317 / 437
第317話 噂で地価が下がる時もある(1)
しおりを挟む
納得した様子の雪音さんに、俺は頷いた後、箪笥から、お金を取り出し封筒に入れて客間に戻る。
「楠木さん、お待たせ致しました」
俺はテーブルに座ったあと、楠木さんから返答が返ってくる前に、茶封筒を楠木さんの前へと差し出すようにして、テーブルの上に置く。
「これは?」
「今回の依頼料と――、あとは……」
俺は言葉を濁す。
それだけで、楠木さんは察したようで封筒を受け取ってくれる。
「なるほど……、会長が言っていた通り、それなりの場数を踏んでいると。――では、秋田猟友会は、今回の依頼は無かった事とします」
「お願いします」
楠木さんに渡した茶封筒は二つで、合計で200万円。
依頼料は、数十万で良いと思ったが、余計なことを口外されると面倒な事になりそうなので、口止めを含めて渡したが、それに関しては察してくれたようだ。
「いえ。また何かありましたら宜しくお願いします。それと、今回の事に関しては警察から依頼を受けたとしても、猟友会は関与しない事を約束します」
席を立った楠木さんを、送ったあと、俺は母屋に戻った。
母屋に戻ったあとは、いつも使っている自分の部屋――、居間の畳の上に布団を敷いてから横になる。
すると、すぐに睡魔が襲ってきて、俺は抵抗することすら出来ずに眠りについた。
目を覚ませば、外は薄暗い。
居間の壁時計へと視線を向ければ、時刻は午後4時を指し示していた。
「やばっ――」
慌てて起きる。
そして服を着替えていたところで、
「五郎さん? 疲れているのですから寝ていた方がいいですよ?」
丁度、台所へと姿を見せた雪音さんが笑顔で、話しかけてきた。
その様子から、俺が寝ていると思っていたのだろう。
「雪音さん、どうして店の服を?」
「休憩の交代要員として店のレジを打っていましたから」
どうやら、俺が寝坊したことで雪音さんが代わりに店の仕事をしてくれていたようだ。
「すいません、俺の代わりに――」
「いえいえ。ここ最近、五郎さんは、殆ど寝てないですから、ゆっくりしていたほうがいいです」
「いえ。そんなわけには――」
「駄目ですよ? すぐに寝落ちしてしまいますし、中々、起きなかったですよね? 無理は良くないです」
「そうですか……」
「はい。ちなみに今日一日、御店の方は暇でした。ですから私とメディーナさんと恵美さんの3人で回せていましたから安心してください」
「それは、安心していいんでしょうか?」
「収穫が昨日でしたから――」
苦笑いな雪音さん。
客が全然来ないというのは大問題だが、今日だけは良かったと言える。
何せ、俺が寝ていても店が回せたわけだから。
「――でも、明日か明後日以降からは、結城村の農家の方々も出荷を終えて、私達にコンタクトを取ってくるかもですね」
「それは熊の件ですか」
「はい。熊が居るかどうかって、農家の人間からしたら死活問題ですから」
「そうですよね」
その点を考えると、完全に猟友会が、今回の件から手を引いたのは痛いどころの騒ぎではない。
そこまで考えたところで――、
「あ……」
「どうかしましたか?」
「じつは異世界の兵士の人達に追加で報酬を渡す約束をしていて――」
「そうなのですか?」
「はい。とりあえず胡椒を仕入れないと」
俺は携帯電話を取り出し、藤和さんに電話をする。
数コール鳴ったところで――、
「はい。藤和です」
「月山です」
「これは、月山様。何か、商品のご依頼でも?」
「実は胡椒を40キロほど用意してもらいたいんです」
「胡椒を? それだけの胡椒を必要とされるということは異世界での取引にですか?」
そう藤和さんが問いかけてくる。
そういえば、ここ最近、藤和さんには異世界との交渉に関しての情報は共有していなかった。
完全に失念していた事に気が付く。
「実は、明日か明後日には台風が秋田に直撃して農作物に被害がでると田口村長が予測し、農家の損失を減らすために、異世界から兵士を借り受けようとしたのですが、その時に、ノーマン辺境伯から、兵士を貸し出す条件として胡椒を納入するようにと言われました。それで、大量の胡椒が必要になりました」
「それで、月山様は了承されたという事ですか?」
「そうなります。あとは、兵士を200人ほど派遣してもらい、結城村の農家に異世界人ということを伏せて兵士を派遣しました」
「…………派遣しました。――と、言う事は、すでに事後という事ですか?」
「そうなります」
「そうでしたか。随分と、物事が急展開で進んでいたのですね」
そう言われると、そうかも知れない。
ただ――、
「じつは、それだけではなくて――」
「まだ何かありましたか?」
「じつは、田口村長の果実園で収穫の手伝いをしていたところ、俺は、熊に襲われました」
「く、熊に!? 怪我などは大丈夫ですか?」
「はい。奇跡的に無事でした。それで――、そのことで問題起きまして――」
「問題ですか?」
「はい」
俺は電話口で頷く。
「じつは、田口村長の果実園の一部のエリアで大量の熊の死体が発見されたんです」
「楠木さん、お待たせ致しました」
俺はテーブルに座ったあと、楠木さんから返答が返ってくる前に、茶封筒を楠木さんの前へと差し出すようにして、テーブルの上に置く。
「これは?」
「今回の依頼料と――、あとは……」
俺は言葉を濁す。
それだけで、楠木さんは察したようで封筒を受け取ってくれる。
「なるほど……、会長が言っていた通り、それなりの場数を踏んでいると。――では、秋田猟友会は、今回の依頼は無かった事とします」
「お願いします」
楠木さんに渡した茶封筒は二つで、合計で200万円。
依頼料は、数十万で良いと思ったが、余計なことを口外されると面倒な事になりそうなので、口止めを含めて渡したが、それに関しては察してくれたようだ。
「いえ。また何かありましたら宜しくお願いします。それと、今回の事に関しては警察から依頼を受けたとしても、猟友会は関与しない事を約束します」
席を立った楠木さんを、送ったあと、俺は母屋に戻った。
母屋に戻ったあとは、いつも使っている自分の部屋――、居間の畳の上に布団を敷いてから横になる。
すると、すぐに睡魔が襲ってきて、俺は抵抗することすら出来ずに眠りについた。
目を覚ませば、外は薄暗い。
居間の壁時計へと視線を向ければ、時刻は午後4時を指し示していた。
「やばっ――」
慌てて起きる。
そして服を着替えていたところで、
「五郎さん? 疲れているのですから寝ていた方がいいですよ?」
丁度、台所へと姿を見せた雪音さんが笑顔で、話しかけてきた。
その様子から、俺が寝ていると思っていたのだろう。
「雪音さん、どうして店の服を?」
「休憩の交代要員として店のレジを打っていましたから」
どうやら、俺が寝坊したことで雪音さんが代わりに店の仕事をしてくれていたようだ。
「すいません、俺の代わりに――」
「いえいえ。ここ最近、五郎さんは、殆ど寝てないですから、ゆっくりしていたほうがいいです」
「いえ。そんなわけには――」
「駄目ですよ? すぐに寝落ちしてしまいますし、中々、起きなかったですよね? 無理は良くないです」
「そうですか……」
「はい。ちなみに今日一日、御店の方は暇でした。ですから私とメディーナさんと恵美さんの3人で回せていましたから安心してください」
「それは、安心していいんでしょうか?」
「収穫が昨日でしたから――」
苦笑いな雪音さん。
客が全然来ないというのは大問題だが、今日だけは良かったと言える。
何せ、俺が寝ていても店が回せたわけだから。
「――でも、明日か明後日以降からは、結城村の農家の方々も出荷を終えて、私達にコンタクトを取ってくるかもですね」
「それは熊の件ですか」
「はい。熊が居るかどうかって、農家の人間からしたら死活問題ですから」
「そうですよね」
その点を考えると、完全に猟友会が、今回の件から手を引いたのは痛いどころの騒ぎではない。
そこまで考えたところで――、
「あ……」
「どうかしましたか?」
「じつは異世界の兵士の人達に追加で報酬を渡す約束をしていて――」
「そうなのですか?」
「はい。とりあえず胡椒を仕入れないと」
俺は携帯電話を取り出し、藤和さんに電話をする。
数コール鳴ったところで――、
「はい。藤和です」
「月山です」
「これは、月山様。何か、商品のご依頼でも?」
「実は胡椒を40キロほど用意してもらいたいんです」
「胡椒を? それだけの胡椒を必要とされるということは異世界での取引にですか?」
そう藤和さんが問いかけてくる。
そういえば、ここ最近、藤和さんには異世界との交渉に関しての情報は共有していなかった。
完全に失念していた事に気が付く。
「実は、明日か明後日には台風が秋田に直撃して農作物に被害がでると田口村長が予測し、農家の損失を減らすために、異世界から兵士を借り受けようとしたのですが、その時に、ノーマン辺境伯から、兵士を貸し出す条件として胡椒を納入するようにと言われました。それで、大量の胡椒が必要になりました」
「それで、月山様は了承されたという事ですか?」
「そうなります。あとは、兵士を200人ほど派遣してもらい、結城村の農家に異世界人ということを伏せて兵士を派遣しました」
「…………派遣しました。――と、言う事は、すでに事後という事ですか?」
「そうなります」
「そうでしたか。随分と、物事が急展開で進んでいたのですね」
そう言われると、そうかも知れない。
ただ――、
「じつは、それだけではなくて――」
「まだ何かありましたか?」
「じつは、田口村長の果実園で収穫の手伝いをしていたところ、俺は、熊に襲われました」
「く、熊に!? 怪我などは大丈夫ですか?」
「はい。奇跡的に無事でした。それで――、そのことで問題起きまして――」
「問題ですか?」
「はい」
俺は電話口で頷く。
「じつは、田口村長の果実園の一部のエリアで大量の熊の死体が発見されたんです」
209
お気に入りに追加
1,931
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる