田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第178話 動画対策

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「えっと……、藤和(とうわ) 理紗(りしゃ)ですか……」
 
 違和感ありまくりな日本語の羅列に少しだけ考え込んでしまうが、目をキラキラと輝かせているリーシャを目の前にしていると、突っ込むことができない。
 
「いい名前ですね」
 
 少しというか、かなり棒読みになってしまったのは致し方ないと思う。
 
「はい!」
 
 社交辞令に近い俺の言葉に、ニコリと微笑んでくるリーシャ。
 
「ところで、大型トラックを運転するのは大変だったのでは?」
 
 大型免許を取る為には空間認識能力や深視力などが必要になる。
 それを有しているのは、かなり限られるので、リーシャが日本にきて僅か一ヵ月で魔法の補助があったとしても大型免許を取得したことに驚く。
 
「そんな事ありません」
 
 俺の杞憂を他所にリーシャが左右に頭を振る。
 
「そうなんですか?」
「はい!」
 
 即答してくるリーシャ。
 そして――、「リーシャ殿は、どんな乗り物でも、それなりに運転してしまいます」と、藤和さんも話に加わってくる。
 
「どんな乗り物でも?」
「はい。知らない乗り物でも、ある程度は運転できてしまいます」
「そうですか……。それも、やっぱり魔法だったりしますか?」
「そのようです」
「はい! 周囲を見渡す事が出来る遠視の魔法がありますので、それを使っています」
「なるほど……」
 
 魔法って便利だな……。
 
「月山様。話しは脱線してしまいましたが、今後の納品に関してはリーシャ殿が運んでくる事になりますので宜しくお願いします」
「……えっと、藤和さんは?」
「業務が忙しくなってきた事もあり、何か問題が起きた時だけという形になります」
「それは、金山の事とかですか?」
「それもありますが、今後の販促路の確保なども含めてです。いまの私の事業所の規模ですと下手に動くと税務署や同業他社にも感づかれる恐れがありますので」
 
 その言葉に俺は頷く。
 
 
「そうですね」
 
 異世界との交流と、物流に関しては限られた人間だけが情報を共有しないと、色々と不都合が生じる事から多少の不便には目を瞑らないといけない。
 ただ問題は……と思ったところで、
 
「月山様、少し宜しいでしょうか?」
「――?」
 
 藤和さんが付いてきて欲しいような身振りをしたので、リーシャから俺と藤和さんは離れる。
 
「何か大事な話でも?」
 
 藤和さんが立ち止まったところで、俺は話しかける。
 
「じつは、先ほど、リーシャ殿は、ある程度は……、それなりの運転を出来るとお伝えしましたが……、かなりの練習をしていました」
「練習?」
「はい。当会社の敷地内で……と言う話になりますが、魔法を使っても慣れない事もありますから」
「――え? それなら、どうして先ほど……」
「それは、リーシャ殿は仕事を教えていて分かったことは、努力しているのを人に知られたくない性格だという事でしょうか?」
 
 努力を人に知られたくないか……。
 別に、その点に関しては恥ずかしがるところでは無いと思うが……、まぁ――、リーシャの扱いに関しては藤和さんに一任しているし、対応も任せているから俺が口を出す事ではないと思うが……、
 
「でも大丈夫ですか? 努力で、乗れるようになったという事は事故が起きる可能性もあるって事ですよね? 特に運転技術は努力もそうですけど、知識や経験も重要になってきますよ?」
「その点に関しては、私の方でもバックアップしていきますので大丈夫です。とにかく、リーシャ殿は、月山様と一緒に居たいという気持ちが強いからなのか、頑張る節がありますので、多少の便宜は図りませんと問題が出てきますから」
「つまり、ご褒美と言う事ですか」
 
 あまり、俺をご褒美代わりにして欲しくないし、リーシャが家に来るのは桜の手前、宜しいとは思えないが……、結界の事もあるし、あまり蔑ろにもできない。
 
「はい。そういう事です」
「……分かりました。とりあえずあと4ヵ月ほどで雪が降り始めますので、そうしたら別の運転手に代える事をお薦めします。冬の雪山は、運転をする上では非常に危険ですので」
「それは重々承知しています。まだ購入したばかりの新車を廃車にされると流石に困りますので……」
「――え? 新車……ですか? あれって……、たしか……数千万円するのでは……?」
「はい。たしかに価格としては高いですが、毎回リースする訳には行きませんので――、当社としても購入致しました。現在は、リーシャ殿専用の大型アルミウィング式のトラックになっています」
「なるほど……」
「それに、物流に関してもリースですと情報が洩れる可能性もありますので必要な事ですので……」
「たしかに……リーシャさんでしたら、その辺はクリアできますからね」
「はい。それと月山様」
「何でしょうか?」
「こんな動画が上がっていました」
「動画?」
 
 藤和さんが、タブレットを取り出す。
 受け取り画面を見る。
 すると、そこには月山雑貨店の動画がアップされていた。
 タイトルは、「秘境のスーパー発見!」というもの。
 
「これって、猟友会のイベントの時のですよね……」
「はい。ローカルテレビ放送枠で流れたのを動画サイトに誰かがアップしたようです」
「なるほど……。上げられたのは3日前で再生数が17万回!?」
 
 思わず藤和さんを見る。
 
「物好きの方が来るかも知れませんので、護衛の方を異世界から呼んでおいた方がいいかも知れません」
「ナイルさんですか」
「日本は治安がいいと言っても、色々と問題も起こりやすいですから。それに明日からは土日祭日と2連休ですから」
「そうですね……」
 
 ある程度、宣伝にはなったと言っても動画を作って、それをネットに上げて稼ぐ人達の本質は、他人に注目されたい――、もしくは自尊心を満たしたい人いう人が多いというのは俺も知っていたので、藤和さんの護衛を呼んだ方がいいと言うのはすんなりと理解出来る。
 とりあえず、異世界に行きノーマン辺境伯と話を付けた方がいい。
 
「まぁ、そこまで気にすることはないかと」
「そうですか? ネットに動画を上げる人達は色々と問題がある人が多いので……」
「そういう側面もありますが、逆を言えばうまく対応すれば宣伝になると考えれば良いと思います。――ですが、対処を見誤ると問題になりますので、田口村長を一週間から2週間ほど常駐させておく方がいいかと思います」
「たしかに……、交渉などを村長としてしてますからね」
「はい。月山様は、なるべく距離を取っておいた方がいいです」
「なるほど……。つまり何かあった時の為の最終防衛ライン的な……」
 
 俺の発言に目を露骨に逸らす藤和さん。
 
「何か?」
「いえ。少し虫が飛んでいたような気がしましたので……」
「そうですか?」
「はい。とりあえず、田口村長が対応できない分については村長の娘さんである雪音さんに、それでも無理でしたら根室さんに任せればいいと思います」
「指揮官は滅多に動かないみたいな感じですね」
「…………そうですね。とりあえず、月山様は余計な事を言わないようにお願いします。ネット世界は、一度でも情報が拡散してしまうと取り返しがつかないので」
「大丈夫ですよ」
「……」
 
 何故か俺の言葉に無言になる藤和さん。
 俺、何か変なことを言っているか?
 
「――ま、まぁ……。マスコットキャラとして犬を見せるのも良いかも知れませんね。いい宣伝になりますし」
「たしかに……」
 
 そこは非常に同意だ。
 
「あと護衛の方も、なるべく後方に控えておいていただくようにお伝えください。此方の常識に疎いと勘繰られる情報を話してしまう可能性がありますので」
「そうですね」
 
 俺は頷く。
 その間も、フォークリフトを器用に使い大型トラックから荷下ろしをしていくリーシャ。
 それから塩の代金を払い終わり話が一段落したところで丁度、荷下ろしが終わったのかリーシャが小走りで近寄ってくる。
 
「社長。作業が終わりました」
「お疲れ様でした」
 
 定型文のような会話を交わすリーシャと藤和さん。
 そのあたりから、藤和さんがリーシャに対して、ある程度、こちらの世界の常識を教えているのが伺いしれる。
 
「ゴロウ様!」
 
 ――と、思っていたところで俺の方を振り向いて喜々とした表情で、俺の名前を呼んでくるリーシャ。
 
「何か?」
「どうでしたか? 私の運転!」
「完璧でした」
 
 殆ど見ていなかったとは……、目を輝かせて評価を聞いてくるリーシャには言えなかったので、社交辞令として答えておく。
 
「本当ですか!? 良かったです! じつは、フォークリフトの免許は取ったばかりなんです!」
「そうですか。それにしても、戸籍も魔法で?」
「はい! 認識阻害の魔法の応用です!」
「よく魔力がもちますね。向こうの世界の人は、魔力が枯渇した場合、補充の術がないのに……」
「それはですねっ! ゴロウ様と、此方の世界で繋がっているからです!」
 
 そう言いつつ、リーシャは自分のお腹辺りを触る。
 そこは確か文様があった場所で……。
 
「つまり、リーシャさんは、こちらの世界に来た事で魔力の供給を俺から得ていると?」
「はい! ゴロウ様の魔力は、すっごく美味しいです!」
「……そ、そうですか……」
 
 何だか、とても嫌な感じだが、詳しくは聞いていなかったので、すでに今更感があるし、何よりリーシャの素性が周りにバレたら、大問題だ。
 細かいことは気にしないことにしておこう。
 
「リーシャ殿。そろそろ会社に戻りましょう」
「えーっ!」
 
 不満な様子のリーシャが声を上げる。
 
「リーシャ殿。雇用主の命令は――」
「……は、はい……」
 
 藤和さんの言葉に渋々と言った様子で引き下がるリーシャは、「また、来ますね!」と、言って大型トラックに乗り込むと、駐車場から出ていく藤和さんの車のあとを追って走り出した。
 それを見送ったあと、俺は溜息をつきつつ、荷下ろしされた塩が載ったパレットへと視線を向けた。
 
 
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