上 下
234 / 379

第234話 莫大な物資取引き(1)

しおりを挟む
「これは……、またすごい量ですね」
「この際ですから、殆どの塩を買い占めました」
「なるほど……」
 
 俺は、異世界に持っていく塩を見て、フォークリフトで何往復しないといけないのか? と心の中で思わずツッコミを入れた。
 
「それで月山様」
「何でしょうか?」
「月山様は、本日の夜に異世界に行かれるのですか?」
「そのつもりです」
 
 これだけの商品を野外に放置しておくわけにもいかないからな。
 
「それでは、その後に、金を現金に交換されに行くという事ですか?」
「そうですね。事前に話していた通りに日本全国の問屋と、金の買い取り所を回って行こうと思います」
「なるほど……。月山様」
「はい?」
「一応、説明しておきますが、銀行口座への入金は足がつきますので、金融機関への――」
「分かっています。入金すると国税庁や税務署などが介入してくる事があるという事ですよね?」
「そうなります。そうでなくとも今回は、辺境伯との取引は大掛かりの物になりますから」
 
 その忠告に、俺は頷く。
 
「そういえば、お店の方はどうされますか?」 
「金を現金化するために日本全土巡りをしている間にも営業は続ける予定です」
「かなりの現金が動くと思いますので、車の手配をしておきましょうか?」
「それはトラックという事ですか?」
「はい。ただ、月山様はあくまでも乗用車で店を巡って頂くという形になりますが……」
「それは、トラックだと不審に思われるという事ですか?」
「ご名答です」
 
 たしかに、問屋とか金の買い取り業者に大型トラックで横づけしていたら目立つからな。
 だが、問題は、誰が運転するのか? と、言う事だが……。
 そんな俺の考えを見透かすように――、
 
「リーシャを月山様と同行させますので、ご安心ください。彼女でしたら、お金に目が眩むという事はありませんから」
「それは、そうですけど……」
 
 それにリーシャは、一応は、俺の婚約者という形になっているからな。
 
「それに、リーシャは、10トントラックまででしたら運転が可能です」
「もしかして、藤和さんは、今回のことを想定して?」
「いえ。流石に、そこまでは……、ただ、運が良かったということでしょうか? 芸は身を助けるとも言いますから」
「そうですね。それでは、それでお願いします」
「分かりました。リーシャには、伝えておきます。それで、何時頃から出立されるので?」
「今日の夜に塩を辺境伯側に納入するので、準備などを含めると早くて明後日からってところでしょうか?」
「分かりました。――では、リーシャにも、そのように伝えておきます」
 
 もう完全に、リーシャを従業員として藤和さんは使っているな……。
 
「――では、荷下ろしも終わりましたので、こちらの伝票にサインをお願いします」
 
 藤和さんが差し出してきた伝票は、厚さ10センチほどあり……。
 
「あ、はい……」
 
 思わずドン引きした。
 腕が痛くなりながらもサインを終えたあと、藤和さんは10トントラックを帰らせたあと、自身も車に乗って帰って行った。
 もちろん、俺がサインしている間にも藤和さんは、店の商品の補充と在庫の確認をしていたが。
 
 
 
 ――午後9時、店を開けたまま、俺はフォークリフトを使い、店の中へ塩を搬入していた。
 
「おじちゃん! 雪音おねえちゃんがご飯だって!」
「そうか。今行く」
 
 フォークリフトのエンジンを切る。
 
「ナイルさん、メディーナさん。一度、休憩して食事を摂りましょう」
「分かりました。メディーナ、休憩だ」
「はい! 副隊長」
 
 二人には、塩と違って、量の少ない香辛料の袋を店の中に運びいれてもらっていた。
 
「それにしても二人とも体力ありますね」
 
 俺は、朝から働いているのに、ほとんど疲れていない二人のスタミナに驚いていた。
 
「それが兵士の仕事なので」
「私も、荷物を運んでいるだけでした、そこまで苦ではありません」
「そうですか……」
 
 どうやら、メディーナさんは頭を使う仕事よりも体を使って荷運びをする仕事の方が向いているらしい。
 
「ゴロウ様、私は、これでも勉学には秀でていますから!」
「べ、別に脳筋とは思っていません。人には、得手不得手と言うのがありますから」
「それならいいです」
「ゴロウ様、メディーナは、身体強化の魔法を扱うことができるので、回りからは脳まで筋肉で出来ていると揶揄された事が度々あったのです。それで、今のような発言をしただけで、他意はありません」
 
 その言葉に俺は頭を下げる。
 
「俺の態度と言動が誤解を生んでしまって申し訳ない。お二人とも、朝からずっと働いていましたし、休憩も殆どとっていなかったので少し驚いただけです。ですから、こちらこそ、特に含むようなことはありませんから」
「ゴロウ様、頭を上げてください。領主たる方が、一兵卒に頭を下げることは、あまり良いとは言えません」
 
 ナイルさんが俺の肩を掴むと、そう力説してくる。
 だが、それは異世界の常識。
 
「ナイルさん。ここは日本です。ですから、自分の思慮不足で、相手に不快な思いをさせたら謝罪をするのは普通です」
「分かりました」
 
 俺の意思が固いことを理解してくれたナイルさんが折れてくれた。
 これで、この話題は終わりにした方がいいだろう。
 話を変えよう。
 
「それでは、食事の準備が出来たようなので、戻りましょう」
「はい」
「そうですね」
 
 母屋に先に戻った桜を追いかけるようにして、俺は、ナイルさんとメディーナさんと一緒に母屋へと戻った。
 夕飯を食べたあと――、午後10時頃から異世界へ商品の搬入をするために、準備をする。
 まずは表のシャッターを閉めたあと、バックヤードから出て、再度、バックヤードから入る。
 その際に、恒例とも言える鈴の音が鳴る。
 俺はナイルさんとメディーナさんと供に店内に入り、外へと繋がるシャッターを開けた。
 店の正面から異世界に足を踏み入れたあと――、
 
「それではナイルさん。こちらで陣頭指揮をお願いします」
「任せてください!」
 
 Tシャツと短パンという軽装のナイルさんはキリッ! と、した顔立ちで頷くと、
 
「メディーナ」
「はい」
「辺境伯邸へ、ゴロウ様が大量の塩と香辛料を持ってきたと連絡をしてくれ」
「分かりました。それでは――」
 
 メディーナさんは、動きやすい土方の恰好をしていた。
 そして、そのままの服装で馬に乗ると辺境伯邸へと向かってしまう。
 
「ナイルさん」
「はい」
「メディーナさんの服装とか、あのままで大丈夫だったんですか」
「問題ありません。ノーマン様は、実を取るからですから」
「そうですか。分かりました。それでは、商品の搬入を始めますか」
 
 以前に、エクスカリバーと再契約をしたことで、誰でも店の入り口からは入出店はできるようにしたが、それが今回、生きてきた。
 
「お前達! ゴロウ様の店に置かれている袋! これが塩! これが香辛料関係! これらを持ち出すように! かかれ!」
 
 店を警護していた兵士達が一斉に店内に入ってくると、最初はピカッピカッと光っていた。
 どうやら、全員、どこかしら病を患わっていたらしい。
 ただ、魔力が増えた俺には殆ど魔力が減ったという実感がない。
 そう考えている間にも、塩や香辛料が店内から運び出されていく。
 店内には10パレット以上の塩が積まれていたが、さすがは異世界なだけあって、あっと言う間に減っていく。
 フォークリフトを入れるスペースにも塩が積まれたパレット置くことが出来たので効率がいい。
 そして、わずか20分で全ての塩と香辛料が持ち運び出された。
 
「ナイルさん。それでは、ここで指揮お願いします。俺は、塩が積まれたパレットを店内に運ぶ用意をするので」
「分かりました」
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

処理中です...