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第174話 辺境伯との交渉

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「そうですね」
 
 元から、辺境伯邸に行くことは織り込み済みだったので問題はない。
 すぐに用意された馬車へ乗り込み辺境伯邸へと向かう。
 カタコトと、煉瓦で作られた道は音を立てる。
 
「そういえば……」
「はい?」
 
 手持ち無沙汰になった俺は何となく口を開く。
 
「ナイルさんは兵士になる前は貴族だったんですよね?」
「はい。今でも、貴族ですが……、それが何か問題でもありましたか?」
「ナイルさんは、結婚とかはしてないんですか? 貴族とかだと結婚とか色々と煩いんじゃないんですか?」
「両親は病気で他界しておりますので、特にこれと言った事は……。ただ、王都の親戚筋は色々と聞いてくる事は多いですね」
「それは結婚とかですか?」
「はい。主に、自分達の息の掛かった貴族の娘を嫁がせようとしてくる事が多いですね」
「それは、色々と大変そうですね」
「はい。ですが、ゴロウ様の方が大変かと存じます。恐らくですが、王家から何らかの圧力は必ずあるはずですので」
「やっぱりそう思いますか」
「はい。我が家は、現在は私が当主を務めており、貴族としての位も高くありませんので、自由に振る舞う事は出来ておりますが、ゴロウ様は辺境伯様の直系ですので、王家も黙ってはいないかと……」
「面倒そうですね」
「はい。貴族と言うのは柵を含めて大変に面倒な生き物です。とくに貴族家の娘を娶る物なら、心労が大変です。ただ、子を成して家を存続させる事は貴族の責務でもありますから」
「そこは、ある程度は覚悟しているんですね」
「そうですね。貴族として生を受けた以上、そこは仕方ないかと思っています。何せ、領民も居るわけですから」
「なるほど……」
 
 ナイルさんは色々と考えているんだな。
 
「それにしても……、ゴロウ様が、このような話をされるのは珍しいですね」
「そうですか?」
 
 あまり気にしたことはないが……。
 村長に今後の身の振り方を考えろと言われたことが、何時もと違った行動をさせているのかも知れないな。
 
 
 
 辺境伯邸に到着し、馬車から降りる。
 
「ゴロウ様、お待ちしておりました。ノーマン様がお待ちしております」
「ナイルさん?」
「既に早馬にて、ゴロウ様が此方の世界に来られた事は説明してありますので」
「なるほど」
 
 何時も、俺が異世界に来た時に、ノーマン辺境伯が受け入れの準備が出来ていたのは、前もって連絡が行っていたということか。
 何度も異世界に来た事があったが、今さながら気が付いたのは遅いというか……。
 ただ、それを顔に出すことはせずにアロイスさんに案内され、館に入ったあとは客間へとノックをしたあと足を踏み入れる。
 
「おお、ゴロウ。待っていたぞ?」
「こちらこそ、お待たせいたしました」
 
 頭を下げたあと、薦められるままソファーに座ると、すぐに辺境伯が口を開く。
 
「――では、まずは目の前の塩の取引に関して話をするとしようか。ナイル」
「はい。ノーマン様がご依頼した塩に関しての納品は済んでおります」
「ふむ。――では、アロイス」
「はい」
 
 ガチャと金属が鳴るような音と共にテーブルの上に置かれたのは布袋。
 
「ゴロウ様、中身の確認をお願いします」
「分かりました」
 
 アロイスさんに促されるような形で、袋の中身を確認する。
 中身は以前と同じように金の装飾品。
 重さは5キロくらいと言ったところだろうか?
 
「たしかに……」
「うむ。――では、次の話をしようか」
「話とは?」
「今後の取引に関してだ。今回の塩に関しては王家に半分は納める予定と考えている」
「税金という事でしょうか?」
「租税ではなく、王家から少しでも譲歩を引き出す為だと思ってくれればいい」
 
 つまり賄賂ってことか。
 
「それは、王家からの視察の方だけでは難しいという事でしょうか?」
「視察の話と、それとは別問題だの」
「そうですか」
「まだ、王家からの許可が下りるか分からぬが、毎月10トンの塩の取引を考えているということは理解しておいてもらいたい」
「分かりました」
 
 以前は18トンと言う事だったが、まだ本格的な取引をするのは厳しいという事か……。
 ただ、継続的な取引があるだけ良しと考えるべきかも知れない。
 それよりも問題は金の装飾品に関しての処分の仕方だ。
 以前に貰った金の装飾品も全て現金化できていない。
 一応、目黒さんに任せてあるが、そんなにすぐに出来るものじゃない。
 なので――、
 
「ノーマン辺境伯様、お伺いしたい事があります」
「ふむ?」
「塩と取引頂いている金の装飾品なのですが、他の報酬に変更して頂くことは出来ますでしょうか?」
「他の報酬? 儂に出来ることは、金銀を精製する事くらいであるが?」
「たとえば、金の鉱脈などを作ることは出来ますでしょうか?」
「可能であるが、効率が悪いのではないのか?  それでは、取引後に異世界の貨幣にするのは非効率と思うがどうなのだ?」
「実は、日本では金の装飾品であっても、多くを即時現金化する事が出来ないのです。それをすれば不審がられてしまいますので」
「なるほどのう……。それで採掘という方法を取るということか? だが、それでは人夫を雇うことになるのではないのか?」
「いえ。そこは違う方法を取る事になっております」
「ふむ……。まあ、取引後の金に関しては、どう扱おうと儂が口を出すことではないからのう。それではお主の領地内の山に金脈を作るとしよう。何時から、行えばよいのだ?」
「それは、私の方の用意が終わってからと言う事になりますが……」
「分かった。他には何かあるかの?」
「いえ。とくには――」
「それでは、次の話に進むとするかの」
「次の話とは?」
 
 取引に関して、他に決めるような事は無いと思うんだが……。
 
「現在、我が領内に居られる王女ルイーズ様に関しての話になるが、よいかの?」
「はい」
 
 良いも悪いも、その辺に関しては非常にデリケートな話だと思うので、俺としては避けておきたい話題なんだが……。
 
「まずルイーズ様に関しては、しばらくは我が領内に逗留する事となった」
「そうですか。てっきり王都に帰るモノとばかり……」
「その点に関しては、ヴェルナー卿からの配慮と言ったところかの」
「ヴェルナー卿が?」
 
 どうしてヴェルナ―卿が? と、思ってしまうが……。
 
「うむ。ヴェルナ―卿も、親類縁者には色々とあるからの」
 
 含みのある言い方をしてくるノーマン辺境伯。
 色々とは? と、思わず思ってしまうが面倒ごとに巻き込まれそうなので口にはしない事にする。
 
「――さて、王家からの裁定だが、早くて3ヵ月。遅くとも半年程度で決定が下りるはずだ。いまのところは、その程度かの」
「分かりました」
「それと――」
「はい?」
「リーシャ殿は元気にしておるかの?」
「一応、たぶん……」
「リーシャ様は、現在はゴロウ様の家令の仕事を手伝っているようです」
 
 何と答えていいか迷っていたことを、ナイルさんがハッキリと答えてしまう。
 
「ふむ……。それは、リーシャ殿が承知したことかの?」
「おそらくは――。リーシャ様なら、納得されない事に関しては、自身で何とかされると思いますので」
「ふむ……。ナイル」
「ハッ!」
「あとで詳しく話を聞きたいが――。ゴロウ、いいかの?」
「はい、自分は大丈夫です。日本は平和ですので」
「ふむ……」
「あと、これを――」
 
 俺は、藤和さんが持参したキャリーバッグの中身をノーマン辺境伯に見せる。
 
「こちらを王家の方へ御渡し頂けますか?」
「うむ。分かった」
 
 簡単に中身を説明したあと、キャリーバッグごと渡す。
 それからしばらくして話が一段落したあと、俺は一人で袋を持ったままノーマン辺境伯の屋敷を後にし、店を通り母屋に戻った頃には既に日が昇る時刻になっていた。
 
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