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第201話 桜へのプレゼント(7)

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「これは、手を入れる必要がありますね」
 
 車から降りたところで藤和さんが路面を見ながら渋い表情で、呟く。
 
「そうだな。問題は国に申請はできんと言ったところか」
「申請が出来ない? 道路は、国や県の管轄なのでは? そのためにガソリン税を払って――」
「月山様。山の頂上――、第三セクターが残した建物の改修作業については村として、行うことは、買い取れば可能でした。ただし、路面の修繕となると省庁に書類を上げるとなると、日本政府と正式な国交を持たないエルム王国との繋がりについて痛い腹を探られる恐れがあります」
 
 藤和さんが困った様子で呟く。
 それに俺は、
 
「つまり国に俺達がしていることがバレる恐れがあるということか」
「ご理解頂いて幸いです。ですので、道路の修繕に関しては、あくまでも結城村が行うという方向で持っていく必要があります。ただし、予算については結城村の予算ですと――」
「難しいのう」
 
 田口村長が、藤和さんの言葉に否定的な意味合いで言葉を被せてくる。
 
「そうなると……」
 
 俺の方を藤和さんと田口村長が見てくる。
 つまり、そういう事なのだろう。
 
「分かりました。まずは踝建設の方に連絡して確認してみます。見積も出してもらわないといけないので」
「月山様、宜しくお願いします」
 
 道路の修繕についての話は一通りついた後、エルム王国の迎賓館として利用する建物に到着する。
 外壁は大理石で作られた4階建ての建物の前には、踝建設のロゴが書かれた車が3台ほど停まっており、その他には電気屋、設備屋、配管工事、ガス工事業者と、20台近い車が停まっていた。
 
「かなり綺麗になりましたね」
 
 エルム王国の迎賓館として利用する予定の建物は、外装の掃除が綺麗に終わっており、以前見た時のような廃墟と言った感じは微塵も見せてはいなかった。
 
「そうですね」
 
 俺も、藤和さんの意見には同意する。
 田口村長は何度か、迎賓館へと足を運んでいたこともあり驚いてはいなかった。
 建物の中に入れば、まずは入口のホール。
 西洋の中世後期をモチーフにした作りになっていて、どう考えて田舎である結城村からは、隔絶された文化に感じられるが、そこはエルム王国の王女が滞在するのだから問題ないだろう。
 
「おお。月山さん、お待ちしてました」
「どうも、お久しぶりです。踝さん」
 
 俺達が到着した事に気が付いた踝建設の社長である踝誠さんが話しかけてきた。
 
「どうですか? 見て頂いて――」
「今着いたばかりなので……」
「そうですか。まだ、リフォームが終わっていない部屋とホールは多いですが、基本的な設備。インフラ関係については、すでに施行は終わっています。あとは、内装工事ですが、そちらに関しては、あと2週間ほど掛かる予定です」
「思ったよりも早く終わりそうですね」
 
 踝さんと言葉を交わしながら、建物の中を見学しつつ案内してもらう。
 
 
 
 ノーマン辺境伯が、ルイズ辺境伯領の主都ブランデンに戻ってから2週間が経過したと頃、辺境伯邸の執務室でノーマンは領内の仕事をこなしていた。
 
 ――コンコン
 
「入りたまえ」
 
 扉がノックされたあと、ノーマンの許可を得たメイドが室内に入ってくる。
 
「辺境伯様。門兵より伝令です。王都より、王宮側の使者がブランデンに入られたとの報告がありました」
「そうか。それでは、離れの屋敷を用意するように」
「畏まりました」
 
 指示を出したノーマンは、急ぎの書類だけを片付けると思ったよりも早く王都から戻ってきた王女殿下に対して危機感を覚えていた。
 
「想定よりも、ずっと早い。長距離移動用のゲートを使ったと見た方がいいのう」
 
 顎鬚を弄りながら、ノーマンは席から立ち上がるとバルコニーに出る。
 執務室は邸宅の2階にあり、2階からは辺境伯邸の庭園が一望出来た。
 
「王宮側は、こちらの意思疎通が終わる前に、第一王女をゴロウの正室にしたいと言ったところかの。そう考えるのが、可能性的に一番高いかの」
 
 ノーマンは、一人呟きながら邸宅内に入ってくる馬車へと視線を落す。
 その馬車を見て眼を開けるノーマン。
 
「これは厄介な事になったのう。伝令にもキチンと報告を上げさせるべきであったか。まさか……、ヴァロワ国王陛下御身が来るとは……」
 
 金色の王家の紋章が刻まれた馬車を見て溜息をつくノーマンは、鷹のように目を鋭く尖らせ独白した。
 
 
 
 その頃、リフォーム途中の迎賓館の中の案内と説明を受けていたゴロウと藤和、田口は迎賓館のリビングで、踝リフォームの社長、踝健と顔を見合わせていた。
 
「五郎。それで一応は、2週間後に内装の工事が終わる予定だ」
「そうですか。それでは支払いに関しても、それに合わせると言った感じがいいですね」
 
 話を振られた月山五郎は、返事をしながら頷く。
 そして、話を振って来た踝は、そんな五郎の受け答えに満足した様子で口を開く。
 
「そうだな。――で、リビングと寝室と来賓室の二部屋だけは、藤和さんの指示で家具を用意したが、それ以外に関しては予算不足で用意は出来ていない。その辺りに関してはリフォームも終わってないから、そこらへんに関してはゴロウの裁量で家具を選んでくれ」
「分かりました。それにしても家具の手配は、藤和さんがされたんですね」
「はい。月山様は、お忙しいようでしたので、ルネサンス様式の家具を揃えておきました。現代日本の家具ですと、先方も驚くと思いますので」
 
 そう言われた五郎は、頷き返した。
 
 
 
 内装工事が終わるまで2週間が掛かると言われてから、さらに2週間が経過したところで、ようやく第三セクターから購入した大理石が壁に使われている4階建ての建築物の内装工事が完了した。
 そして、いま月山家の居間には、俺と田口村長、藤和さんに、金の取引を頼んでいる目黒さんに、踝建設とリフォーム踝のそれぞれの社長の踝兄弟が集まっていた。
 
「ごゆっくり――」
 
 テーブルの上に麦茶が入ったピッチャーと、氷の入ったグラスを置いて居間から出ていく雪音さん。
 襖を占めたところでクーラーをつけて冷をとったところで、
 
「――さて、今回はみなに集まってもらったのは他でもない」
 
 そう口火を切ったのは田口村長であった。
 
「今回、異世界からの客人をもてなす為の建物のリフォームと工事が終わった」
 
 その田口村長の言葉に、俺を含む全員の視線が踝兄弟に向けられる。
 
「便宜上、迎賓館という名前にしてあるが、配管工事から電気設備まで全ての内装工事は終わっている」
 
 そう説明してきたのは、リフォーム踝の社長――、踝健さんであった。
 彼は、施工内容が書かれた資料をちゃぶ台の上に広げて説明をしてくる。
 
「WIFIは、導入しない感じなんですね」
「ああ。その辺は、藤和さんに指示された」
「藤和さんに?」
 
 健さんの説明に俺は首を傾げる。
 
「月山様、相手は異世界の方です。下手に情報を与えた場合、こちらの意図とする内容とい異なる動きをされる可能性があります。そこで情報は極力控えた方がいいと考えています。こちらも、異世界と繋がっているゲートを有していることを日本政府に知られるのは、非常に危険ですので」
「そうですか……」
「はい。とくに情報は力ですので――」
「じゃ、次は俺が説明するぞ?」
 
 藤和さんの説明が済んだところで、踝建設の踝誠さんが自分の順番とばかりに口を開く。
 
「まず迎賓館に関して。外壁の保証、駐車場の整備、迎賓館に続くまでの道は全て補修は済んおり、第三セクターが作っただけあって、多額の税金掛けられていることから既存の設備は、少しの手直しで済んだと報告を上げておきます。それとリォームが終わった部屋については、他の部屋と同様、家具の様式については統一しました」





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