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第176話 金鉱脈の問題点

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「孫が言っておった。それでは話を戻そうか。まず、五郎に売る山は、店の裏手の川に面した上流部分の山がいい。その方が、自然に金が発見出来たようにできるからの」
「自然に?」
「うむ。五郎は、砂金というのを知っているか?」
「はい。以前に調べた事がありますが……」
「うむ、そこで――、砂金が取れたという話をまずは触れ込む。もちろん、その際には山の所有権と鉱業権の取得は必須となる」
「なるほど……」
「ちなみに鉱業権つまり採掘権を取得するためには商業ベースに乗せる必要がある。そして現在の我々の住む東北では商業ベースで鉱山の採掘を行っている場所はない。これは、大きな宣伝文句になるとは思わないか?」
 
 目を細め――、真剣な面持ちで俺を見てくる。
 
「そうですね……。ただ、そこまでしたら村の人は……」
「それは問題ない。そうなれば、直接的には関係の無い結城村の住民も所有している土地が間接的に値上がりをするからな」
「値上がり?」
「金鉱脈――、しかも世界的に見て類を見ないほどの採掘量を誇るとすれば、大勢の人間が来ることになるからな」
「それは村の周囲の山々の自然を破壊する行為になるのでは?」
「だから、土地は売らない事とする。特に業者や個人にはな」
「――それだと、結局、他の村民には何の利も無いですよね?」
「売らないだけで貸し付けることは出来る。アパートやマンションと言った具合で貸し付ければ、村民主導で村の発展をさせることが出来るようになる」
「それって、商業を既存の村民だけで独占する事も出来るという事ですか?」
「そうなる。そうしなければ月山雑貨店が異世界に商品を流通させる為の隠れ蓑にはならんからの」
「そういうことですか」
「うむ。とりあえず話はこんなところだの」
「分かりました」
「――それでは、ここからはプライベートなことだが……」
 
 コホン! と前置きをしたあと、田口村長は真剣な面持ちで俺を見てくる。
 その様子から、ただならぬ気配を感じる。
 
「五郎」
「はい。何でしょうか?」
「村の有力者と一緒に一度、繋ぎを取る必要がある」
「それは村長と取っているのでは?」
「今まではな。だが、今回は結城村全体を巻き込むことになる。儂だけでは、面子が互いに立たん。あくまでも、儂は五郎、お前の代理人という立場だからな」
「なるほど……。つまり、既得権益の中心人物の自分が有力者と会う必要があると……」
「うむ。今回は歓迎会ではなく互いの利益調整の意味合いも兼ねる。キチンとした対応を取るようにな」
「分かりました」
 
 俺としては、村の人間は全員、子供の頃から知った人ばかりなので、殆ど気にしてはいなかったが、これからの事を考えると挨拶は必須だよな。
 
「それでは儂の方から日にちの段取りはしておくから、早めにしておいた方がいい」
 
 そこで、村長は小さく溜息をついた。
 
「何か問題でも?」
「――いや、雪音の事になる」
 
 雪音さんが何か問題でもあるのか?
 
「何か問題でも?」
「問題はおおありだ。今回の金山に関しては異世界の者が関わっていることは、周知の事実になる。だが――、それはあくまでも元々、村に住んでいる一部の有力者に限られる。そして、五郎。お前が中心にいる以上、孫が此処に住んでいる事を第三者が見たらどう思う?」
「仕事を手伝ってくれているとか?」
 
 俺の答えが間違っていたのか村長が首を横に振る。
 
「違う。少なくとも有力者は、儂が上手い事をやったと思うはずだ」
「そうですか?」
 
 いくら何でも、そこまで邪推はしないだろう。
 
「うむ。そのために有力者の説得は難しいだろうな」
「色々と面倒ですね」
「五郎、お前も此れからは、一家の大黒柱として常に自分の立ち位置を考えて行動する必要がある」
 
 面倒だと思いながらも俺は何も言わず頷く。
 
「――さて、それでは儂はそろそろお暇するとしようか」
 
 村長を見送ったあと、俺は居間へと戻り畳の上で横になる。
 
「おっさん!」
「冷たっ!?」
 
 寝ていたら唐突に頬に当てられる氷。
 視線を向けると、そこには悪戯が成功した! と笑みを浮かべる和美ちゃんが立っていた。
 
「どうかしたのか? それと、氷を押し付けるのは止めなさい」
「はーい」
 
 まったく反省していない様子で俺の話をスルーする和美ちゃん。
 
「フーちゃん。GO!」
「わんっ!」
 
 そんな和美ちゃんに――、居間に入ってきた桜が命令を下す。
 それと同時に、フーちゃんが和美ちゃんに飛び掛かり畳の上に押し倒して顔をぺろぺろしだした。
 
「やめろって! やめてって!」
「桜のおじちゃんに手を出していいのは桜だけなの!」
 
 桜も冷蔵庫からアイスクリームを持ってきたのか、手にしたアイスを舐め乍ら和美ちゃんに注意? をしていた。
 
 
 
 ――二週間後。
 
俺が運転する車は山道を走っていた。
 乗車しているのは、俺と村長だけ。
 
「それにしても、ずいぶんと話が簡単に済みましたね」
「ふむ。そう思うか?」
 
 村の有力者との話し合いと言う事だったので、利権関係で拗れると思っていたが、話し合いは物の10分程で終わり、お開きになった。
 あまりにも、簡単に話が終わったので逆に拍子抜けしたくらいだ。
 
「村長が、売却する山に関しても特に指定も文句も言って来なかったですよね?」
 
 運転をしながら話す俺の言葉を黙って聞く村長。
 
「何か、心配事でも?」
「いや――」
 
 村長は溜息をつきながら、短く答えてくると目を閉じてしまう。
 村の有力者のメンバーは、金山にするという山へと通じる道沿いの土地を寄こすようにと条件を出してきた。
村長は、その事について何も言わずに許可を出したが、どうやら芳しくないというのが村長の態度から察することができたが――、話の途中で車は自宅に到着し――、村長と別れた。
 
「ただいま」
「おかえりなさいなの!」
「わんわん!」
「おかーっ」
「あれ? 雪音さんは?」
「お店の方なの!」
「そうか。それじゃ、俺も店の方に行ってくるから留守番を頼んだぞ」
「分かったの!」
「りょ!」
「わん!」
 
 桜と和美ちゃんとフーちゃんを母屋に残したまま店の方へと向かう。
 外をぐるっと周り店の前に到着すると、丁度――、10トントラックが駐車場に停車していた。
 そして駐車場には、藤和さんと雪音さんが商品が乗っているパレットの前で何か話をしている。
 
「雪音さん、藤和さん」
「あっ! 五郎さん」
「これは月山様」
「何かありましたか?」
 
 一応、商品の仕入れは藤和さんと雪音さんに任せてあるが何かあった時の為に聞いておく。
 
「香辛料が必要になるかも知れないと思い、一応、バックヤードに置かせて頂ければと――」
「香辛料ですか?」
「はい。技術が未発達な中世では香辛料が高く売れますので、交渉の材料としても有効かと」
「なるほど……」
 
 そういえば、神保町で仕入れて読んだ本にもそんなことが書いてあった。
 桜が、胡椒でフーちゃんを買ってきたのも、それで説明が付く。
 
「あと、月山様に以前にご説明いたしました件ですが、何やら順調に事が進んでいるようで――」
「村長から話を聞かれましたか?」
「はい。田口様からご一報頂きました。これから、忙しくなるかもしれないと――」
「そうですか」
「私としては、隠れ蓑に出来るモノがあるだけで、かなり助かりますので迅速に対応頂き助かりました」
 
 頭を下げてくる藤和さん。
 俺としては、藤和さんの為に行った事ではないので無言で返す他ないが――、以前に藤和さんが納品に関して難しいと言っていたことが解決する糸口になるのなら問題はないのだろう。
 ただ、村長が意味深な態度をとっていた事だけは気に掛かったが――。
 
 
 
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