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第302話 秋の大収穫(12)
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俺は、そのカゴを目印に移動する。
すると、リンゴを収穫しているメディーナさんの姿をようやく発見することが出来た。
彼女は、3メートル近く跳躍すると、落下中にリンゴの枝に向けてナイフを振るう。
その手元は早くて見えない。
しかも残像すら見えるほどの速度。
そして、メディーナさんは地面に着陸すると、カゴを両手で持ち木の幹を軽く蹴った。
蹴られた木は揺れ――、数十個ものリンゴが一度に落ちてくる。
それらのリンゴを器用にカゴで受け止めていく。
「……チートか?」
「あ、ゴロウ様! どうかなさいましたか?」
「いえ――。なんでもないです」
「そうですか……。それにしてもゴロウ様が此方に来られたということは、もうゴロウ様の担当エリアは終わったという事ですか……。さすがゴロウ様です」
「……」
「ゴロウ様?」
俺は一度、咳をする。
「メディーナさん。なかなか、やりますね。俺も、そろそろ本気を出さないといけないようですね」
「はい! 私の担当区画は終わりましたが、ゴロウ様の担当区画と合わせても、まだ2割も終わっていませんから頑張りましょう!」
――いや、俺は全然終わっていませんが?
ただ、ここで負けを認めるのは、中学・高校時代と村長のリンゴ収穫を手伝ってきた俺としては納得できない。
「そうですね。それと――」
「はい?」
「昼食を、雪音さん達が持ってきてくれたので、まずは昼飯を食べてから、午後の仕事に取り掛かりましょう」
「そういえば、もう、それだけの時間が経過していたのですね」
「はい。皆、待っていると思うので、急ぎましょう」
「分かりました。その前に収穫したリンゴが入っているカゴだけひとまとめにしておきますね」
そう言うと彼女は、リンゴが入っているカゴを積み重ねていく。
その数は70ケースを超えていた。
それを見て思う。
「あの、メディーナさん?」
「はい?」
「もしかしてメディーナさんって、リンゴの収穫とかした事ありますか?」
あまりにも手際が良すぎる。
高校時代に、自称リンゴ収穫マスターの異名を持っていた俺の10倍以上収穫出来ているメディーナさんは、明らかに異常だ。
「収穫というか、冒険者ランクが低い時は、素材収集や農家の仕事の手伝いが主ですので」
「それって、全員が何らかの農家の仕事をした事があるってことですか?」
「はい。生きる為ですから、必死ですね。特に地方から首都に来た貴族の三男以降とか、商家の三男以降とか農家の次男以降とかは、本当に、そういう仕事しかありませんし、何年も下積みをしますから」
「そ、そうなんですか……」
俺が思っていたよりも、遥かに異世界の人は農業に携わっているらしい。
「あとは、私みたいに身体強化を使い収穫をするようになる冒険者も居ますから」
「……ん? あのメディーナさん」
「はい、何でしょうか?」
「もしかして、今日、集まった兵士の人達って――」
「そこは安心してください」
俺は一瞬、メディーナさんのように人外な動きで収穫をしていくのか? と、心配になったが、どうやら俺の心配は杞憂のようだ。
笑顔で、否定の言葉を口にしてくるメディーナさん。
「そうですか。それはよかったです」
「はい。私までとは行きませんが、全員が元は冒険者経験者ですから。それなりに農業作業ができます」
「なん……だと!?」
「ゴロウ様?」
メディーナさん程じゃなくても、話半分というか動き半分でも大問題になるだろ!
「メディーナさん!」
「は、はい!?」
「今日、来ている兵士達に、農作業は力をセーブして行うようにナイルさんに伝えておください。ナイルさん経由なら他の部隊に連絡を送ることが出来るんですよね?」
「そうですけど……、何か、私、やっちゃいましたか?」
「やったというか……やりすぎというか……。とりあえずナイルさんに力をセーブして農作業をしてもらうように伝えてください」
「分かりました」
メディーナさんが、ナイルさんと話すために1人呟き始める。
そして――、
「ゴロウ様」
「どうでしたか?」
「手遅れでした。ただ、他の農家の方からは好評のようです」
「……あああああああっ」
思わず変な声が出る。
そうだった!
こっちの世界の常識をナイルさんやメディーナさんに言うのを忘れていた。
「大丈夫ですか? ゴロウ様。私達、何かやっちゃいましたか?」
「いえ。大丈夫です。もう、そのままやってもらってください」
正直、「もうとんでもなく、やっていますよ!」と、言う言葉を呑み込む。
仕方ない。
ここは、何とか誤魔化すとしよう。
「分かりました。それでは力をセーブする必要はないと言うことですね?」
「そうですね」
正直、すでに見られている状況で力をセーブなんてしたら余計に怪しまれるからな。
ここは、あとで適当にみんなに誤魔化す方がいいだろう。
問題は、どうやって誤魔化すかだが。
「あっ! 五郎さん! 昼食の準備が出来ました!」
頭の痛くなる問題を抱えて歩いていたら、何時の間にか雪音さん達が居る場所に到着していた。
すると、リンゴを収穫しているメディーナさんの姿をようやく発見することが出来た。
彼女は、3メートル近く跳躍すると、落下中にリンゴの枝に向けてナイフを振るう。
その手元は早くて見えない。
しかも残像すら見えるほどの速度。
そして、メディーナさんは地面に着陸すると、カゴを両手で持ち木の幹を軽く蹴った。
蹴られた木は揺れ――、数十個ものリンゴが一度に落ちてくる。
それらのリンゴを器用にカゴで受け止めていく。
「……チートか?」
「あ、ゴロウ様! どうかなさいましたか?」
「いえ――。なんでもないです」
「そうですか……。それにしてもゴロウ様が此方に来られたということは、もうゴロウ様の担当エリアは終わったという事ですか……。さすがゴロウ様です」
「……」
「ゴロウ様?」
俺は一度、咳をする。
「メディーナさん。なかなか、やりますね。俺も、そろそろ本気を出さないといけないようですね」
「はい! 私の担当区画は終わりましたが、ゴロウ様の担当区画と合わせても、まだ2割も終わっていませんから頑張りましょう!」
――いや、俺は全然終わっていませんが?
ただ、ここで負けを認めるのは、中学・高校時代と村長のリンゴ収穫を手伝ってきた俺としては納得できない。
「そうですね。それと――」
「はい?」
「昼食を、雪音さん達が持ってきてくれたので、まずは昼飯を食べてから、午後の仕事に取り掛かりましょう」
「そういえば、もう、それだけの時間が経過していたのですね」
「はい。皆、待っていると思うので、急ぎましょう」
「分かりました。その前に収穫したリンゴが入っているカゴだけひとまとめにしておきますね」
そう言うと彼女は、リンゴが入っているカゴを積み重ねていく。
その数は70ケースを超えていた。
それを見て思う。
「あの、メディーナさん?」
「はい?」
「もしかしてメディーナさんって、リンゴの収穫とかした事ありますか?」
あまりにも手際が良すぎる。
高校時代に、自称リンゴ収穫マスターの異名を持っていた俺の10倍以上収穫出来ているメディーナさんは、明らかに異常だ。
「収穫というか、冒険者ランクが低い時は、素材収集や農家の仕事の手伝いが主ですので」
「それって、全員が何らかの農家の仕事をした事があるってことですか?」
「はい。生きる為ですから、必死ですね。特に地方から首都に来た貴族の三男以降とか、商家の三男以降とか農家の次男以降とかは、本当に、そういう仕事しかありませんし、何年も下積みをしますから」
「そ、そうなんですか……」
俺が思っていたよりも、遥かに異世界の人は農業に携わっているらしい。
「あとは、私みたいに身体強化を使い収穫をするようになる冒険者も居ますから」
「……ん? あのメディーナさん」
「はい、何でしょうか?」
「もしかして、今日、集まった兵士の人達って――」
「そこは安心してください」
俺は一瞬、メディーナさんのように人外な動きで収穫をしていくのか? と、心配になったが、どうやら俺の心配は杞憂のようだ。
笑顔で、否定の言葉を口にしてくるメディーナさん。
「そうですか。それはよかったです」
「はい。私までとは行きませんが、全員が元は冒険者経験者ですから。それなりに農業作業ができます」
「なん……だと!?」
「ゴロウ様?」
メディーナさん程じゃなくても、話半分というか動き半分でも大問題になるだろ!
「メディーナさん!」
「は、はい!?」
「今日、来ている兵士達に、農作業は力をセーブして行うようにナイルさんに伝えておください。ナイルさん経由なら他の部隊に連絡を送ることが出来るんですよね?」
「そうですけど……、何か、私、やっちゃいましたか?」
「やったというか……やりすぎというか……。とりあえずナイルさんに力をセーブして農作業をしてもらうように伝えてください」
「分かりました」
メディーナさんが、ナイルさんと話すために1人呟き始める。
そして――、
「ゴロウ様」
「どうでしたか?」
「手遅れでした。ただ、他の農家の方からは好評のようです」
「……あああああああっ」
思わず変な声が出る。
そうだった!
こっちの世界の常識をナイルさんやメディーナさんに言うのを忘れていた。
「大丈夫ですか? ゴロウ様。私達、何かやっちゃいましたか?」
「いえ。大丈夫です。もう、そのままやってもらってください」
正直、「もうとんでもなく、やっていますよ!」と、言う言葉を呑み込む。
仕方ない。
ここは、何とか誤魔化すとしよう。
「分かりました。それでは力をセーブする必要はないと言うことですね?」
「そうですね」
正直、すでに見られている状況で力をセーブなんてしたら余計に怪しまれるからな。
ここは、あとで適当にみんなに誤魔化す方がいいだろう。
問題は、どうやって誤魔化すかだが。
「あっ! 五郎さん! 昼食の準備が出来ました!」
頭の痛くなる問題を抱えて歩いていたら、何時の間にか雪音さん達が居る場所に到着していた。
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