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第283話 桜の異変(2)
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メディーナさんとナイルさんと共に、店を開ける為に玄関から出る。
そして店の軒先へと向かっていたところで――、ナイルさんが足を止める。
「ナイルさん?」
「ゴロウ様。差し出がましい事だと思いますが、本日は、御店を休んだ方が宜しいかと思います」
俺を見てきているナイルさんの表情は至って真剣で――、
「そうですね」
俺は気が付けば即答していた。
よく考えなくても、今日は、桜の傍にいた方がいい。
それに、これは家族の問題で、開店させれば和美ちゃんを母屋で預かることになる。
そうなれば、感情的に宜しくないという事くらいは簡単に想像がつく。
「ナイルさん」
「はい」
「根室さんの家に行って、今日は、店を休むことを根室さんへ伝えてください。今日は、いきなりの休みなので、今日の分の賃金は保証することも合わせて言っておいてください」
「分かりました。――では、行ってきます」
ナイルさんは、根室さんの家の方へと走っていく。
その後ろ姿は一瞬で小さくなり――、
「早いですね」
「はい。どうやら身体強化の魔法を使っているようです」
「あれが身体強化ですか……」
自転車と同じくらいの速さで、ナイルさんの後ろ姿が遠ざかっていく。
その後ろ姿を見送ったあと、俺はメディーナさんと共に母屋へと戻る。
「桜は、どうですか?」
「五郎さん? 御店の方は?」
「今日は臨時休業します」
当惑した表情で頷く雪音さん。
否定も肯定もしてこないことから、俺は胸騒ぎを感じて桜の部屋に入る。
すると、桜が壁に背中を預けたまま、蹲るようにして座っていた。
「桜」
「……おじちゃん……」
弱々しい声。
それだけで理解できた。
桜は、さっきのニュースを正しく理解したのだと。
よくよく考えてみれば、桜はシュミレーションゲームや、結城村の人達が何を望んでいたのかを正確に把握して考察していた。
幼子とは思えないほどの能力。
「……ごめんな。おじちゃん、嘘をついた」
「うん……」
「おじちゃん、パパとママは死んじゃったの?」
「それは分からない」
そこだけは俺も分からない。
「……」
虚ろな眼差しを向けてくる桜。
俺は思わず、桜を抱きしめる。
まるで初めて会った時のような表情を桜が見せたから心配になったからだ。
「桜、まだ飛行機は見つかってない。ただ、捜索を打ち切っただけだ。だから、希望を捨てたらいけない」
「……でも……」
「大丈夫だ。きっと、大丈夫だ」
確たる証拠もない。
桜の気持ちを全てくみ取ってやることもできない。
口先だけの「大丈夫だ」と、言う言葉以外にかける言葉がない。
なんて、無力なのか。
「桜……」
「どうした?」
「桜、ここに居て良いの?」
「どうしてだ?」
「…………だって……、パパとママが居ないのに……、迎いに来られないのに、桜、ここに居ていいの?」
「当たり前だろ。俺達は、家族なんだ」
「かぞく……」
「ああ。田口村長も、雪音さんも、ノーマンさんも、俺も、みんなみんな、桜を家族だと思っているし大事だと思っている。それに、俺は桜を娘だと思っている。だから、ここが桜の居場所だ」
「わんっ!」
「ほら、フーちゃんも家族だって言っているからな」
「……」
「それとも、桜は、おじちゃんの事が嫌いか?」
「ううん――」
「そうか。でもな――、俺は桜のことを他の何よりも大事に思っている。その事だけは、忘れないで欲しい」
「……おじちゃん……」
桜が、俺の服をギュッと掴んでくる。
そして、俺の胸元に顔を埋めたあと――、
「……うっ……、うわああああああああん」
声を出して泣いた。
俺が引き取ってから殆ど泣いたことのない桜が、大声で泣いたことに、俺は胸が締め付けられる思いを感じながら、桜を抱きしめた。
「五郎さん」
しばらく泣き続けた桜は力尽きて寝てしまった。
そして、布団に寝かしつけていると後ろから雪音さんが、そっと声をかけてきた。
「雪音さん」
「大丈夫ですか?」
「はい。桜は、いま寝ていますから」
「……」
「どうかしましたか?」
無言になったことに少し気になって声をかける。
「いえ。それよりも、これからどうしますか?」
俺としても、何をどうしたらいいのか分からない。
桜には大丈夫だと言ったが、航空機会社というプロが飛行機を探して見つからなかったのなら、俺一人ではどうもできないだろう。
だが、このままでいいとも思えない。
「とりあえず、桜の気持ちを優先させて、しばらくはいつも通り日常を過ごすことにしましょう」
「それがいいですね」
あとは――、しばらく和美ちゃんには会わせない方がいいのか?
だが、そうすると休業していることになるし、どうしたらいいものか。
「雪音さん、少し場所を変えませんか?」
「え? あ、はい……」
桜が居る部屋で話す内容でもない。
俺は雪音さんと共に俺が自室として使っている居間の縁側に向かう。
そして縁側に座ったところで話を切り出す。
「雪音さん。俺としては、しばらく臨時休業も止む無しと考えているんですが、雪音さんはどう思いますか?」
「私は、いつも通り店を開けていつも通りの日常を行った方がいいと思います。ただ、それが正しいのかどうかは分からないです。正直、両親の死を、どう呑み込むかは、その人次第なので何とも言えません」
「ですよね……」
そして店の軒先へと向かっていたところで――、ナイルさんが足を止める。
「ナイルさん?」
「ゴロウ様。差し出がましい事だと思いますが、本日は、御店を休んだ方が宜しいかと思います」
俺を見てきているナイルさんの表情は至って真剣で――、
「そうですね」
俺は気が付けば即答していた。
よく考えなくても、今日は、桜の傍にいた方がいい。
それに、これは家族の問題で、開店させれば和美ちゃんを母屋で預かることになる。
そうなれば、感情的に宜しくないという事くらいは簡単に想像がつく。
「ナイルさん」
「はい」
「根室さんの家に行って、今日は、店を休むことを根室さんへ伝えてください。今日は、いきなりの休みなので、今日の分の賃金は保証することも合わせて言っておいてください」
「分かりました。――では、行ってきます」
ナイルさんは、根室さんの家の方へと走っていく。
その後ろ姿は一瞬で小さくなり――、
「早いですね」
「はい。どうやら身体強化の魔法を使っているようです」
「あれが身体強化ですか……」
自転車と同じくらいの速さで、ナイルさんの後ろ姿が遠ざかっていく。
その後ろ姿を見送ったあと、俺はメディーナさんと共に母屋へと戻る。
「桜は、どうですか?」
「五郎さん? 御店の方は?」
「今日は臨時休業します」
当惑した表情で頷く雪音さん。
否定も肯定もしてこないことから、俺は胸騒ぎを感じて桜の部屋に入る。
すると、桜が壁に背中を預けたまま、蹲るようにして座っていた。
「桜」
「……おじちゃん……」
弱々しい声。
それだけで理解できた。
桜は、さっきのニュースを正しく理解したのだと。
よくよく考えてみれば、桜はシュミレーションゲームや、結城村の人達が何を望んでいたのかを正確に把握して考察していた。
幼子とは思えないほどの能力。
「……ごめんな。おじちゃん、嘘をついた」
「うん……」
「おじちゃん、パパとママは死んじゃったの?」
「それは分からない」
そこだけは俺も分からない。
「……」
虚ろな眼差しを向けてくる桜。
俺は思わず、桜を抱きしめる。
まるで初めて会った時のような表情を桜が見せたから心配になったからだ。
「桜、まだ飛行機は見つかってない。ただ、捜索を打ち切っただけだ。だから、希望を捨てたらいけない」
「……でも……」
「大丈夫だ。きっと、大丈夫だ」
確たる証拠もない。
桜の気持ちを全てくみ取ってやることもできない。
口先だけの「大丈夫だ」と、言う言葉以外にかける言葉がない。
なんて、無力なのか。
「桜……」
「どうした?」
「桜、ここに居て良いの?」
「どうしてだ?」
「…………だって……、パパとママが居ないのに……、迎いに来られないのに、桜、ここに居ていいの?」
「当たり前だろ。俺達は、家族なんだ」
「かぞく……」
「ああ。田口村長も、雪音さんも、ノーマンさんも、俺も、みんなみんな、桜を家族だと思っているし大事だと思っている。それに、俺は桜を娘だと思っている。だから、ここが桜の居場所だ」
「わんっ!」
「ほら、フーちゃんも家族だって言っているからな」
「……」
「それとも、桜は、おじちゃんの事が嫌いか?」
「ううん――」
「そうか。でもな――、俺は桜のことを他の何よりも大事に思っている。その事だけは、忘れないで欲しい」
「……おじちゃん……」
桜が、俺の服をギュッと掴んでくる。
そして、俺の胸元に顔を埋めたあと――、
「……うっ……、うわああああああああん」
声を出して泣いた。
俺が引き取ってから殆ど泣いたことのない桜が、大声で泣いたことに、俺は胸が締め付けられる思いを感じながら、桜を抱きしめた。
「五郎さん」
しばらく泣き続けた桜は力尽きて寝てしまった。
そして、布団に寝かしつけていると後ろから雪音さんが、そっと声をかけてきた。
「雪音さん」
「大丈夫ですか?」
「はい。桜は、いま寝ていますから」
「……」
「どうかしましたか?」
無言になったことに少し気になって声をかける。
「いえ。それよりも、これからどうしますか?」
俺としても、何をどうしたらいいのか分からない。
桜には大丈夫だと言ったが、航空機会社というプロが飛行機を探して見つからなかったのなら、俺一人ではどうもできないだろう。
だが、このままでいいとも思えない。
「とりあえず、桜の気持ちを優先させて、しばらくはいつも通り日常を過ごすことにしましょう」
「それがいいですね」
あとは――、しばらく和美ちゃんには会わせない方がいいのか?
だが、そうすると休業していることになるし、どうしたらいいものか。
「雪音さん、少し場所を変えませんか?」
「え? あ、はい……」
桜が居る部屋で話す内容でもない。
俺は雪音さんと共に俺が自室として使っている居間の縁側に向かう。
そして縁側に座ったところで話を切り出す。
「雪音さん。俺としては、しばらく臨時休業も止む無しと考えているんですが、雪音さんはどう思いますか?」
「私は、いつも通り店を開けていつも通りの日常を行った方がいいと思います。ただ、それが正しいのかどうかは分からないです。正直、両親の死を、どう呑み込むかは、その人次第なので何とも言えません」
「ですよね……」
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