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第222話 洋服を買いにいこう(1)

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 ジリリリと、言う音と共に目覚まし時計が鳴る。
 布団の中から手を伸ばしチャイムを止めてから、俺は欠伸をしながら布団の上で座る。
 
「朝、6時か……」
 
 まだ眠いが――、台所へと向かうと、雪音さんが朝食の準備をしていた。
 
「おはようございます。雪音さん」
「おはようございます、五郎さん」
 
 朝食を作っているので、顔を洗っては邪魔になると思い洗面台で顔を洗ったあと、俺は客間を覗く。
 すると客間には、誰もいない。
 畳まれた布団が置かれているだけ。
 
「雪音さん」
「どうかしましたか?」
 
 お味噌汁の具材と思われる大根を包丁で切りながら、こちらを見てくる雪音さん。
 
「皆は何処に?」
「あ、リーシャさんでしたら、朝早く、空を飛んで帰られました。何でも少し離れたところに配達があるからという事らしいです」
「あー」
 
 完全に社会人しているな。
 
「ナイルさんと、女性の方は、河原で訓練をすると出かけて行きました」
「そうですか」
 
 こんな朝早くから、大変だな。
 そうなると、朝食が出来るまで、しばらく暇になる。
 桜の部屋に行き、襖を開けるとフーちゃんは、桜の枕になっていた。
 
「ふむ……。まぁ、いいか」
 
 静かに襖を〆る。
 そして、俺は居間に戻り、布団に入る。
 とりあえず二度寝をしよう。
 それがいい。
 眠いし。
 掛布団をかけて、俺は瞳を閉じた。
 それから1時間後、俺は雪音さんに起こされた。
 
「五郎さん。そろそろ朝食の時間ですよ?」
「もう、そんな時間ですか……」
 
 時計に目を向けると、きっかりと1時間が過ぎていて、午前7時を少し過ぎていた。
 
「今日は、客間にお食事を用意しておきました」
「今日は、人数多いですからね」
「そうですね」
 
 雪音さんと会話しながらも、俺は居間へと入る。
 すると、すでにナイルさんやメディーナさんが座って待っていた。
 
「眠いの……」
「わうー」
 
 俺に遅れて、雪音さんに起こされたのか白いワンピースに着替えた桜が、頭の上にフーちゃんを載せたまま姿を見せる。
 そして、ふらついた足取りで、俺の席の横に座る。
 そんな桜の一挙手一投足を見ていたナイルさんは俺を見てくる。
 
「桜様は眠そうですね」
「そうですね」
「それと、ゴロウ様、おはようございます」
 
 そう俺に話しかけてくるナイルさんは、Tシャツに短パンと言った格好だ。
 もう肌寒い季節に差し掛かって来ているというのに、大丈夫なのだろうか?
 
「おはようございます。ナイルさん、メディーナさん」
「私もおはようございます。」
「おはようございます」
 
 二人と挨拶を交わしたところで、桜は、まだ眠いのか舟を漕いでいる。
 
「雪音さん。少し、桜には朝早いみたいなので、寝かせてきますね」
「そうですね。昨日は、色々とありましたから」
 
 俺は、桜を抱き上げる。
 するとフーちゃんは器用に畳の上に降りると、桜の部屋に向かう俺のあとを忠犬ハチ公のごとくついてきた。
 桜を布団の上に下ろして寝かせたあと、客間に戻る。
 
「どうですか?」
 
 心配そうに聞いてくる雪音さん。
 
「よく寝ています」
「やっぱり昨日は、色々と疲れたんでしょうね」
 
 そう会話をしながら、畳の上に座ったあと食事をする。
 
「この料理、とても美味しいですね。何と言う料理なのですか?」
 
 そうメディーナが言葉を口にすると、雪音さんが丁寧に説明していた。 
 そんな様子を横目で見ながら、
 
「そういえば、ナイルさん」
「はい、何でしょうか?」
「今日は、ナイルさん達の洋服を買いに行きたいと思うのですが、どうでしょうか?」
「どうも何も、こちらこそ願ったり叶ったりです。着替えがありませんから――」
「五郎さん、ナイルさん達は、洋服は持って来なかったのですか?」
 
 俺とナイルさんの話を聞いていた雪音さんが、聞いてくる。
 
「はい。日本は、四季があって、もうすぐ冬ですから。異世界の服装だと不審に思われる事と防寒着的に難しいと思い、こちらで洋服を用意してもらうという事で話をしていました」
「そういうことなのですね」
 
 俺の説明に雪音さんは納得してくれたみたいで頷くと――、
 
「それでしたら、メディーナさんも?」
「はい。私も、ご一緒する事になっています」
 
 続けて、雪音さんは気になったのか、メディーナさんにも確認する。
 
「五郎さん」
「どうかしましたか?」
「もしかして、エメラスさんやルイーズさんも、洋服を用意していないのでは……」
 
 その質問に、俺は頷く。
 
「ですよね……」
 
 少し難しい表情をする雪音さんは、しばらく考えたあと、「それは困りましたね」と、呟く。
 
「ルイーズ王女殿下とエメラス侯爵令嬢の服装の件ですか? ゴロウ様」
「はい。たぶん、二人共、高貴な身分の方なので、服装を用意するとなると色々と大変かと――」
 
 何となく雪音さんの「困りましたね」と、言う言葉から察して口にしてみたが、雪音さんが「そうです」と肯定してくれた事で間違ってはいなかったようだ。
 
「我々と同じ服を購入ですか……。たしかに、ゴロウ様の世界の服は、よく出来てはいますが――」
 
 やはり難点があるらしい。
 まぁ、庶民と高貴な身分では、普通の服とブランドの服を選ぶくらい差があるのだろう。
 
「……皆さん」
 
 考え込んでいた雪音さんが言葉を発する。
 
「まずは、全員で買い物に行くというのはどうでしょうか?」
「買い物ですか。――でも、昨日は、お店は急遽、休みましたからね」
「はい。――ですから! 男性陣は、五郎さんが服装を見繕って――、女性陣は、私が同行するという事でどうでしょうか? 御店の事に関しては、美恵子さんに頑張ってもらいましょう」
「それしかないですよね」
「はい」
 
 俺の確認に、雪音さんはコクリと頷いた。
 
 
 
 ――1時間後、月山雑貨店を開店。
 
 そして、駐車場には結城村で唯一のマイクロバスが停まっていた。
 もちろん、その前には俺と雪音さんと根室恵美さんの3人がバスを見ていた。
 
「何だかすいません。田口さん」
「いえ。それよりも、どこまで行かれるんですか?」
「ファッションセンター「やまむら」まで行こうと思っています。なるべくお昼までには帰ってきますので――」
「そうですか」
 
 俺と会話している間にも、恵美さんの視線は何度かナイルさんの方へと。
 そしてナイルさんは、メディーナさんに、店のことについて説明をしている。
 正直言えば、恵美さんはナイルさんに気が取られていて、俺の話をあまり聞いてない気がする。
 まぁ、一応は外国から戻ってきたって事で恵美さんには説明したから、一度は自分が仕事を教えた相手だから、気になるのは分からなくもない。
 
「あの、恵美さん。聞いていますか?」
「――は、はい!」
「何か、気になることでもありましたか?」
「――い、いえ」
 
 何時も仕事の時には、ハキハキと話す恵美さんなのに、今日は、ハッキリと聞いてこない事に俺は内心では首を傾げていた。
 
「あの……、あの二人は……知り合いなのですか?」
 
 何故に、そんなことを聞くのか。
 ただ、そう聞かれた時に答えは用意してあった。
 二人の素性を勘繰られない為の設定。
 
「ナイルさんと、メディーナさんは兄妹で、二人で留学に来ているんですよ」
「え? 兄妹?」
「はい」
 
 俺は、自信満々に答える。
 
「そうなのですか……、よかった……」
 
 何だか、ホッと胸を撫でおろす恵美さんに俺は――、
 
「まぁ、得体が知れないと気になるからな」
 
 ――と、完璧なまでの推理をして心のなかで頷く。
 
「――では、忙しくなる前に出かけて来ますので、何かあったら携帯に電話してください」
「分かりました。それでは娘を宜しくお願いします」
「任せてください」
 
 恵美さんに店のことは任せることにする。
 全員がマイクロバスに乗り込んだところで、俺も運転席につく。
 ミラーを調整していると、
 
「わーい! お買い物なの! お洋服なの!」
「うちも久しぶり!」
 
 テンションの高い子供達の声が聞こえてくる。
 今回は、恵美さんが店舗の方で掛かり切りになるという事もあり、ついでに冬服を買う為に桜と和美ちゃんも、一緒に行くことになった。
 おかげで二人共テンションは高い。
 





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