318 / 437
第318話 噂で地価が下がる時もある(2)
しおりを挟む
「大量の熊の死体? ――え?」
戸惑いの声が、電話口から聞こえてきた。
何時もの冷静な藤和さんの声ではなく、明らかに抜けたような声色。
「じつは、田口村長の果実園の一部のエリアで大量の熊の死体が発見されたんです」
「いえ。きちんと聞いていますから。それよりも熊が大量に出たというのは本当なのですか?」
「はい。それは兵士の方々にも確認しましたし、この目でもキチンと確認しましたから」
「なるほど……。ルイズ辺境伯領の兵士の方々が倒したということは?」
「ないです。実際に、ルイズ辺境伯領から派遣してもらった兵士の方々も驚いていました」
「なるほど……」
そう藤和さんは呟く。
しばらく無言が続くかと思ったところで――、
「それはチャンスかも知れませんね」
「え? どういうことですか?」
予想斜め上の返答が藤和さんから返ってきたことで、俺は驚く。
彼が何を考えているのか、理解出来なかったからだ。
「そうですね。簡単に説明すると、熊の大量発生と不可解な大量死、それを上手く利用することで、結城村の土地の買収を円滑に行えるということです」
「円滑に?」
ますます理解できない。
「はい。途中の評価価格というのは、噂の影響も受けます。問題のある土地でしたら、地下が上がる可能性は限りなく低くなるため、手放す人も出てきますから」
「もしかして――」
藤和さんは、熊の大量の死体をリークして、結城村事態の土地の評価価格を下げるだけでなく、曰くある土地にする事で、土地の購入を有利に進めようと考えているのか?
「ご推察通りです。ただ、その為には幾つか条件がありまして――」
「待ってください。いくら土地の買収を進めていると言っても、自分が住んでいる土地に対して問題があるような吹聴を流す行為は、どうかと思います」
「月山様。田舎の土地を買収するような人間は、大半が将来に向けての投資です。それは、ご理解されているかと思いますが?」
「その事くらいは分かっています」
「そこで、下手に交渉すると、より高く土地の価格を吊り上げられるという事態を招くことになります。――ですが、将来的に、土地の評価価格が上がらない場所だとしたらどうでしょうか? 土地の維持費、とくに山林では適度な維持管理に対してコストが発生します。そのコストとリターンが釣り合わないとしたら?」
「自分達の方から損切りしてくるという事ですか?」
「そういうことです」
藤和さんの冷静な思考と話しぶりに、少し苛立ちを感じたりはする。
何せ、結城村は自分が生まれ育った場所なのだから。
だが、それ以上に、今は大事なことがある。
それは、土地の買収を迅速に進めないといけないという事だ。
俺は、すでに決めていたじゃないか。
家族を守るためには――、生活基盤を整える為には、あらゆる手を尽くすと。
「なるほど……。分かりました」
「それでは、いくつか条件があります」
藤和さんの方から話しを切り出してきた。
「何でしょうか?」
「まず熊の死体ですが、第三者に確認してもらう必要があります。熊の死体は、どうされていますか?」
「熊の死体は、現在は、異世界で処理するために移動しましたから、死体は、結城村にはありません」
「…………。つまり、月山様以外には大量の熊の死体について知っている方はいないということですか?」
「いえ。田口村長と、自分の護衛に入っていた人員は知っています」
「それは、噂として流すには難しいですね。猟友会の方にでも確認してもらい情報を流してもらえれば、それなりのニュースになったと思いますが……」
「あ――」
「どうかされましたか?」
「猟友会の方ですが、既に今日、山に入っています」
「それで猟友会の方は何と?」
「熊の死体が大量に転がっていた場所――、その光景を見たあと、現場を調査していました。その結果、20体以上の熊の頭部が落ちていたことを確認後、速やかに猟友会では手には負えないと判断を下してお昼少し前には撤収しました」
「つまり猟友会では対応は不可能と判断したわけですね?」
「はい。そうなります」
「そうですか。猟友会の方が何の問題もないと判断されていたら、噂を流すことはできませんでしたが、その状態なら利用することは可能ですね。月山様、猟友会の方とは連絡を取る事は可能ですか?」
「可能ですが……。まさか、猟友会の方に得体の知れないモノが山に居ると言わせるつもりですか?」
「はい」
きっぱりと、藤和さんが、俺の言葉を肯定してくる。
そこには一切の迷いが感じられない。
「そうなりますと、熊の死体を異世界に運んだのは、英断と言わざるを得ません。死体が無いのなら、その死体を持ち運んだ何かに対しての噂には尾ひれがつきやすいですから」
「結城村の土地評価が下がるだけでなく逃げ出す人も出てきそうですね」
「逃げ出す人は逃げ出させておけばいいのです。そういう人が村に居ても意味はありませんから。どちらにしても、これから月山様が行う結城村の発展は、問題のある村民が居たら何が起きるか分かりませんから」
戸惑いの声が、電話口から聞こえてきた。
何時もの冷静な藤和さんの声ではなく、明らかに抜けたような声色。
「じつは、田口村長の果実園の一部のエリアで大量の熊の死体が発見されたんです」
「いえ。きちんと聞いていますから。それよりも熊が大量に出たというのは本当なのですか?」
「はい。それは兵士の方々にも確認しましたし、この目でもキチンと確認しましたから」
「なるほど……。ルイズ辺境伯領の兵士の方々が倒したということは?」
「ないです。実際に、ルイズ辺境伯領から派遣してもらった兵士の方々も驚いていました」
「なるほど……」
そう藤和さんは呟く。
しばらく無言が続くかと思ったところで――、
「それはチャンスかも知れませんね」
「え? どういうことですか?」
予想斜め上の返答が藤和さんから返ってきたことで、俺は驚く。
彼が何を考えているのか、理解出来なかったからだ。
「そうですね。簡単に説明すると、熊の大量発生と不可解な大量死、それを上手く利用することで、結城村の土地の買収を円滑に行えるということです」
「円滑に?」
ますます理解できない。
「はい。途中の評価価格というのは、噂の影響も受けます。問題のある土地でしたら、地下が上がる可能性は限りなく低くなるため、手放す人も出てきますから」
「もしかして――」
藤和さんは、熊の大量の死体をリークして、結城村事態の土地の評価価格を下げるだけでなく、曰くある土地にする事で、土地の購入を有利に進めようと考えているのか?
「ご推察通りです。ただ、その為には幾つか条件がありまして――」
「待ってください。いくら土地の買収を進めていると言っても、自分が住んでいる土地に対して問題があるような吹聴を流す行為は、どうかと思います」
「月山様。田舎の土地を買収するような人間は、大半が将来に向けての投資です。それは、ご理解されているかと思いますが?」
「その事くらいは分かっています」
「そこで、下手に交渉すると、より高く土地の価格を吊り上げられるという事態を招くことになります。――ですが、将来的に、土地の評価価格が上がらない場所だとしたらどうでしょうか? 土地の維持費、とくに山林では適度な維持管理に対してコストが発生します。そのコストとリターンが釣り合わないとしたら?」
「自分達の方から損切りしてくるという事ですか?」
「そういうことです」
藤和さんの冷静な思考と話しぶりに、少し苛立ちを感じたりはする。
何せ、結城村は自分が生まれ育った場所なのだから。
だが、それ以上に、今は大事なことがある。
それは、土地の買収を迅速に進めないといけないという事だ。
俺は、すでに決めていたじゃないか。
家族を守るためには――、生活基盤を整える為には、あらゆる手を尽くすと。
「なるほど……。分かりました」
「それでは、いくつか条件があります」
藤和さんの方から話しを切り出してきた。
「何でしょうか?」
「まず熊の死体ですが、第三者に確認してもらう必要があります。熊の死体は、どうされていますか?」
「熊の死体は、現在は、異世界で処理するために移動しましたから、死体は、結城村にはありません」
「…………。つまり、月山様以外には大量の熊の死体について知っている方はいないということですか?」
「いえ。田口村長と、自分の護衛に入っていた人員は知っています」
「それは、噂として流すには難しいですね。猟友会の方にでも確認してもらい情報を流してもらえれば、それなりのニュースになったと思いますが……」
「あ――」
「どうかされましたか?」
「猟友会の方ですが、既に今日、山に入っています」
「それで猟友会の方は何と?」
「熊の死体が大量に転がっていた場所――、その光景を見たあと、現場を調査していました。その結果、20体以上の熊の頭部が落ちていたことを確認後、速やかに猟友会では手には負えないと判断を下してお昼少し前には撤収しました」
「つまり猟友会では対応は不可能と判断したわけですね?」
「はい。そうなります」
「そうですか。猟友会の方が何の問題もないと判断されていたら、噂を流すことはできませんでしたが、その状態なら利用することは可能ですね。月山様、猟友会の方とは連絡を取る事は可能ですか?」
「可能ですが……。まさか、猟友会の方に得体の知れないモノが山に居ると言わせるつもりですか?」
「はい」
きっぱりと、藤和さんが、俺の言葉を肯定してくる。
そこには一切の迷いが感じられない。
「そうなりますと、熊の死体を異世界に運んだのは、英断と言わざるを得ません。死体が無いのなら、その死体を持ち運んだ何かに対しての噂には尾ひれがつきやすいですから」
「結城村の土地評価が下がるだけでなく逃げ出す人も出てきそうですね」
「逃げ出す人は逃げ出させておけばいいのです。そういう人が村に居ても意味はありませんから。どちらにしても、これから月山様が行う結城村の発展は、問題のある村民が居たら何が起きるか分かりませんから」
225
お気に入りに追加
1,954
あなたにおすすめの小説
最強の英雄は幼馴染を守りたい
なつめ猫
ファンタジー
異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。
そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる