上 下
197 / 379

第197話 桜へのプレゼント(3)

しおりを挟む
「メビウス。お主も分かっていると思うが……、孫の杖を作ることは、領主としては常識であり、それは儂の満足にも繋がるだろうが!」
「予算は……」
「ゴロウから嗜好品を大量に輸入し、それを行商人や商業ギルドに買わせれば問題なかろう。ゴロウも、杖を買うと言っておったからの」
「なるほど……。ゴロウ様も、貴族としての責務は果たされるのですね」
「うむ」
 
 重々しく頷くノーマン辺境伯は、次に手を上げた女性を見ると――、
 
「アンナ。何かあるのか?」
「はい。このパンフレットに書かれている杖の素材――、ノーマン様が仰られたカーボンという素材は、こちらの世界では存在しません。ここは、オリハルコンで代用する方がいいかと思われます」
「そうであるな……。――では、オリハルコンに関しては、儂が生成するとしよう」
「ありがとうございます」
「ノーマン様」
 
 最初に声を上げた魔法使いが声をあげる。
 
「その表情、何か妙案でも思いついたようだの。言ってみい、カナルド」
「はっ! 杖の素材については、オリハルコンなどの素材を使うことは問題ないと思いますが、常時持ち運びをする事を前提としますと、桜様の成長に合わせて変化――、成長する杖が好ましいと思います。それと、普段はペンダントほどの大きさに収縮できるルーン文字を刻む必要もあるかと」
「それも採用じゃな」
 
 何か、やたらと桜にプレゼントする杖に関して、熱い議論を語っているようだが――。
 仕方なく、俺は客間としている居間の襖を軽く何度が叩く。
 
「お、ゴロウか」
「おはようございます。辺境伯様」
「うむ。おはよう」
「辺境伯様。本日は、村長が会いにきましたので――」
「ほう。ずいぶんと早く来たものだな。よい、すぐに会わせてくれ」
 
 許可をとり、すぐに田口村長と共に、テーブルに座る。
 
「ノーマン辺境伯様。お久しぶりでございます」
「うむ。こちらこそ、孫が世話になっておる。今回は、金山生成について此方の世界に来たのだが、それでよいかの?」
「もちろんです。場所は、すでに選定し終えていますので、これから伺いたいと思いますが」
「そうか。それでは、早速、場所を視察させてもらうとするかの」
 
 村長と、俺と、辺境伯と魔法使いの3人の合計6人。
 ワゴンアールだと全員が乗り切らないこともあり、村長が乗ってきた軽トラックで移動することになり――、
 
「ゴロウの世界には多種多様な馬車が存在するのだな」
 
 以前は、リムジンに乗った辺境伯が興味津々と言った様子で話しかけてくる。
 
「そうですね。これは農耕用とか工業用で幅広く使われる車なので」
「ほう……。我が領地にも、このような車があれば、商人たちも楽に移動が出来るようになるのう」
「ノーマン辺境伯様。この車は、ガソリンが無いと動きませんので」
「ふむ。ガソリンとは?」
「この車を動かす上で必要な燃料みたいなモノですね」
「燃料?」
 
 そういえば、異世界では機械などの発達が無いみたいだから、燃料という概念が無いのかも知れないな。
 そうなると、説明が難しい……。
 異世界で燃料を使う概念と言えば……。
 
「辺境伯様。湯を沸かす際に火を使うと思いますが、その火は薪を燃やして確保すると思います」
「ふむ?」
「その薪の部分が燃料という形になります」
「つまり、この車というモノは薪を燃やして動かしているのか?」
 
 そーきたかー。
 
「いえ、火をつけて燃える水で動いています」
「ほう。それは火の水のことか?」
「ご存知で?」
「うむ。危険なので、立ち入り禁止区として軍に隔離させておるが、利用できる可能性があるということかの。それを使えば車という馬車を運用できると――」
「可能性はあると思います」
「ふむ……。ゴロウ」
「何でしょうか?」
「この車という馬車だが、何台か購入することは可能かの?」
「結構、高いと思いますが……」
「それは、如何ほどかの?」
「金だと500グラムくらいですね」
「ほう。それでは100台ほど用立てることは――」
「辺境伯様。いきなり、異世界のモノをそんなに向こうの世界に持っていくことは混乱を招くと思いますので――」
「それは残念だのう」
「一台くらいでしたら、試しに用意します」
 
 正直、100台もの車を購入したら、ほぼ確実に行政に目をつけられる。
 主に固定資産税とかで――。
 一台くらいなら何とかなるかも知れないが、さすがに100台は無理。
 
「ふむ。――では、出来るだけ用意してくれんかの?」
「分かりました」
「――して、ゴロウ。話は変わるが、孫娘のプレゼントの件だが、軽く用意したいと思うだが……」
「それなら、お任せしますけど……。桜が欲しいのは――」
「分かっておる! このノーマン! 全力全開で、見た目は同じモノを作ろうと約束しようではないか!」
「まぁ、そこまで言われるのでしたら」
「そこで、ゴロウに頼みがある」
「桜の為なら、ある程度は、自分も予算出しますよ?」
「うむ。――では、香辛料の類を用意してはもらえんか?」
「香辛料ですか……。どのくらいの量を?」
「少し大変だとは思うが、胡椒を2キロ――、いや5キロは用意はできるかの?」
「結構な量ですね」
「うむ。難しいかの? 希少なモノだと思うが……」
「いえ。それでは、調べたあと量を用意します」
「任せたぞ。ゴロウ」
 
 まぁ、桜が初めて欲しがった魔法少女の杖だからな。
 それにしても製作費が胡椒5キロとは……、あとで家に戻ったら金額を確認してみるか。
 
 
 
 目的地の山へと続く林道入口に到着したところで、道は舗装されなくなり――、
 
「ほう。どの道でも舗装されていると思っておったが――、このような道も、ゴロウの世界にはあるのだな」
「全部が全部ではありませんので。それと、ここは林道と言いまして、山で不必要な木々を伐採して運ぶ道です」
「ふむ。不必要な木々とは?」
「簡単に説明しますと、間伐と言って、余計な木を伐採することで山の中に日光を取り入れることで、木々を健全に成長させることで、根を生やさせて、それにより土砂崩れなどを防ぐことと、水源の確保をすることですね」
「なるほど、なるほど……」
 
 ノーマン辺境伯が何度か頷きながら、林道の両端の山々を見ながら――、
 
「我が領地でも採用してみるとするか」
「辺境伯領で災害でも?」
「うむ。土砂崩れが毎年起きている場所があるからの。なるほど……、間伐のう……、そのような概念があるとは思ってもみなかったのう」
 
 車を運転し林道を走っていると、甲高い音と共に、木が倒れる音が聞こえてくる。
 どうやら間伐をしているようだ。
 
「この音は?」
「チェンソーの音ですね」
「チェンソー?」
「見た方が早いかも知れないですね」
「ほう!」
 
 目を輝かす辺境伯。
 
「見ますか?」
「うむっ! ぜひ確認させてもらおうかの」
 
 力強く頷く辺境伯。
 後ろから付いてきている車に停止するという合図を送るためにハザードランプをつける。
 車内のミラーを見て、田口村長が運転する車の速度が遅くなったのを確認しつつ、ブレーキを踏む。
 車が停止したところで、ノーマン辺境伯と共に車から降りる。
 
「どうかしたのか? 五郎」
「田口村長、ノーマン辺境伯様が間伐を見てみたいと――」
「ふむ……」
「何か問題でもありますか?」
「問題はない。問題はないが……、おそらくだが――、チェンソーが欲しいと打診してくる可能性はありそうだの」
「たしかに……。あ、でも魔法がありますから」
「全員が全員、魔法を使えるのか?」
「それは……ないですね」
「なら、誰でも使えて同じ結果になるチェンソーは……有意義な取引材料になる可能性はあるの」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

血と束縛と

北川とも
BL
美容外科医の佐伯和彦は、十歳年下の青年・千尋と享楽的な関係を楽しんでいたが、ある日、何者かに拉致されて辱めを受ける。その指示を出したのが、千尋の父親であり、長嶺組組長である賢吾だった。 このことをきっかけに、裏の世界へと引きずり込まれた和彦は、長嶺父子の〈オンナ〉として扱われながらも、さまざまな男たちと出会うことで淫奔な性質をあらわにし、次々と関係を持っていく――。 番外編はこちら→https://www.alphapolis.co.jp/novel/498803385/499415339 賢吾視点の番外編「眠らない蛇」、Kindleにて配信中。 表紙イラスト:606D様

うちのワンコ書記が狙われてます

葉津緒
BL
「早く助けに行かないと、くうちゃんが風紀委員長に食べられる――」 怖がりで甘えたがりなワンコ書記が、風紀室へのおつかいに行ったことから始まる救出劇。 ワンコ書記総狙われ(総愛され?) 無理やり、お下品、やや鬼畜。

乳白色のランチ

ななしのちちすきたろう
恋愛
君江「次郎さん、ここが私のアパートなの。」 「よかったらお茶でもしながら家の中で打ち合わせします?この子も寝てるし…」 このとき次郎は、心の中でガッツポーズを決めていた。 次郎の描く乳白色のランチタイムはここから始まるのだから…

女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集

恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。 ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!? それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…! もう自分から会いに行くのはやめよう…! そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった! なんだ!私は隠れ蓑なのね! このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。 ハッピーエンド♡

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

俺の××、狙われてます?!

みずいろ
BL
幼馴染でルームシェアしてる二人がくっつく話 ハッピーエンド、でろ甘です 性癖を詰め込んでます 「陸斗!お前の乳首いじらせて!!」 「……は?」 一応、美形×平凡 蒼真(そうま) 陸斗(りくと) もともと完結した話だったのを、続きを書きたかったので加筆修正しました。  こういう開発系、受けがめっちゃどろどろにされる話好きなんですけど、あんまなかったんで自給自足です!  甘い。(当社比)  一応開発系が書きたかったので話はゆっくり進めていきます。乳首開発/前立腺開発/玩具責め/結腸責め   とりあえず時間のある時に書き足していきます!

処理中です...