田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第301話 秋の大収穫(11)

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 田口村長の軽トラックのあとを追う事、20分ほど。
 山道を登っていき、畦道を通り、開けた場所で、目の前を走っていた田口村長の車が停車した。
 
「到着したのですか?」
 
 助手席に座っていたメディーナさんが聞いてくる。
 
「はい。ここが収穫場所ですね」
 
 シートベルトを外しながら俺は答えて、車の外へと出る。
 メディーナさんも車の外に出てから斜面へと視線を向けて驚いたような表情になり――、
 
「これは、壮観ですね。これだけの木々をご老人一人で?」
「――いえ。バイトも時々雇っているそうなので、そうではないですね」
「バイト?」
「臨時に雇用する働き口のことです」
「なるほど……。冒険者への依頼のようなモノですか」
 
メディーナさんは一人納得する。
そんな彼女を横目に俺は、山の斜面へと視線を向ける。
 
「また増えてる気がする」
 
 俺が高校生の時に収穫を手伝った時よりも倍近く増えてるぞ? 
 斜面に生えているリンゴの木の数は100本近く。
 これを、今日一日で、どこまで収穫できるか……。
 
「五郎、以前にリンゴの収穫を手伝ったことは覚えておるか?」
「覚えています。それよりも、これ全部ですよね?」
「うむ。人数的に厳しいと思うがの。正直、こちらに回せる人員は、他の農家に回したからのう」
「それって、村長が良い思いをしていると思われたくないという側面もありますよね?」
「そうじゃのう。ある程度は、損を被らんとな……」
 
 つまり、田口村長は自分の果実が全部収穫できないとしても――、売りモノにならない可能性があったとしても、村人からのヘイトは減らしておきたいという事なのだろう。
 俺の所に孫の雪音さんが居るから、その配慮もあるのかも知れない。
 
「ゴロウ様。それでは売り物になりそうな果物は全部、収穫してもいいという事でしょうか?」
「そうですね」
 
 俺は村長の車から重なっているカゴを下ろす。
 
「とりあえず、メディーナさん。収穫したリンゴは、この箱に入れてください。リンゴの見分け方は、今回は必要ないので、全部収穫してください」
「分かりました」
「それではリンゴの収穫方法ですが――」
 
 俺は枝を左手で掴み、右手でリンゴを掴んだあと捻って枝からリンゴを取る。
 
「こんな感じでリンゴを収穫してください」
「分かりました」
 
 説明を終えたところで、3人でリンゴの収穫を開始する。
 今回は台風前ということなので、全てのリンゴを収穫するので、選別する必要はないから楽だ。
 それでも、全ては手作業。
 さすがに40歳を超えると年齢の衰えは隠せない。
 
「はぁはぁはぁ……」
 
 肩で荒い息をつく。
 久しぶりの肉体労働。
 まだカゴ3個分しかリンゴは収穫できていない。
 おそらく俺が収穫したのは、リンゴが出来ている木の1%にも満たないだろう。
 
「まずいな。これだと全部の収穫は無理か……。メディーナさんも、初心者らしいからな」
 
 チラッと、メディーナさんの担当エリアへと視線を向ける。
 すると、メディーナさんの担当個所――、そこには40箱近いリンゴが入った箱が積まている。
 
「――んん?」
 
 一体、何が?
 思わず目を擦り再度確認するが、41箱に増えていた。
 
「……」
 
 思わず無言になる俺。
 そして、メディーナさんの担当エリアのリンゴの木を注視すれば、9割近くのリンゴの木から、リンゴが収穫されていた。
 
「……」
 
 無言のまま、メディーナさんが居るであろう方向へと視線を向ける。
 すると、メディーナさんの姿がようやく見えた。
 メディーナさんは、右手でナイフのようなモノを持っていて、風のような速さで、リンゴの木を通り過ぎたかと思うと、戻ってきて地面の上に置いてあった空箱を手にする。
 そして空箱を手にしたまま、リンゴの木を蹴ると、リンゴは次々と地面に向かって落下していくが、それを空中で優しくうけとめ箱の中に詰めていく。
 それは、まさしく職人芸のように。
 
「もう、メディーナさん一人でいいじゃないかな?」
 
 そんな思いが口に出たが、俺も女性に負けているわけにはいかない。
 必死にリンゴを収穫していく。
 そして5箱ほど収穫したところで――、車のエンジン音が聞こえてきた。
 
「あれは……」
 
 俺達が停めた車の近くに、軽自動車が停まった。
軽自動車の運転席からは田口妙子さんが降りてきた。
 
「村長の奥さん?」
 
 さらには、車からは雪音さんと桜とフーちゃんが下りてくる姿も見えた。
 そして、フーちゃんが俺を最初に発見したようで――、
 
「わんっ!」
 
 俺の方に向けて吠えてくる。
 それに雪音さんと桜も気が付いたようで近づいてくる。
 
「五郎さん、おにぎりを作ってきました!」
「ありがとうございます」
「桜も手伝ったの!」
「そうか」
「ピクニックなの!」
「そうだな。とりあえず村長に言ってくるから、ここで皆で飯にしようか」
「はい。それでは用意しておきます」
 
 敷物を取り出す雪音さん。
 俺は、それを横目で見たあとメディーナさんの元へと向かう。
 
「たしか、こっちの方向に見えたような……」
 
 地面には、カゴが並べられていて、どのカゴにもリンゴがぎっしりと入っている。



 
 
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