの部分まで川に浸かったところで、俺は軽く息を吐く。
 そして集中し――、その途端、周囲の川の音が全て聞こえなくなると同時に風景が灰色へと変化する。
 そんな中で、俺は自然と手を動かし泳いできた鮎を素手で川から弾き飛ばす。
 弾き飛ばされた鮎は、空中を飛び河原へと落ちる。
 俺は、その足で河原まで戻り、鮎を掴んだあと、川の中に腰まで浸かっているメディーナさんの近くまで移動した。
 
「コレが鮎です」
「これが鮎ですか……。ゴロウ様、これは食べられるのですか?」
「そうですね。食べられます。そうだ! 今日の朝は、鮎でも皆で食べますか? 鮎の解禁は2月までですから」
「本当ですか?」
「はい。それでは、メディーナさんも頑張って鮎を獲りましょう!」
「頑張ります!」
 
 俺は川の中に入り、目を閉じる。
 そして――、集中し周囲の川の流れや気配を察知すると同時に、手を川の中へと突っ込み鮎を河原の方へと放り投げる。
 そんな俺を見ていて、メディーナさんが少し身じろいだような気配が伝わってきたが、気にしている余裕はない。
 鮎は下処理もしないといけないからだ。
 俺は、精神を集中したまま、自分の領域に入ってきた鮎を次々と素手で、川の中から弾き飛ばし、河原へと流れるように放り投げていく。
 そして20分もしたところで、20匹ほど獲ったところで精神集中を解く。
 
「とりあえず、こんなものですね」
 
 俺は、早速、川の中から出る。
 メディーナさんも、俺のあとに続いて川から上がってくる。
 メディーナさんが河原まで来る間に、上着を脱ぎ――、上着の中に鮎を入れて持ち運びできるようにする。
 
「ゴロウ様。随分と手慣れているのですね」
「まぁ、子供の頃から親父にやらされていたので――」
「ゲシュペンスト様からですか?」
「そうですね。まぁ、慣れれば5歳でも出来る簡単な作業みたいなモノなので」
「簡単……」
「はい。要は慣れみたいなモノですよ? 川の流れや大気の動き、あとは、生物の気配とか何となく集中すれば分かりますよね?」
「……」
「どうかしましたか?」
「――い、いえ」
「とりあえず戻りましょう」
「はい」
 
 どうやら、メディーナさんは鮎を捕まえられなかったみたいだ。
 まぁ、熊と鮎獲りはまったくの別モノだからな。
 慣れれば、そのうち出来るようになるだろう。
 鮎を入れた上着を持ち上げて母屋へと足を向けたところで――、
 
「ゴロウ様のような事は他の方も出来たのですか?」
 
 そう、背後からメディーナさんが聞いてきた。
 
「さあ? ただ、キャンプとかだと重宝されましたよ? あとは、妹は俺よりうまかったですね」
「妹と申されますと?」
「桜の母親の、月山恵子ですね。よく天気とか、地震とか当てていましたよ? まぐれだと思いますけど」
「……」
「どうかしましたか?」
「――い、いえ……。ゴロウ様は、本当に魔法を使うことが出来ないのですよね?」
「使えませんよ?」
 
 それは、ノーマン辺境箔も断定していたし。
 
 
 
 
 
 
 
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