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第207話 桜へのプレゼント(13)
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「それで、ゴロウ様の方の準備は整ったのですか?」
「まあ、一応は――」
どうやら、時間を置いてハッキリと領内の風景が見えるようにと、国王陛下を異世界に連れていくと遠回しにオブラートに包んだことについては、辺境伯と、その配下の人達は気が付いていたようだ。
――と、いうことはつまり……、
「国王陛下も、こちらの動向については……」
「それは、どうでしょうか? 私や、ノーマン様などゴロウ様が住まう異世界に渡った人間からしたら、昼に行く必要はないと知っています。ゴロウ様の世界は、灯りが、道に沿って置かれておりますので。ただ、ヴァロワ国王陛下や、第一王女のシルベリア様は、そうではありません。あくまでも私達の世界を基準として考えておりますので、夜は、灯りがほぼ無いのが普通なのです。その為に、風景の全体像を視る事ができなくなると思っているかと」
「そうですか」
「はい。そのため、時間稼ぎとは思われないと思います。ただ……、国王陛下を迎い入れる建物についてですが……」
ナイルさんが、少し困った表情で聞いてくる。
流石に母屋に国王陛下を招待するのは――と、思っているのかも知れない。
俺としては両親が残してくれた母屋なのだから、恥じる事ではないと思っているが、それは俺が思っていることであって、他人が、どう思うかは別問題。
それは、一緒に暮らしていたナイルさんも理解しているからこそ、ハッキリと言わないのだろう。
俺は、ナイルさんが危惧している事については、自身を持って頷く。
「そちらに関しては、既に解決済みです。迎賓館の用意は済んでいます」
「そうですか。あとは、侍女などの手配は?」
流石に、俺の家で暮らして店の手伝いをしてくれていたナイルさんなだけはある。
こちらのウィークポイントを確認してくる。
「問題ありません」
「そうですか。――では、ノーマン様へ早馬を送るとしましょう」
ナイルさんが後方を向き頷くと、何時の間にか金髪碧眼の美女が立っていた。
たしか、名前は、メディーナさんと言ったはず。
「――では、メディーナ。すぐに辺境伯邸へゴロウ様が来られたことを報告に行ってください」
「分かりました。隊長」
近くに繋がれていた馬に乗り走り去っていくメディーナさんの後ろ姿を見送ったあと、
「それでは、ゴロウ様。異世界に向かう人数なのですが――」
「多くて6人と言ったところですね」
「そうですか……、異世界に渡る為には、ゴロウ様の店を通過する必要がありますからね」
「そうですね」
よくよく考えて見れば、俺の店を通過する時には、通過する人間が病を有していたら、地球に病を持ち込まないように、病人を治療する為に莫大な魔力が消費される。
それを考えると、大人数では店内に一気に入ることはできない。
その点を説明すれば、国王陛下も納得してくれるはずだ。
――2時間ほどが経過したところで、馬に乗った兵士が近づいてくるのが見えた。
馬は、ナイルさん近くで足を止める。
「隊長! 国王陛下の乗られる馬車が、もうすぐ到着いたします!」
「ご苦労。全員! 国王陛下が来られる! 路地を含めて警護を怠るな! 散開!」
ナイルさんの号令と共に兵士達が店の前から散っていく。
店前に残ったのは10人ほど。
残りは路地や、少し離れた大通りに陣取る。
「ナイルさん」
「どうかしましたか? ゴロウ様」
「陛下を全員で出迎えなくていいんですか?」
「今回は、あくまでも非公式ですから。あまり領民に見られるのは芳しくありませんから」
「なるほど。そのために、なるべく路地などを含めて監視をするってことですか」
「はい」
頷いたナイルさんの横顔を見ていると――、
「あの……ゴロウ様」
「何でしょうか?」
恐る恐ると言った感じで、
「恵美さんは、壮健でしょうか?」
一瞬、ナイルさんが何を聞いてきたのか、俺には理解出来なかった。
思わず首を傾げる。
「――い、いえ。べ、別に……、そこまでは……」
「んんっ?」
どうして顔を赤らめるのか。
それよりも……恵美さん?
「…………あっ」
そこで俺は、ようやく思い出す。
いつもは根室さんと言う事で話しているから、恵美さんという名前がすぐに出てこなかった。
「あの……、和美ちゃんのお母さんのことですか?」
「あ、はい! ……えっと、恵美さんは、困ってはいませんか? 突然、こちらの世界に戻ってきましたので」
「あー」
つまり、同僚として働いていて、いきなり異世界へ戻ったから、人手が足りずに、根室さんの仕事が忙しくなって大変なのか? と、聞いてきているのか。
思わずナイルさんが、恵美さんのことを男女の仲みたいな感じで気にしていると思った。
まぁ、俺も恋愛経験は、そこそこ豊富だから、その辺は機敏に感じ取って対処することはできるからな。
その俺から見て、ナイルさんと恵美さんの関係性は同僚と言ったところだろう。
間違いない!
「仕事に関しては忙しくはありますね」
「やっぱり自分も戻った方がいいですか? それなら――」
「でも、ナイルさんは、身分がそれなりにありますよね? それに、隊長と呼ばれていまし、そんな人を雇うのはルイズ辺境伯領としても損失じゃないですか?」
「――そ、そうです……よね……」
ナイルさんが、俺から視線を逸らして残念そうな目で石畳の上を見る。
そんなナイルさんを見て、俺は理解する。
きっと途中で仕事を投げ出すような真似をした自分自身を責めているということに。
「大丈夫ですよ! ナイルさん!」
「ゴロウ様?」
「新しい店員を頑張って募集して雇ってみせますから!」
「……ソウデスカ……」
どうして、そこで残念そうな顔をするのか。
10分ほどして――、
「ゴロウ様、どうやら到着されたようです」
「みたいですね」
俺は頷く。
ナイルさんが、気が付く前から、遠くに馬車の影が見えてはいたが、それが国王陛下の乗る馬車かまでは分からなかった。
ただ、ナイルさんが到着したというのだから、そうなのだろう。
馬車には、護衛だろうか? 甲冑を着た兵士が20人ほど。
さらに辺境伯の馬車が乗る馬車に、辺境伯の兵士も10人ほど同行していた。
お忍びとは一体……、と、いうツッコミを思わず心の中でしてしまっていたが、目の前に馬車が到着したところで一旦、考えるのを止める。
そして、馬車の中から煌びやかな紫色のドレスを着た第一王女のシルベリア王女が降りてきた。
辺境伯の馬車からは、ノーマン辺境伯と、ブァロワ国王陛下が降りてくる。
どうも二人一緒に馬車に乗っていたようだ。
「このような夜に申し訳ありません」
「よい。異世界に行くというのは、中々に興味深いモノであるからの。さて――行くとするか! 近衛兵! 気を抜くなよ!」
「はっ!」
やけに盛り上がる様子の国王陛下。
「陛下」
「どうした? 辺境伯」
「じつは、異世界転移には膨大な魔力が必要ですので、近衛兵を全員、連れていくことはできないのです」
「ほう?」
俺が説明する前に、角が立たないように辺境伯が国王陛下へ全員は連れていけないと言うことをオブラートに包んでくれた。
「なるほど……。それで魔力とは、どの程度、必要なのだ?」
「一人の転移に上級魔法師10人ほどは必要かと――」
「なん……だと……!? ――で、では、どうやって異世界に移動しているというのだ? それだけの魔力なぞ……」
一瞬、国王陛下と俺の目が合う。
「ノーマンよ」
「はっ」
「忘れておったが、たしか貴様の曾孫は膨大な魔力を有していると聞いたが、まさか……」
「はい。そのまさかです。儂の孫も莫大な魔力を有しています」
「何と……」
「まあ、一応は――」
どうやら、時間を置いてハッキリと領内の風景が見えるようにと、国王陛下を異世界に連れていくと遠回しにオブラートに包んだことについては、辺境伯と、その配下の人達は気が付いていたようだ。
――と、いうことはつまり……、
「国王陛下も、こちらの動向については……」
「それは、どうでしょうか? 私や、ノーマン様などゴロウ様が住まう異世界に渡った人間からしたら、昼に行く必要はないと知っています。ゴロウ様の世界は、灯りが、道に沿って置かれておりますので。ただ、ヴァロワ国王陛下や、第一王女のシルベリア様は、そうではありません。あくまでも私達の世界を基準として考えておりますので、夜は、灯りがほぼ無いのが普通なのです。その為に、風景の全体像を視る事ができなくなると思っているかと」
「そうですか」
「はい。そのため、時間稼ぎとは思われないと思います。ただ……、国王陛下を迎い入れる建物についてですが……」
ナイルさんが、少し困った表情で聞いてくる。
流石に母屋に国王陛下を招待するのは――と、思っているのかも知れない。
俺としては両親が残してくれた母屋なのだから、恥じる事ではないと思っているが、それは俺が思っていることであって、他人が、どう思うかは別問題。
それは、一緒に暮らしていたナイルさんも理解しているからこそ、ハッキリと言わないのだろう。
俺は、ナイルさんが危惧している事については、自身を持って頷く。
「そちらに関しては、既に解決済みです。迎賓館の用意は済んでいます」
「そうですか。あとは、侍女などの手配は?」
流石に、俺の家で暮らして店の手伝いをしてくれていたナイルさんなだけはある。
こちらのウィークポイントを確認してくる。
「問題ありません」
「そうですか。――では、ノーマン様へ早馬を送るとしましょう」
ナイルさんが後方を向き頷くと、何時の間にか金髪碧眼の美女が立っていた。
たしか、名前は、メディーナさんと言ったはず。
「――では、メディーナ。すぐに辺境伯邸へゴロウ様が来られたことを報告に行ってください」
「分かりました。隊長」
近くに繋がれていた馬に乗り走り去っていくメディーナさんの後ろ姿を見送ったあと、
「それでは、ゴロウ様。異世界に向かう人数なのですが――」
「多くて6人と言ったところですね」
「そうですか……、異世界に渡る為には、ゴロウ様の店を通過する必要がありますからね」
「そうですね」
よくよく考えて見れば、俺の店を通過する時には、通過する人間が病を有していたら、地球に病を持ち込まないように、病人を治療する為に莫大な魔力が消費される。
それを考えると、大人数では店内に一気に入ることはできない。
その点を説明すれば、国王陛下も納得してくれるはずだ。
――2時間ほどが経過したところで、馬に乗った兵士が近づいてくるのが見えた。
馬は、ナイルさん近くで足を止める。
「隊長! 国王陛下の乗られる馬車が、もうすぐ到着いたします!」
「ご苦労。全員! 国王陛下が来られる! 路地を含めて警護を怠るな! 散開!」
ナイルさんの号令と共に兵士達が店の前から散っていく。
店前に残ったのは10人ほど。
残りは路地や、少し離れた大通りに陣取る。
「ナイルさん」
「どうかしましたか? ゴロウ様」
「陛下を全員で出迎えなくていいんですか?」
「今回は、あくまでも非公式ですから。あまり領民に見られるのは芳しくありませんから」
「なるほど。そのために、なるべく路地などを含めて監視をするってことですか」
「はい」
頷いたナイルさんの横顔を見ていると――、
「あの……ゴロウ様」
「何でしょうか?」
恐る恐ると言った感じで、
「恵美さんは、壮健でしょうか?」
一瞬、ナイルさんが何を聞いてきたのか、俺には理解出来なかった。
思わず首を傾げる。
「――い、いえ。べ、別に……、そこまでは……」
「んんっ?」
どうして顔を赤らめるのか。
それよりも……恵美さん?
「…………あっ」
そこで俺は、ようやく思い出す。
いつもは根室さんと言う事で話しているから、恵美さんという名前がすぐに出てこなかった。
「あの……、和美ちゃんのお母さんのことですか?」
「あ、はい! ……えっと、恵美さんは、困ってはいませんか? 突然、こちらの世界に戻ってきましたので」
「あー」
つまり、同僚として働いていて、いきなり異世界へ戻ったから、人手が足りずに、根室さんの仕事が忙しくなって大変なのか? と、聞いてきているのか。
思わずナイルさんが、恵美さんのことを男女の仲みたいな感じで気にしていると思った。
まぁ、俺も恋愛経験は、そこそこ豊富だから、その辺は機敏に感じ取って対処することはできるからな。
その俺から見て、ナイルさんと恵美さんの関係性は同僚と言ったところだろう。
間違いない!
「仕事に関しては忙しくはありますね」
「やっぱり自分も戻った方がいいですか? それなら――」
「でも、ナイルさんは、身分がそれなりにありますよね? それに、隊長と呼ばれていまし、そんな人を雇うのはルイズ辺境伯領としても損失じゃないですか?」
「――そ、そうです……よね……」
ナイルさんが、俺から視線を逸らして残念そうな目で石畳の上を見る。
そんなナイルさんを見て、俺は理解する。
きっと途中で仕事を投げ出すような真似をした自分自身を責めているということに。
「大丈夫ですよ! ナイルさん!」
「ゴロウ様?」
「新しい店員を頑張って募集して雇ってみせますから!」
「……ソウデスカ……」
どうして、そこで残念そうな顔をするのか。
10分ほどして――、
「ゴロウ様、どうやら到着されたようです」
「みたいですね」
俺は頷く。
ナイルさんが、気が付く前から、遠くに馬車の影が見えてはいたが、それが国王陛下の乗る馬車かまでは分からなかった。
ただ、ナイルさんが到着したというのだから、そうなのだろう。
馬車には、護衛だろうか? 甲冑を着た兵士が20人ほど。
さらに辺境伯の馬車が乗る馬車に、辺境伯の兵士も10人ほど同行していた。
お忍びとは一体……、と、いうツッコミを思わず心の中でしてしまっていたが、目の前に馬車が到着したところで一旦、考えるのを止める。
そして、馬車の中から煌びやかな紫色のドレスを着た第一王女のシルベリア王女が降りてきた。
辺境伯の馬車からは、ノーマン辺境伯と、ブァロワ国王陛下が降りてくる。
どうも二人一緒に馬車に乗っていたようだ。
「このような夜に申し訳ありません」
「よい。異世界に行くというのは、中々に興味深いモノであるからの。さて――行くとするか! 近衛兵! 気を抜くなよ!」
「はっ!」
やけに盛り上がる様子の国王陛下。
「陛下」
「どうした? 辺境伯」
「じつは、異世界転移には膨大な魔力が必要ですので、近衛兵を全員、連れていくことはできないのです」
「ほう?」
俺が説明する前に、角が立たないように辺境伯が国王陛下へ全員は連れていけないと言うことをオブラートに包んでくれた。
「なるほど……。それで魔力とは、どの程度、必要なのだ?」
「一人の転移に上級魔法師10人ほどは必要かと――」
「なん……だと……!? ――で、では、どうやって異世界に移動しているというのだ? それだけの魔力なぞ……」
一瞬、国王陛下と俺の目が合う。
「ノーマンよ」
「はっ」
「忘れておったが、たしか貴様の曾孫は膨大な魔力を有していると聞いたが、まさか……」
「はい。そのまさかです。儂の孫も莫大な魔力を有しています」
「何と……」
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