307 / 437
第307話 秋の大収穫(17)
しおりを挟む
桜を抱っこしたまま、山の中を移動する。
「はぁはぁはぁ……」
「おじちゃん。大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
「ゴロウ様、私がサクラ様を連れていきますが?」
横で一緒に歩いていたメディーナさんが提案してくるが――、俺は首を振る。
「メディーナさんは、熊が出てきた時のために、いつでも戦えるようにしておいてください」
「その必要はないと思いますが……」
「え?」
「いえ。何でもありません。それでは、私は周囲を警戒しつつ、ゴロウ様とサクラ様の警護をします」
「お願いします」
せっかく収穫したリンゴがすぐに運べないのは問題だが、命には代えられない。
今は、村長が猟友会に依頼をかけているはずだから、山狩りをして安全が確認できてから収穫したリンゴを運べばいいだろう。
すでに箱の中にはリンゴは入れてあるのだから台風が来ても落下で売りモノにならなくなることはないはずだ。
俺は、お姫様抱っこしている桜が抱いているフーちゃんを見る。
フーちゃんは、熊の血だと思うが、血でスプラッターな感じで毛並みは白から赤く染まってしまっている。
おかげで、桜の来ていたワンピースが赤く染まっている。
これは洗濯が大変そうだ。
もしかしたら捨てることになるかも知れない。
そんなことを思いながら、山の表側に出た。
もう周囲は薄暗く、視界も確保し難い。
「ゴロウ様。光の魔法で周囲を照らします」
「お願いします」
俺は二つ返事で許可を出す。
今、ここに居るのは異世界のことを知っている人だけだから、魔法を使っても問題ない。
メディーナさんは、頷くと短い言葉を紡いだあと手を頭上へと掲げる。
すると俺達の頭上1メートルくらいの高さのところに直結30センチほどの光の玉が出現した。
「光の魔法です。灯りの魔法ですが、10分ほど周囲を照らす効果があります」
「なるほど……」
光の玉が出現した途端、俺達を中心に半径30メートルほどが、家の中の灯りほどの明るさに照らされた。
おかげで足元が良く見えるようになった。
「急いで下りましょう」
「はい」
メディーナさんが作り出した光りの魔法が切れる前に、俺達は斜面を下りきる。
すると――、
「五郎! 無事だったか!」
「五郎さん、無事でよかったです」
暗闇の中に光りがともされていた事で、俺達が下ってくるのが良く見えたのか、村長と雪音さんが出迎えてくれた。
「はい。無事でした。ご迷惑をおかけしました」
「何を言っておる。無理を言って収穫を頼んだのは儂だからの。何かあったら――、孫娘に顔向けできないところであった。それよりも柳橋から熊は撃退したと報告はあったが、怪我などは大丈夫かの?」
「はい。何とか――。服はビリビリに破かれましたけど」
俺は来ていたTシャツを村長に見せるが、すぐに眉間に皺を寄せる。
「五郎」
「はい?」
「この赤黒いのはなんじゃ?」
そこで、俺はようやく気が付く。
自分が来ていたTシャツの腹部の付近――、熊の爪により引き裂かれた場所には、赤黒い染みがついていたことに。
ただ、俺には一切の傷はない。
「たぶん、熊のものかと――。柳橋さんが熊を射殺した際に、俺に覆いかぶさってきたので――」
「ふむ……」
半信半疑のまま、村長が、俺の体を触っていくが、どこも怪我はないので痛みもない。
「たしかに、どこにも傷らしい傷はないのう。五郎」
「はい?」
「熊は、覆いかぶさってきたと言ったのう?」
「言いましたが?」
「熊の大きさは分かるか?」
「大体、1メートル70センチ前後かと」
「それなのに、かすり傷一つないのか?」
「はい」
流石の俺も、その村長の問いかけに、少しだけ気になってきた。
熊の体重は体長が1メートル50センチを超えれば体重は100キロ近くなる。
それなのに、かすり傷一つないのは、少しおかしいと言えばおかしい。
だが、ここで考えても答えはでない。
「……」
無言で何かを考えている村長。
「村長、とりあえず、一度、帰りませんか? また熊が出たら困りますし猟友会の方や、農家に派遣している兵士の方も異世界に返さないといけませんから」
「そうだのう。今は、目先の疑問よりも、やることがあるか」
「はい」
俺は頷く。
そして雪音さんの方を見る。
「雪音さん、一度、家に帰りますから車に乗ってください」
「分かりました」
「村長、そういえば妙子さんは?」
「農家たちと連絡を取るためにいったん帰らせた」
「そうですか」
熊が出現したのだ。
他に熊が出現しないとも限らない。
事前に、他の農家との情報共有は最優先だろう。
「――で、村長」
「どうした?」
「軽トラックに積んであるリンゴ入りのケースは……」
「五郎が戻ってくる間に積める分だけ積んでおいた」
「そうですか」
転んでもタダでは起きないと。
「では、一度、家に戻ります」
「うむ。儂も後を付いていくからの」
俺は車に乗り込みエンジンをかけるとアクセルを踏んだ。
20分ほどで自宅が見えてきたところで、月山雑貨店には無数の車が停まっていた。
「おじちゃん! いっぱい人がいるの!」
そして車だけでなく300人近い人だかりも見えた。
「はぁはぁはぁ……」
「おじちゃん。大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
「ゴロウ様、私がサクラ様を連れていきますが?」
横で一緒に歩いていたメディーナさんが提案してくるが――、俺は首を振る。
「メディーナさんは、熊が出てきた時のために、いつでも戦えるようにしておいてください」
「その必要はないと思いますが……」
「え?」
「いえ。何でもありません。それでは、私は周囲を警戒しつつ、ゴロウ様とサクラ様の警護をします」
「お願いします」
せっかく収穫したリンゴがすぐに運べないのは問題だが、命には代えられない。
今は、村長が猟友会に依頼をかけているはずだから、山狩りをして安全が確認できてから収穫したリンゴを運べばいいだろう。
すでに箱の中にはリンゴは入れてあるのだから台風が来ても落下で売りモノにならなくなることはないはずだ。
俺は、お姫様抱っこしている桜が抱いているフーちゃんを見る。
フーちゃんは、熊の血だと思うが、血でスプラッターな感じで毛並みは白から赤く染まってしまっている。
おかげで、桜の来ていたワンピースが赤く染まっている。
これは洗濯が大変そうだ。
もしかしたら捨てることになるかも知れない。
そんなことを思いながら、山の表側に出た。
もう周囲は薄暗く、視界も確保し難い。
「ゴロウ様。光の魔法で周囲を照らします」
「お願いします」
俺は二つ返事で許可を出す。
今、ここに居るのは異世界のことを知っている人だけだから、魔法を使っても問題ない。
メディーナさんは、頷くと短い言葉を紡いだあと手を頭上へと掲げる。
すると俺達の頭上1メートルくらいの高さのところに直結30センチほどの光の玉が出現した。
「光の魔法です。灯りの魔法ですが、10分ほど周囲を照らす効果があります」
「なるほど……」
光の玉が出現した途端、俺達を中心に半径30メートルほどが、家の中の灯りほどの明るさに照らされた。
おかげで足元が良く見えるようになった。
「急いで下りましょう」
「はい」
メディーナさんが作り出した光りの魔法が切れる前に、俺達は斜面を下りきる。
すると――、
「五郎! 無事だったか!」
「五郎さん、無事でよかったです」
暗闇の中に光りがともされていた事で、俺達が下ってくるのが良く見えたのか、村長と雪音さんが出迎えてくれた。
「はい。無事でした。ご迷惑をおかけしました」
「何を言っておる。無理を言って収穫を頼んだのは儂だからの。何かあったら――、孫娘に顔向けできないところであった。それよりも柳橋から熊は撃退したと報告はあったが、怪我などは大丈夫かの?」
「はい。何とか――。服はビリビリに破かれましたけど」
俺は来ていたTシャツを村長に見せるが、すぐに眉間に皺を寄せる。
「五郎」
「はい?」
「この赤黒いのはなんじゃ?」
そこで、俺はようやく気が付く。
自分が来ていたTシャツの腹部の付近――、熊の爪により引き裂かれた場所には、赤黒い染みがついていたことに。
ただ、俺には一切の傷はない。
「たぶん、熊のものかと――。柳橋さんが熊を射殺した際に、俺に覆いかぶさってきたので――」
「ふむ……」
半信半疑のまま、村長が、俺の体を触っていくが、どこも怪我はないので痛みもない。
「たしかに、どこにも傷らしい傷はないのう。五郎」
「はい?」
「熊は、覆いかぶさってきたと言ったのう?」
「言いましたが?」
「熊の大きさは分かるか?」
「大体、1メートル70センチ前後かと」
「それなのに、かすり傷一つないのか?」
「はい」
流石の俺も、その村長の問いかけに、少しだけ気になってきた。
熊の体重は体長が1メートル50センチを超えれば体重は100キロ近くなる。
それなのに、かすり傷一つないのは、少しおかしいと言えばおかしい。
だが、ここで考えても答えはでない。
「……」
無言で何かを考えている村長。
「村長、とりあえず、一度、帰りませんか? また熊が出たら困りますし猟友会の方や、農家に派遣している兵士の方も異世界に返さないといけませんから」
「そうだのう。今は、目先の疑問よりも、やることがあるか」
「はい」
俺は頷く。
そして雪音さんの方を見る。
「雪音さん、一度、家に帰りますから車に乗ってください」
「分かりました」
「村長、そういえば妙子さんは?」
「農家たちと連絡を取るためにいったん帰らせた」
「そうですか」
熊が出現したのだ。
他に熊が出現しないとも限らない。
事前に、他の農家との情報共有は最優先だろう。
「――で、村長」
「どうした?」
「軽トラックに積んであるリンゴ入りのケースは……」
「五郎が戻ってくる間に積める分だけ積んでおいた」
「そうですか」
転んでもタダでは起きないと。
「では、一度、家に戻ります」
「うむ。儂も後を付いていくからの」
俺は車に乗り込みエンジンをかけるとアクセルを踏んだ。
20分ほどで自宅が見えてきたところで、月山雑貨店には無数の車が停まっていた。
「おじちゃん! いっぱい人がいるの!」
そして車だけでなく300人近い人だかりも見えた。
215
お気に入りに追加
1,954
あなたにおすすめの小説
最強の英雄は幼馴染を守りたい
なつめ猫
ファンタジー
異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。
そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる