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第179話 エルム王国との交渉(1)
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河原でバーベキューという休暇の一日を終えたあと、家で寛ぐ事に――。
もちろん、藤和さんが納入してきた塩などは店内に移動済みである。
「五郎さん」
「はい?」
夕飯も摂り、縁側では桜はフーちゃんを枕にして寝ている。
そして、俺はパソコンで店のホームページを作っていて、丁度、お茶を持ってきてくれた雪音さんに話しかけられた。
「えっと……、何かありましたか?」
雪音さんは、少しだけ心配そうな表情で俺を見てくる。
ちなみに服装は白色の華美な装飾などないワンピースで、長い黒髪は、髪ゴムで一纏めにして背中に流している。
「そうですか?」
「はい。納品後から、ずっと難しい表情をしていましたので」
どうやら、ナイルさんを護衛として連れてくるにあたりノーマン辺境伯に頼むことに関して、借りを作ることを問題だと思っていた俺の考えは表情に出ていたらしい。
「実は――」
動画サイトで、うちの店が紹介されていたこと……、そして藤和さんから今後の対応についてアドバイスされていたことを、何かあったら困るという理由で説明する。
「なるほど……、それは護衛が必要かも知れないですね」
「ですよね」
「はい。それに人手もあった方がいいですから」
「それって……お店の方で?」
コクリと頷く雪音さん。
「あと、恵美さんの件もありますから」
「恵美さんが?」
どうして、ナイルさんが此方の世界に居る必要がある事に、恵美さんが関わってくるのか分からないが……。
「はい。それで、今日は異世界に行かれるんですよね?」
「そうですね。どちらにしても塩を持っていかないといけないので」
「お気をつけてください」
話しが一段落ついたところで、時刻は深夜の0時。
店のバックヤード側を通り店内から、異世界側の路地へと出る。
暗闇から、日差しが照り付ける昼間へと一瞬にして切り替わることに目を細めると――、目が明かるさに慣れるまえに「ゴロウ様」と、聞き覚えのある声で話しかけられた。
「お久しぶりです。ナイルさん」
相手が誰かはすぐに分かったので、返事をする。
「大変、お久しぶりです。ゴロウ様、ノーマン様が首を長くしてお待ちしています」
いつもよりも声の抑揚が固い気がする。
まぁ、一ヵ月ぶりだから気のせいかもしれない。
「分かりました。まずは塩を――」
「いえ! すぐに辺境伯邸までお越し頂けますか?」
いつもは塩を渡してから辺境伯邸へ向かうのが通例だったが、強い口調でナイルさんが会話を切ってくる。
こんな事は、今までなかった。
「何か問題でも発生しましたか?」
「ここでは……」
「分かりました」
往来の場では言えない事というのは、すぐに理解した。
兵士達が、周りを囲っていても、ここは通りに面している事から、住居や店などもある。
それらの目や耳を完全に防ぐことはできない。
なら、場所を変えて説明するのが妥当と言ったところだろう。
了承後は、すぐに馬車が用意され、それにナイルさんと共に乗り込む。
馬車は、すぐに走り出す。
「五郎様、急かしてしまい申し訳ありません」
「いえ」
まぁ、相手にも事情があるだろうし。
「それで、何か問題でも?」
一般人が居る前では話せない内容と言えば、それなりの事なのだろう。――そういう事はなんとなくだが、最近は予想がついてきた。
「はい。じつは、エルム王国から使者が参りました」
その言葉に俺はゴクリと唾を呑み込む。
それはつまり、貿易が可能になるかどうかという回答だから。
「そうですか……」
「はい」
「それで、来られた使者の方は以前と同じ方ですか?」
「はい。一部の方は同じです」
「つまり、他の方も来られているという事ですか?」
「一応、リコード卿とヴェルナー卿は来ておられます。ただ……」
「ただ?」
コクリと神妙そうな表情で頷くナイルさん。
その様子から、面倒な人物が来ているというのが分かってしまう。
「じつは……、エルム王国第一王女のシルベリア様が来られています」
「第一王女……。ルイーズ様は、今回の事に関しては?」
俺の質問に、ナイルさんが頭を横に振る。
どうやら、エルム王国からの返答に関して、ルイーズさんは関わることはないようだ。
そうなると、ルイーズさんの扱いは、どうなるのか気になる所ではあるが……、藤和さんが居ない以上、余計な事に考えを割くのは得策ではないよな……。
「分かりました」
「くれぐれも、シルベリア様には失礼が無いようにお願いします」
「それほどですか?」
前回に顔合わせをしたルイーズさんの時には何か言われる事は無かったが、ナイルさんが注意喚起をしてくるという事は、厄介な相手だというのが想像つく。
伊達に、何回も貴族を見るだけでなく、本を読んで交渉を少しでも身につけた訳ではないのだから。
「はい。貴族らしい貴族と言いますか……」
「それは、民を虫けらのように見ているとか?」
「――いえ。そこまでは酷くは無いと思いますが……」
歯切れの悪い――。
遠からず近からずと言った所なのかも知れない。
「分かりました。接待については、そこまで自信はありませんが、それなりの社会経験もありますので」
「よろしくお願いします。それと、ノーマン辺境伯様より伝言ですが」
「伝言?」
「問題があるようなら交渉決裂でも構わないとのことです」
「それって……領地内で商品の売買が出来なくなることを意味するのでは?」
「詳しくはお伝え出来ませんが、過剰に下手に出る必要は無いとの事です。ただ――」
「つまり、こちらに非が無いように、立ち回るようにと言う事ですか?」
コクリと頷くナイルさん。
どうやら、何か裏があるようだが……。
「交渉決裂の後は何か考えていたりしますか?」
こちらとしても、此処までお膳立てをして交渉が決裂するのは避けたい。
ノーマン辺境伯が何を考えているのか俺にはサッパリ分からないが……、ナイルさんから何を考えているのかを聞き出す事くらいはしておかないと……。
今後の身の振り方にも関わってくる問題だし……。
「そちらについてはお答えできません」
「理由は?」
「ゴロウ様は、魔法を使うことが出来ませんので……」
「魔法が使うことが出来ないことに何の意味が?」
「それ以上は――」
顔を左右に振りながら、決して教えてくれようとはしない。
つまり、魔法関連で俺に事情を話した場合、不利益が発生するという事か。
そういう事を、ノーマン辺境伯は考えていると?
「分かりました」
俺とナイルさんが乗っている馬車は、辺境伯邸に到着。
詳しく聞き出す術も持たない俺は、頷いたあと、馬車が停まった頃合いを見計らって外に出る。
すると、そこには100人を超える完全武装の兵士の姿が――。
それも、辺境伯領の兵士の恰好――、体の主要部位を隠すような鎧ではなく、西洋風の体全体を覆い隠すようなフルプレートメイルのような鎧を着こんでいる。
その圧迫感というか、重圧はすさまじいもので――。
「これは、お待ちしていました」
そんな兵士達の間から姿を現し、俺に話しかけてきたのは――。
「ヴェルナー卿……」
「お久しぶりです。伯爵殿」
知っている人物であり……、そして続けてヴェルナー卿は俺に向けて伯爵と話しかけてきた。
「伯爵?」
「おっと……これは……」
「どういうことでしょうか? ヴェルナー卿」
俺の事を伯爵と言いつつ語り掛けてきたヴェルナー卿に対して、ナイルさんが話の合間に入る。
その様子は冷静には見えるが、普段から接している俺には何となく分かる。
怒っているというのが。
「ゴロウ様と私は話しただけだが? 貴殿が口を挟むのは些か問題かと思われるが?」
もちろん、藤和さんが納入してきた塩などは店内に移動済みである。
「五郎さん」
「はい?」
夕飯も摂り、縁側では桜はフーちゃんを枕にして寝ている。
そして、俺はパソコンで店のホームページを作っていて、丁度、お茶を持ってきてくれた雪音さんに話しかけられた。
「えっと……、何かありましたか?」
雪音さんは、少しだけ心配そうな表情で俺を見てくる。
ちなみに服装は白色の華美な装飾などないワンピースで、長い黒髪は、髪ゴムで一纏めにして背中に流している。
「そうですか?」
「はい。納品後から、ずっと難しい表情をしていましたので」
どうやら、ナイルさんを護衛として連れてくるにあたりノーマン辺境伯に頼むことに関して、借りを作ることを問題だと思っていた俺の考えは表情に出ていたらしい。
「実は――」
動画サイトで、うちの店が紹介されていたこと……、そして藤和さんから今後の対応についてアドバイスされていたことを、何かあったら困るという理由で説明する。
「なるほど……、それは護衛が必要かも知れないですね」
「ですよね」
「はい。それに人手もあった方がいいですから」
「それって……お店の方で?」
コクリと頷く雪音さん。
「あと、恵美さんの件もありますから」
「恵美さんが?」
どうして、ナイルさんが此方の世界に居る必要がある事に、恵美さんが関わってくるのか分からないが……。
「はい。それで、今日は異世界に行かれるんですよね?」
「そうですね。どちらにしても塩を持っていかないといけないので」
「お気をつけてください」
話しが一段落ついたところで、時刻は深夜の0時。
店のバックヤード側を通り店内から、異世界側の路地へと出る。
暗闇から、日差しが照り付ける昼間へと一瞬にして切り替わることに目を細めると――、目が明かるさに慣れるまえに「ゴロウ様」と、聞き覚えのある声で話しかけられた。
「お久しぶりです。ナイルさん」
相手が誰かはすぐに分かったので、返事をする。
「大変、お久しぶりです。ゴロウ様、ノーマン様が首を長くしてお待ちしています」
いつもよりも声の抑揚が固い気がする。
まぁ、一ヵ月ぶりだから気のせいかもしれない。
「分かりました。まずは塩を――」
「いえ! すぐに辺境伯邸までお越し頂けますか?」
いつもは塩を渡してから辺境伯邸へ向かうのが通例だったが、強い口調でナイルさんが会話を切ってくる。
こんな事は、今までなかった。
「何か問題でも発生しましたか?」
「ここでは……」
「分かりました」
往来の場では言えない事というのは、すぐに理解した。
兵士達が、周りを囲っていても、ここは通りに面している事から、住居や店などもある。
それらの目や耳を完全に防ぐことはできない。
なら、場所を変えて説明するのが妥当と言ったところだろう。
了承後は、すぐに馬車が用意され、それにナイルさんと共に乗り込む。
馬車は、すぐに走り出す。
「五郎様、急かしてしまい申し訳ありません」
「いえ」
まぁ、相手にも事情があるだろうし。
「それで、何か問題でも?」
一般人が居る前では話せない内容と言えば、それなりの事なのだろう。――そういう事はなんとなくだが、最近は予想がついてきた。
「はい。じつは、エルム王国から使者が参りました」
その言葉に俺はゴクリと唾を呑み込む。
それはつまり、貿易が可能になるかどうかという回答だから。
「そうですか……」
「はい」
「それで、来られた使者の方は以前と同じ方ですか?」
「はい。一部の方は同じです」
「つまり、他の方も来られているという事ですか?」
「一応、リコード卿とヴェルナー卿は来ておられます。ただ……」
「ただ?」
コクリと神妙そうな表情で頷くナイルさん。
その様子から、面倒な人物が来ているというのが分かってしまう。
「じつは……、エルム王国第一王女のシルベリア様が来られています」
「第一王女……。ルイーズ様は、今回の事に関しては?」
俺の質問に、ナイルさんが頭を横に振る。
どうやら、エルム王国からの返答に関して、ルイーズさんは関わることはないようだ。
そうなると、ルイーズさんの扱いは、どうなるのか気になる所ではあるが……、藤和さんが居ない以上、余計な事に考えを割くのは得策ではないよな……。
「分かりました」
「くれぐれも、シルベリア様には失礼が無いようにお願いします」
「それほどですか?」
前回に顔合わせをしたルイーズさんの時には何か言われる事は無かったが、ナイルさんが注意喚起をしてくるという事は、厄介な相手だというのが想像つく。
伊達に、何回も貴族を見るだけでなく、本を読んで交渉を少しでも身につけた訳ではないのだから。
「はい。貴族らしい貴族と言いますか……」
「それは、民を虫けらのように見ているとか?」
「――いえ。そこまでは酷くは無いと思いますが……」
歯切れの悪い――。
遠からず近からずと言った所なのかも知れない。
「分かりました。接待については、そこまで自信はありませんが、それなりの社会経験もありますので」
「よろしくお願いします。それと、ノーマン辺境伯様より伝言ですが」
「伝言?」
「問題があるようなら交渉決裂でも構わないとのことです」
「それって……領地内で商品の売買が出来なくなることを意味するのでは?」
「詳しくはお伝え出来ませんが、過剰に下手に出る必要は無いとの事です。ただ――」
「つまり、こちらに非が無いように、立ち回るようにと言う事ですか?」
コクリと頷くナイルさん。
どうやら、何か裏があるようだが……。
「交渉決裂の後は何か考えていたりしますか?」
こちらとしても、此処までお膳立てをして交渉が決裂するのは避けたい。
ノーマン辺境伯が何を考えているのか俺にはサッパリ分からないが……、ナイルさんから何を考えているのかを聞き出す事くらいはしておかないと……。
今後の身の振り方にも関わってくる問題だし……。
「そちらについてはお答えできません」
「理由は?」
「ゴロウ様は、魔法を使うことが出来ませんので……」
「魔法が使うことが出来ないことに何の意味が?」
「それ以上は――」
顔を左右に振りながら、決して教えてくれようとはしない。
つまり、魔法関連で俺に事情を話した場合、不利益が発生するという事か。
そういう事を、ノーマン辺境伯は考えていると?
「分かりました」
俺とナイルさんが乗っている馬車は、辺境伯邸に到着。
詳しく聞き出す術も持たない俺は、頷いたあと、馬車が停まった頃合いを見計らって外に出る。
すると、そこには100人を超える完全武装の兵士の姿が――。
それも、辺境伯領の兵士の恰好――、体の主要部位を隠すような鎧ではなく、西洋風の体全体を覆い隠すようなフルプレートメイルのような鎧を着こんでいる。
その圧迫感というか、重圧はすさまじいもので――。
「これは、お待ちしていました」
そんな兵士達の間から姿を現し、俺に話しかけてきたのは――。
「ヴェルナー卿……」
「お久しぶりです。伯爵殿」
知っている人物であり……、そして続けてヴェルナー卿は俺に向けて伯爵と話しかけてきた。
「伯爵?」
「おっと……これは……」
「どういうことでしょうか? ヴェルナー卿」
俺の事を伯爵と言いつつ語り掛けてきたヴェルナー卿に対して、ナイルさんが話の合間に入る。
その様子は冷静には見えるが、普段から接している俺には何となく分かる。
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