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第193話 フーちゃん、一攫千金物語(2)

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 つまり、今! 月山雑貨店は、動画を作り収益化を図りたい生主さん達にとってエルドラドなのだろう。
 
「これは……、藤和さんと相談する必要がありますね」
 
 これからの対応を考えると、キチンとしておいた方がいいだろう。
 そのうち悪質な動画を作る生主も出てくるだろうし。
 
 
 
 藤和さんに急遽連絡をし、全ての予定をキャンセルするという事で、昼過ぎには藤和さんの車が店先に入ってきた。
 
「藤和さんも忙しいのに随分と迅速だな」
 
 そう呟きながらも、月山雑貨店の前には複数台の県外の車が停まっていた。
 それらは全て、フーちゃん目当ての利用客。
 ちなみに、何故か田口村長などは駐車場の一角で冷やしトマトを販売していた。
 田口村長曰く「利用できるモノは利用せんとな」と、のこと。
 
 冷やしトマトは、3個で300円という、かなりのお値打ち価格で販売されていた。
 もちろんフーちゃんの動画を10秒ごとに一袋で動画撮影できるというオマケつき。
 どこかのアイドルのCDの握手券ばりの販売方法を田口村長は取っていたが、飛ぶように売れていく。
 
「お店に入ってこないですね」
「そうですね……」
 
 恵美さんの言葉に俺は相槌を打つ。
 
「でも、村の方が少しずつ利用されるようになってきましたね」
「暑いですからね」
 
 月山雑貨店の商品は、基本的に冷凍食品がメインで生鮮食品などは、ほぼ扱っていない。
 理由については、野菜関係は自給自足が出来てしまうから。
 鮮魚系については、日持ちがしないモノを並べておくと廃棄処分になる可能性が非常に高いので置いてない。
 つまり、夏場の田舎の月山雑貨店で売れ筋の商品は冷凍食品と飲料関係という事になる。
 
「月山様、お待たせしました」
「すいません。お忙しいところを」
「――いえ。こちらとしても非常に重要な事ですので。それで、あの方たちは?」
「田口村長とフーちゃんが対応していますが、動画サイトの生主達ですね」
「なるほど……。それでは、今後の対応について話をしていきたいと思いますが、この場ではなんですので――」
「そうですね。恵美さん、おひとりで大丈夫ですか?」
「はい。結城村の方が買い物に来られるようになりましたけど、一人で回せる量ですので」
「分かりました。それでは藤和さん、母屋の方で」
「そうですね」
 
 藤和さんと共に母屋の玄関へ。
 
「五郎さん、お帰りなさいって――、藤和さんも来られたのですね」
「雪音さん、居間で今後の相談をしますので、飲み物の用意をしてもらっていいですか?」
「はい。それでは藤和さんも居間の方へどうぞ」
「失礼します」
 
 居間に座ったあと、しばらくすると雪音さんがコップを3つと麦茶の入ったピッチャーを持って部屋に入ってくる。
 グラスに麦茶を注いだあと、それぞれの真正面――、御膳の上にコップが置かれる。
 互いに一口、口を付けた。
 
「月山様、秋田のローカルテレビの映像に関しては、私の方でも会社に居たときに拝見しました」
「そうなんですか?」
「はい。情報は命ですから。それより電話で話して頂いたテレビ局からの事前連絡が来て居ないという事なのですが……」
「それは本当です」
「なるほど……」
 
 俺と答えに藤和さんが頷くと思案するような表情を見せた。
 
「それではテレビ局関係に関しましては、田口様より何とかできませんか?」
「それは田口村長にということですか?」
「はい。伝手があるのではないのですか?」
「伝手ですか……」
 
 テレビ局へ直接連絡をするだけでは駄目なのか? と、考えて見るが、藤和さんが考えている事はクレームでは終わらせないという事だけは分かる。
 それは、ずっと藤和さんと付き合ってきたからだが……。
 
「もしかして狩猟会経由ということですか?」
「ええ。そうですね」
 
 思案していたところで、横で話を聞いていた雪音さんが助け船を出してきた。
 藤和さんは頷きながら口を開く。
 
「まず、田口様を通してテレビ局へ連絡を取るには幾つかのメリットがあります。大きなメリットは、こちらが個人ではなく町内会という団体で、しかもトップが話すことで相手からは無視されにくく、下手に扱われないようにするという予防策です」
「なるほど……」
 
 俺は頷く。
 たしかに個人での電話となると邪険に扱われる可能性が非常に高い。
 
「あとは村興しとしても利用できるということですか?」
「田口様の言われる通り、これを機にテレビ局を利用しない手はありません」
「利用ですか……」
「はい。いくらテレビが廃れたと言っても、その情報拡散能力は非常に高い事はご存知かと思います。とくに年配の方にはSNS以上に影響力があると言っても過言ではありませんから」
「つまり、テレビ局を上手く使う為に――」
「はい。今回は、テレビ局も無断で此方の映像を、月山様に許可なく放送で使ったという事ですので、相手には落ち度がありますので、いくつかの譲歩を引き出す事が出来ます。まぁ、話の持って行き方次第ですが……」
「なるほど……。そうするとネット上で上がっている動画データーについては保管しておいた方がいいですよね」
「そうですね。一応、証拠になりますので」
「分かりました。あとで録画しておきます」
「よろしくお願いします」
「ところで、藤和さん」
「何でしょうか?」
「村興しで利用するという事でしたが、具体的にはどのような……」
「そうですね。月山雑貨店でインタビューを取りに来たレポーター達が、偶然居合わせたフーちゃんが少量でいいので金の塊を咥えてる姿を見せたらどう思うでしょうか?」
「それって……」
「はい。砂金が取れる川というのは、世間一般では大きく報道されると思います。それも結城村の名前が全国的に広まるくらいに。それでなくとも日本は金山が枯渇して久しいですから。新しい手つかずの金山が、番組制作中に発見できたら――」
「マスコミは、こちらが何もしなくとも宣伝をするという事ですか」
「ええ。その可能性は非常に高いです。そのために田口村長経由でテレビ局へ連絡する方がいいのです。色々とことを詰めることができるようになりますから」
「なるほど……。それでは、村長へ後程連絡を入れておきます」
「はい。それでは、テレビ局との対応については私と田口様で行っても問題はないでしょうか?」
「そうですね。ただ――」
「分かっています。異世界の事に関しては極秘事項ですので、悟られないように致しますので。それよりも、問題が――」
「問題ですか?」
 
 俺の言葉に、藤和さんが頷く。
 
「テレビ局との話し合いですが、譲歩を引き出せた場合を想定して……。向こうも今は人気絶頂中の数字が取れる月山雑貨店のニュースを長期間放置しておく可能性は非常に低いため、早急な対応が必要となるということです」
「それは、金の採掘に関してということですか?」
「はい。少なくともフーちゃんが金の塊を持ってくるまでにある程度の地盤を固める事が必要となります」
「やはり具体的には、山の所有権などですか……」
「それだけでなく、河川付近の土地の所有権と結城村内の建築することができる土地や建物を全て買い上げる必要があるという事です」
「それは……」
「かなり難しい課題となりますが、これらを短期間で達成しない限り、アメリカ南部で発生した大規模な採掘による環境破壊や、下手をすれば異世界へ通じる門に関しての情報が外部に漏れる可能性があります」
「……なるほど」
 
 たしかに、永住できるようになれば、下手をしたら月山雑貨店のことを嗅ぎまわる人が出てくる可能性もある。
 それどころか、いざこざが起きる可能性も……。
 
「月山様」
「何でしょうか?」
「月山様は、第三者が異世界についての問題について暴く可能性があると示唆されているように思われますが?」
「そうですね」





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