田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第279話 辺境伯との会話(3)

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 とりあえず、俺は頷く。
 
「はい。そのとおりです。今回は、商談とは別の話になります」
「ほう……」
 
 ノーマン辺境伯の表情に笑みが浮かぶ。
 そして――、少し沈黙が続いたあと――、
 
「――では、婚約の話になるのかの?」
 
 そう、辺境伯は俺に問いかけてきた。
 まぁ、たしかに商談以外の話となると、王族や、ハイエルフ族との婚約の話以外は無いよな……。
 
「いえ。そちらの話ではありません」
「なるほど。ルイーズ王女殿下とは、問題ないとメディーナから報告が上がってきておったからな。――と、なると……ふむ。後継者問題と言ったところか?」
「――ッ!?」
 
 何も言わなくても、その答えに辿りつくことに俺は驚く。
 
「どうやら、正解であったようだの」
「はい」
 
 俺は、短く答えながら頷く。
 
「それにしても、孫がルイズ辺境伯領の事についての未来について考えてくれているとは思わなかったぞ?」
「そうですか……」
「それにしても……、この時点で後継者問題を持ち出してくるという事は――」
 
 ジッと俺を見てくるノーマン辺境伯は、少し思案したところで口を開く。
 
「ルイズ辺境伯領を……、商売の為――、今後の交易の為にルイズ辺境伯領の――、儂の後継者をと考えていると言ったところかの……? どうじゃ?」
「そのとおりです」
 
 もはや脱帽以外のなにものでもない。
 こちらの考えていることを的確に言い当てている様子は、完全に俺の思考というか行動を読み取っているとしか――。
 
「正直、驚きました」
 
 もう、素直に感心するしかない。
 
「ほっほっほっ、こう見えても海千山千の貴族達を何十年も相手してきておるからな。ゴロウの考えは実直な上、読みやすいからのう。予想するのは簡単じゃ」
 
 高笑いする辺境伯。
 そんなに俺って考えていることが分かりやすいか?
 
「脱帽です」
「まぁ、そのへんは年の功と言ったところだの。それにしても儂の跡を継ぐ決心をしたと受け取っていいのかの?」
 
 その言葉をノーマン辺境伯が呟いた途端、執務室の中が緊張感に包まれる。
 コレは下手な答えはできない。
 
「はい。俺は、家族を守るために生活を安定させる為にルイズ辺境伯領の――、ノーマン辺境伯様の後継者――、後継ぎになりたいと思っています」
「そうか……」
 
 そこで辺境伯は初めて俺から視線を逸らし、天井を仰ぎ見た。
 そして両掌を握ると、視線を俺へと戻してきた。
 
「ゴロウ」
「はい」
「まだルイズ辺境伯領の次期領主は決まってはおらん。王家も、その選定には、いろいろと気を使っていると思う。だが、お主が儂の跡を継ぐのなら、王宮側から、ルイーズ王女殿下が腰入れる事になるから、文句は言わんだろう。何せ、異世界との繋がりを作れるのはお主だけだからのう」
「それでは――」
 
「うむ。王宮側が、お主がルイズ辺境伯領の領主になる事に異を唱えるものはいないはずじゃ」
「そうなりますと、あとは辺境伯領内の貴族だけですか?」
「それは問題ない。儂の孫でありゲシュペンストの息子だからの。それにハイエルフ族の巫女を側室として娶る事も決まっているからの。文句を言う者はおらんだろう。それに魔力の量も申し分ないからのう」
「――それでは……」
「儂の方から王宮側へお主が将来、ルイズ辺境伯領の領主を継ぐ事になるように働きかけておこうではないか」
「ありがとうございます」
「よい。それに、下手な者が、儂の後釜になる方が問題だからの」
 
 そう満足気に頷くとノーマン辺境箔は紅茶を呑みほした。
 
「それで辺境伯様」
「どうかしたのかの?」
「いえ。桜のことですが――」
「わかっておる。桜には、こちらの世界の事情には関与させたくはないと考えているのだろう?」
「そうなります」
「――ならば、早くルイーズ王女殿下を娶って子供を作ることじゃな。辺境伯の後継者を儂の孫のゴロウと、ルイーズ王女殿下の間に生まれた子供という事にすれば、王宮側も文句は言って来ぬであろう? 何せ、王宮側は辺境伯領に影響力を持ちたいと考えているはずだからの。桜に後継者としての資格を所有させておくよりかは、お主自らが、ルイーズ王女殿下との間に出来た子供に、ルイズ辺境伯領の第一継承権を渡しておくのなら、王宮側も、それで満足するであろう。むしろ、その方がよい」
「……」
 
 それにしても、俺が考えていた事が、王宮側にとって都合がいい事だとは……。
 まぁ、桜には異世界と関わらせたくない。
 王宮と貴族の問題なんて、色々とゴタゴタになるのは目に見えているからな。
 
「さて、ゴロウが儂の跡を継ぐと決心してくれるとは思わなんだ! 今日は、良い日だのう。近い内に、ゴロウがルイズ辺境伯領を継ぐことは、大々的に発表することになることは、理解しておくよう」
「分かりました。それまでには――、今抱えている問題は片付けておきます」
「がんばるのだぞ。何かあれば、儂に出来ることは極力手助けをしよう」
「その際にはお願いします」
 
 俺は辺境伯領の好意に素直に甘える事にした。
 
 
 
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