田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第175話 エルム王国は何処にありますか?

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 家に戻ったあとは仮眠を取り、朝食は桜と雪音さんと一緒に摂る。
 それからは、店を開けてボーッとカウンターで店番を行う。
 利用客も居ない中で――、疲れが抜けきっていない事から睡魔が襲ってくる。
 
「おはようございます」
「おっさん! おはよ!」
 
 しばらくすると、根室さんと、その子供である和美ちゃんが姿を見せる。
 
「おはようございます。それでは用意してきますね」
「お願いします」
 
 根室さんは、作業着に着替える為に母屋を利用しているので、和美ちゃんと共に母屋の方へと向かう。
 そんな後ろ姿を見ながら、俺は電話の親機から村長宅へと電話をかけた。
 10分ほどが経過した所で着替えが終わった根室さんが出社してくると共に、彼女に店番を任せようとした所で神妙な表情で俺に話しかけてくる。
 
「月山さん」
「何でしょうか?」
「今日は、ナイルさんは、お仕事はお休みですか?」
「そうですね」
「次は、何時頃シフトに入るんでしょうか?」
 
 その言葉に、俺は首を傾げる。
 そういえば、ナイルさんを何時迎えにいくか決めていなかった。
 そもそも、ナイルさんが居なくても仕事は普通に回っていたので失念していたと言った方が良いのかも知れない。
 
「そうですね。ちょっと国元に用事で出かけているだけです」
「そうなんですか……。そういえば月山さん」
「どうかしましたか?」
「エルム王国って、何処にあるんでしょうか? ルイズ辺境伯領と調べてもネットでは検索に出て来なかったので……」
「ネットでは出てこない程の小国なので……」
「……」
 
 何故か知らないが俺の答えに納得しかねると言った表情。
 まぁ、俺も自分で言っていて無茶な説得だとは納得しているが、異世界の事について打ち明けるのは不味いと思うので、こういう風に説明するしかない。
 
「まぁ、自分は元は世界中を仕事で回っていたので……」
「――え? それじゃ、その伝手で結城村に技能実習生として来たという事ですか?」
「そんな感じです」
「そうなんですか……。ネットでも分からない国とかあるんですね」
「根室さん。インターネットというのは、実は、インターネット・サービス・プロバイダに寄りますが国の政策によって国民に開示できる情報というのは実は規制されているので、全てをネットで閲覧できるとは限らないんです。――ですので、使っているプロバイダや検索サイト、それぞれの国によっては、限られた情報しか見る事が出来ない時もあります」
「――そ、そうなんですか!?」
「はい」
 
 ――良かった。
 根室さんはインターネットの検索と内情については、あまり知らないようで助かった。
 これなら、何とか追及の手から逃れることが出来る。
 
「それでは、根室さん。お仕事をお願いします」
「分かりました。あと――」
「はい?」
「何時頃、戻って来られるんでしょうか?」
「そうですね……。2週間前後で戻ってくると思います」
「……そうですか……」
 
 どうして、ナイルさんについて、そこまで言及してくるのか分からないが、とりあえずナイルさんとは口裏合わせをしておくとしよう。
 それにしても、根室さんがホッとしたような表情を一瞬していたが、もしかしたら一人だと店番は辛いのかも知れないな。
 
 田口村長が、来るまでは月山雑貨店のホームページを作る為に母屋に戻る。
 俺が、何時も寝泊まりしている居間に入れば、縁側に桜と和美ちゃんがスイカを食べながら寛いでいる姿がある。
 
「おかえりなさい。おじちゃん!」
「ただいま。雪音さんにスイカを切ってもらったのか?」
「うん!」
「そっか」
「五郎さん、おかえりなさい。お店の方は恵美さんに任せてあるんですか?」
「そうですね。店のホームページを作ろうと思いまして……、あとは田口村長と話すこともありますし……。それよりも、スイカなんて良くありましたね?」
「先日、異世界から来訪された方々が帰られたあと、祖父が持ってきてくれたんです」
「なるほど……」
 
 そういえば、村長は色々な果物や野菜を栽培していたな。
 
「それで出してくれたんですね」
「はい。今日は、暑いですから。それよりも五郎さん」
「はい? 何でしょうか?」
「金の装飾品が入っている袋を見かけましたが――」
「換金については、明後日に向かいますので」
「桜も一緒にいくー!」
「わうわう!」
「分かった、分かった」
 
 桜の頭を撫でたあと、デスクトップパソコンを起動して作業を開始する。
 
「五郎さん――、五郎さん!」
 
 ハッとして視線を上げると、少し心配した表情の雪音さんが立っていて俺を見てきていた。
 どうやら、ホームページを作る事に集中しすぎて気が付かなかったらしい。
 
「すいません、雪音さん。どうかしましたか?」
「祖父が来て客間で待っています」
「分かりました」
 
 途中まで作りかけのホームページのデーターを保存する。
 時間は14時を少し回っている。
 
「雪音さん。根室さんの休憩は?」
「順番に休憩を取りましたので大丈夫です」
「そうですか。すいません」
「気にしないでください。利用客を増やす為のホームページ作成は必要な事ですから」
「ありがとうございます」
 
 俺の不手際を笑って許してくれる。
 それは、とても助かる。
 
「それと、桜ちゃん達は、みんなお昼寝の時間ですので――」
 
 雪音さんの視線の先――、縁側でスイカを食べていた場所には桜と、フーちゃんと和美ちゃんが川の字になって寝ていて、タオルケットが掛けてある。
 それは雪音さんか根室さんが掛けてくれたのだろう。
 
「何か、すいません。気が回らなくて――」
「大丈夫です。それよりも祖父に大事な話があるんですよね?」
「はい」
 
 雪音さんに、この場は任せて俺は客間へ向かう。
 
「お待たせしました」
「待っていたぞ? それより話というのは例の金鉱脈に関しての話でよいのか?」
「はい」
 
 俺は頷きながら、畳の上に座る。
 田口村長は、そんな俺を見ながら雪音さんが用意してくれたのであろう麦茶に口を付け乍ら話始める。
 
「――では、金鉱脈に関しての話をするとするか。ちなみに異世界では、金鉱脈というのは存在しているのか?」
「はい。辺境伯からが普通に金鉱脈に関して言及していたので、その点は問題ないと思いますが……」
「ほう……」
 
 村長が、少しだけ関心した面持ちで頷く。
 
「少しは成長したと言ったところか?」
「何のことでしょうか?」
「――何でもない。それよりも、金鉱脈を作るに当たって幾つかの条件をクリアしなければいけない点がある」
「幾つかの条件ですか?」
「うむ」
「五郎は、山は所有していなかったな?」
「そうですね」
 
 俺は頷く。
 月山家が所有する土地は、店の周辺の土地くらいで山は持っていない。
 
「つまり、山を所有しておく必要があるという事ですか?」
「うむ。一応、鉱山として利用する訳じゃからな」
「たしかに……。そうすると山を購入した方がいいですよね? でも、結城村の周辺の山は、国庫に帰属していましたよね? それを購入するのは大変なのでは?」
「そこでだ!」
 
 田口村長が身を乗り出してくる。
 
「は、はい!?」
「儂の持っている山を幾つか売ろうではないか!」
「――それは、色々と問題があるのでは? 元々は、村長の山ですし、そんな山から金が出たら村での立場が……」
「儂が持って居った方が問題になる」
「それは……」
「利権や利益分配など面倒だからの」
「つまり……」
 
 俺に矢面に立てということか。
 
「理解はしたようだの」
「まぁ、大まかには……」
「ふむ。少しは本を読んで知識を身に付けているようで安心といったところか」
「どうして、それを?」





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