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第220話 夫人ランキング
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「ゴロウ様」
「どうかなさいましたか? ルイーズ様」
車を始動させた所で、ルイーズ王女殿下が迎賓館から出てくる。
「あの……、あまりエメラスを嫌わないでください」
「え?」
俺は、思わず首を傾げる。
別に俺は嫌った覚えなんかはないんだが……。
ただ、ちょっと苦手かなと思ったくらいだ。
「別に嫌ってはいませんよ。だから、もう午前2時を過ぎていますから、今日はお休みください。ルイーズ様に何かあれば、王宮側との取引交渉がようやくまとまったのに白紙になってしまいますから」
「――ッ!」
眉間に皺を寄せた彼女。
それは、どこかショックを受けたような表情だという事が、俺でも一瞬で理解できた。
「あ、ルイーズ様。自分は、そういう意味では言った訳ではないです」
とりあえずフォローする為に、俺は頭をフル回転させながら言葉を選びつつ、
「王宮側は――、国王陛下は、ルイーズ王女殿下を、とても心配しています。侯爵家のエメラスさんを護衛として付けたのも、その一環だと思いますから。ですから、まだ婚姻の段階の女性に何かあるような事は、自分としても控えたいと考えています。ですから、私はエメラスさんのことに関しては何とも思っていませんので気にしないでください」
俺の言葉にコクリと頷くルイーズ王女殿下。
正直、今、言った言葉は、俺の素直な気持ちで嘘偽りのない本音。
ただし、王宮側がルイーズ王女殿下を、どこまで心配しているか――、大切にしているかは、正直なところ、シルベリア王女よりも下だとは思っている。
そのくらいは、外部から見ていても温度差で分かる。
「分かりました。ゴロウ様。ゴロウ様のお心遣い感謝致します。出来れば、辺境伯様が仰っていた日本という国を見て回りたいと思っているのですが――」
その言葉に、俺は彼女の真意を測りかねる。
そもそも40歳を過ぎた男相手に、16歳くらいの少女が、恋をするという事は考え難い。
そう考えると、政略結婚というのは良くないよなと思ってしまう。
それと同時に、何かしらの我儘くらいは聞いてもいいのでは? とも考えてしまう自分がいる。
「分かりました。それでは、今日、昼頃に出かけるというのはどうでしょうか?」
「今日のお昼ですか?」
「はい。難しいですか?」
「――い、いえ! ゴロウ様の仕える国が、どういったモノなのかを、この目で確かめることが出来るのでしたら是非に!」
「それでは、お昼過ぎに迎えにきます」
「お待ちしております。ゴロウ様」
会話を終えたあと、俺は自宅へと戻る。
時刻は、すでに午前3時を過ぎており、異世界にリーシャを置いてから2時間が経過していた。
「今、戻りました」
バックヤードを通って店舗内を通り、俺は異世界側へと出る。
すると、そこにはリーシャが馬車の屋根上に座り、退屈そうにしていた。
さらには、回りにはナイルさんやメディーナさんも居り、その表情は疲れ切っていた。
「何かあったんですか?」
「あ! ゴロウ様!」
背中のコウモリの羽をパタパタと動かしながら、俺の目ねお前に降りてくるリーシャは、先ほど、馬車の上で座っていた時の不機嫌な感じとは一転! 上機嫌な表情へと変わっていた。
そんな彼女は、俺がナイルさんに話かけたところで、俺の存在に気が付き、こうして目の前に移動してきた訳だが――、
「すいません。待たせてしまって」
「問題ないわ。それよりも王家の女を先に案内したのよね?」
「何か問題でも?」
俺の問いかけに首を振る彼女。
「別に問題はないわ。でも、序列は意識して欲しいの」
「序列?」
「ゴロウ様が大事にされている雪音様が、ゴロウ様の夫人になるのは、私も了承しているわ。だって――」
「だって?」
「いいえ。何でもないわ。――で、でも! 第四王女は、どう見ても、私よりも優先順位は低いと思うの。そこはゴロウ様も理解して欲しいわ」
俺は、チラリとナイルさんの方へと視線を向けるが、少し困った表情を俺に向けて来ていることから、どうやらリーシャの発言は、完全に的外れではないようだ。
ただ、ここで既に国王陛下からの命令で、俺の住んでいる世界に移動しているルイーズ王女殿下は、婚姻関係にある人物。
たいして、リーシャは、まだ口約束の段階。
どちらが大事かと考えれば――、
「その都度、対応させていただきます」
「「「「……」」」」
これしかない。
そもそもリーシャの立ち位置とエルム王国内での扱いや身分が不明瞭すぎて、どう対応するのが最善なのか分からないのだ。
「もう……」
その先をリーシャが口にすることはない。
それだけで、リーシャが此方の考えを理解してくれたと安堵すると同時に、少し困った。
日本で働くようになってリーシャは、俺がどう考えて行動するのかを予測するようになってきたと。
「とりあえず、リーシャさん。それとナイルさん、メディーナさん。お二人も、リーシャさんと同じく異世界へ連れて行きます」
俺は、最初はナイルさん。
次にメディーナさんと店舗の中へと手を繋いだまま移動する。
その時、やはりメディーナさんの時は、店舗全体が薄っすらと光る。
異世界人は、どれだけ体が悪いのか……。
「ナイルさん」
「はい。ゴロウ様」
「俺が居ない間に何かありましたか?」
「実は、リーシャ様が戻って来られた時に、ルイーゼ王女殿下の存在に気が付いたみたいで――、それで自分よりも先に異世界に案内した事は第二夫人の沽券にかかわると――」
「その夫人の順位は結構、重要だったりしますか?」
そんな話は異世界を舞台にした本を何十冊も勉強の為に読んだが書いてなかった。
ただ単に読み切れていなかっただけとも言えるが。
「はい。大国傘下の小国の王家から姫君たちを娶る際に、夫人の順位は、大変に重要な物です。何より、ハイエルフ族の彼女にとって本来でしたら、ゴロウ様の正妻は自分と考えていたのでしょう。ただ、ゴロウ様は雪音様を大事にしておられますから、それで第二夫人でもと考えたのかも知れません。そして、その第二夫人のラインは譲れないと考えておられるのかも……」
「なるほど……」
色々とあるんだな。
今後は、気を付けないとな。
「申し訳ありませんでした。ゴロウ様」
「ナイルさんが頭を下げることではないので、止してください」
「いえ。私が気づけなかっただけです」
御通夜ムードになってしまう。
ここは何とかしなければ!
「ナイルさん。とりあえず、人間! 間違いの一つや二つはあります。あまり気を落さないようにしてください」
「お言葉、ありがとうざいます」
頭を下げてくるナイルさんと別れて店の外――、異世界側へと出たところで、
「リーシャ、帰ろう」
「はーい」
俺と腕を組んでくるリーシャ。
手を繋いでいても問題ないと言うのに、まるで見せびらかしているようだ。
リーシャを連れて店舗へと入る。
「ナイルさん、メディーナさん、お待たせしました。それでは、母屋に案内します」
3人を連れて母屋の――、玄関の戸を開ける。
「とりあえず、ここが土間と言いまして靴を脱ぐ場所ですので靴を脱いでから家に上がってください」
俺の説明に、リーシャとナイルさんが靴を脱ぎ、家に上がる。
そして、そんな二人の様子を見ていたメディーナさんも、靴を脱いだあと、家に上がった。
3人を居間に案内したところで俺は台所へと向かう。
「おかえりなさい。五郎さん」
すると台所に到着したところで桜の部屋から出てきたパジャマ姿の雪音さんが眠そうな眼で、冷蔵庫から麦茶が入ったピッチャーを取り出した。
「お客様には、麦茶でいいかしら?」
「そうですね。ただ、雪音さんは寝ていてください。俺がもてなすので」
「どうかなさいましたか? ルイーズ様」
車を始動させた所で、ルイーズ王女殿下が迎賓館から出てくる。
「あの……、あまりエメラスを嫌わないでください」
「え?」
俺は、思わず首を傾げる。
別に俺は嫌った覚えなんかはないんだが……。
ただ、ちょっと苦手かなと思ったくらいだ。
「別に嫌ってはいませんよ。だから、もう午前2時を過ぎていますから、今日はお休みください。ルイーズ様に何かあれば、王宮側との取引交渉がようやくまとまったのに白紙になってしまいますから」
「――ッ!」
眉間に皺を寄せた彼女。
それは、どこかショックを受けたような表情だという事が、俺でも一瞬で理解できた。
「あ、ルイーズ様。自分は、そういう意味では言った訳ではないです」
とりあえずフォローする為に、俺は頭をフル回転させながら言葉を選びつつ、
「王宮側は――、国王陛下は、ルイーズ王女殿下を、とても心配しています。侯爵家のエメラスさんを護衛として付けたのも、その一環だと思いますから。ですから、まだ婚姻の段階の女性に何かあるような事は、自分としても控えたいと考えています。ですから、私はエメラスさんのことに関しては何とも思っていませんので気にしないでください」
俺の言葉にコクリと頷くルイーズ王女殿下。
正直、今、言った言葉は、俺の素直な気持ちで嘘偽りのない本音。
ただし、王宮側がルイーズ王女殿下を、どこまで心配しているか――、大切にしているかは、正直なところ、シルベリア王女よりも下だとは思っている。
そのくらいは、外部から見ていても温度差で分かる。
「分かりました。ゴロウ様。ゴロウ様のお心遣い感謝致します。出来れば、辺境伯様が仰っていた日本という国を見て回りたいと思っているのですが――」
その言葉に、俺は彼女の真意を測りかねる。
そもそも40歳を過ぎた男相手に、16歳くらいの少女が、恋をするという事は考え難い。
そう考えると、政略結婚というのは良くないよなと思ってしまう。
それと同時に、何かしらの我儘くらいは聞いてもいいのでは? とも考えてしまう自分がいる。
「分かりました。それでは、今日、昼頃に出かけるというのはどうでしょうか?」
「今日のお昼ですか?」
「はい。難しいですか?」
「――い、いえ! ゴロウ様の仕える国が、どういったモノなのかを、この目で確かめることが出来るのでしたら是非に!」
「それでは、お昼過ぎに迎えにきます」
「お待ちしております。ゴロウ様」
会話を終えたあと、俺は自宅へと戻る。
時刻は、すでに午前3時を過ぎており、異世界にリーシャを置いてから2時間が経過していた。
「今、戻りました」
バックヤードを通って店舗内を通り、俺は異世界側へと出る。
すると、そこにはリーシャが馬車の屋根上に座り、退屈そうにしていた。
さらには、回りにはナイルさんやメディーナさんも居り、その表情は疲れ切っていた。
「何かあったんですか?」
「あ! ゴロウ様!」
背中のコウモリの羽をパタパタと動かしながら、俺の目ねお前に降りてくるリーシャは、先ほど、馬車の上で座っていた時の不機嫌な感じとは一転! 上機嫌な表情へと変わっていた。
そんな彼女は、俺がナイルさんに話かけたところで、俺の存在に気が付き、こうして目の前に移動してきた訳だが――、
「すいません。待たせてしまって」
「問題ないわ。それよりも王家の女を先に案内したのよね?」
「何か問題でも?」
俺の問いかけに首を振る彼女。
「別に問題はないわ。でも、序列は意識して欲しいの」
「序列?」
「ゴロウ様が大事にされている雪音様が、ゴロウ様の夫人になるのは、私も了承しているわ。だって――」
「だって?」
「いいえ。何でもないわ。――で、でも! 第四王女は、どう見ても、私よりも優先順位は低いと思うの。そこはゴロウ様も理解して欲しいわ」
俺は、チラリとナイルさんの方へと視線を向けるが、少し困った表情を俺に向けて来ていることから、どうやらリーシャの発言は、完全に的外れではないようだ。
ただ、ここで既に国王陛下からの命令で、俺の住んでいる世界に移動しているルイーズ王女殿下は、婚姻関係にある人物。
たいして、リーシャは、まだ口約束の段階。
どちらが大事かと考えれば――、
「その都度、対応させていただきます」
「「「「……」」」」
これしかない。
そもそもリーシャの立ち位置とエルム王国内での扱いや身分が不明瞭すぎて、どう対応するのが最善なのか分からないのだ。
「もう……」
その先をリーシャが口にすることはない。
それだけで、リーシャが此方の考えを理解してくれたと安堵すると同時に、少し困った。
日本で働くようになってリーシャは、俺がどう考えて行動するのかを予測するようになってきたと。
「とりあえず、リーシャさん。それとナイルさん、メディーナさん。お二人も、リーシャさんと同じく異世界へ連れて行きます」
俺は、最初はナイルさん。
次にメディーナさんと店舗の中へと手を繋いだまま移動する。
その時、やはりメディーナさんの時は、店舗全体が薄っすらと光る。
異世界人は、どれだけ体が悪いのか……。
「ナイルさん」
「はい。ゴロウ様」
「俺が居ない間に何かありましたか?」
「実は、リーシャ様が戻って来られた時に、ルイーゼ王女殿下の存在に気が付いたみたいで――、それで自分よりも先に異世界に案内した事は第二夫人の沽券にかかわると――」
「その夫人の順位は結構、重要だったりしますか?」
そんな話は異世界を舞台にした本を何十冊も勉強の為に読んだが書いてなかった。
ただ単に読み切れていなかっただけとも言えるが。
「はい。大国傘下の小国の王家から姫君たちを娶る際に、夫人の順位は、大変に重要な物です。何より、ハイエルフ族の彼女にとって本来でしたら、ゴロウ様の正妻は自分と考えていたのでしょう。ただ、ゴロウ様は雪音様を大事にしておられますから、それで第二夫人でもと考えたのかも知れません。そして、その第二夫人のラインは譲れないと考えておられるのかも……」
「なるほど……」
色々とあるんだな。
今後は、気を付けないとな。
「申し訳ありませんでした。ゴロウ様」
「ナイルさんが頭を下げることではないので、止してください」
「いえ。私が気づけなかっただけです」
御通夜ムードになってしまう。
ここは何とかしなければ!
「ナイルさん。とりあえず、人間! 間違いの一つや二つはあります。あまり気を落さないようにしてください」
「お言葉、ありがとうざいます」
頭を下げてくるナイルさんと別れて店の外――、異世界側へと出たところで、
「リーシャ、帰ろう」
「はーい」
俺と腕を組んでくるリーシャ。
手を繋いでいても問題ないと言うのに、まるで見せびらかしているようだ。
リーシャを連れて店舗へと入る。
「ナイルさん、メディーナさん、お待たせしました。それでは、母屋に案内します」
3人を連れて母屋の――、玄関の戸を開ける。
「とりあえず、ここが土間と言いまして靴を脱ぐ場所ですので靴を脱いでから家に上がってください」
俺の説明に、リーシャとナイルさんが靴を脱ぎ、家に上がる。
そして、そんな二人の様子を見ていたメディーナさんも、靴を脱いだあと、家に上がった。
3人を居間に案内したところで俺は台所へと向かう。
「おかえりなさい。五郎さん」
すると台所に到着したところで桜の部屋から出てきたパジャマ姿の雪音さんが眠そうな眼で、冷蔵庫から麦茶が入ったピッチャーを取り出した。
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「そうですね。ただ、雪音さんは寝ていてください。俺がもてなすので」
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