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第249話 ガソリンスタンドの必要性

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 お昼を過ぎた頃に、大型トラックが一台、雑貨店の駐車場に停車する。
 店から出ると、大型トラックには、中村石油店と書かれている。
 
「少し遅くなった」
「いえ。十分早いかと――」
 
 俺は大型トラックに載せてある屋外用の石油タンクへ視線を向ける。
 石油タンクの色は赤色。
 
「ずいぶんと立派な物ですね」
 
 大型トラックに積まれている大型の屋外用灯油タンク。
 そこ数は4つあるが、全ての規格は統一されている。
 まるで、どこかに納品しようとして、そのまま、納品できなかったように感じられた。
 
「分かるか? コレはな、第三セクターの建物に納品する予定のものだったんだよ」
 
 何となく察した。
 つまり、迎賓館として利用している建物に納品しようと取り寄せて用意していたら、その第三セクターが倒産して、迎賓館の着工が止まったから、屋外用の石油タンクも納入できなかったと……。
 こんなところに日本経済のバブルのしわ寄せが!
 
「これはアレですね」
「うむ。バブルの皺寄せだが――、五郎にとっては良かった事かも知れんの」
「そうですね。ちょっと見せてもらっても?」
「よいぞー」
 
 トラックの荷台に乗り載せてある屋外用石油タンクを確認していくが、どれも保管状態が良かったのか、綺麗なままだ。
 
「ずいぶんと綺麗ですね」
「そりゃ、梱包されて届いたものを倉庫に入れたままだったからな」
「そうですか。――でも、良かったです。あれ?」
「どうかしたのか?」
「いえ。迎賓館の方って、屋外用石油タンクって設置していましたっけ?」
「しておらんな」
 
 思わず、その中村さんの言葉に無言になる俺。
 
「それじゃ、2つずつ分けて設置して貰ってもいいですか?」
「分かった」
「それと、こちらを――」
 
 俺はポケットの中から100万円が入った封筒を取り出す。
 
「随分と儲かっているようだな」
「おかげ様で」
「そういえば五郎」
「何ですか?」
「資金に余裕があるのなら、ガソリンスタンドを経営するつもりはないか?」
「ガソリンスタンドですか……」
「うむ。一応、危険物の免許は取得しているんだろう?」
「一応、全部、持っていますけど……」
 
 こう見えても、峠で走っていた頃には、車を自分で弄っていたこともありガソリンスタンドで働いていたので、危険物の免許は全部取得済み。
 ガソリンスタンドを開くことも出来るが――、
 
「中村石油店があるじゃないですか」
「うちは灯油しか扱っていないからの」
「あれ? 俺がアルバイトしていた、中村さんのガソリンスタンドは、どうしたんですか?」
「消防法の改正があったろう?」
「そういえば、そんなのがありましたね」
「――で、うちみたいな零細石油店が、地下貯蔵タンクを交換できると思うか?」
「それは……」
 
 予算的に厳しいだろうな。
 
「――ま、そういうことだ。だから、結城村には、ガソリンスタンドが一切ない。石油販売も、もうすぐタンクの期限が来ているからな。色々とな――」
「それは大問題なのでは……」
「うむ。役場に掛け合ってはいるが……人口200人程度の村だと予算がな。それに後継者もおらんからの……」
 
 チラッ、チラッと俺の方を見てくる中村さん。
 もう完全に、中村さんは、自分の息子の陸翔に関しては、蚊帳の外に置いているらしい。
 それにしてもガソリンスタンドの経営か……。
 たしかに、村にガソリンスタンドがあるかどうかは大きいからな……。
 そうなると、店の近くにガソリンスタンドがあった方がいいのか。
 
 ――いや、よく考えろ。
 
「……あの、中村さん」
「どうかしたか?」
「俺が働いていたガソリンスタンドは閉鎖しても残っているんですか?」
「予算がないから、解体することも出来ておらんから建物は残っておる。だが使う事はできんぞ? 閉鎖してから20年近く経過しているからな。だから経年劣化があるからの」
「ですよね……」
「五郎」
「はい?」
「そのような話をしてくるという事は、ガソリンスタンドを始めようと考えているということか?」
「今後のことを考えると、必要かと思いまして」
 
 正直、ガソリンスタンドを経営したとしても赤字になるのは目に見えている。
 だが、今後のことを考えるとガソリンスタンドは必要不可欠だろう。
 それにガソリンスタンドを併設しておけば買い物客は増えるから、異世界との物品交流に関しての目くらましに出来る可能性は高い。
 そうなると、ガソリンスタンドの経営はしておいた方がいいだろう。
 問題は――、
 
「そうか。それでは、五郎に中村石油店は譲るとするか」
「いや、譲られても困るんですけど……」
「石油を販売しているのは、村のためだからな。五郎が、ガソリンスタンドを経営してくえるのなら、儂も引退を――」
「それは困ります」
 
 さすがに、そこは俺としても断らせてもらう。
 中村さんは、何十年も結城村のために石油店やガソリンスタンドを経営してきた歴戦の古参だ。
 ここで引退させるのは勿体ない。
 
「困ると言われてもな。五郎が、ガソリンスタンドの経営をするのなら、小さな店舗なんてあっても仕方ないだろう?」
「いえいえ、必要です。中村さんには、俺がガソリンスタンドを建てたあとの店長として勤めてもらいたいです。もちろん給料は出します」
「だが――、もう年だからな……」
「中村さん。時の首相が言ったじゃないですか? 人生100年労働だと」
「……ブラックだな」
「ですね。――でも、仕事があるとやる気が出るじゃないですか」
「……はぁ」
 
 中村さんが深く溜息をつく。
 
「ご了承頂きありがとうございます。それでは中村さん、まずは外付け用のタンクを設置してから、居間でゆっくりと今後のことを話しましょう」
「そうだな……」
 
 会話を一区切りつけた後は、昼食から戻ってきたナイルさんと根室さんに店舗を任せて、俺と中村さんで母屋にタンクを運び設置していく。
 タンクの設置は3時間ほどで終わり、そのあとは迎賓館へと向かう。
 迎賓館の駐車場に到着したあとは、二人でタンクを運び設置していくが――、
 
「ツキヤマ様。ごきげんよう」
 
 中村さんと作業をしていたら、俺達が来たことに気が付いたアリアさんが迎賓館から出てくるとメイド服のまま、頭を下げてきた。
 
「アリア、こんにちは。ルイーズ王女殿下や、エメラスさんはいいのか?」
「はい。ルイーズ様が、ゴロウ様が来られていることをベランダで確認して、こちらに私を派遣いたしましたので」
 
 つまり、俺と会話をしたいということか。
 
「行ってくるといい。タンクの設置は終わっているからな。あとは固定だけだ」
「分かりました」
 
 俺は、アリアさんに案内されて迎賓館の中で――、2階のベランダで待っているルイーズ王女殿下の元へと案内された。
 部屋に入り、ベランダに出たところで――、
 
「アリア、ご苦労様。ツキヤマ様、ごきげんよう」
「ああ。こんにちは」
「アリア。ツキヤマ様のお茶を――」
「すぐにご用意致します」
 
 ティーポットなどが載せられた台車を下げてベランダを去り部屋から出ていくアリア。
 その後ろ姿を見送ったあと――、
 
「ツキヤマ様。今日は、何かあったのですか?」
 
 そう、ルイーズ王女殿下が話を切り出してくる。
 
「もうすぐ冬ですので、暖房器具などで使う灯油を保管する設備の増設の為に、こちらに伺いました」
「まぁ! 冬支度ですか! ――そ、そういえば、肌寒くなってきましたものねっ!」
「そうですね」
 
 俺は、通販で購入したと思われる温かそうな女性の衣類を身に纏っているルイーズ王女殿下を見ながら頷く。
 
 
 
 
 
 
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