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第314話 猟友会の対応(1)

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「そうですね」
 
俺は頷く。
今度、自転車専用の駐輪場を作ろう。
まぁ、店の前に自転車を駐車するスペースを作って白のラインを引いてもらうだけだが。
 
「そういえば、今日は、何時にもましてお客様が来店しないですね」
「まぁ、昨日の今日ですからね。収穫物を、出荷しないといけないですから」
 
 たぶん、店に来る余裕なんてないだろう。
 少なくとも数日間は。
 つまり暇だということだ。
 そういえば、村長もリンゴの収穫物があると思うが、たぶんてんてこ舞いなんだろうな。
 
「五郎さん!」
「雪音さん、どうかしましたか?」
 
 根室さんと会話をしていたところで雪音さんが慌てた様子で、店内に入ってきた。
 その手には、固定電話の子機が握られている。
 
「おじいちゃんから連絡があって、五郎さんに代わって欲しいって――」
「え? 分かりました」
 
直接、俺の携帯に電話してくれればいいのに……。
俺はズボンから携帯を取り出すと携帯の電源は落ちていた。
電源を入れようとしても、まったく起動しない。
そういえば、最近は、ずっと充電していなかったな――と、思いつつ、ふと思い出す。
昨日、今日にかけて、夜の山を歩く間にも、携帯電話のライトを点灯しっぱなしだったことに。
そりゃバッテリーが切れるわけだ。
 
 雪音さんから子機を受け取り電話に出る。
 
「五郎です」
「おお。五郎か――。連絡がつかなかったから心配していたぞ? それよりも、そちらは上手くいったのか?」
 
 田口村長の問いかけに、俺はジェスチャーで店の外で話すことを雪音さんと根室さんに伝えると店の外へと出る。
 雪音さんには聞かれても良いが、根室さんに聞かれる訳にはいかないからだ。
 少し、店から離れたところで、
 
「はい。一応、全ての獲物は異世界に運びました。あと、狩猟した熊、鹿、イノシシは異世界の方で解体と処理をお願いしました」
「なるほど……。それなら問題ないのう」
「それで、村長が俺に電話をしてきたという事は、狩猟した獲物の事だけではないですよね?」
「うむ。昨日、依頼をかけた猟友会の面々の対応を五郎に任せたいんじゃが」
「それってリンゴの出荷準備が忙しいから手が離せないからという理由ですか?」
「まずは選定をしなければいけないからのう」
「あー、選定から箱詰めもしないといけないですよね」
「うむ。五郎は話が早いのう」
「よく手伝わされていましたから。昔は、何でか? と、思っていましたが――」
「今では、納得しているということか?」
「もちろんです」
 
 親父が地球で暮らしていく上で、村長が色々と手を焼いていたと考えればリンゴの収穫や選定を手伝うのは、当たり前というか、むしろ率先して手伝うだろう。
 戸籍なども不正ではあるが、作ったって村長が以前に言っていたのだから、地球での基盤は村長が整えたのと同じだからな。
 まぁ、親父は店の経営があったから、子供の俺が中学生になってから代わりに手伝いに行っていた訳だが――。
 まぁ、その関係は今も変わらない。
 
 ――と、言うより俺と村長の関係は、親父と村長との時代よりも強固だからな。
 
 なにせ、将来、雪音さんと結婚したら義理の祖父になるわけだし。
 
「そうか」
「村長。それでは、猟友会は俺の方で対応しておきますので、何かあったら連絡ください」
「うむ。それでは秋田猟友会の副会長 楠木(くすのき) 権三郎(ごんざぶろう)に、そのように伝えておくから頼んだぞ」
「分かりました。こちらに来てもらうように伝えておいてください」
「うむ」
 
 電話が切れる。
 かなり急いでいるようだったし、リンゴの選定と出荷で忙しいんだろう。
 本来なら、選定だけでも、それなりに人数が必要な作業なわけだし。
 
「五郎さん。お爺ちゃんは何て?」
 
 話が終わり、店へと戻ろうとしたところで、話が終わるのを待っていたのか店から出てきた雪音さんが話しかけてきた。
 
「リンゴの選定と出荷が忙しいので、猟友会の方々の対応を任されました」
「そうですか……。それで、山には入ってもらうんですか?」
「そうですね。一応、入ってもらう予定です」
「大丈夫でしょうか? 昨日、200人の人達が山狩りを行ったのですよね? 猟友会の人が山に入ったら、大人数で山狩りしたのが分かってしまうのでは?」
「それでも山狩りしてもらって報告を上げてもらうしか方法はないですね。公式的に山狩りをして、それを発表しないと、皆さん心配しますから」
 
 もう山は安全だと、結城村に住む人たちに報告することは第一。
 そのためには、多少の違和感を猟友会の人達に持たれようが、目をつむるしかない。
 
「そうですね……」
「まぁ、そこまで心配する必要はないです。何せ、獲た獲物は全て異世界に運びましたから」
「証拠がないのなら、大丈夫そうですね」
 
 その雪音さんの言葉に俺は頷く。
 
「それよりも雪音さん」
「はい?」
「雪音さんの実家の方ですけどリンゴの選定とか手伝いに行かなくて大丈夫ですか?」
「多分、大丈夫だと思います。それに、桜ちゃんやフーちゃんや和美ちゃんが居ますから、私が手伝いに行ったら怒られてしまいます」
 
 
 
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