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第321話 実は、俺、国内格闘ゲームチャンピオンだったんだ

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「そ、そうか……」
 
 俺は調理で使った鍋と皿を洗う。
 その間も、桜は俺と一緒に居る。
 
「おじちゃん」
「どうした?」
 
 洗い物をしていた時に桜が話しかけてくる。
 振り向くと、桜がゲームソフトを見せてくる。
 それは、ファイナルアンサーという、一昔前に世界中のゲーマーを熱狂させたセムガサターンの格闘ゲーム。
 世界で初めて発売されたポリゴン式の格闘ゲームである。
 それは、まさしく俺が学生時代に嵌っていて、高校の同級生連中と一緒に遊んだゲームだ。
 ちなみに、今の格闘ゲームを嗜んでいる子供達から見たら、画像だって粗いし、キャラの作りも甘いだろう。
 だが、それがいい。
 
「ファイナルアンサーか、どこで、そのゲームソフト見つけたんだ?」
「倉庫にあったの!」
「そうかー」
 
 俺の高校時代のゲームソフトが、倉庫に眠っているとは思わなかったが、暇な時間に桜が倉庫で発掘でもしたのだろう。
 まぁ、子供は、探検や発掘が好きだからな。
 
「和美ちゃんと戦ったんだけどね! 桜は強くなりすぎたの!」
「ほう……」
 
 それは、ファイナルアンサーゲームの達人と呼ばれた俺にとっては挑戦状と言ってもいい内容だぞ?
 
「おじちゃん! 遊んでなの!」
「まぁ、いいが……。とりあえず、遊んでいたら雪音さんに怒られそうだからな……。まずは、雪音さんに確認してからだな」
「うん……」
 
 どうして、そこでしょんぼりとしてしまうのか。
 仕方ないな。
 
「少し待っていてくれ」
 
 俺は店側の子機に電話をする。
 すると数コール鳴ってから――、
 
「月山雑貨店です」
「五郎です。雪音さんをお願いできますか?」
 
 予想外にも電話に出たのはメディーナさんだった。
 
「ゴ、ゴロウ様!? す、少し、お待ちを――」
 
 電話が保留になり、10秒ほどで、
 
「はい。雪音です。五郎さん、起きられたのですね? どうですか?」
「もう大丈夫です」
「そうですか。御店の方は、私が閉めておきますので、桜ちゃんと遊んでやってください。あと、近くに桜ちゃんはいますか?」
「居ますが――」
「そうですか。桜ちゃんは、最近、五郎さんと遊べなくて寂しがっていましたので、遊んであげてください」
 
 俺は、桜の方を見る。
 すると、悪戯が見つかった子供ように、顔を俯かせている。
 それを見て、最近は、仕事で忙しくて桜と殆どコミュニケーションを取っていない事を今更思い出す。
 
「そうですね。分かりました」
「はい。それでは、私も一度、母屋に戻りますね。夕食を作らないといけませんから。御店の方は、閉店まではメディーナさんにお任せします」
「もう任せても大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それに、今日は、お客様は10名も来ていませんから」
「そ、そうですか……」
 
 収穫のあとの出荷が忙しいと言っても客が来なさすぎじゃないのか? と、思いつつも、それを口にすることはしない。
 何せ、近くに桜がいるのだから。
 電話を切ったあと、
 
「それじゃ、今日は、一緒に遊ぶか」
「本当に!?」
「ああ。だが、俺は格闘ゲームの鉄人と呼ばれた事があるからな? ファイナルアンサーで、俺に勝負を挑んできたということは、手加減はできないぞ?」
「ゲームの鉄人?」
「ああ。こう見えても全国大会出場しているからな」
「――ぜ、全国大会なの!?」
「まあ、20年以上前の話だが……。多少は腕は衰えているかも知れないが! それでも全国大会出場した実力者の力を見せてやるぞ?」
「の、のぞむところなの!」
 
 まぁ、全国大会出場者の実力は半端ないからな。
 多少、強くなったところで、俺の敵ではない。
 桜の部屋に行ったあと、セムガサターンにCDを入れて電源を起動する。
 そして――、ゲーム画面に切り替わったあと、ゲームを始める。
 古き良き時代の3Dポリゴンのキャラ同士の戦闘。
 そして――、『Fight』と、画面に文字が流れた瞬間、桜の操作するキャラが突っ込んでくるが、俺は巧みにコントローラを操作し、下段攻撃で相手のキャラを空中に浮かせる。
 
「え!?」
 
 さらに空中に浮いている桜が操作しているキャラを大技で空中に更に吹き飛ばすと、落ちてきた桜のキャラを石畳の上にパイルドライバーで落として桜のキャラを瞬殺する。
 それと同時に『YouWin』と、いう文字が画面上に表示された。
 
「お、おじちゃん……。一体、何が起きたの?」
「ふっ。ゲーマーが勝負で、どう勝ったのかを教えたら、それは勝負じゃないだろ?」
「――ッ!? さ、桜! 負けないもん!」
「良かろう! この全国大会出場経験のあるおじちゃんが全力で相手してやろうではないか!」
 
 ノリノリで、俺は言葉を返した。
 
 
 
 夕飯を作りに戻ってきた雪音さんが料理の下ごしらえを終えて、店に戻ったあと店を閉めたあと戻ってきたのは午後9時過ぎ。
 それまで、俺と桜は、3D格闘ゲーム『ファイナルアンサー』で遊んだ。
 
「五郎さん」
「はい」
「桜ちゃん、すごくプリプリしていますけど? 何か、あったんですか?」
「何かあったと言うか、少し、俺が本気を出しすぎたというか……」
 
 だが、俺には負けるという選択肢はなかった。
なにせ、『ファイナルアンサー』国内チャンピオンだった俺が負けるという事は、俺に負けた連中も桜に負けるという事になるからだ。
つまり、チャンピオンは負ける訳にはいかないのだ。
 
「――ぐすん。次は、絶対に! おじちゃんには負けないの!」
 
 
 
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