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第263話 不動産会社との商談(2)
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「……なるほど」
白井さんは、俺の言葉に、そう相槌を打ちながらも――、
「月山様は、結城村から離れていたと私は記憶しておりますが――」
「若い時は、外に刺激を求めて村を出ていくことは良くあることでしょう?」
村長は、横で俺と白井さんの会話を聞いているだけ。
すぐに手出しはしてこないということは、俺の交渉スキルを試しているからか?
もしくは――、村長が俺に肩入れしている事を知られたら、要らぬ腹を探られる可能性があるから口を挟んでこないとか?
可能性的には、後者な気がする。
たしか、俺が読んだ本の中には不動産というのは、人間関係の繋がりも重視しているとも書かれていた。
それは横繋がりや、地域ネットワークにおける情報収集力も含まれる。
――と、なれば……、相手が何処まで、こちらの情報を知っているのかが交渉の鍵になるか。
こういう時に藤和さんが居てくれれば頼りになるんだが、いまは俺しかいない。
そもそも田口村長なら藤和さんが必要なら、事前に俺に話していたはず。
それが無いと言うことは――、
俺一人で何とか出来るレベルってことか?
「なるほど……。それで村に戻ってきた理由は、子供のことで?」
桜のことを知っているのか?
つまり事前に此方の情報を集めていると。
まったく、厄介だな。
「それが何か問題でも?」
「――いえいえ。少し、気になっただけです。それよりも気になっていることは、店舗運営に関して、田口村長が手を貸していることです」
「それは村長なら当然なのでは? 買い物難民を出さない為には、店があることは必要不可欠でしょう?」
「それは分かっていますが、あまりにも使途不明金が多いのが気になったので――」
今度は、先ほどとは比べ物にならないほどストレートに来たな。
「何が言いたいのでしょうか?」
「簡単な話です。結城村のような過疎化末期な村に、あれだけの店舗を開業させる意味が分からないのです。店舗経営というのは黒字化させなければ潰れます。――なのに、月山様は、そのようなことを考えずに店を運営しているように感じられます」
「その事に関してまで、白井さんに心配される謂われは無いと思いますが?」
「たしかにそうですね。ただ、私は取引相手が、お金を持っているかどうかを知りたいだけで……」
白井という男は、そう語る。
俺から得られる情報が少なくて、此方が何を狙っているのか分からないことから、ストレートに聞いて来た。
そこで俺は、考えていた手札の一つを切ることにする。
「白井さんは電子通貨というのをご存知ですか?」
「電子……? お金? それは、鉄道会社が発行しているようなカードですか? 定期券に、お金をチャージするような」
「違います。暗号資産と呼ばれるモノです。電子マネーというのは法的通貨を基準としており、あくまでもその価値は国が保障している通貨額と等価です。ただし、仮想通貨は、国家が保障している通貨ではなく国に依存していない通貨の為、その通貨額は常に変動します」
「それが、月山様が資産を有している事と何の関係が?」
どうやら仮想通貨に関しての知識は持っていないらしい。
まあ、50代以上の人間ならそうかも知れない。
俺は息を吸い、気持ちを整える。
目の前にいる男は――、白井という男は――、藤和さんや、国王陛下や、辺境伯と比べても、ずっと小者だ。
それが話をしていて分かった。
俺はチラリと村長の方を見る。
村長は、白井ではなく俺の方をずっと見ている。
まるで、俺を試しているかのように。
その様子から理解できる。
田口村長は言っているのだ。
俺が一人で、これくらいの商談を纏めないと駄目だということを。
自身のズボンを握りしめる。
「俺は、ダカールラリーでドライバーをしていました。それだけでなく世界中で、転戦をしていました」
俺の言葉に、白井は微動だにしない。
おそらくは、この程度の情報は既に仕入れているのだろう。
――だが!
「アメリカで仕事をしている時に、俺はある日本人に出会いました。その日本人は、プログラムを組むからと、その為の出資を募っていました。それが暗号通貨のプログラムでした。今では、その暗号通貨は、当時の1コイン1円から、1コイン800万円まで跳ね上がっています」
「――なっ!? ま、まさか……」
そこで、白井の顔色が変わる。
ハッキリ言って、これは出まかせもいいところだ。
たしかに世界中を転戦はした。
だが、暗号通貨のプログラムを組んでいた人間に偶然出会う訳がない。
それでも――、
俺は、カバンをテーブルの上にドカッ! と、置くと、ファスナーを開く。
そこには、100万円の束が50束入っている。
つまり5000万円。
それを見た白井の様子が変わる。
そして俺は笑みを浮かべる。
「ご理解頂けましたか? 俺の資産が、どこから来ているのか」
「そんな……。こんな話……、聞いては――」
「分からないのも無理がありません。普通に調べただけでは暗号資産の取引内容なんて出てきませんからね。あくまでもネットで完結しますし」
「い、一体……何コインもって――」
「それを答える義務はありません。ただ一つ言えることは、俺は自分が生まれ育った結城村の現状を憂いているという事です。俺と姪っ子が生きていく村をね」
「……つまり、本当に何もないと――」
「ええ。あくまでも結城村に住まう一庶民として、外資に買われている――、村民以外に買われている土地の現状を打破しようと思っているだけです。ご理解頂けますか?」
「……分かった……。だが、すでに売却された土地を買い戻すのは――」
「買い戻す額は、購入した人間が払った倍の額を提示してください。そして、その1割を仲介手数料として、白井さんに渡しましょう」
「――い、一割も!?」
「はい。ですが期限を切らせて頂いても? こちらとしても、税務署への届け出があるので2カ月以内で商談を纏めてください」
「……わ、わかった」
「――では土地権利書と引き換えにお金はお渡ししますので都度、報告をください」
俺はバックのファスナーを〆る。
白井は、何度も頭を下げながら部屋から出ていく。
そして、車のエンジン音が聞こえてきたところで――、
「また、かなりのブラフの打ったの」
ようやく村長が口を開いた。
「不味かったですか?」
「――いや。相手が納得したのなら、それが全てだからの。それにしても、暗号通貨とは……、今話題の?」
「そうですね」
まぁ、実際のところ、暗号通貨売却には雑所得という形で税金がかかるし、国が通貨の価値を保証しているわけでもないから高くなったらさっさと売るのが常套手段だからな。
それを少しでも理解しているのなら、白井のように態度を一偏させて、動くようになるのは定石。
かなりの力技にはなったが結果オーライと言ったところか。
それよりも――。
「村長」
「どうした?」
「俺のことを調べている人間がいるみたいですね」
「そうだの。五郎のことを嗅ぎまわっている連中が少なからずいるようだ。だが、それは一応は大丈夫だと思うがの。あの二人も動いておるし」
「柳橋さんと宮越さんですか?」
「うむ」
「あの人たち、ナイルさんが言っていましたけど」
「何を言っておったんじゃ?」
「かなり強いと。ただ、もう年齢的に、縁側でお茶を飲みながら猫を撫でている年齢だと思うんですけど……」
コレは、マジな話で俺の率直な感想だ。
90歳近い老人に、俺の身を守ってもらう前に、老人ズが大変な事になってしまうのでは?
「問題ない。あ奴らは、未だに自衛隊に頼まれて新兵の訓練を施しているほどの兵だからの」
何と言うか、結城村の老人は皆、元気過ぎるよな……。
白井さんは、俺の言葉に、そう相槌を打ちながらも――、
「月山様は、結城村から離れていたと私は記憶しておりますが――」
「若い時は、外に刺激を求めて村を出ていくことは良くあることでしょう?」
村長は、横で俺と白井さんの会話を聞いているだけ。
すぐに手出しはしてこないということは、俺の交渉スキルを試しているからか?
もしくは――、村長が俺に肩入れしている事を知られたら、要らぬ腹を探られる可能性があるから口を挟んでこないとか?
可能性的には、後者な気がする。
たしか、俺が読んだ本の中には不動産というのは、人間関係の繋がりも重視しているとも書かれていた。
それは横繋がりや、地域ネットワークにおける情報収集力も含まれる。
――と、なれば……、相手が何処まで、こちらの情報を知っているのかが交渉の鍵になるか。
こういう時に藤和さんが居てくれれば頼りになるんだが、いまは俺しかいない。
そもそも田口村長なら藤和さんが必要なら、事前に俺に話していたはず。
それが無いと言うことは――、
俺一人で何とか出来るレベルってことか?
「なるほど……。それで村に戻ってきた理由は、子供のことで?」
桜のことを知っているのか?
つまり事前に此方の情報を集めていると。
まったく、厄介だな。
「それが何か問題でも?」
「――いえいえ。少し、気になっただけです。それよりも気になっていることは、店舗運営に関して、田口村長が手を貸していることです」
「それは村長なら当然なのでは? 買い物難民を出さない為には、店があることは必要不可欠でしょう?」
「それは分かっていますが、あまりにも使途不明金が多いのが気になったので――」
今度は、先ほどとは比べ物にならないほどストレートに来たな。
「何が言いたいのでしょうか?」
「簡単な話です。結城村のような過疎化末期な村に、あれだけの店舗を開業させる意味が分からないのです。店舗経営というのは黒字化させなければ潰れます。――なのに、月山様は、そのようなことを考えずに店を運営しているように感じられます」
「その事に関してまで、白井さんに心配される謂われは無いと思いますが?」
「たしかにそうですね。ただ、私は取引相手が、お金を持っているかどうかを知りたいだけで……」
白井という男は、そう語る。
俺から得られる情報が少なくて、此方が何を狙っているのか分からないことから、ストレートに聞いて来た。
そこで俺は、考えていた手札の一つを切ることにする。
「白井さんは電子通貨というのをご存知ですか?」
「電子……? お金? それは、鉄道会社が発行しているようなカードですか? 定期券に、お金をチャージするような」
「違います。暗号資産と呼ばれるモノです。電子マネーというのは法的通貨を基準としており、あくまでもその価値は国が保障している通貨額と等価です。ただし、仮想通貨は、国家が保障している通貨ではなく国に依存していない通貨の為、その通貨額は常に変動します」
「それが、月山様が資産を有している事と何の関係が?」
どうやら仮想通貨に関しての知識は持っていないらしい。
まあ、50代以上の人間ならそうかも知れない。
俺は息を吸い、気持ちを整える。
目の前にいる男は――、白井という男は――、藤和さんや、国王陛下や、辺境伯と比べても、ずっと小者だ。
それが話をしていて分かった。
俺はチラリと村長の方を見る。
村長は、白井ではなく俺の方をずっと見ている。
まるで、俺を試しているかのように。
その様子から理解できる。
田口村長は言っているのだ。
俺が一人で、これくらいの商談を纏めないと駄目だということを。
自身のズボンを握りしめる。
「俺は、ダカールラリーでドライバーをしていました。それだけでなく世界中で、転戦をしていました」
俺の言葉に、白井は微動だにしない。
おそらくは、この程度の情報は既に仕入れているのだろう。
――だが!
「アメリカで仕事をしている時に、俺はある日本人に出会いました。その日本人は、プログラムを組むからと、その為の出資を募っていました。それが暗号通貨のプログラムでした。今では、その暗号通貨は、当時の1コイン1円から、1コイン800万円まで跳ね上がっています」
「――なっ!? ま、まさか……」
そこで、白井の顔色が変わる。
ハッキリ言って、これは出まかせもいいところだ。
たしかに世界中を転戦はした。
だが、暗号通貨のプログラムを組んでいた人間に偶然出会う訳がない。
それでも――、
俺は、カバンをテーブルの上にドカッ! と、置くと、ファスナーを開く。
そこには、100万円の束が50束入っている。
つまり5000万円。
それを見た白井の様子が変わる。
そして俺は笑みを浮かべる。
「ご理解頂けましたか? 俺の資産が、どこから来ているのか」
「そんな……。こんな話……、聞いては――」
「分からないのも無理がありません。普通に調べただけでは暗号資産の取引内容なんて出てきませんからね。あくまでもネットで完結しますし」
「い、一体……何コインもって――」
「それを答える義務はありません。ただ一つ言えることは、俺は自分が生まれ育った結城村の現状を憂いているという事です。俺と姪っ子が生きていく村をね」
「……つまり、本当に何もないと――」
「ええ。あくまでも結城村に住まう一庶民として、外資に買われている――、村民以外に買われている土地の現状を打破しようと思っているだけです。ご理解頂けますか?」
「……分かった……。だが、すでに売却された土地を買い戻すのは――」
「買い戻す額は、購入した人間が払った倍の額を提示してください。そして、その1割を仲介手数料として、白井さんに渡しましょう」
「――い、一割も!?」
「はい。ですが期限を切らせて頂いても? こちらとしても、税務署への届け出があるので2カ月以内で商談を纏めてください」
「……わ、わかった」
「――では土地権利書と引き換えにお金はお渡ししますので都度、報告をください」
俺はバックのファスナーを〆る。
白井は、何度も頭を下げながら部屋から出ていく。
そして、車のエンジン音が聞こえてきたところで――、
「また、かなりのブラフの打ったの」
ようやく村長が口を開いた。
「不味かったですか?」
「――いや。相手が納得したのなら、それが全てだからの。それにしても、暗号通貨とは……、今話題の?」
「そうですね」
まぁ、実際のところ、暗号通貨売却には雑所得という形で税金がかかるし、国が通貨の価値を保証しているわけでもないから高くなったらさっさと売るのが常套手段だからな。
それを少しでも理解しているのなら、白井のように態度を一偏させて、動くようになるのは定石。
かなりの力技にはなったが結果オーライと言ったところか。
それよりも――。
「村長」
「どうした?」
「俺のことを調べている人間がいるみたいですね」
「そうだの。五郎のことを嗅ぎまわっている連中が少なからずいるようだ。だが、それは一応は大丈夫だと思うがの。あの二人も動いておるし」
「柳橋さんと宮越さんですか?」
「うむ」
「あの人たち、ナイルさんが言っていましたけど」
「何を言っておったんじゃ?」
「かなり強いと。ただ、もう年齢的に、縁側でお茶を飲みながら猫を撫でている年齢だと思うんですけど……」
コレは、マジな話で俺の率直な感想だ。
90歳近い老人に、俺の身を守ってもらう前に、老人ズが大変な事になってしまうのでは?
「問題ない。あ奴らは、未だに自衛隊に頼まれて新兵の訓練を施しているほどの兵だからの」
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