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第250話 王女の覚悟
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「――あ、あの……。私に何か……?」
首を傾げるルイーズ王女殿下。
どうやら、俺がジッと見ていることに気が付いたのか、頬を赤らめて上目遣いで聞いてくる。
別にジッと何か考えて服装を見ているわけではないんだが――、
「いえ。服は、どうですか?」
「――え!? ふ、服ですか!?」
大きな胸元で両手を握りしめながら聞いてくる。
「深い意味はないので!」
「――で、でも! 殿方が、洋服を女性にプレゼントするのは、脱がす為だと……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 誰から、そんな話を!」
「当然です! 王家の――、貴族の女は、そう言う事は習っておりますので!」
「おほん! 自分は、そういう感じで洋服に関して聞いたわけではないので。新しく購入された洋服に関して問題ないのかどうか確認しただけです」
「そうですの?」
「はい。――ですから、あまり深い意味はありませんから」
「そうなのですか……」
それにしても、洋服をプレゼントする意味に、そういう意味があるとは……。
「あの、ルイーズ様」
「はい?」
「それって王家の方に多いんですか?」
「え? 何をでしょうか?」
「いえ。何でもありません」
あまり深く聞いても藪蛇になりそうだから、ここはスルーしておこう。
「ツキヤマ様」
「はい?」
「洋服を頂いて、私のように思うのは、婚約をした――、もしくは許嫁か、それとも結婚をしている男女の仲だけですので、私以外の者に、衣服をプレゼントして誤解されるような事はありませんから」
「そうですか……」
こちらがスルーして何事も無かったように振る舞おうとしたのに、ルイーズ王女殿下は、俺を安心されるかのように話してくる。
だが、そうなると――、
「ツキヤマ様は、私には興味はないのですか?」
当然、そういう受け取り方をしてくるよな……。
だが、ここで俺は嘘をつくような真似はしたくない。
「正直言って、わかりません」
そう分からない。
何故なら、俺が結婚を前提に付き合っているのは雪音さんであって、他の女性との婚約や結婚などは考えていなかったからだ。
だが、今後のことを考えると、俺の立場上では、それは難しい。
理想と現実は違う。
「そうなのですか。それは、よかったです」
「良かった?」
「はい」
コクリと頷くルイーズ王女殿下に、俺は疑問を浮かべたまま――、
「それは、ルイーズ王女殿下も、私と同じ考えという事でしょうか?」
「そうなります」
彼女は頷く。
そして小さな桜色の唇を動かす。
「たしかに、私は王家の王女として庶子であるにも関わらず育てられました。ですから、当然、政略結婚に関しては、かなり前から承知しておりましたし、覚悟もしておりました。ですが、婚約者が――、嫁ぎ先が見つかったと言っても、すぐに気持ちを切り替えることはできません」
「それは、当たり前です」
俺は、王女殿下の言葉に同意する。
そもそも見合いで相手をすぐに好きになるなんてありえないからな。
「ツキヤマ様も同じ気持ちで良かったです。私は、国のためにツキヤマ様の元へ嫁ぎに参りました。それは、すでに決まったことですし、それに対して、王家の者として異論もありませんし覚悟はしております。ですから、ツキヤマ様とより良い未来を得たいと考えております。そのことだけは、知っておいていただきたいです」
「分かりました」
彼女も、王女としての立場上、それなりの重責を背負って、俺の元へと嫁ぎに来たという事は、理解した。
だからこそ、俺は短く理解を示した言葉だけで返した。
「ルイーズ様」
「はい」
「そろそろ自分は帰ります。また何かあれば連絡をください」
「そういえばツキヤマ様」
「何でしょうか?」
「学校の件はどうなりましたでしょうか?」
「学校につきましては、関係各所との話し合いをしておりますので、もう少しお待ちください」
「はい」
ルイーズ王女殿下には悪いが、学校に通うことに関しては、難しいと言わざるを得ない。
何せ高校に行けば、かなりの情報を仕入れる事が出来るからな。
しかも、今の会話から、ルイーズ王女殿下は、あくまでもエルム王国の王族として嫁いできたと語っていた。
つまり、辺境伯の思惑とは違うということ。
しばらくは迎賓館で隔離生活を送ってもらうのが得策と言えるだろう。
「それでは、本日は、これで失礼します」
俺は一礼したあと、王女殿下の部屋から出る。
「ツキヤマ様?」
すると丁度、お茶を持ってきたアリアさんと擦れ違う。
「アリアさん。今日は、自分は帰ります。また、食材が切れたら移動の為に伺いますので連絡をください」
「――は、はい」
アリアさんが頷き、それを確認したあと、俺は迎賓館から出ると外で待っていた中村さんと合流した。
「色々とあったようだが、もう終わったのか?」
「もしかしてベランダの方を見ていました?」
「おお、見ておったぞ」
「そうですか」
一部始終見ていたのなら気になったんだろうな。
だが、特に話すことはない。
「衣服をプレゼントした事について話をしていただけです」
「それだけとは見えんかったがのー」
「それだけです」
俺は、この話題はコレで終わりと切り上げる。
「ふむ……。さて、五郎」
「まだ何か?」
「タンクを設置するだけでは終わらないだろう?」
「あー」
そうだった。
タンクを設置したあとは灯油を入れないといけないんだった。
「それは、あとは中村さんだけで可能ですよね?」
「……そうだの。だが! 中村石油店を継ぐのではあれば――!」
「遠慮します」
「まったく、もう……」
「それは俺のセリフです」
中村さんと会話しながらトラックに乗り込んだあとは、月山雑貨店の駐車場まで送ってもらう。
「それでは、またあとで来るからな」
「待ってます」
中村さんが運転する大型トラックが去っていくのを見送ったあと、俺は道路を挟んだ向かい側へと視線を向ける。
そこには、測量の人達が機械を設置して調べものをしていた。
停まっている車は、踝建設と書かれているから、図面を起こすことも含めて作業を進めているのだろう。
「とりあえず昼飯でも食べるか」
お腹がクーッとなった事で、何も食ってないことに気が付き、俺は母屋へと向かった。
土間から上がり台所へとたどり着くと――、
「おっさん!」
「ん? どうかしたのか?」
母屋に帰ってきた事に気が付いた和美ちゃんが俺に話しかけてきた。
「桜ちゃんを何とかしてくれよー」
「何とかとは?」
「うち! 格闘ゲームで、ボコボコにされてんねん!」
「ほー」
だが! 俺もボコボコにされるから、勝ち目がない戦いに参加するような真似はしない。
「ふっ」
「な、なんやねん、おっさん! いつもと違う!?」
「分かってないな」
「何が?」
「子供同士の戦いに俺が参戦したら余裕で勝ててしまうだろう?」
「え? ――で、でも! おっさん……」
「お兄さんだ」
「それはええけど……。おっさん、前にうちと桜ちゃんにボコボコにされたやん」
「ちっ――」
覚えていたか。
「いま、おっさん……舌打ちしなかった?」
「気のせいだ。とにかく、いまの俺は昼飯を食べないといけないから、また、あとでな」
俺は、居間のテーブルの上に、サランラップがかけられ置かれていた料理を短時間で平らげる。
すると子機が鳴る。
「はい」
「五郎さん、神田自動車の方が来られました」
「分かりました。すぐに行きます」
電話を切り、桜の部屋へと向かう。
そして部屋に入ると桜はフーちゃんを抱いたまま寝ていた。
「寝ているな」
「うん。寝てる。だから、おっさんのところに来たんだよ」
「そうかー。それで、俺を生贄にしようとしたんだな」
首を傾げるルイーズ王女殿下。
どうやら、俺がジッと見ていることに気が付いたのか、頬を赤らめて上目遣いで聞いてくる。
別にジッと何か考えて服装を見ているわけではないんだが――、
「いえ。服は、どうですか?」
「――え!? ふ、服ですか!?」
大きな胸元で両手を握りしめながら聞いてくる。
「深い意味はないので!」
「――で、でも! 殿方が、洋服を女性にプレゼントするのは、脱がす為だと……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 誰から、そんな話を!」
「当然です! 王家の――、貴族の女は、そう言う事は習っておりますので!」
「おほん! 自分は、そういう感じで洋服に関して聞いたわけではないので。新しく購入された洋服に関して問題ないのかどうか確認しただけです」
「そうですの?」
「はい。――ですから、あまり深い意味はありませんから」
「そうなのですか……」
それにしても、洋服をプレゼントする意味に、そういう意味があるとは……。
「あの、ルイーズ様」
「はい?」
「それって王家の方に多いんですか?」
「え? 何をでしょうか?」
「いえ。何でもありません」
あまり深く聞いても藪蛇になりそうだから、ここはスルーしておこう。
「ツキヤマ様」
「はい?」
「洋服を頂いて、私のように思うのは、婚約をした――、もしくは許嫁か、それとも結婚をしている男女の仲だけですので、私以外の者に、衣服をプレゼントして誤解されるような事はありませんから」
「そうですか……」
こちらがスルーして何事も無かったように振る舞おうとしたのに、ルイーズ王女殿下は、俺を安心されるかのように話してくる。
だが、そうなると――、
「ツキヤマ様は、私には興味はないのですか?」
当然、そういう受け取り方をしてくるよな……。
だが、ここで俺は嘘をつくような真似はしたくない。
「正直言って、わかりません」
そう分からない。
何故なら、俺が結婚を前提に付き合っているのは雪音さんであって、他の女性との婚約や結婚などは考えていなかったからだ。
だが、今後のことを考えると、俺の立場上では、それは難しい。
理想と現実は違う。
「そうなのですか。それは、よかったです」
「良かった?」
「はい」
コクリと頷くルイーズ王女殿下に、俺は疑問を浮かべたまま――、
「それは、ルイーズ王女殿下も、私と同じ考えという事でしょうか?」
「そうなります」
彼女は頷く。
そして小さな桜色の唇を動かす。
「たしかに、私は王家の王女として庶子であるにも関わらず育てられました。ですから、当然、政略結婚に関しては、かなり前から承知しておりましたし、覚悟もしておりました。ですが、婚約者が――、嫁ぎ先が見つかったと言っても、すぐに気持ちを切り替えることはできません」
「それは、当たり前です」
俺は、王女殿下の言葉に同意する。
そもそも見合いで相手をすぐに好きになるなんてありえないからな。
「ツキヤマ様も同じ気持ちで良かったです。私は、国のためにツキヤマ様の元へ嫁ぎに参りました。それは、すでに決まったことですし、それに対して、王家の者として異論もありませんし覚悟はしております。ですから、ツキヤマ様とより良い未来を得たいと考えております。そのことだけは、知っておいていただきたいです」
「分かりました」
彼女も、王女としての立場上、それなりの重責を背負って、俺の元へと嫁ぎに来たという事は、理解した。
だからこそ、俺は短く理解を示した言葉だけで返した。
「ルイーズ様」
「はい」
「そろそろ自分は帰ります。また何かあれば連絡をください」
「そういえばツキヤマ様」
「何でしょうか?」
「学校の件はどうなりましたでしょうか?」
「学校につきましては、関係各所との話し合いをしておりますので、もう少しお待ちください」
「はい」
ルイーズ王女殿下には悪いが、学校に通うことに関しては、難しいと言わざるを得ない。
何せ高校に行けば、かなりの情報を仕入れる事が出来るからな。
しかも、今の会話から、ルイーズ王女殿下は、あくまでもエルム王国の王族として嫁いできたと語っていた。
つまり、辺境伯の思惑とは違うということ。
しばらくは迎賓館で隔離生活を送ってもらうのが得策と言えるだろう。
「それでは、本日は、これで失礼します」
俺は一礼したあと、王女殿下の部屋から出る。
「ツキヤマ様?」
すると丁度、お茶を持ってきたアリアさんと擦れ違う。
「アリアさん。今日は、自分は帰ります。また、食材が切れたら移動の為に伺いますので連絡をください」
「――は、はい」
アリアさんが頷き、それを確認したあと、俺は迎賓館から出ると外で待っていた中村さんと合流した。
「色々とあったようだが、もう終わったのか?」
「もしかしてベランダの方を見ていました?」
「おお、見ておったぞ」
「そうですか」
一部始終見ていたのなら気になったんだろうな。
だが、特に話すことはない。
「衣服をプレゼントした事について話をしていただけです」
「それだけとは見えんかったがのー」
「それだけです」
俺は、この話題はコレで終わりと切り上げる。
「ふむ……。さて、五郎」
「まだ何か?」
「タンクを設置するだけでは終わらないだろう?」
「あー」
そうだった。
タンクを設置したあとは灯油を入れないといけないんだった。
「それは、あとは中村さんだけで可能ですよね?」
「……そうだの。だが! 中村石油店を継ぐのではあれば――!」
「遠慮します」
「まったく、もう……」
「それは俺のセリフです」
中村さんと会話しながらトラックに乗り込んだあとは、月山雑貨店の駐車場まで送ってもらう。
「それでは、またあとで来るからな」
「待ってます」
中村さんが運転する大型トラックが去っていくのを見送ったあと、俺は道路を挟んだ向かい側へと視線を向ける。
そこには、測量の人達が機械を設置して調べものをしていた。
停まっている車は、踝建設と書かれているから、図面を起こすことも含めて作業を進めているのだろう。
「とりあえず昼飯でも食べるか」
お腹がクーッとなった事で、何も食ってないことに気が付き、俺は母屋へと向かった。
土間から上がり台所へとたどり着くと――、
「おっさん!」
「ん? どうかしたのか?」
母屋に帰ってきた事に気が付いた和美ちゃんが俺に話しかけてきた。
「桜ちゃんを何とかしてくれよー」
「何とかとは?」
「うち! 格闘ゲームで、ボコボコにされてんねん!」
「ほー」
だが! 俺もボコボコにされるから、勝ち目がない戦いに参加するような真似はしない。
「ふっ」
「な、なんやねん、おっさん! いつもと違う!?」
「分かってないな」
「何が?」
「子供同士の戦いに俺が参戦したら余裕で勝ててしまうだろう?」
「え? ――で、でも! おっさん……」
「お兄さんだ」
「それはええけど……。おっさん、前にうちと桜ちゃんにボコボコにされたやん」
「ちっ――」
覚えていたか。
「いま、おっさん……舌打ちしなかった?」
「気のせいだ。とにかく、いまの俺は昼飯を食べないといけないから、また、あとでな」
俺は、居間のテーブルの上に、サランラップがかけられ置かれていた料理を短時間で平らげる。
すると子機が鳴る。
「はい」
「五郎さん、神田自動車の方が来られました」
「分かりました。すぐに行きます」
電話を切り、桜の部屋へと向かう。
そして部屋に入ると桜はフーちゃんを抱いたまま寝ていた。
「寝ているな」
「うん。寝てる。だから、おっさんのところに来たんだよ」
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