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第292話 秋の大収穫(2)

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「はい。やはり、五郎さんが村から出て言った事をよく思わない御老人の方が居ると言う話を祖父母から聞いたことがあります」
「なるほど……」
 
 たしかに店に来る客の大半は、若い人ばかりだからな。
 年配の方が来られたことが無いし。
 
「それは今後の課題ですね。結城村の人口の7割は60歳以上の方が占めていますから」
「はい。その辺を考えますと――、仮にノーマン辺境伯様から兵士を借りられたとして、優先順位を考えて、人手を派遣した方が良いかも知れません」
「ですよね……」
 
 俺は相槌を打った。
 
 
 
 ――その日の夜。
 
何時も通り店舗の営業を終えたあと、夕食を食べてから、メディーナさんには家並びに雪音さんや桜の護衛を頼む。
そして、俺はナイルさんを連れて異世界側へと向かう為に、店のバックヤード側から店内に入り、いつのもようにシャッター開閉ボタンを押す。
店内に入ってくる光量が増えていくたびにシャッターは上へと開閉していき――、完全に開いたところで、俺とナイルさんは店から異世界側へと足を踏み出した。
 
「――ふ、副隊長!? ――こ、今回は、随分と早いお帰りだったのですね」
 
 異世界側の店先――、路地側へと姿を現した俺達を見た、店を警護した兵士は少し驚きながら声をかけてくる。
 
「急用が出来たからな。それよりも馬車の用意を――」
「はっ」
 
 店の前を警護していた兵士が、敬礼をすると、その場からすぐに去っていく。
 
「近くに馬車を置いてあるんですか?」
「いえ。ここは元々、商業地区ですが、建物が密集している為、馬車を置く場所がありません。ですが――、少し離れた商業ギルドの敷地内にゴロウ様の送り迎えをする馬車を停留させています」
「そうなんですか」
「はい。本当は、ゴロウ様の隣の家を潰して馬車を停める場所を作る予定でしたが、それはゴロウ様が、求めることはないとノーマン様が仰いましたので――」
 
 そのナイルさんの言葉から、辺境伯が、俺の考えや思考を読んでいること知る。
 
「そうですか」
 
 ナイルさんと会話をしていると、馬車の走る音が聞こえてくる。
 
「どうやら来たようです」
 
 たしかにナイルさんの言う通り、馬車は此方に向かってきている。
 そして目の前で停まったあと、先ほどの兵士が俺の前に進み出てくる。
 
「副隊長、馬車の手配が済みました」
「ご苦労。それでは、ノーマン様の屋敷までやってくれ」
「はっ!」
 
 御者席に座る兵士と、馬車に乗る俺とナイルさん。
 馬車は、すぐに走り出す。
 そして30分ほど過ぎたところで、商業地区を抜けたあと貴族街を通り、大きな屋敷ばかりが立ち並ぶ街路樹を馬車は走る事となる。
 
「いつ見ても大きな家が立ち並んでいますね」
「ここは一応、寄り親であるノーマン様の寄り子――、貴族の別邸が立ち並ぶ場所になりますから」
「なるほど……」
 
 つまり別荘みたいなものか。
 それにしても一軒一軒が本当デカい。
 敷地面積は、50階建てのタワーマンションくらいあるんじゃないのか?
 ただ、屋敷は2階建てから3階建てが主であったが。
 辺境伯の邸宅がようやく見えてきた。
 それから10分ほどして邸宅の敷地内に入り、馬車は邸宅の表玄関に停まる。
 ナイルさんが馬車から降りたあと、俺も馬車から降りると――、
 
「おかえりなさいませ。ゴロウ様」
 
 そう言って綺麗な所作で頭を下げてくる家令のセルジッドさん。
 
「「「「おかえりなさいませ。ゴロウ様」」」」
 
 辺境伯邸の入り口に並んでいたメイド達が一斉に頭を下げてくる。
 今までは、片手間に挨拶を交わしていたのが嘘のようだ。
 
「ナイルさん。ずいぶんと――」
「丁寧になったということですか?」
 
 笑いを堪えるかのように、俺の当惑した様子を見て言葉を呟くナイルさん。
 
「ええ。まあ――」
 
 俺は頷く。
 こんなところで嘘をついても仕方ないし。
 
「それは、ゴロウ様がノーマン様のお孫として、このルイズ辺境伯領を継ぐ事を聞いたからでしょう」
「それって、秘密では?」
「公然の秘密というやつです」
「なるほど……」
 
 つまり既に辺境伯邸に居る使用人には皆に知られていると見たほうがいいのか。
 
「ゴロウ様。それでは、急いでノーマン様に会いにいきましょう。たとえ、ノーマン様の許可を取っても手続きで時間がかかりますから」
「そうですね」
「それでは、このセルジッドが、ご案内させていただきます」
 
 恭しいと言った感じで、提案をしてくるセルジットさん。
 
「お願いします」
 
 快諾し、そのあとは執務室まで案内される。
 
 
 
 ――コンコン
 
「入りたまえ」
「失礼致します。ゴロウ様を命令どおりお連れ致しました」
「ご苦労。ナイルとセルジットは下がるように」
「はい。それでは、失礼致します」
 
 執務室から出ていくセルジットさんと敬礼だけして扉を閉めるナイルさん。
 そして執務室のソファーに座らされた後は、コーヒーの入ったカップが目の前に置かれ――、ノーマン辺境伯はソファーに座ると、口を開いた。
 
「昨日ぶりだのう。ゴロウ」



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