田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
179 / 437

第179話 エルム王国との交渉(1)

しおりを挟む
河原でバーベキューという休暇の一日を終えたあと、家で寛ぐ事に――。
 もちろん、藤和さんが納入してきた塩などは店内に移動済みである。
 
「五郎さん」
「はい?」
 
 夕飯も摂り、縁側では桜はフーちゃんを枕にして寝ている。
 そして、俺はパソコンで店のホームページを作っていて、丁度、お茶を持ってきてくれた雪音さんに話しかけられた。
 
「えっと……、何かありましたか?」
 
 雪音さんは、少しだけ心配そうな表情で俺を見てくる。
 ちなみに服装は白色の華美な装飾などないワンピースで、長い黒髪は、髪ゴムで一纏めにして背中に流している。
 
「そうですか?」
「はい。納品後から、ずっと難しい表情をしていましたので」
 
 どうやら、ナイルさんを護衛として連れてくるにあたりノーマン辺境伯に頼むことに関して、借りを作ることを問題だと思っていた俺の考えは表情に出ていたらしい。
 
「実は――」
 
 動画サイトで、うちの店が紹介されていたこと……、そして藤和さんから今後の対応についてアドバイスされていたことを、何かあったら困るという理由で説明する。
 
「なるほど……、それは護衛が必要かも知れないですね」
「ですよね」
「はい。それに人手もあった方がいいですから」
「それって……お店の方で?」
 
 コクリと頷く雪音さん。
 
「あと、恵美さんの件もありますから」
「恵美さんが?」
 
 どうして、ナイルさんが此方の世界に居る必要がある事に、恵美さんが関わってくるのか分からないが……。
 
「はい。それで、今日は異世界に行かれるんですよね?」
「そうですね。どちらにしても塩を持っていかないといけないので」
「お気をつけてください」
 
 話しが一段落ついたところで、時刻は深夜の0時。
 店のバックヤード側を通り店内から、異世界側の路地へと出る。
 暗闇から、日差しが照り付ける昼間へと一瞬にして切り替わることに目を細めると――、目が明かるさに慣れるまえに「ゴロウ様」と、聞き覚えのある声で話しかけられた。
 
「お久しぶりです。ナイルさん」
 
 相手が誰かはすぐに分かったので、返事をする。
 
「大変、お久しぶりです。ゴロウ様、ノーマン様が首を長くしてお待ちしています」
 
 いつもよりも声の抑揚が固い気がする。
 まぁ、一ヵ月ぶりだから気のせいかもしれない。
 
「分かりました。まずは塩を――」
「いえ! すぐに辺境伯邸までお越し頂けますか?」
 
 いつもは塩を渡してから辺境伯邸へ向かうのが通例だったが、強い口調でナイルさんが会話を切ってくる。
 こんな事は、今までなかった。
 
「何か問題でも発生しましたか?」
「ここでは……」
「分かりました」
 
 往来の場では言えない事というのは、すぐに理解した。
 兵士達が、周りを囲っていても、ここは通りに面している事から、住居や店などもある。
 それらの目や耳を完全に防ぐことはできない。
 なら、場所を変えて説明するのが妥当と言ったところだろう。
 了承後は、すぐに馬車が用意され、それにナイルさんと共に乗り込む。
 馬車は、すぐに走り出す。
 
「五郎様、急かしてしまい申し訳ありません」
「いえ」
 
 まぁ、相手にも事情があるだろうし。
 
「それで、何か問題でも?」
 
 一般人が居る前では話せない内容と言えば、それなりの事なのだろう。――そういう事はなんとなくだが、最近は予想がついてきた。
 
「はい。じつは、エルム王国から使者が参りました」
 
 その言葉に俺はゴクリと唾を呑み込む。
 それはつまり、貿易が可能になるかどうかという回答だから。
 
「そうですか……」
「はい」
「それで、来られた使者の方は以前と同じ方ですか?」
「はい。一部の方は同じです」
「つまり、他の方も来られているという事ですか?」
「一応、リコード卿とヴェルナー卿は来ておられます。ただ……」
「ただ?」
 
 コクリと神妙そうな表情で頷くナイルさん。
 その様子から、面倒な人物が来ているというのが分かってしまう。
 
「じつは……、エルム王国第一王女のシルベリア様が来られています」
「第一王女……。ルイーズ様は、今回の事に関しては?」
 
 俺の質問に、ナイルさんが頭を横に振る。
 どうやら、エルム王国からの返答に関して、ルイーズさんは関わることはないようだ。
 そうなると、ルイーズさんの扱いは、どうなるのか気になる所ではあるが……、藤和さんが居ない以上、余計な事に考えを割くのは得策ではないよな……。
 
「分かりました」
「くれぐれも、シルベリア様には失礼が無いようにお願いします」
「それほどですか?」
 
 前回に顔合わせをしたルイーズさんの時には何か言われる事は無かったが、ナイルさんが注意喚起をしてくるという事は、厄介な相手だというのが想像つく。
 伊達に、何回も貴族を見るだけでなく、本を読んで交渉を少しでも身につけた訳ではないのだから。
 
「はい。貴族らしい貴族と言いますか……」
「それは、民を虫けらのように見ているとか?」
「――いえ。そこまでは酷くは無いと思いますが……」
 
 歯切れの悪い――。
 遠からず近からずと言った所なのかも知れない。
 
「分かりました。接待については、そこまで自信はありませんが、それなりの社会経験もありますので」
「よろしくお願いします。それと、ノーマン辺境伯様より伝言ですが」
「伝言?」
「問題があるようなら交渉決裂でも構わないとのことです」
「それって……領地内で商品の売買が出来なくなることを意味するのでは?」
「詳しくはお伝え出来ませんが、過剰に下手に出る必要は無いとの事です。ただ――」
「つまり、こちらに非が無いように、立ち回るようにと言う事ですか?」
 
 コクリと頷くナイルさん。
 どうやら、何か裏があるようだが……。
 
「交渉決裂の後は何か考えていたりしますか?」
 
 こちらとしても、此処までお膳立てをして交渉が決裂するのは避けたい。
 ノーマン辺境伯が何を考えているのか俺にはサッパリ分からないが……、ナイルさんから何を考えているのかを聞き出す事くらいはしておかないと……。
 今後の身の振り方にも関わってくる問題だし……。
 
「そちらについてはお答えできません」
「理由は?」
「ゴロウ様は、魔法を使うことが出来ませんので……」
「魔法が使うことが出来ないことに何の意味が?」
「それ以上は――」
 
 顔を左右に振りながら、決して教えてくれようとはしない。
 つまり、魔法関連で俺に事情を話した場合、不利益が発生するという事か。
 そういう事を、ノーマン辺境伯は考えていると?
 
「分かりました」
 
 俺とナイルさんが乗っている馬車は、辺境伯邸に到着。
 詳しく聞き出す術も持たない俺は、頷いたあと、馬車が停まった頃合いを見計らって外に出る。
 すると、そこには100人を超える完全武装の兵士の姿が――。
 それも、辺境伯領の兵士の恰好――、体の主要部位を隠すような鎧ではなく、西洋風の体全体を覆い隠すようなフルプレートメイルのような鎧を着こんでいる。
 その圧迫感というか、重圧はすさまじいもので――。
 
「これは、お待ちしていました」
 
 そんな兵士達の間から姿を現し、俺に話しかけてきたのは――。
 
「ヴェルナー卿……」
「お久しぶりです。伯爵殿」
 
 知っている人物であり……、そして続けてヴェルナー卿は俺に向けて伯爵と話しかけてきた。
 
「伯爵?」
「おっと……これは……」
「どういうことでしょうか? ヴェルナー卿」
 
 俺の事を伯爵と言いつつ語り掛けてきたヴェルナー卿に対して、ナイルさんが話の合間に入る。
 その様子は冷静には見えるが、普段から接している俺には何となく分かる。
 怒っているというのが。
 
「ゴロウ様と私は話しただけだが? 貴殿が口を挟むのは些か問題かと思われるが?」
 



しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...