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第203話 桜へのプレゼント(9)

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 そして――、
 
「シルベリア第一王女が、此方に来ているという事ですか?」
 
 藤和さんとナイルさんの話は、婚約の話へと差し掛かる。
 そこは、今後のことを考えると最重要な部分だ。
 
「はい。国王陛下と共に辺境伯邸にて逗留中です」
「なるほど……。それで、ルイーズ様は?」
「第四王女殿下のルイーズ様は、離れで過ごしておられます」
 
 ナイルさんの説明に無言になる藤和さんは、自身のスーツの太ももで人差し指を動かしながら考え事をしているようで、
 
「ところでナイルさん」
 
 俺は会話を繋ぐためと言うか、王族間について確認したい事があったので、
 
「そういえば、ルイーズ王女殿下と、国王陛下は一緒に食事などはされないのですか?」
「一応、庶子ということは王国内でも有名な事ですので……、陛下としては――」
 
 言葉を濁したところで、俺でもナイルさんが言いたいことは察することが出来た。
 俺が神田の本屋で購入して読んだ内容には、貴族や王族は、庶子に対しては汚点だと思っていることがあったと。
 それは、異世界でも同じだと言う事だろう。
 辺境伯も、同じことを言っていたことからも伺える。
 
「つまり待遇的に――」
「そうなります」
「そうですか……」
 
 そういえば、ルイーズ王女殿下が、日本に来た時も、どこか陰があるような感じだったからな。
 
「――さて、月山様。これからのプランを考えましょう。まず最優先するべきことは、婚姻関係についてです。第一王女殿下は、第四王女殿下とは違い王国側の意向を反映させるべく動くと考える方がいいです」
 
 俺は頷く。
 王宮側が、何の影響力もない人材を婚約相手として付けてくるとは考え難い。
 
「そうなりますと、出費が嵩みます。何せ、何不自由なく暮らしてきた方ですので」
「あ、それは……」
 
 大問題だよな……。
 
 
 
 3人で会話をしている間に、馬車は門を超えて辺境伯邸の敷地内に入り、馬車は邸宅の入り口前へと停まる。
 
「到着致しました」
 
 外を確認し、ホッとしたような表情を浮かべたナイルさんから馬車の外へと出ていく。
 次は、藤和さん。
 そして最後に俺と言った順番に。
 
「ゴロウ様、お待ちしていました」
「お久しぶりです。アロイスさん」
「――いえ。それで、ゴロウ様。ナイルから王宮についての話は?」
「一通り聞きました」
「そうですか。それで、本日は執事の方も一緒で?」
 
 藤和さんの方を一瞥したアロイスさんが、俺に確認の意図も含めて聞いてくる。
 それに対して、俺は頷く。
 
「それでは、すぐに応接間へご案内します。すでに、早馬から情報は受けておりましたので国王陛下と王女殿下がお待ちです」
「そうですか」
 
 普通は、王族というのは後から来るものだと思っていたが、先に待っているという事は、藤和さんが言ったとおり、此方側に期待している節が大きいのだろう。
 屋敷の中に通され何時もは入口近く客間に通されるというのに、今日は奥まったところへと歩いていく。
 いつもとは違う対応。
 さらに言えば、使用人の人達も、どこかしら緊張感というか疲れているように見える。
 まるで一週間、不眠不休で仕事をした会社員のようだ。 
 
 ――コンコン
 
「アロイスです。ゴロウ様をお連れ致しました」
「うむ。入りたまえ」
 
 中から聞こえてきたのは、ノーマン辺境伯の声。
 扉をアロイスさんが開ける。
そしてアロイスさんが視線で、俺に先に入るようにと促してくる。
 
「月山様、行きましょう」
 
 俺とアロイスさんだけに聞こえてくる音量で、藤和さんが後ろから話しかけてくる。
 それに俺は頷き部屋の中へと足を踏み入れる。
 すると入室と同時に、3人の視線が俺に向けられてきた。
 部屋の中には、ノーマン辺境伯と見知らぬ老人と以前に会話したことがある高飛車な第一王女殿下がいた。
 恐らく目の前の老人が、エルム王国の国王陛下で間違いないはずだ。
 
「まったく、随分と待たせてくれたのう」
 
 苛立ちを含んだ視線と嫌味を挨拶すらしてないというのに叩きつけてくる男に俺は頭を下げる。
 
「月山五郎です。この度は、ヴァロア・ド・エルム国王陛下に置かれましては遠路はるばる起こし頂き恐悦至極です」
「うむ。多少の礼儀は弁えているようだの。顔をあげるとよい」
 
 場の主導権は、完全に国王陛下が握っている。
 そう思わせるには十分な威圧感がある。
 
「――して、そちらは?」
「わたくしは、月山家の執事――、藤和一成と申します」
「ほう。お主が、トウワであったか」
 
 先ほどまでの険しい表情はどこへやら。
 途端に表情を崩し笑みを浮かべる。
 
「――さて、我はエルム王国、国王ヴァロア・ド・エルムである。今回の話合いの場は正式なモノではない故、堅苦しい挨拶は抜きにしておこう」
 
 俺は、国王陛下がソファーに座るようにと促してきた事もあり、ソファーに腰を下ろしながら考えを巡らす。
 先ほど、正式な話し合いでは無いと言っていたが、それはこちらを油断させる為の方便だと言う事くらいは俺でも分かった。
 
「――して、ツキヤマで良かったかの?」
「月山が家名になります」
「ということは、ゴロウが名前となるわけか」
「そうなります」
「ふむ……」
 
 場の主導権を握っているが国王陛下と言う事もあり、辺境伯も言葉を発さない。
 それは、主が許可を出さない限り黙っているという暗黙の了解なのかも知れない。
 藤和さんが、何一つ交渉のために言葉を発さないのも、俺の執事という設定があるからだと言っていたし。
 
「ではツキヤマよ。儂が、何のために直々に此方へ赴いたのか分かるか?」
「はい。王室に納める租税の件だと言う事ですね」
「うむ」
 
 これは、藤和さんが予想した通りの内容。
 王宮側の財政は赤字も良い所の火の車を超えて債務超過に陥っている状態。
 ただ、王家の威信や尊厳からそれを対外的に公表することはできない。
 つまり、内密に王宮の財政を健全化させないといけない。
 だからこそ、王宮側――、そのトップが直接、内密に辺境伯領へ足を運んだ。
 そう藤和さんは予想していたが、どうやらその通りのようだ。
 だが、それを直接、公言するのは相手のプライドを傷つける行為になりかねない。
 
「月山家としては、辺境伯領での商業取引を許可頂けるのでしたら、租税として――」
 
 俺は、藤和さんの方を見る。
 そこで藤和さんが頷き――、
 
「執事の藤和一成が、ここからは説明させていただきます」
「ほう――。まぁ、よいか。――で、どのような形で?」
 
 藤和さんが、小さなケースをスーツのポケットから取り出す。
 その大きさはソーイングセットを分厚くした程度。
 そして、そのケースを開けると中には色とりどりのホームセンターで格安で購入できるアクリルストーンが無数に入っていた。
 
「こ、これは!?」
「まずは、本日は、これらをお納めいただければと思います」
「う、うむ……」
 
 コホンと、冷静さを装うように――、こちらに動揺を悟られないようにと、咳をした国王が、アクリルストーンを手にして外からの光に当てる。
 
「見た事が無い宝石だ。――これら全てを?」
「はい。ただ、私達の世界でも、かなり珍しい石となりますので、加工は出来ないと思ってください」
「なるほどのう……。これに合わせて装飾品を作れば問題ないか。だが、これほど大きなモノで透明な宝石が存在しているとは……。これらを王家に租税として納めると言う事でいいのか?」
「はい。どうでしょうか? お気に召しましたでしょうか?」
「そうであるな」
 
 藤和さんがテーブルの上に置いたアクリルストーンの入ったケースを丸ごと! そそくさと手元へと引き寄せたあと、







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