上 下
211 / 437

第211話 王家側との交渉(1)

しおりを挟む
 それを見て、俺はホッと胸をなでおろす。
 藤和さんに、ヘリに国王陛下を乗せると説明した時に俺は藤和さんに言われた。
 それなら日本の建築レベルを同時に見せる方がいいと。
 愚王でもない限り、建築レベルを見れば、その国の国力を分かるはずだと。
 
「『してゴロウ』」
「『はい?』」
「『秋田市には何人ほどが住んでおるのだ?』」
「『秋田市だけだと31万人ですね』」
「『ほう。それが一都市となると――、』」
「『秋田県だと、人口は100万人近くになります。日本国全体ですと、1億2000万人を超えます』」
「『……冗談にしか聞こえない数字だが、本当なのだな?』」
 
 辺境伯は、東京都や静岡に視察に伺ったはず。
なのに、敢えて聞いてきたということは……、国王陛下に遠回しに釘をさすといったところか。
 
「『本当です』」
「『わ、我が、王国の100倍以上……』」
 
 あ――、これは、かなりショックを受けているような気がする。
 
「『月山様』」
 
 第一王女も、顔色が悪い。
 
「『それでは迎賓館へと向かいます』」
 
 十分にインパクトを与えたと思い、俺は迎賓館へとヘリの進路を向けた。
 迎賓館のヘリポートに到着したところで、俺は運転席から移動し外へと通じるドアをスライドさせて開ける。
 
「到着しました。皆様、お降りください」
 
 そう告げるが、誰一人降りようとしない。
 俺は、内心では首を傾げるが、そこでようやく国王陛下たちがシートベルトの外し方を知らないことに気が付き、全員の乗降をサポートする。
 全員が降りたのを確認したところで、
 
「国王陛下、こちらがエルム王国の大使館兼へ迎賓館となります」
「ほう。つまり、この乗り物は――」
「今回は、急遽と言う事もあり、用意したモノになりますが、時間があればエルム王国専用のヘリを用意する予定となっています」
「なるほど……。ふむ……」
 
 俺の言葉に、感心したように頷く国王陛下は、第三セクターが作ったあと放置していた建物の屋上を歩くと、3階建ての建物の屋上の端まで移動する。
 
「中々に悪くはない」
「ありがとうございます。建物の中も、確認して頂ければと思います」
「うむ。――では案内してもらおうかの」
 
 俺を先頭にして、建物の中へと足を踏み入れる。
 すると、ヘリの音を聞こえたことで藤和さんの指示で集められたのか劇団員の人達がメイド服や執事服を着た格好で並んでおり――、
 
「おかえりなさいませ。旦那様」
 
 ――と、声を揃えて頭を下げてきた。
 それは、本当に一糸乱れることなく。
 
「中々に、躾に行き届いた使用人を使っているのだな。ツキヤマよ」
「お褒めに預かり光栄です」
 
 そう俺は言葉を返す。
 そんな俺と、国王陛下の話を聞いていた劇団員の人達は――、
 
「当主様。お茶の準備が出来ています」
 
 そう話しかけてくる。
 どうやら、芝居がかった国王陛下の口ぶり――、さらには、連れているアロイスさんやナイルさんが兵士の恰好をしていること。
 そして、本物の御姫様の――、ドレスを着ているシルベリア王女や、ノーマン辺境伯を見て芝居だと思ってくれたようだ。
 
「ああ。少ししたら用意をしてくれ。それまでは迎賓館の中を案内するから」
「分かりました」
 
 俺は当主らしい口調で話したあと、迎賓館の中を案内する事する。
 
「――陛下。こちらが浴室となります」
「ほう。このような建物の中にも浴室を完備しているとはな……」
 
 俺は浴室の使い方を説明していく。
 もちろん浴室は広い。
理由は簡単で元は、第三セクターが何十人もの宿泊者を泊めようとも考えていたからだ。
それをリフォームしたことで、一般的な宿と同じくらいの広さ迄拡張されている。
 
「お父様! これを――、ここを回しただけで! 水と熱い湯が、それぞれ出てきますわ!」
 
 説明をして桶を置くとシルベリア王女が恐る恐ると言った様子で蛇口を捻る。
 すると水やお湯が出てくる事に驚いていた。
 
「ふむ……、これはどうやっているのだ?」
 
 蛇口を捻るだけで出る冷水と、温水。
 それを興味深く観察していた国王陛下が、俺へと尋ねてくる。
 
「水は、浄水場と言いまして、そこで浄化された水を上下水道を通して、こちらの迎賓館に供給されていますので」
「ほう。それでは、熱いお湯については?」
「それは、ガスを使って――、簡単に説明致しますと火で水を沸かした上で、蛇口を捻ったらお湯が出る方法を取っています」
「ガスというのは知らんが理論は理解できた。それにしても、随分と――」
「どうかされましたか?」
「――いや、何でもない。それよりも、ここは蒸すな」
「一応、お風呂場ですので」
 
 俺は、第三セクターが力を入れて作った屋内露天風呂を見て溜息をつく。
 税金で作られた露天風呂は、かなり力を入れて作られたのか、40人以上がお風呂に浸かっても、余裕があるほど。
 
「そうか。それでは次のところを案内してもらおうかの」
「もちろんです」
 
 俺は、台所を次に案内する。
その後は、各部屋を巡って説明していき――、一通り説明を終えたところでリビングに到着する。
 
「国王陛下、お待ちしておりました」
 
 すでに俺達が来ることを見越していたのか、藤和さんが執事服を着て待っていた。
 
「どうでしょうか? 迎賓館の方は、ご覧いただけましたでしょうか?」
「うむ。大義であると言いたいところではあるのう」
 
 満足そうに国王は頷くと、ソファーに腰を下ろす。
 
「ありがとうございます」
 
 そう頭を下げたあと、藤和さんは両手を軽く叩く。
 するとメイドの恰好をした劇団員が、お茶会の準備を行い終えると部屋から出ていく。
 
「本日は、月山様の指示により、用意したケーキの数々を用意致しました。国王陛下並びに辺境伯様には、サンドイッチなどの軽食を――、お口に合えば幸いです」
 
 たしかに、テーブルの上には、これでもかと言うほどの食材が載せられている。
 短時間にこれだけのモノを用意するとは、流石は藤和さんと言ったところだ。
 お茶会が始まり、空腹も満たされたところで国王陛下が口を開く。
 
「ツキヤマよ」
「どうかなさいましたか? 国王陛下」
「今回の視察であるが、問題はないと余は思っておる」
「――と、申されますと?」
「臣下からの報告を聞いた限りでは、ツキヤマ家の全容を掴み切れることは出来なかった。そう言っているのだ」
 
 つまり、母屋のことを言っているのか……。
 それとも、経済力のことでも?
 
「そうでしたか。それで、ルイーズ王女殿下を、此方に送るかどうかを考えていたという事ですか」
「そうなる。だが、こちらの世界には長くはいる事は出来ないのだろう? その辺は、どう考えているのだ?」
 
 ルイーズ王女の滞在期間について確認してくる国王陛下。
 その問いかけに、俺は、藤和さんの方をチラリを見る。
 
「陛下。先代の当主様ゲシュペンスト様は、一ヵ月一度は体調が優れないという理由で、エルム王国に戻っていました。それを参考にされますと――」
「あの歴代の魔法師の中でも最強の力を持つ男でも一ヵ月に一回となると……、ルイーズは魔力を殆どもっておらんからな。一週間に一度は、戻った方がよいのかも知れんな」
 
 この期間については、正直ハッタリだ。
 既に故人となっている以上、いくらでも嘘をつくことはできる。
 実際、ナイルさんは、一ヵ月以上、戻ってないし。
 ただ、それを知っているのは辺境伯や、それに近しい人達だけで、王族の方々は知る由もない。
 何しろ、命が掛かっているのだ。
 自分の体で人体実験のような真似はできないだろう。
 それに、俺と繋がりを持っておきたい王宮側としては、庶子の子とは言え王族の血を引くルイーズ王女殿下を無碍に扱うこともできない。
 そう考えると――、
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...