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第177話 リーシャの転職
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結城村の有力者達と話し合いが難なく済んでから一ヵ月近くが経過――、現在は、田口村長と一緒に、譲ってくれるという山に足を運んでいた。
「まだ暑いですね」
「そうだの」
俺と村長は、林道から真正面に見える山を見ながら二人して溜息をつく。
季節は、すでに9月中旬。
最近は、気候も変動してきていて残暑というレベルではないくらいの暑さが続いていて例年よりも暑いくらい。
しかも盆地には熱が篭るので、「はぁ」と、思わず肩を落とすのは仕方ないと言える。
「五郎」
「何でしょうか?」
俺は、山の位置を確認するために地図を広げながら答える。
「孫は……、雪音は……、その……」
「すごく助かっています」
「そ、そうか……」
「「……」」
思わず二人して無言になる。
村長が聞きたいことは、おそらく経理の仕事の事では無い事くらいは、ある程度、雪音さんと一緒に暮らしていて俺だって分かっている。
おそらく男女の仲を聞いてきていると思うが、姪っ子の桜の事を考えると、そういう気持ちにはならない。
「そういえば、異世界の方はどうなっている?」
「先週に塩を再度、届けた時には王都の方からは返事はまだ来ていないと報告は受けています」
「ふむ……。悪い知らせではないならいいが……、それに王家の方でも決めかねているという可能性もあるか……」
「藤和さんも、それを心配していました。ただ――、日本に侵攻するにはゲートがある為、難しいとも……」
「そうなると……、王家の方から懐柔してくるという可能性が一番高いか?」
「藤和さんも、血縁関係を結ぶことを第一に考えてくる可能性もあると……」
「そうだの」
俺としては、結婚を前提に付き合っている雪音さん以外とは、そういう考えを持つことはないし、そもそも政略結婚など俺は好きではない。
第一、相手にも失礼だと思うからだ。
好きでもない相手の所に嫁ぐには、どうなのか? と、問わずにはいられない。
「自分は、そういうのは好きではないです」
「そうか」
短く村長は言葉を切ると、俺が広げた地図を指差す。
「今後の事を考えると、ここの山と――」
村長が指差していく山は全部で3つ。
土地の広さは相当な物になる。
そして、固定資産税もそれなりに……。
ただし、東京都内に行き金を多少なりと売ったこと――、そして目黒さんに金の売買を任せている事もあり、一応はある程度の資金はある。
ただ――、お金に関しての管理については雪音さんに任せてあるが。
「結構、ありますね」
「うむ。だがな――、今後のことを考えると、それなりの広さがあった方がよい」
しばらく山の中を散策したあと、川沿いに出る。
そして河原を下っていくとバーベキューをしている一団の姿が見えてきた。
「おじちゃん!」
「わんわん!」
桜が元気よく手を振ってくる。
もちろん、その頭の上にはフーちゃん座っていた。
――ただ、暑いのかクタッとへばっているように見える。
「ただいま」
「おかえりなさいなの!」
「やっぱり、フーちゃんは家の中じゃないと大変か?」
白い羽毛のような毛を持つ犬なのだから暑いのは苦手なのかも知れないな。
久しぶりの休暇とも言える時間をとったあとは、根室さんと交代し店番をする。
幸いというか不幸とも言えるべきか、殆ど客が来ないので開店休業状態なのは問題ではあったが、山昇りをした事もあり良い事だと捉えることにした。
――カランカラン
軽いベルの音が店内に木霊する。
根室さんの提案により店の入り口のドアに取りつけたベルであり、扉の開閉を知らせてくれるモノである。
もちろんカウンターに居る場合には、必要はないが品出しをしている場合は、その限りではないので取り付けたのだが――。
「こんばんは」
「これは藤和さん、商品の――」
「はい。塩を御持ちしました」
「明日来られると伺っていましたが……」
「それが、リーシャ様が、どうしても……と……」
「そういえば、リーシャさんは、藤和さんの所で働いていたんでしたっけ?」
「はい」
「なるほど……」
どうしても……か……。
何か急な用事があるとは思えないが……。
とりあえず、店内を見渡すがリーシャさんの姿は見受けられない。
「リーシャさんの姿はありませんけど?」
一応、駐車場の方を見るが商品搬入用のトラックが駐車場に入ってくる様子が見えるだけで、外にもリーシャさんの姿はない。
「月山様。フォークリフトをお借りしてもいいでしょうか?」
「構いませんが……、少し待っていてください」
すぐに、河原に向かう。
そこには、桜と雪音さんに村長と根室さん親子の姿があり、バーベキューの跡片付けをしていた。
夏場ということ――、そして小走りで河原まで来たこともあり多少息が上がっていたが――、
「五郎さん? どうかしましたか?」
まず、俺に気が付いて話しかけてきたのは雪音さん。
「――いえ。フォークリフトを使う事になって……」
「あ、そういうことですか。桜ちゃん!」
雪音さんが声を張り上げると、顔を上げて此方を見てきた桜はすぐに小走りで近寄ってくる。
「おじちゃん、どうかしたの?」
「フォークリフトを使いたいから、手伝ってくれるか?」
「うん! 分かったの! 和美ちゃん! また、あとでね!」
「――え? あ、うん……」
遊んでいたからなのか、少し不満げな和美ちゃんを置いて母屋へ戻りフォークリフトのエンジンを桜に掛けてもらったあと、二人して店前の駐車場に向かうと、すでに大型トラックの側面のウイングは空いていた。
「月山様」
「藤和さん。一応、フォークリフトの用意はしましたけど……、あとは運転手の方に荷下ろしは任せればいいですか?」
「そうですね」
俺の問いかけに頷く藤和さん。
そして、俺は運転手が来るのを待つ。
しばらくして、運転席側のドアが開くと、そこから出てきたのは――、
「五郎様!」
土方着を着たリーシャであった。
異世界では、少しというか……、かなりという部分で倫理的に問題のある服装をしていたリーシャが、日本でいう所の作業着を着ているのは、違和感があったが――、それでも彼女の気品ある雰囲気というのは、まったく損なわれていない――、と思う。
「お久しぶりです」
リーシャが、日本に来てから藤和さんが面倒を見ているのは知っていたが、完全に記憶から削除されていた事もあり、何と話せばいいのか考えてしまい、思わず藤和さんの方を見てしまう。
「これからは、荷物の運搬に関してはリーシャ殿に、一任しようと思っているのです」
藤和さんの、その言葉に――、俺は思わず「そうですか」と、頷くことしかできない。
ただ、そこまで考えたところで重要な事に気が付く。
「藤和さん」
「何でしょうか?」
「大型トラックの免許をリーシャさんは?」
「取得しています」
「そうなんですか? ――でも、リーシャさんが日本に来て、まだ一ヵ月くらいですよね?」
少なくとも車両総重量が11トン以上、最大積載量が6.5トン以上の大型自動車免許を取るっためには運転経験が3年は無いと無理なはず……。
「その辺は解決済みです」
「解決済みって……」
「リーシャ殿は、魔法が使えますので」
「な、なるほど……」
どういう手段をとったのか分からないが、魔法というのは万能らしい。
「もちろん日本での戸籍も取得してあります」
「戸籍も?」
日本は戸籍には煩いはずだが……、そもそも運転免許を取る為には各種申請書が必要で、その中には戸籍も必要なわけで……。
「リーシャ殿」
「ゴロウ様! 見てください!」
俺と藤和さんの会話を横で聞いていたリーシャが、藤和さんから話を振られたことで、颯爽と俺と藤和さんの間に入ってくると、懐からお財布を取り出し、その中から運転免許証を取り出すと差し出してくる。
「まだ暑いですね」
「そうだの」
俺と村長は、林道から真正面に見える山を見ながら二人して溜息をつく。
季節は、すでに9月中旬。
最近は、気候も変動してきていて残暑というレベルではないくらいの暑さが続いていて例年よりも暑いくらい。
しかも盆地には熱が篭るので、「はぁ」と、思わず肩を落とすのは仕方ないと言える。
「五郎」
「何でしょうか?」
俺は、山の位置を確認するために地図を広げながら答える。
「孫は……、雪音は……、その……」
「すごく助かっています」
「そ、そうか……」
「「……」」
思わず二人して無言になる。
村長が聞きたいことは、おそらく経理の仕事の事では無い事くらいは、ある程度、雪音さんと一緒に暮らしていて俺だって分かっている。
おそらく男女の仲を聞いてきていると思うが、姪っ子の桜の事を考えると、そういう気持ちにはならない。
「そういえば、異世界の方はどうなっている?」
「先週に塩を再度、届けた時には王都の方からは返事はまだ来ていないと報告は受けています」
「ふむ……。悪い知らせではないならいいが……、それに王家の方でも決めかねているという可能性もあるか……」
「藤和さんも、それを心配していました。ただ――、日本に侵攻するにはゲートがある為、難しいとも……」
「そうなると……、王家の方から懐柔してくるという可能性が一番高いか?」
「藤和さんも、血縁関係を結ぶことを第一に考えてくる可能性もあると……」
「そうだの」
俺としては、結婚を前提に付き合っている雪音さん以外とは、そういう考えを持つことはないし、そもそも政略結婚など俺は好きではない。
第一、相手にも失礼だと思うからだ。
好きでもない相手の所に嫁ぐには、どうなのか? と、問わずにはいられない。
「自分は、そういうのは好きではないです」
「そうか」
短く村長は言葉を切ると、俺が広げた地図を指差す。
「今後の事を考えると、ここの山と――」
村長が指差していく山は全部で3つ。
土地の広さは相当な物になる。
そして、固定資産税もそれなりに……。
ただし、東京都内に行き金を多少なりと売ったこと――、そして目黒さんに金の売買を任せている事もあり、一応はある程度の資金はある。
ただ――、お金に関しての管理については雪音さんに任せてあるが。
「結構、ありますね」
「うむ。だがな――、今後のことを考えると、それなりの広さがあった方がよい」
しばらく山の中を散策したあと、川沿いに出る。
そして河原を下っていくとバーベキューをしている一団の姿が見えてきた。
「おじちゃん!」
「わんわん!」
桜が元気よく手を振ってくる。
もちろん、その頭の上にはフーちゃん座っていた。
――ただ、暑いのかクタッとへばっているように見える。
「ただいま」
「おかえりなさいなの!」
「やっぱり、フーちゃんは家の中じゃないと大変か?」
白い羽毛のような毛を持つ犬なのだから暑いのは苦手なのかも知れないな。
久しぶりの休暇とも言える時間をとったあとは、根室さんと交代し店番をする。
幸いというか不幸とも言えるべきか、殆ど客が来ないので開店休業状態なのは問題ではあったが、山昇りをした事もあり良い事だと捉えることにした。
――カランカラン
軽いベルの音が店内に木霊する。
根室さんの提案により店の入り口のドアに取りつけたベルであり、扉の開閉を知らせてくれるモノである。
もちろんカウンターに居る場合には、必要はないが品出しをしている場合は、その限りではないので取り付けたのだが――。
「こんばんは」
「これは藤和さん、商品の――」
「はい。塩を御持ちしました」
「明日来られると伺っていましたが……」
「それが、リーシャ様が、どうしても……と……」
「そういえば、リーシャさんは、藤和さんの所で働いていたんでしたっけ?」
「はい」
「なるほど……」
どうしても……か……。
何か急な用事があるとは思えないが……。
とりあえず、店内を見渡すがリーシャさんの姿は見受けられない。
「リーシャさんの姿はありませんけど?」
一応、駐車場の方を見るが商品搬入用のトラックが駐車場に入ってくる様子が見えるだけで、外にもリーシャさんの姿はない。
「月山様。フォークリフトをお借りしてもいいでしょうか?」
「構いませんが……、少し待っていてください」
すぐに、河原に向かう。
そこには、桜と雪音さんに村長と根室さん親子の姿があり、バーベキューの跡片付けをしていた。
夏場ということ――、そして小走りで河原まで来たこともあり多少息が上がっていたが――、
「五郎さん? どうかしましたか?」
まず、俺に気が付いて話しかけてきたのは雪音さん。
「――いえ。フォークリフトを使う事になって……」
「あ、そういうことですか。桜ちゃん!」
雪音さんが声を張り上げると、顔を上げて此方を見てきた桜はすぐに小走りで近寄ってくる。
「おじちゃん、どうかしたの?」
「フォークリフトを使いたいから、手伝ってくれるか?」
「うん! 分かったの! 和美ちゃん! また、あとでね!」
「――え? あ、うん……」
遊んでいたからなのか、少し不満げな和美ちゃんを置いて母屋へ戻りフォークリフトのエンジンを桜に掛けてもらったあと、二人して店前の駐車場に向かうと、すでに大型トラックの側面のウイングは空いていた。
「月山様」
「藤和さん。一応、フォークリフトの用意はしましたけど……、あとは運転手の方に荷下ろしは任せればいいですか?」
「そうですね」
俺の問いかけに頷く藤和さん。
そして、俺は運転手が来るのを待つ。
しばらくして、運転席側のドアが開くと、そこから出てきたのは――、
「五郎様!」
土方着を着たリーシャであった。
異世界では、少しというか……、かなりという部分で倫理的に問題のある服装をしていたリーシャが、日本でいう所の作業着を着ているのは、違和感があったが――、それでも彼女の気品ある雰囲気というのは、まったく損なわれていない――、と思う。
「お久しぶりです」
リーシャが、日本に来てから藤和さんが面倒を見ているのは知っていたが、完全に記憶から削除されていた事もあり、何と話せばいいのか考えてしまい、思わず藤和さんの方を見てしまう。
「これからは、荷物の運搬に関してはリーシャ殿に、一任しようと思っているのです」
藤和さんの、その言葉に――、俺は思わず「そうですか」と、頷くことしかできない。
ただ、そこまで考えたところで重要な事に気が付く。
「藤和さん」
「何でしょうか?」
「大型トラックの免許をリーシャさんは?」
「取得しています」
「そうなんですか? ――でも、リーシャさんが日本に来て、まだ一ヵ月くらいですよね?」
少なくとも車両総重量が11トン以上、最大積載量が6.5トン以上の大型自動車免許を取るっためには運転経験が3年は無いと無理なはず……。
「その辺は解決済みです」
「解決済みって……」
「リーシャ殿は、魔法が使えますので」
「な、なるほど……」
どういう手段をとったのか分からないが、魔法というのは万能らしい。
「もちろん日本での戸籍も取得してあります」
「戸籍も?」
日本は戸籍には煩いはずだが……、そもそも運転免許を取る為には各種申請書が必要で、その中には戸籍も必要なわけで……。
「リーシャ殿」
「ゴロウ様! 見てください!」
俺と藤和さんの会話を横で聞いていたリーシャが、藤和さんから話を振られたことで、颯爽と俺と藤和さんの間に入ってくると、懐からお財布を取り出し、その中から運転免許証を取り出すと差し出してくる。
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