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第218話 王女殿下との顔合わせ

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 残念がられても困る。
 東北の冬の気温は、0度を下回る事がある。
しかも結城村は、周辺を山々に囲まれていて盆地なので気温がマイナスになることがある。
そんな中で、異世界の服装で生活していたら、普通に体を壊す。
 
「そんなに残念そうにしないでください。冬は色々と遊べますよ! 雪とか降りますし!」
「雪というのは山の頂で振ると言われている?」
「はい」
 
 俺は頷く。
 それに、ナイルさんは驚いたような表情をする。
 
「あ、あの……、ゴロウ様」
「はい?」
「雪が降るという事でしたが、ゴロウ様の自宅で寝起きしていた時は、蒸し暑くもありまいたが?」
「あー。日本には四季があるので」
「四季――、たしか店舗で商品を見ていた時に、夏限定と書かれていたものがあったような――」
「そう、それです。日本には、限定商品と言うのがありまして、ナイルさんが仕事をしていたときは季節は夏でしたので夏限定商品を取り扱っていました。主にアイスなど」
「――ということは……」
「はい! 夏の反対、冬と言うのがあります。その時には、雪が降ります」
 
 ゴクリと唾を呑み込むナイルさん。
 
「どうかしましたか?」
「――いえ。あの……、ゴロウ様の家で冬を乗り切れるのかと――」
「まぁ、暖房器具もありますから」
「暖房器具?」
 
 そういえば、ナイルさんが寝泊まりしていた時と店で仕事をしていた時には冷蔵・冷凍商品しかなかったから、暖房器具というのは見なかったかも知れない。
 
「要は、室内を温める機械ですね」
「それは、まだ――」
「ナイルさんは見てないですね」
「なるほど……。ゴロウ様の世界には、まだまだ知らないことがたくさんあるのですね」
「そうですね。ナイルさんでも知らないことがたくさんありますから、メディーナさんには色々と教えてあげてください」
「分かりました。このナイル! ノーマン様の期待に応えられるよう頑張ります!」
 
 ナイルさんは、キッ! と、居住まいを正す。
 
「お前達。この馬に乗せてある品々を、仮駐屯部屋まで移動しておけ」
 
 その言葉に兵士達は、敬礼をすると、馬に載せていた品々と降ろした品々を手に真正面の建物の中に入っていく。
 
「ん?」
「どうかしましたか?」
「いえ。正面の建物を仮駐屯部屋と――」
「はい。ゴロウ様の店を守る為に周辺の家々を辺境伯様が立ち退かせました」
「あー」
 
 だから、初日には大勢の冒険者らしい人達が歩いていた通りが、ガラガラになっていたのか。
 
「安全面の為ですので」
 
 そうナイルさんが説明してくる。
 さすがに、そう言われると、俺の方としても何も言えない。
 
「そうですか。ただ、今後は御店をやっていく上で周辺の商店とも仲良くやっていく必要がありますから、なるべく強硬策は取らないようにお願いします」
「分かっています。その辺は、ノーマン様も期限を設けて立ち退かせておりますので」
「それならいいのですが……」
 
 まぁ、そのへんは、異世界の常識に則ってやってもらうしかないよな。
 日本の常識を持ち込んで王家とゴタゴタになったわけだし。
 また王家の時のように面倒事になるのはごめんだ。
 投げられる仕事は、投げておいた方がいい。
 その方が、辺境伯が上手くやってくれるはずだし。
 
 
 
 ――しばらくして、馬車が到着する。
 
「お待たせしました。ツキヤマ ゴロウ様」
「え?」
 
 何故に馬車が来るのかと思っていたら、馬車から出て貴族風に挨拶をしてきたのは、エルム王国、第四王女のルイーズ・ド・エルム王女殿下であった。
 彼女は、シルベリア王女殿下とは違い、純白なドレスを着ている。
 
「ど、どうしてルイーズ様が?」
 
 まだ婚約の段階だったはず。
 それなのに王女殿下が直接来られるのは、さすがに俺は驚いてしまった。
 
「ルイーズ様。まだ、しばらくはノーマン様の御屋敷で――という話だったはずですが?」
 
 驚いたのは俺だけでなくナイルさんも同じようだ。
 それに対して、おっとりとした声色で答えたのはルイーズ王女殿下で、
 
「わたくしも、そう伺っておりましが、お父様から命じられまして」
「国王陛下から?」
 
 俺の問いかけに「はい」と、頷き答えてくるルイーズ王女殿下は口を開く。
 
「ゴロウ様は、日本では、かなり上位の貴族に入られるとのことで、早めに輿入れしておくようにと、お父様に命じられました」
「そ、そうですか……」
 
 秋田市を見せたのは、有効だったかも知れないが、その衝撃は俺が思っていたよりも大きかったようだ。
 まさか、こんなに早くルイーズ王女殿下を遣わせるとは。
 
「ツキヤマ ゴロウ様。これから、宜しくお願い致しますわ」
「分かりました」
「それと――」
 
 もう一人、女性が歩み出てくる。
 
「アリアと言います。辺境伯邸でメイドをしておりました。メディーナ様ともども、宜しくお願いします」
 
 メイド服を着た女性が頭を下げてくる。
 その女性は、たしかに辺境伯邸で見た事がある。
 給仕をしていたと記録している。
 
「それと……」
 
 まだ何かあるのか?
 それよりも、どうして困ったような表情を――。
 そう考えていると、空から女が降ってくる。
 地響きと共に、金属音を鳴らしながら立ち上がる影。
 煙が落ち着いてくると、影は腕を横に一閃。
 土埃が、一蹴され――、
 
「エメラス・フォン・クラウスだ! これから、宜しく頼むぞ! ツキヤマ!」
 
 困ったような声を、ルイーズ王女殿下が何故に上げたのか俺にもようやく理解出来た。
 例の女性騎士だ。
 女性騎士というか姫騎士とも言った方がいいかも知れない。
 
「あ、はい……。よろしくお願いします」
 
 たしか以前に侯爵家の娘だと聞いたことがある。
 これは面倒な事になりそうだ。
 
「エメラス様? もしかして……」
 
 俺は一応、確かめる意味合いも込めて彼女の名前を口にする。
 既に、「これから、宜しく頼むぞ!」と、告げている以上、間違いはないと思うが……。
 
「ツキヤマの領地で、ルイーズ様の護衛に付くことになった! よろしく頼むぞ!」
 
 やっぱりかー!
 そうなると、異世界に来るのは、ルイーズ王女殿下、エメラス様、アリアにメディーナに、ナイルさんと。
 一気に定住しすぎだろう……。
 
「分かりました。とりあえず、あとで話し合いをしましょう」
「ご理解頂きありがとうございます」
 
 ルイーズ王女殿下が、頭を下げてくる。
 そしてエメラスさんは、当然のごとくルイーズ王女殿下の後ろに控えていて――、その後ろにはアリアさんがいる。
 
「ナイルさん」
「言わないでください……。国王陛下の意思決定は、絶対ですので」
「ですよね……」
「ツキヤマ」
 
 ナイルさんに、どうすればいいのか確認しようとしたところで、エメラスさんが話しかけてくる。
 
「エメラス様、何か?」
「エメラスでよい。それよりも、陛下が私をルイーズ王女殿下の護衛に任命されたのだが、その事に、貴殿は何か知っていることはあるか、教えてもらいたい」
「いえ。私も何のことか……」
 
 流石にヘリコプターに乗せて秋田市を見せましたとは言えない。
 
「ふむ……」
 
 それにしても話し方が以前とは違うな。
 まるで、男のように鋭い言い方だ。
 やはり護衛と言う任務上、気を張っているのかも知れない。
 
「エメラス。ゴロウ様とは初対面ではないのですから、そこまで他人行儀な話しぶりは失礼ですよ?」
「――うっ……」
 
 ほら、ルイーズ王女殿下から叱責を受けているし。
 
「申し訳ありません。ゴロウ様。それと、今後、異世界でルイーズ様の護衛をしているのですから、私の役職と身分はお忘れください。気軽にエメラスと呼んで頂ければ結構です」
「分かりました」
 
 ここで断るという選択肢はない。
 俺は、何度も頷く。
 
 
   
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