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第205話 桜へのプレゼント(11)

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「俺の特技ですか?」
 
 何か、俺に特技があっただろうか。
 
「はい。月山様は、様々な乗り物を運転できると伺ったことがあります。ヘリコプターの操縦などは?」
「それなら出来ますが……。まさか……」
「はい。車での移動ですと時間もそうですが日本の様子を細かく見せる事になりますから、色々と問題はあります。ただ、上空から都心部を見せるだけでしたら、日本の国力を見せると同時に、情報の機密を守ることができます。そのためにヘリでの移動などは、どうでしょうか?」
「ヘリの移動ですか……。それって都心部まで――、東京まで含むという感じですか?」
「はい」
「……そうなると計画書を――、フライトプランを管轄空港事務所に提出する必要がありますね」
「なるほど……。それは、すぐに可能なのですか?」
「流石に無理です」
 
 いくら何でも即日即対応はできない。
 
「そうなると……」
「ただ、空港から9キロメートル以内でしたら、計画書を上げる必要はありませんから、すぐに対応は可能です。あとはヘリポートがあれば、そこでも可能ですが……」
「五郎」
 
 困ったところで、田口村長が話しかけてきた。
 
「そういえば、領事館にする予定の建物の屋上にもヘリポートはあるぞ」
「本当ですか?」
「うむ」
「それなら、そこから利用は出来ますね」
「あとはヘリですか……」
「それに関しては、結城村で管理している山岳救助隊用のヘリがあるから、それを使えば問題ない」
 
 そう田口村長が提案してくる。
 
「そして、操縦は俺ってことですか」
「そうなるのう。どうじゃ? 五郎」
「それなら、問題ないかと」
「よし、それでは領事館まではヘリで移動してもらうとするかの。丁度、五郎の店前には大きな駐車場があるからの」
 
それはヘリポートとは、言わないがというツッコミはしない事にした。
 
 
 
 話が纏まったところで、俺は山岳救助隊用のヘリコプターを取りに結城村ヘリポートへと田口村長と共に向かう。
 藤和さんは、劇団員をリーシャが連れてくるまで自宅待機。
 それぞれ分かれて国王陛下を受け入れる為の準備を進める。
 山岳救助隊の事務所の担当というか責任者が田口村長だったという事もあり、話はスムーズに進み、ヘリを借り受けることが出来たあと、ヘリを操縦し店前の駐車スペースへと着陸させる。
 すると、ヘリの飛行音に気が付いたのか藤和さんと雪音さんが少し離れた位置で、こちらへと視線を向けてきていた。
 
「随分と早かったですね」
 
 そう藤和さんが聞いてくる。
 
「まぁ、小さな村だからの。色々とトップの役職は、村長が兼任しているからこそできる芸当だの」
 
 カッカッカッと笑う村長。
 さすがに限界集落の過疎村だけあって、小さな自治体ならではのフットワークの軽さがある。
 
「月山様も、操縦は――」
「俺はライセンスも持っているので、あとは乗り物なら、どんな乗り物でも何となく動かせるので」
「……ど、どんな乗り物でも?」
 
 少し驚いたような素振りの藤和さんに、俺は自信満々に頷く。
 不安にさせても良い事はないからな。
 
 
 
 移動手段の手筈が整ったあと、一端、仮眠を取るという意味合いも込めて、俺は自宅へ戻る。
 仮眠を取ったあと、包丁がまな板を叩く音で目を覚ます。
 壁掛けの時計を確認すると時刻は、午前11時過ぎ。
 2時間ほどしか寝られなかったが、それなりに頭はすっきりとしている。
 
「五郎さん。お昼にしますか?」
「あ、お願いします」
 
 居間のちゃぶ台に並べられていくお昼ご飯。
 
「そういえば――」
 
 そこで、俺は御店の営業の有無について、どうするのか指示を出す事を忘れていた事にきがつく。
 
「お店の方は、開店していますか?」
「――いえ。今日は、臨時休業という形をとっています」
「そうですか」
「恵美さんにも伝えておきました」
「それは良かった」
 
 だから和美ちゃんも居なかったんだなと、頷く。
 
「桜ちゃん! ご飯よ!」
「はーい」
 
 雪音さんと会話をしながら、並べられていく料理。
料理が並べ終わったところで、
 
「おじちゃん、おはようなの!」
「がるるっ!」
 
 満面の笑みで、おはようを口にしてくる姪っ子――、そして……、桜の頭の上でぐたーッと寝そべりながら、俺を威嚇してくる仔犬のフーちゃん。
 
「おはよう」
 
 姪っ子に返事したあと、「頂きます」と、食事を開始する。
 
「おじちゃん」
「どうした?」
「今日って、誰か来るの?」
 
 首を傾げ、上目遣いに、俺に何かあるのか? と、聞いてくる姪っ子。
 大きな黒い瞳は興味あります! と、言った様子で、キラキラと輝いている。
 
「そうだな」
 
 俺は頷く。
 今日は、王族が苦手のフーちゃんの力を借りる必要があるし、そう言った事からも桜にも協力してもらわないと。
 何せ、この犬は、この俺の言う事だけは、一切! 聞かないからな。
 まったく、フーちゃんの食糧を90%OFFだった業務用ドックフードを20キロ買い込んだというのに、一口目で食べるのを止めたし、それから、とっても険悪な感じだし、何が気にいらないのか、まったく分からん!
 
「はい。こっちがフーちゃんのご飯ね」
「わんっ!」
 
 雪音さんが、お皿の上に盛ったのは、根室家から頂いた子豚のローストポーク。
 さらにローストポークの下にはお米が盛られている。
 俺は、そんな様子を、お味噌汁を啜りながら見て――、少し贅沢に扱いすぎなのではないだろうか? と、疑問に思う。
 
「雪音さん」
「どうかしましたか?」
「ローストポークばかりだと犬の体調管理とか大丈夫ですか? 仔犬ですし」
「その辺は、きちんと調べて料理していますから。ねー、フーちゃん」
「わんっ! ガツガツガツ」
「……俺の買ったドックフードは……」
 
 チラリと、自室の居間の隅っこに置かれているドックフード(業務用)20キロ。特売だから安かったのに……。
 一応、仔犬用なのに、まったくフーちゃんは見向きもしないんだよな。
 食事が終わったあとは、来日する国王陛下と対談する可能性もあることから、服装を選ぶ為に雪音さんと一緒に部屋に篭もった。
 その間、俺は店先へと向かう。
 
 すると雑貨店の店先に到着したところで、駐車場に10トントレーラーが停車していた。
 それも一台ではなく2台。
 人の数は、40人を超えている。
 
「藤和さん」
 
 スーツを着ていた50代の男性と話していた藤和さんの姿を見かけて俺は話しかける。
 
「これは、月山様。どうですか? 少しは疲れは取れましたか?」
「まぁ、はい。おかげさまで……。それよりも、これは一体……」
「劇団員の方を手配するとお伝えした通り、依頼を致しました」
 
 藤和さんが、話していた男性を紹介するような素振りを見せたところで、藤和さんと話していた年配の男性が頭を下げてくる。
 
「どうも、月山さん。山村(やまむら)一茶(いっさ)と言います。この度は、劇団『山吹』に仕事を依頼頂きまして、ありがとうございます」
 
 ずいぶんと腰の低い自己紹介だと思いつつも、
 
「月山五郎と言います。この度は、お忙しい中、急遽、仕事を頼んでしまい申し訳なく思っております。それと、応じて頂けたことに感謝しております」
「いえいえ。こちらとしても、色々と助かりましたので」
「そうですか?」
「はい。それで、仕事の衣装と仕事の内容に関してですが、あくまでも演劇の舞台に準えた中世ヨーロッパの貴族に雇われている執事とメイドを演じると伺ったのですが、それでよろしかったでしょうか?」
「はい」
 
 俺は頷く。
 たしかに、素人の人をいきなり本職の執事やメイドとして雇用するのは無理だが、舞台俳優の方に、任せるのなら――、
 
「大変失礼な質問になりますが、山村様」
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