上 下
294 / 437

第294話 秋の大収穫(4)

しおりを挟む
 辺境伯邸のホールから出たあと、邸宅入口に用意されていた馬車に乗り込む。
 あとからナイルさんが馬車に乗って来たあと、馬車は走り出す。
 辺境伯邸の敷地から出たところで――、
 
「ゴロウ様、ノーマン様の許可は得られたと、セルジッド様からお聞きしました」
「セルジッド様?」
 
 俺は、ナイルさんの言葉に首を傾げる。
 セルジッドさんは、家令だったはずなのに、辺境伯領の騎士団副団長のナイルさんが様付けしたのは何故だろうと。
 そんな俺の様子に気が付いたのか
 
「ゴロウ様。セルジッド様は、ビスマルク男爵家の現当主であるアルフレート・フォン。ビスマルク男爵の叔父にあたられる方で、青い血を持つ由緒正しい貴族なのです」
「貴族が、どうして辺境伯邸の家令に?」
「私も詳しくは存じませんが、お家騒動などがあったと伺っております。ただ、そのへんは――」
 
 ナイルさんの口調が淀む。
 
「いえ。気にしないでください。少し気になっただけなので」
「そうですか」
「それよりもナイルさん」
「はい」
「辺境伯様から、200人ほどの兵士の派兵の都合をつけて貰えることになりました。幾つかの条件はありますが……」
「条件ですか?」
 
 俺は頷きつつ、
 
「まず条件の一つとしては派兵の為の費用の捻出です」
「200人という事は、それなりの費用を?」
「胡椒10キロということで取引に応じてくれました」
「なるほど……、ずいぶんと安く出来ましたね」
「ですね。ただ、辺境伯には内緒でお願いします」
「ゴロウ様。私は、辺境伯様の騎士です。そのため、異世界の情報は伺うたびに伝えてありますので、異世界の相場について、ノーマン様は既にご存知です」
「そうなんですか?」
「はい。ただ悪い意味では捉えないでください。ノーマン様は、ゴロウ様のことを本当に心配しておられますので、多くの情報を得てサポートしていこうとしているだけですから。ただ、今回はルイズ辺境伯領内の兵士を動かす手前、大義名分が必要でしたから、テストされたようですが……」
「なるほど……」
 
 つまり、辺境伯は、俺の懐事情から置かれている現状まで、かなりの精度で把握しているということか。
 その上で王宮側には伝えてないと。
 
「もしかして――」
 
 俺は、ふと思ったことで口を開いていた。
 
「辺境伯様は、俺が結城村のというか……」
「はい。領主では無いという事は既に存じております。地主程度という事くらいの認識をしています」
「そ、そうですか……」
 
 必死に情報を隠そうとしていた俺は何だったのか。
 そもそも、よくよく考えてみれば、貴族が平屋建ての築何十年もの家に住んでいるのは変だからな……。
 しかも、それをナイルさんやメディーナさんは良く知っているし、逆に辺境伯が何も言って来なかった方が不思議まである。
 
「ゴロウ様。裏切っている形になってしまい申し訳ありません。私としても心苦しくはありましたが、任務ですから――」
「分かっています。それよりも、今の現状があるのはナイルさんやメディーナさんが力を貸してくれているからこそなので、恨むつもりはありません。ただ、ルイーズ王女殿下やエメラスさんにアリアさんには誤魔化す必要がありますね」
「はい。その点に関しては、私の方から離れと言うことで説明しておきましたので、しばらくは隠し通せると思います。ただ、今後のことを考えますと、貴族らしい家は建てられた方が宜しいかと思います」
「つまり、見栄も必要ということですね」
「平たく言えば、そういうことになります」
 
 身も蓋もないことをサラッと、ナイルさんは口にしてくる。
 ただ、それは、今後のことを考えると必要だという事くらいは、俺でも分かる。
 それなら、一軒家を建てる必要もあるだろう。
 ハッタリも必要なわけだし。
 
「そうですね。今度、家を注文してみますか」
 
 田舎だから土地だけは余っているからな。
 あとは上物だけ、それっぽいのを建てれば問題ないだろう。
 
「ただ、ゴロウ様。一つ問題があるとしましたら――」
「問題?」
「はい。迎賓館よりも、立派な建物を建築してください。流石に側室になられるルイーズ王女殿下の邸宅よりも、本宅の方がみすぼらしいと、色々と勘繰る輩も出てきますから」
「分かりました……」
 
 迎賓館よりも立派な建物って……、思わず心の中で溜息が出る。
 第三セクターが作って放り投げた3階建てのコンクリート製の建物よりも立派な建物なんて予算がいくらかかるか想像もつかない。
 だが、侮られるわけにもいかない。
 今後、異世界側の王宮から人を招くこともあるかも知れない。
 その時に、今の母屋だと対応はできないし、変に噂を掻き立てられるかも知れない。
 ここは必要経費ということで工面するしかないな。
 気持ちの整理をつけたところで、俺は、辺境伯と話したことをふと思い出す。
 
「そういえば――、ナイルさん」
「はい。何でしょうか?」
「実は、200人の兵士の指揮をナイルさんに頼むようにと、ノーマン辺境伯から言われました」
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...