田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
195 / 437

第195話 桜へのプレゼント(1)

しおりを挟む
「おじちゃん、おじちゃん!」
 
 画期的なアイディアを思いつき、どう料理をしようかと考えていると居間の方から声が。
 
「ん? どうした桜」
「見て! あれ!」
「ステッキか?」
「うん!」
 
 テレビには、アニメ内で魔法少女が使っているステッキが『絶賛販売中!』というロゴがつき宣伝されている。
 そして桜は期待の眼差しで俺を見上げてきている。
 俺には分かる。
 これは、魔法少女のステッキが欲しいという遠回しの合図だと言う事が。
 こう見えても、最近の俺は女性の心情には敏感に察することが出来るようになったのだ。
 
「そうだな。桜は、お店の手伝いをしてくれているから、今度、買いにいくか」
「本当に!? 桜ね! でも、高いから……」
 
 不安げな表情。
 
「高いって……」
 
 桜からしたら高いかも知れないが、それは子供の価値観からしたらという理由だと、俺は瞬時に察する。
 俺は桜の頭を撫でる。
 
「ふっ、男に二言はない」
「本当に良いの?」
 
 キラキラと瞳を輝かせて上目遣いで俺を見てくる桜。
 
「本当だ。桜や和美ちゃんも最近は御店の手伝いをしてくれているからな」
 
 実際、かなりの売り上げが出ているし、何より子供のおもちゃだ。
 そこまで高いモノでもないだろう。
 まぁ、いくらくらいなのか値段を確認しておくか。
 すでにテレビは、魔法少女の販促番組は終わっていたので、パソコンを起動しネットに接続する。
 そして『魔法少女さくら☆マジック』というタイトルで検索しステッキを確認していく。
 
「何々……。最新の技術を使い精巧に作られた杖と……、材質は業界最高峰のカーボンを使用? アニメの魔法少女が使う杖を忠実に再現? 杖のボタンを押すと魔法陣が空中に描かれる? さらに効果音まで!?」
 
 何だか、やたらとクオリティの高い動画までアップされているぞ?
 値段は……4万8000円……だと!?
 
「子供のおもちゃの価格じゃない……」
 
 思わず小さく呟く。
 しかし、桜と約束してしまった。
 男に二言はないと!
 だが! 
 せいぜい1980円くらいだと思っていた。
 
「桜」
「どうしたの?」
「魔法少女の杖って――」
 
 そこまで言って桜は俺を期待の眼差しで見て来ている。
 これは、やっぱりなかったと言う事にはできない。
 仕方ない……、俺の小遣いから出そう……。
 さすがにDIYで何とかできるレベルを超えているからな……。
 魔法少女の杖を取り扱っている店舗の位置をプリントアウトし、ポケットに入れる。
 
「さて、桜」
「何?」
「ちょっと異世界に行ってくるから、雪音さんに俺が出かけたことを伝えておいてくれるか? いま、フーちゃんをお風呂に入れているから」
「うん! いってらっしゃい」
 
 母屋を出たあとは、店舗を通って異世界へ。
 シャッターを開けて店の外へ出ると10人くらいの見知った兵士が店の前を警護していた。
 
「これは五郎様。本日は、何かありましたか?」
「ナイルさんは、居ますか?」
「隊長は、ノーマン様のお屋敷に出向いております」
「何かあったんですか?」
「いえ、とくにはありません。本日のご用件は、ノーマン様とお会いすると言う事で宜しいのでしょうか?」
「そうですね。お願いできますか?」
「分かりました。すぐに馬車を用意致します」
 
 しばらくして、馬車が店の前に到着する。
 俺は、その馬車に乗り辺境伯邸へ向かう。
 乗っている最中は暇なので馬車の中から町を眺める。
 
「いつもよりも人通りが多い?」
 
 何度か通った道と言う事もあり、通りを見た限りでは人の流れが多い気がしたが、いつもは一緒に馬車に乗ってくれているナイルさんがいないので、聞くこともできない。
 そうこうしていると辺境伯邸が見えてくる。
 辺境伯邸の門から敷地に入ると、至るところに馬車が停まっている光景が目につく。
 
「お祭りってわけではないよな?」
 
 正直、異世界の行事については全く知らない事を今さら痛感する。
 俺が乗車している馬車は辺境伯邸の入り口に到着し、外へと出ると数人のメイド服を着た女性が頭を下げてきた。
 そして、俺を見た瞬間、怪訝そうな表情を見せたが、すぐに取り繕う。
 
「どちらの家名の方でしょうか?」
「五郎と言います。辺境伯へ取次をお願いできますか?」
「ゴロウ家ですか?」
 
 20代後半の女性が首を傾げたあと、周囲の女性を見渡していたが、誰もが頭を振っていた。
 
「失礼ですが、どちらの……」
「こちらは、ノーマン様の血縁の方だ。すぐに取り次ぐように」
 
 俺とメイドとの話が噛み合っていなかったところで、御者席から降りてきた兵士が、メイドへ命令をすると、メイドの全員が目を見開いたあと、俺に話しかけてきた女性が辺境伯邸の中へと駆けていった。
 
「ゴロウ様、申し訳ありません。本日は、ルイズ辺境伯領内の貴族の会合がありまして……」
「会合ですか?」
「はい。秋の収穫祭の前後で、厳冬に備えて対策を取る為に会合をするのです」
「なるほど……」
 
 つまり、寒さで飢え死にが出ないように事前に領主同士での話し合いをすると言うことか……。
 そう言えば、俺が読んだ本の中に厳冬に備えて貴族は他領との交流をしたと書かれていた内容があったな。
 
「ゴロウ様。お待たせしました。すぐにノーマン様がお会いしたいとのことです」
 
 息を切らせて戻ってきたメイドが頭を下げてくる。
 
「分かりました。それでは、案内をしてもらえますか?」
「はい」
 
 女性に案内され通された部屋は、いつも辺境伯と対談をする場所。
 室内には、辺境伯だけでなく、アロイスさんも居た。
 
「ゴロウ様、お久しぶりです」
「アロイスさんも、お元気そうで」
「ゴロウ。立っていてはあれだ。座ったらどうだ?」
 
 辺境伯の勧めに俺はソファーに座る。
 
「――で、何かあったのかの?」
「実は、ノーマン辺境伯様にお願いがありまして、伺いました」
「お願い?」
「はい。じつは、金山を作っていただけないかと思いまして」
「ふむ。詳しく話を聞かせてもらってもよいかの?」
 
 結城村で起きていることと、今後のことを掻い摘んでノーマン辺境伯へ説明していく。
 その間、頷く辺境伯。
 
「なるほど、つまり金の売買が厳しくなったから新たなる財源が必要になったと……そういうことかの?」
「平たく言えばそうなります」
「ふむ……」
 
 辺境伯があごひげを触りながら思案するような素振りを見せると、身を乗り出してくる。
 
「ゴロウ」
「何でしょうか?」
「一度、店を開いてみる気はないかの?」
「店って……、王宮からは許可は下りてはいないですよね?」
「大々的にという意味合いではない。いま、辺境伯領に集まっている特権階級の人間だけに開いてみるという意味合いだ。それならば、一応は王宮もある程度は許可を出しておるし問題はないはずだ」
「……大丈夫ですか?」
「うむ。さすがに塩に関しては量が量だけに王宮からの許可が降りなければ通商条約を考えると放出はできんからの。だが、店に置いてあるものならば問題はないはずじゃ」
「つまり、その代わりに金山を作って頂けると?」
「何事も対価と言うのは必要じゃろう?」
「……ですが、王宮としては珍しい品物が市中に回るのは不味いと思いますが……」
「ふむ。ある程度は、勉強をしているようで結構じゃな」
「もしかしてノーマン辺境伯様……、自分のことを試しましたか?」
「そうじゃな。今後、王宮と取引が出てきたときに目先の利益にかまけて問題が起きたら困るからのう。実際、そうやって失敗してきた者を多くみてきている」
 
 俺は、ノーマン辺境伯の、その言葉に心の中で溜息をつく。
 普段とは違った様子に少し違和感を覚えて答えていたが、どうやら正解だったようだ。





しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...