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第273話 婚約指輪を作ろう(3)
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「フーちゃん……」
桜が切なさそうな目で――。
「ばいばい、フーちゃん。また来るから」
――と、手を振りながらフーちゃんとの一時的な別れを済ませたあと、駅前のスターバックスが入っている複合商業施設内に足を踏み入れた。
まずは複合施設内に入っている宝石店へと足を延ばす。
「五郎さん、ここは……」
後ろをついてきていた雪音さんが、店内に入った俺のあとをついてくる。
自然と手を繋いでいる桜も店内に。
「お客様。私どもでご協力できることはありますでしょうか?」
店内に入ると、店員が話しかけてきた。
「少し商品を見せてもらっても?」
「はい。何かありましたらご用を申しつけください」
店員は頭を下げると俺から去っていく。
まだ話をする段階ではないと思ったのだろう。
「雪音さん」
「はい?」
「雪音さんは、どんな形の指輪が好きですか?」
「指輪ですか……」
「はい」
俺は頷く。
「そうですね。あまり派手過ぎないのがいいですね」
「なるほど……。具体的には、どんな感じの指輪が好きですか?」
「あの……、五郎さん?」
「何でしょうか?」
俺は、なるべく雪音さんにバレないように行動しているつもりだったが、どうもストレートすぎたようだ。
これは間違いなく、俺が婚約指輪を買いに来ている事に気が付いている気がする……。
だって、雪音さんは苦笑いしているから。
「おじちゃん……」
桜まで何かを察したようだ。
完全にサプライズにならないのは確定したようだ。
――なら、ここは男らしく行くしかない! 俺は「店員さん! プリーズ!」と、心の中で叫びつつ、こちらをチラチラ見て来ていた店員さんへウィンクをして合図を送る。
「はい。どうかされましたか?」
「こちらの雪音さんの指のサイズをお願いします」
「えっと……、つまり、五郎さん。そういうことですか?」
「――ま、まぁ……」
俺は軽く咳払いする。
「それでは、お二人の指のサイズを計りますね」
サプライズにはならないが、そこは仕方ない。
サイズを計ったあと――、
「それで、指輪の御予算はおいくらほどで?」
そう聞いてくる女性店員さん。
先に、指のサイズを計っていた俺は、雪音さんが指のサイズを計っている間、店内のショーケースを桜と一緒に見て回っていたが――、
「こちらの御店で一番高い指輪は幾らになりますか?」
「――え?」
「一番高い指輪は、いくらになりますか?」
「それは、こちらの……」
女性店員さんが恐る恐ると言った様子で、ショーケースの中でも、一際目立つように飾られている指輪を指差してくる。
「こちらの指輪になります。価格は250万円ほどで――」
「250万円ですか……」
正直、ルイーズ王女殿下やリーシャとの結婚を控えている身では、婚約指輪が250万円というのは、正直なところ安いかも知れない。
何せ、ルイーズ王女殿下は庶子とはいえ、一国の王女。
おそらく、それなりの宝石を持っていなければ雪音さんの立場も軽んじられるだろう。
「すいません。指輪はお取り寄せとかはできますか?」
「――え?」
女性店員が驚いたような表情をする。
たしかに普通なら250万円の指輪を購入するのは躊躇するし、もっと安い指輪を買うだろう。
だが、俺の場合は、それが許されない。
それに、俺は雪音さんにプロポーズする指輪を妥協したくない。
「あの……お客様……。お取り寄せといいますと、価格の抑えた?」
「いえ。御社が取り扱っている婚約指輪で、もっと高いモノをお願いします」
「――え? あ、はい……。少々、お待ちください」
若い女性店員が、少し年配の女性店員に近づき――、少し話したかと思うと戻ってくる。
「お客様。それでは、近くの当社の本社へ足を運んで頂くことは可能でしょうか? そちらでしたらオーダーメイドも受け付けております」
「なるほど。わかりました。それでは住所を教えて頂けますか?」
俺と女性店員が話している間も、雪音さんは少し距離を開けたまま、こちらを見てきているだけ。
住所を確認したあとは、店を出て本店へと向かう。
5分ほど歩いたところで、本店に到着した。
駅から離れた小道の一角に店はあり、建物の外壁は白を基調とした3階建てのビルで――、1階は大きめの窓が嵌め込まれていて店内を良く見渡す事が出来た。
「そういえば雪音さん」
「はい。どうかしましたか?」
「いえ。なんでも無いです」
雪音さんが価格について何も言ってこないことに疑問に持ちながらも、俺と雪音さんと桜はビルの中へと入る。
「すいません。駅前のデパートの宝石店で、こちらの本店を紹介されたんですが」
「連絡はお伺いしています。那珂町ジュエリーの、社長をしております健四郎と言います。それではお話をお伺いしたいと思いますので、こちらへ」
店内は、いくつかのショーウィンドウが設置されていて、宝石が展示されているが、そのショーウィンドウの前には、いくつもの対面ソファーとテーブルが置かれている事から、相談や依頼が主な業務になっているのが何となくだが、想像がつく。
勧められたソファーに座ったあとは――、
「わたくし、那珂町(なかまち) 健四郎(けんしろう)と言います」
そう言いながら名刺を差し出してくる。
俺は、名刺を受け取りながら、自分の名前を告げる。
「それでは、月山様。コーヒーと紅茶、どちらがお好きでしょうか?」
「コーヒーでお願いします。雪音さんと桜は、何にする?」
「それでは私は紅茶で――」
「桜も紅茶なの!」
「畏まりました。君、持ってきてくれたまえ」
「はい。社長」
すぐに女性店員がコーヒーと紅茶をもってくる。
そして、その間に社長がテーブルの上に資料らしきモノを広げていく。
「それでは、今回は、オーダーメイドの指輪をご依頼という事で宜しかったでしょうか?」
「そうですね」
「畏まりました。それでは、失礼ですが予算は如何ほどをお考えでしょうか?」
「予算ですか……。どのくらいの予算まででしたら作ってもらえますか? 下限ではなく上限で」
「そうですね。今までだと500万円の御依頼が一番高かったでしょうか?」
「なるほど。それでは500万円以上で、お願いします」
一瞬で店内がざわつく。
正直、言って500万円の婚約指輪でも相手が王族だったり、リーシャのようなハイエルフ族の巫女だと十分とは言い難い。正直1億の指輪でも、どうなのか? と、いうレベルだと思う」
そんなことを俺は思っていたが、それは相手に伝わることもなく――、
「あの、500万円以上の指輪ですか? そ、それは……」
俺に購入能力がないと疑われたのか視線を俺から逸らす社長。
まぁ、500万円以上の指輪とか言われても困るよな。
俺でも支払える確固たる証拠が無ければ社長みたいな態度をとるだろう。
「那珂町社長」
俺は、ジッと社長の方を見る。
しばらくすると社長は観念したような表情で俺の顔を見てきた。
俺はバックの中から100万円の束を5つ取り出し、社長の前の――、テーブルの上に積んでいく。
それを見ていた那珂町社長の目が見開かれていき――、
「これは手付金です」
「手付金?」
「はい。作っていただく婚約指輪ですが、たとえばイギリス王室の方が見ても、立派だと思えるような婚約指輪を作ってください」
「そ、そうしますと……予算的には……」
「気にせず作ってください」
俺の言葉に顔色を変えた那珂町社長は――、部屋を用意します。ここですとアレですからと、周囲を警戒深く見渡した後、俺にそう提案してきた。
桜が切なさそうな目で――。
「ばいばい、フーちゃん。また来るから」
――と、手を振りながらフーちゃんとの一時的な別れを済ませたあと、駅前のスターバックスが入っている複合商業施設内に足を踏み入れた。
まずは複合施設内に入っている宝石店へと足を延ばす。
「五郎さん、ここは……」
後ろをついてきていた雪音さんが、店内に入った俺のあとをついてくる。
自然と手を繋いでいる桜も店内に。
「お客様。私どもでご協力できることはありますでしょうか?」
店内に入ると、店員が話しかけてきた。
「少し商品を見せてもらっても?」
「はい。何かありましたらご用を申しつけください」
店員は頭を下げると俺から去っていく。
まだ話をする段階ではないと思ったのだろう。
「雪音さん」
「はい?」
「雪音さんは、どんな形の指輪が好きですか?」
「指輪ですか……」
「はい」
俺は頷く。
「そうですね。あまり派手過ぎないのがいいですね」
「なるほど……。具体的には、どんな感じの指輪が好きですか?」
「あの……、五郎さん?」
「何でしょうか?」
俺は、なるべく雪音さんにバレないように行動しているつもりだったが、どうもストレートすぎたようだ。
これは間違いなく、俺が婚約指輪を買いに来ている事に気が付いている気がする……。
だって、雪音さんは苦笑いしているから。
「おじちゃん……」
桜まで何かを察したようだ。
完全にサプライズにならないのは確定したようだ。
――なら、ここは男らしく行くしかない! 俺は「店員さん! プリーズ!」と、心の中で叫びつつ、こちらをチラチラ見て来ていた店員さんへウィンクをして合図を送る。
「はい。どうかされましたか?」
「こちらの雪音さんの指のサイズをお願いします」
「えっと……、つまり、五郎さん。そういうことですか?」
「――ま、まぁ……」
俺は軽く咳払いする。
「それでは、お二人の指のサイズを計りますね」
サプライズにはならないが、そこは仕方ない。
サイズを計ったあと――、
「それで、指輪の御予算はおいくらほどで?」
そう聞いてくる女性店員さん。
先に、指のサイズを計っていた俺は、雪音さんが指のサイズを計っている間、店内のショーケースを桜と一緒に見て回っていたが――、
「こちらの御店で一番高い指輪は幾らになりますか?」
「――え?」
「一番高い指輪は、いくらになりますか?」
「それは、こちらの……」
女性店員さんが恐る恐ると言った様子で、ショーケースの中でも、一際目立つように飾られている指輪を指差してくる。
「こちらの指輪になります。価格は250万円ほどで――」
「250万円ですか……」
正直、ルイーズ王女殿下やリーシャとの結婚を控えている身では、婚約指輪が250万円というのは、正直なところ安いかも知れない。
何せ、ルイーズ王女殿下は庶子とはいえ、一国の王女。
おそらく、それなりの宝石を持っていなければ雪音さんの立場も軽んじられるだろう。
「すいません。指輪はお取り寄せとかはできますか?」
「――え?」
女性店員が驚いたような表情をする。
たしかに普通なら250万円の指輪を購入するのは躊躇するし、もっと安い指輪を買うだろう。
だが、俺の場合は、それが許されない。
それに、俺は雪音さんにプロポーズする指輪を妥協したくない。
「あの……お客様……。お取り寄せといいますと、価格の抑えた?」
「いえ。御社が取り扱っている婚約指輪で、もっと高いモノをお願いします」
「――え? あ、はい……。少々、お待ちください」
若い女性店員が、少し年配の女性店員に近づき――、少し話したかと思うと戻ってくる。
「お客様。それでは、近くの当社の本社へ足を運んで頂くことは可能でしょうか? そちらでしたらオーダーメイドも受け付けております」
「なるほど。わかりました。それでは住所を教えて頂けますか?」
俺と女性店員が話している間も、雪音さんは少し距離を開けたまま、こちらを見てきているだけ。
住所を確認したあとは、店を出て本店へと向かう。
5分ほど歩いたところで、本店に到着した。
駅から離れた小道の一角に店はあり、建物の外壁は白を基調とした3階建てのビルで――、1階は大きめの窓が嵌め込まれていて店内を良く見渡す事が出来た。
「そういえば雪音さん」
「はい。どうかしましたか?」
「いえ。なんでも無いです」
雪音さんが価格について何も言ってこないことに疑問に持ちながらも、俺と雪音さんと桜はビルの中へと入る。
「すいません。駅前のデパートの宝石店で、こちらの本店を紹介されたんですが」
「連絡はお伺いしています。那珂町ジュエリーの、社長をしております健四郎と言います。それではお話をお伺いしたいと思いますので、こちらへ」
店内は、いくつかのショーウィンドウが設置されていて、宝石が展示されているが、そのショーウィンドウの前には、いくつもの対面ソファーとテーブルが置かれている事から、相談や依頼が主な業務になっているのが何となくだが、想像がつく。
勧められたソファーに座ったあとは――、
「わたくし、那珂町(なかまち) 健四郎(けんしろう)と言います」
そう言いながら名刺を差し出してくる。
俺は、名刺を受け取りながら、自分の名前を告げる。
「それでは、月山様。コーヒーと紅茶、どちらがお好きでしょうか?」
「コーヒーでお願いします。雪音さんと桜は、何にする?」
「それでは私は紅茶で――」
「桜も紅茶なの!」
「畏まりました。君、持ってきてくれたまえ」
「はい。社長」
すぐに女性店員がコーヒーと紅茶をもってくる。
そして、その間に社長がテーブルの上に資料らしきモノを広げていく。
「それでは、今回は、オーダーメイドの指輪をご依頼という事で宜しかったでしょうか?」
「そうですね」
「畏まりました。それでは、失礼ですが予算は如何ほどをお考えでしょうか?」
「予算ですか……。どのくらいの予算まででしたら作ってもらえますか? 下限ではなく上限で」
「そうですね。今までだと500万円の御依頼が一番高かったでしょうか?」
「なるほど。それでは500万円以上で、お願いします」
一瞬で店内がざわつく。
正直、言って500万円の婚約指輪でも相手が王族だったり、リーシャのようなハイエルフ族の巫女だと十分とは言い難い。正直1億の指輪でも、どうなのか? と、いうレベルだと思う」
そんなことを俺は思っていたが、それは相手に伝わることもなく――、
「あの、500万円以上の指輪ですか? そ、それは……」
俺に購入能力がないと疑われたのか視線を俺から逸らす社長。
まぁ、500万円以上の指輪とか言われても困るよな。
俺でも支払える確固たる証拠が無ければ社長みたいな態度をとるだろう。
「那珂町社長」
俺は、ジッと社長の方を見る。
しばらくすると社長は観念したような表情で俺の顔を見てきた。
俺はバックの中から100万円の束を5つ取り出し、社長の前の――、テーブルの上に積んでいく。
それを見ていた那珂町社長の目が見開かれていき――、
「これは手付金です」
「手付金?」
「はい。作っていただく婚約指輪ですが、たとえばイギリス王室の方が見ても、立派だと思えるような婚約指輪を作ってください」
「そ、そうしますと……予算的には……」
「気にせず作ってください」
俺の言葉に顔色を変えた那珂町社長は――、部屋を用意します。ここですとアレですからと、周囲を警戒深く見渡した後、俺にそう提案してきた。
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