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第227話 商品を選びましょう(2)

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「ツキヤマ様」
「はい?」
「商品は、どれを持っていけばいいのでしょうか?」
「そうですね……」
 
 まぁ、いまは、お客様はいないから別にいいか。 
 レジから出る。
 
「アリアさん。それでは、簡単に説明させて頂きますね」
 
近くの冷凍ケースへと移動する。
それを口切りに冷凍商品と冷蔵ケースに入っている食材について説明していく。
その中で、アリアさんの興味を引いたのは加工食品やカップ麺、レトルト商品。
 
「辺境伯邸で、噂には聞いていましたけど、異世界には色々なモノがあるのですね。――それで、ツキヤマ様のお薦めは、どれですか?」
「俺のお薦めですか……」
 
 俺は、趣味で仕入れたカップ麺を手に取る。
 
「この爆熱ゴッド四川風マーボー丼ですかね」
 
 それは、298円で購入できる商品で、ご飯と超激辛麻婆豆腐がセットになったレンジで3分のレトルト商品だ。
 
「これはウマ辛いですよ?」
「へー」
 
 どう反応していいのか困ったような表情を向けてくるアリアさん。
 彼女は、すぐに別の商品を見ていく。
 せっかく、俺の一押しを紹介したのに……。
 少し落胆したところで客が店に入ってくる。
 
「それじゃ、お客様が来たみたいなので、また何かあったら聞いてください」
「分かりました」
 
 レジに戻り、店内全域を見渡せる場所に立ったあと、俺はアリアさんの方を見る。
 アリアさんは、俺が渡したカゴを手に持ったまま色々な商品を注意深く見ている。
 
「これは、時間が掛かりそうだな」
 
 接客を初めてから1時間程が経過し、店内からも客が居なくなったところで、アリアさんがレジ前に来るとカゴをカウンターに乗せてくる。
 しかもカゴは一つだけでなく二つ。
 田舎の雑貨店という事もあり、入浴剤や洗剤も置いてあるが、アリアさんが持ってきたカゴの一つには生活雑貨。
 もう一つのカゴには、食料品――、主に生鮮食品を中心にして入っている。
 
「ツキヤマ様。まずは、これだけお願いします」
「分かった」
 
 俺はレジに商品を通していく。
 バーコードリーダーを通すと都度、ピッ! と、言う音が鳴るが、それにアリアさんは興味津々のようで、俺の手元をジッと見ていた。
 5分ほどで、全ての商品の清算が終わる。
 金額としては1万2千円オーバー。
 雑貨店で、一度で購入する金額ではないが、それは致し方ない。
 カゴの入った商品をカゴごと持ち、車まで移動して積み込んだあとは、母屋に電話をする。
 
「はい、月山です」
「雪音さん。迎賓館に商品を車で運んできますので、30分ほど店番をお願いできますか?」
「あれ? ナイルさんは?」
「ナイルさんは、恵美さんを自宅まで送り届けてもらっています」
「あー、はい! すぐに、お店に行きますね!」
 
 数分で、雪音さんが店に来たあとは、メディーナさんと店番を任せる。
 車を発進したところで、
 
「ツキヤマ様は、庶民のように働かれるのですね」
「そうですね」
 
 俺は短く答える。
 何となくだが、俺に探りを入れてきているような気がしたからだが――。
 
「アリアさんは、異世界に来て、どうですか? 何か不自由な事とかありますか?」
「とくには――、ただ、エメラス様が……」
「そうですね」
 
 そこは、俺も気になっていた点だ。
 しかも被害者であるエメラスさんは何も語ろうとしない。
 正直、分からないことだらけだ。
 ここに名探偵でもいたら犯人をすぐに見つけられるのだろうが、俺は生憎一般市民。
 そんな特技を持ち合わせてはいない。
 
「とりあえず、何かあったら連絡をください」
「分かりました。あの電話というモノですよね?」
「そうなります」
「あの……あの電話は、魔法か何かで言葉を届けているのですか?」
「魔法というよりも電気通信――、電気信号とか、技術って感じですね」
「技術……、それは、もしかして……魔法では無いという事ですか?」
「そうですね。そもそも、この世界には魔力は存在しないらしいので」
「そうなのですか……。もしかして、その技術というのは誰でも使えますか?」
「はい。使えるからこそ、電話の使い方は、ルイーズ王女殿下に伝えました」
 
 俺の説明に神妙な面持ちで頷くアリアさん。
 そのあと、彼女を迎賓館まで送り届けたあと、俺は急いで雑貨店へ戻る。
 
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。五郎さん」
「ただいまです。そういえば、メディーナさんは?」
「初日に慣れない勤務でしたから疲れているようでしたので母屋で休んで頂いています」
「そうですか」
 
 そういえば、ショッピングセンターにも行ったからな。
 色々とストレスをため込んだのかも知れない。
 
「五郎さん」
「どうかされましたか?」
「この1万円以上の買い物ですけど……」
「それは迎賓館に持っていく為の商品と食材です」
「そうですか。それでは経費ってことで落としておきますね」
「お願いします」
 
 しばらく、雪音さんと他愛もない会話をしていると、ナイルさんが戻ってきた。
 
「ゴロウ様。いま戻りました」
「結構、時間がかかりましたね。おかえりな――!?」
 
 振り返ったところで、俺はナイルさんの様子を見て口を開ける。
 
「その豚は一体……」
 
 ナイルさんが、豚を一頭、背中に背負っていた。
 
「それがエミさんの義父という方から、護衛をしてくれた礼にと豚をもらいました」
「そ、そうですか……」
 
 それにしても豚をもらってもどうしようもないんだが……。
 俺は雪音さんの方を見るが、彼女も首を左右に振る。
 どうやら、俺も雪音さんも豚の解体についての知識も経験も無いと言うことが判明した。
 
「ゴロウ様、どうかなさいましたか?」
「――いえ。ちょっと豚の解体は――」
「なるほど。それでしたら、このナイルにお任せください。雪音様、ナイフを借りてもいいですか?」
「――え? あ、はい」
「それではゴロウ様、ナイフを持ってきます」
 
 軒先に豚を置いたまま母屋の方へと向かって行ったナイルさんだが、すぐに戻ってくる。
 すると、その手には包丁が握られていた。
 
「ゴロウ様、不必要な段ボールを頂いても?」
 
 もう好きにしてくれと言った感じで俺は頷く。
 すると、ナイルさんは、駐車場の――アスファルトの上に段ボールを敷くと、その上に豚を置く。
 そして慣れた手つきで豚を解体していく。
 
「慣れているんですね」
「はい。このくらいならエルム王国でしたら、子供でもできます」
 
 此処に出来ない大人が二人いるが、そこは敢えて突っ込まない方向で行くことにする。
 20分ほどで豚の解体が終わると途端に豚って絵面になる。
 
「ゴロウ様。ビニール袋で小分けしたいと思っていますが――」
「そうですね」
 
 俺はナイルさんに促される感じでビニール袋を渡す。
 するとナイルさんは、包丁で肉をブロックごとに切って、それぞれコンビニの袋に入れていく。
 全ての肉をコンビニ袋に入れたところで、その数は3桁を超えていた。
 俺が店番をしている間に、ナイルさんと雪音さんの二人で肉を自宅の冷凍庫と冷蔵庫に運んでいく。
 それを見ながら俺は店番を続けた。
 豚の解体――、豚の切り分け――、そして冷蔵庫と冷凍庫に入れる手間。
 全てが終わった頃には、店を閉める時間になっていた。
 店を閉めたあとは。母屋へと戻る。
 
「五郎さん。先にお風呂でも入っていてください。夕食を作りますので」
 
 そう言われたところで、俺は、今日一日何も食べていないことに気が付く。
 そういえば、色々とありすぎて、まったく! 飯を喰えていなかったな……。
 
「分かりました」
 
 俺は雪音さんの勧めで先にお風呂に入る事にするが――、
 
「ナイルさん、一体どこへ?」
 
 風呂場に向かおうとしたところで、外に出て行こうとするナイルさん。
 さらに、ナイルさんの肩にはフーちゃんがのっかっていた。
 
「いえ。少し鍛錬に河原に行ってきようかと」
 
 俺は思わず首を傾げる。
 どうして、フーちゃんを連れていくのかと。
 
 
 
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