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第188話 大使館と迎賓館の手配(3)

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 藤和さんは、何か事情を知っているのか意味ありげに頷く。
 
「建設途中で破棄なら作りかけという事ですよね? そんな所に、王家の人間を住まわせて大丈夫ですか?」
「以前に、結城村に厚生労働省の人間が抵当権を押し付けてきたあと、見てきた事があったが外装の工事は済んでおった」
「それなら大丈夫ですね」
 
 俺の問いかけに、田口村長は問題ないと答えてきたけど、それに藤和さんも頷きながら肯定している。
 
「あの……外装が終わっても……」
 
 外装だけは終わっているという部分に嫌な予感が止まらない。
 つまり、内装は終わってないということだ。
 そのくらいは、ここ最近の商談で鍛えられてきたので何となくだが理解できてしまう。
 そして内装作業が終わって無いという事はお金が掛かるということ。
 
「五郎の杞憂している通り、内装は殆ど手つかずだな」
「やっぱり……」
 
 これ、出費確定コースだ。
 しかも建物の規模によっては、頭が痛くなるほどの出費が嵩むのでは? と、容易に想像がついてしまう。
 
「それにしても、内装は、どうにかなるとして――」
「何か問題でも? お金の問題とか?」
「――いえ。お金に関しては銀行から融資は……受けられませんので、金を売って補填する方向になりますが、問題は他国からの要人を受け入れる際に、他国の文化や風習などを尊重する必要があるという点です」
「そうですよね」
「まぁ、一度、向こうの世界に足を運んでいますので、何となくは分かりますが――」
「何か問題が?」
 
 歯切れの悪い藤和さんに、田口村長が問いかける。
 
「はい。向こうの屋敷の様式は、中世よりも古い様式になっていまして――、おそらくは書物でしか見たことがありませんが、古代ローマ帝国時代より少しあとくらいかと」
「なるほど……。そうなると、職人を手配するのは難しい……そういうことかの?」
「そうなります」
「中世ヨーロッパより前の様式と何か違うんですか?」
 
 至極当然のように俺は二人の会話を聞きながら思ったことを口にする。
 
「はい。日本でも、歴史が積み重なれば、建築物の様式というのは洗練されて変わります。それは、五郎様も知ってはおられると思いますが」
「畳と障子から、いまの西洋風の家になったみたいなものですか」
「そ、そうですね……」
 
 つまり、建物の内装が、ガラリと変わったということか……。
 
「ですので、職人を手配して、向こうの方に合った内装を施すのは事実上不可能と言ったところです」
「うむ。それなら、むしろ日本風にアレンジしたらどうかの?」
「それも考えたのですが、それでしたら、建物の規模にもよりますがいっその事、近代的設備を備えた内装にするのがいいかも知れません」
「つまり、日本の文化をダイレクトに見せつけるという事か?」
「そうなります。ただ……」
 
 そこで藤和さんが俺を見てくる。
 
「な、何か――?」
「近代設備は、維持費も含めてお金が掛かりますので……」
「つまり、お金ですか……」
「はい。お金です」
 
 どこまで行っても、資金調達が大きな課題のようだ。
 
 
 
 翌朝、田口村長と藤和さん、そして俺の3人で大使館候補の建物へと来ていた。
 現在、目の前には3階建ての建物が立っており、外壁は苔がこびりつき、葛の蔓が建物に貼ってはいるが……、それでも多額の地方税を投入されて作られた大理石の建物の外壁には、罅一つ付いてはいない。
 
「これは、ずいぶんと立派な建物ですね」
 
 白大理石は、多少は汚れてはいるが磨けば直ぐに綺麗になるだろう。
 
「――で、あろう」
 
 藤和さんは呆気にとられるほどに3建ての建物は立派である。
 
「スパニッシュ様式と比対照的な様式を合わせた新様式と言ったところですか」
「うむ。だからこそ、結城村も潰すのはな……」
「ですが、これほどの立派な建物でしたら、十分ですね。大使館としても、月山家の財力も見せつけることができるかと」
「問題は維持費ですよね」
 
 俺は、ぼそっと呟く。
 渡された図面を見ながら溜息をつきながら。
 図面を見る限り、地下室と屋根裏部屋があり、独立した食堂と厨房があり、部屋は2階だけで10室、トイレが3つ、浴室が1つ。
 1階は、応接室が4つにダンスホール1つ、客室が6つ。
 
「そうですね。とりあえず外装は出来ているようですので、内装を見てから細かい部分を確認してみましょう」
 
 藤和さんの言葉に俺と村長は、洋館の鍵を開けて中に入る。
 すると、そこは――。
 
「これは思ったよりも……」
「……そうだな」
「あ、これは……」
 
 中を見た、それぞれの藤和さん、村長、俺の3人の言葉。
 
「コンクリートが打ちっぱなしですね」
 
 一応、部屋ごとに区分けはコンクリートの壁で隔てられてはいるが、それだけ。
 
「そうですね」
 
 藤和さんも呟きながら苦笑い。
 
「まぁ、この方が、色々と手が加えるのは楽じゃろう?」
「楽どころか、まったくの真っ白な状況ですよね」
 
 俺は、電気配線などをチェックしながら見て回る。
 殆どが鋼鉄製のパイプが直でコンクリートの壁に埋まっていることもあり、電気ケーブルが錆びたりしていることはない。
 被覆も出ていた部分は、ビニールテープできちんと巻かれているので、東北電力に依頼して分電盤まで1次側の電気を引いてもらえば、すぐに家電製品は使えそうだ。
 
「――で、どうだ?」
「一応、電気の配線の状況はいいですね。下水処理などは、踝さんの所で確認してもらってガス管などは……」
 
 俺は呟きながら、打ちっぱなしの建物の中を見ていく。
 地下は、一部屋しかないが緊急用の発電設備で利用される予定のようで耐火ケーブルが引かれている。
 
「なるほど……」
「どうだ? 五郎」
「電気系統は、すぐに使えるようになりそうですね」
 
 俺は洋館の図面を見ながら2次側の配線を分電盤につける予定であった場所を確認していく。
 
「MDFとIDFがある所を見ると、ホテルとして利用する予定だったかも知れませんね」
 
 洋館の図面を手に、館の中を見つつ、配線が通っている配管とジョイントボックスをチェックしつつ、思った事を口にする。
 
「月山様は、図面をスラスラと見ていますが、何か資格でも?」
「うむ。五郎は、第二種電気工事士免状を持っているからの」
「そうなんですか」
 
 田口村長の説明に、納得する藤和さん。
 
「一応、電気関係は、そのままの配線で使えると思いますが、あとで数値を測った方がいいですね。導通しているかどうかを確認した方がいいですし」
「――で、この建物は使えそうか?」
「十分だと思いますが……、藤和さん、この建物の内装を、それなりに改装するといくらくらい掛かりそうですか?」
「内装に関しては、私は専門外ですのでリフォーム踝の方に伺った方がいいかと」
「ですよね」
 
 
 
 リフォーム踝の社長、踝さんに電話をして数時間。
 時刻はお昼を過ぎたころ。
 一台の軽トラックが、洋館の前に停まる。
 
「踝さん、建物の正門から入ってきてもらえますか?」
 
 俺の言葉に頷き洋館入口に向かってくるのを確認してから、「藤和さん、村長、踝さんが来ましたのでチェックは、このへんで、一度、打ち合わせにいきましょう」と話しかけるが――、
 
「五郎は踝を連れてきてくれ」
 
 藤和さんと今後の話をしていた村長の言葉に俺だけ迎えにいくことに。
 
「忙しいところ、すいません」
「――いや、いまは暇だからな」
「そうなんですか?」
「ああ、今年は夏もそんなに暑くなかったし、そのおかげでエアコンの取り付けも少なかったからな」
「そういえば、踝さんのところってエアコンの取り付けもしていたんですか?」
「――いや。前は、個人の電気屋が村の中心部にあったんだが、高齢化で店じまいしたんだよ」
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