田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第317話 噂で地価が下がる時もある(1)

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 納得した様子の雪音さんに、俺は頷いた後、箪笥から、お金を取り出し封筒に入れて客間に戻る。
 
「楠木さん、お待たせ致しました」
 
 俺はテーブルに座ったあと、楠木さんから返答が返ってくる前に、茶封筒を楠木さんの前へと差し出すようにして、テーブルの上に置く。
 
「これは?」
「今回の依頼料と――、あとは……」
 
 俺は言葉を濁す。
 それだけで、楠木さんは察したようで封筒を受け取ってくれる。
 
「なるほど……、会長が言っていた通り、それなりの場数を踏んでいると。――では、秋田猟友会は、今回の依頼は無かった事とします」
「お願いします」
 
 楠木さんに渡した茶封筒は二つで、合計で200万円。
 依頼料は、数十万で良いと思ったが、余計なことを口外されると面倒な事になりそうなので、口止めを含めて渡したが、それに関しては察してくれたようだ。
 
「いえ。また何かありましたら宜しくお願いします。それと、今回の事に関しては警察から依頼を受けたとしても、猟友会は関与しない事を約束します」
 
 席を立った楠木さんを、送ったあと、俺は母屋に戻った。
 母屋に戻ったあとは、いつも使っている自分の部屋――、居間の畳の上に布団を敷いてから横になる。
 すると、すぐに睡魔が襲ってきて、俺は抵抗することすら出来ずに眠りについた。
 目を覚ませば、外は薄暗い。
 居間の壁時計へと視線を向ければ、時刻は午後4時を指し示していた。
 
「やばっ――」
 
 慌てて起きる。
 そして服を着替えていたところで、
 
「五郎さん? 疲れているのですから寝ていた方がいいですよ?」
 
 丁度、台所へと姿を見せた雪音さんが笑顔で、話しかけてきた。
その様子から、俺が寝ていると思っていたのだろう。
 
「雪音さん、どうして店の服を?」
「休憩の交代要員として店のレジを打っていましたから」
 
 どうやら、俺が寝坊したことで雪音さんが代わりに店の仕事をしてくれていたようだ。
 
「すいません、俺の代わりに――」 
「いえいえ。ここ最近、五郎さんは、殆ど寝てないですから、ゆっくりしていたほうがいいです」
「いえ。そんなわけには――」
「駄目ですよ? すぐに寝落ちしてしまいますし、中々、起きなかったですよね? 無理は良くないです」
「そうですか……」
「はい。ちなみに今日一日、御店の方は暇でした。ですから私とメディーナさんと恵美さんの3人で回せていましたから安心してください」
「それは、安心していいんでしょうか?」
「収穫が昨日でしたから――」
 
 苦笑いな雪音さん。
 客が全然来ないというのは大問題だが、今日だけは良かったと言える。
 何せ、俺が寝ていても店が回せたわけだから。
 
「――でも、明日か明後日以降からは、結城村の農家の方々も出荷を終えて、私達にコンタクトを取ってくるかもですね」
「それは熊の件ですか」
「はい。熊が居るかどうかって、農家の人間からしたら死活問題ですから」
「そうですよね」
 
 その点を考えると、完全に猟友会が、今回の件から手を引いたのは痛いどころの騒ぎではない。
 そこまで考えたところで――、
 
「あ……」
「どうかしましたか?」
「じつは異世界の兵士の人達に追加で報酬を渡す約束をしていて――」
「そうなのですか?」
「はい。とりあえず胡椒を仕入れないと」
 
 俺は携帯電話を取り出し、藤和さんに電話をする。
 数コール鳴ったところで――、
 
「はい。藤和です」
「月山です」
「これは、月山様。何か、商品のご依頼でも?」
「実は胡椒を40キロほど用意してもらいたいんです」
「胡椒を? それだけの胡椒を必要とされるということは異世界での取引にですか?」
 
 そう藤和さんが問いかけてくる。
 そういえば、ここ最近、藤和さんには異世界との交渉に関しての情報は共有していなかった。
 完全に失念していた事に気が付く。
 
「実は、明日か明後日には台風が秋田に直撃して農作物に被害がでると田口村長が予測し、農家の損失を減らすために、異世界から兵士を借り受けようとしたのですが、その時に、ノーマン辺境伯から、兵士を貸し出す条件として胡椒を納入するようにと言われました。それで、大量の胡椒が必要になりました」
「それで、月山様は了承されたという事ですか?」
「そうなります。あとは、兵士を200人ほど派遣してもらい、結城村の農家に異世界人ということを伏せて兵士を派遣しました」
「…………派遣しました。――と、言う事は、すでに事後という事ですか?」
「そうなります」
「そうでしたか。随分と、物事が急展開で進んでいたのですね」
 
 そう言われると、そうかも知れない。
 ただ――、
 
「じつは、それだけではなくて――」
「まだ何かありましたか?」
「じつは、田口村長の果実園で収穫の手伝いをしていたところ、俺は、熊に襲われました」
「く、熊に!? 怪我などは大丈夫ですか?」
「はい。奇跡的に無事でした。それで――、そのことで問題起きまして――」
「問題ですか?」
「はい」
 
 俺は電話口で頷く。
 
「じつは、田口村長の果実園の一部のエリアで大量の熊の死体が発見されたんです」
 
 
 
 
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