田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第252話 ガソリンスタンドの建築の話(2)

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 俺の提案に、村長と誠さんがそれぞれ頷く。
 
「それでは、俺は中村さんを見てきますので――」
 
 座布団から立ち上がり、母屋の裏手へと移動すると、丁度、給油が終わったようで――、
 
「五郎。いま、タンクへの灯油の給油が終わったが誰か来ているのか?」
「村長と踝建設の社長さんが来ています」
「ああ。誠か……」
 
 やはり狭い村という事もあり、中村さんは誠さんを知っているようで――、
 
「――という事は、ガソリンスタンドの件は話をしたのか?」
「はい。今後のことを考えると重要かと思いまして――」
「そうだな……」
 
 中村さんが、慣れた手つきで器具を片付けながら首肯してくる。
そして、上着を脱いだあと、軍手を脱ぎ――、
 
「――では、いくとするか」 
 
 そう話しかけてくる中村さんを連れて母屋へ。
 居間へ入ったところで――、
 
「田口、最近はどうだ?」
 
 座布団に座りながら中村さんが話し始める。
 
「何ともない。それよりも、灯油の配達の方は今年もするのか?」
「ああ。やっているだろう?」
「腰が痛い痛いと言っていたからな」
「まだまだいけるぞ」
「それは良かった」
 
 中村さんから村長に話を振ると、何事もなく日常の会話が始まるが――、
 
「中村さんって今年の灯油配達は難しかったんですか?」
「まぁな。婆さんも逝ってしまったからな。バカ息子は問題を起こして五郎に迷惑をかけるし! ――まあ! 儂の中村石油店は、五郎が継いでくれるから安泰だな! ハハハハハッ」
 
 隣に座った、俺の背中をバンバンと叩いてくる中村さん。
 
「お久しぶりです。中村さん」
「おう! 踝のじゃりン子も元気でやっているようで何よりだ! ――で、今日の話は、ガソリンスタンド建設の件だろう? だろう? 田口」
「そうじゃな。中村、お前は何かいい図案なんてものはあるのか?」
「30年前ならいざ知らず、今は都会で色々と新しいがソリンスタンドが出来ているんだろう? ――なら、儂に聞くのは愚行というものだろう?」
「あの、中村さん」
「どうした? 五郎」
「俺としては、セルフサービスのガソリンスタンドは考えていません」
「ほう……」
「それは完全フルサービスの昔ながらのガソリンスタンドを目指していると? そういうことか?」
 
 俺は、中村さんの言葉に頷く。
 
「俺は、結城村を活性化させたいと考えています。その中で、セルフサービスのガソリンスタンドは、人員を少なく抑える効果はありますが、それだけです。たしかに利益を求めるのなら、セルフサービスのガソリンスタンドは有効ですし、何よりガソリンの価格も安く抑えられます」
 
 俺が話している内容は、ここ数か月間、ずっと本で勉強をした聞きかじった内容に過ぎない。
 粗はあるだろう。
 それでも、俺は多くの人にシッカリしろと家族を守れと言われてきたのだ。
 自分で考えて最善手を打つことに――、他人にプレゼンを出来なくてどうするのか!
 本当に駄目だったら、今は俺の回りには、俺よりも遥かに経験も豊富で頼れる先達が居る。
 そしてアドバイスもしてくれるだろう。
 だからこそ、ここは甘えよう。
 
「ですが、それだと人は集まりません。過疎化している本当の理由は、働く場所がないからです。ですから少しでも結城村で暮らしてくれる人が増えるように、フルサービスのガソリンスタンドを作ろうと思っています」
「……五郎、それは本気なのか?」
 
 俺の説明に、口を挟んできたのは中村さん。
 
「本気です」
 
 俺は頷く。
 
「儂もガソリンスタンドを経営していたが、五郎も働いていて分かっているだろう? ガソリンスタンドというのは、24時間営業でなくても20人近くの人材が必要になるんだぞ? それだけの人間をどこからかき集めてくる? 第一、給料は――」
「全員を正社員で雇います」
「――な!?」
 
 俺の説明に絶句する中村さんは――、
 
「そ、それが、どういう意味なのか分かっているのか!?」
 
 ――と、声を荒げて俺に注意してくるが、
 
「分かっています。どれだけの赤字になるかも理解しています。――ですが、だからこそ人を集める為の土台作りが出来ると思います。人が仕事をするのは単純明快です。仕事に対する労力に見合った賃金と、報酬。そして将来性です」
「五郎、まさか……」
 
 村長は、俺の発言に気が付いたのか溜息をつく。
 そう、俺が考えているのは単純明快。
それは、ノーマン辺境伯に鉄鉱脈全て金鉱脈に変えてもらった山の有効利用だ。
一般人に開放する場所は一部に限定して、大半を菱王マテリアル採掘と共同採掘するという計画。
それを考えていた。
どちらにしても、山の管理なんて個人で出来る者じゃない。
無法者も出てくるだろう。
それだったら、大企業に山での採掘権を貸し出して採掘した何割かを受け取って、それを運営費にした方が、効率がいい。
 
「田口」
「何だ? 中村」
「まさか、何かどでかいことをしているんじゃないだろうな?」
 
 俺が話しを撤回しないこと。
 そして、それを聞いていた田口村長が溜息をついていた事に、長年の付き合いで何かを察したのか、田口村長に詰め寄る中村さん。
 
「今は言えん。だが、五郎が、そう決めたのなら儂は何も言わん。だが、ここで手助けをしないと中村、踝、お前ら、後悔するぞ?」
「……田口が、そこまで五郎の肩を持つという事は……成功する望が高いということか……」
「分かりました。踝建設も全力でサポートしましょう」
 
 計画の核心に触れなくても中村さんと踝誠さんは力を貸すことを了承してくれた。
 これは一重に田口村長が今まで築いてきた信用と信頼の証であり実績。
 俺にはないモノだ。
 
「五郎」
 
中村さんが腹を括ったのかドスの効いた声で俺の名前を呼んでくる。
 
「――で、先ほどの正社員として雇うという話だが、何人ほど雇う予定なんだ?」
「まずは結城村の関係者――、親戚筋を当たって頂ければと思います。いまの日本では、正社員として働いている人なんて少ないですから」
 
 その俺の言葉に、田口村長が頷き口を開く。
 
「たしかにのう……。結城村の関係者――、もしくは子供か親戚筋が、この過疎村に戻ってくるのなら歓迎はするか。そうすると、五郎の提案も悪くはないな」
「――では……」
「うむ。それで給料はどのくらいで考えているんだ?」
「東京都内と同じ額で出そうと思っています」
「なるほど……。それなら、都会に出て行って戻ってこない村民を戻すことも可能かも知れんな」
「はい。目標は40人を考えています」
「出来れば年齢的に若い人たちを最優先で――。田口村長、お願いできませんか?」
「分かった。五郎が行うと反発を買うかも知れんからな」
「月山様」
「どうかされましたか? 踝さん」
「40人を雇用されるという事は、かなり大きなガソリンスタンドを想定していますか?」
「はい。結城村は土地だけは余っていますので、2000坪ほどのガソリンスタンドを経営したいと思っています」
 
 話を聞いていた踝さんがせき込む。
 
「どれだけの費用が掛かるか――」
「費用は気にしないでください。予算はありますから」
「田口村長……」
 
 心なしか弱気な様子で田口村長を見る踝さん。
 
「大丈夫だ」
「はぁー、分かりました。わかりました。それでは、すぐに図面を引くようにします」
「宜しくお願いします。あと、できれば、車のタイヤの交換やオイル交換を含めた自動車整備も出来るような大型の設備もお願いします。それと――」
「まだ何か?」
「10トントラックが連日利用するようになると思いますので、それに耐えられる作りにしてください」
「一体、何が起きるのですか!?」
 
 
 
 
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